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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、誕生日会に参加する
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164 クマさん、招待状を受け取る

 ドアを開けると息を切らせているフィナの姿があった。


「そんなに慌てて、どうしたの!?」

「そ、その、て、てが、み」


 うん、なにを言っているか分からない。

 話を聞く前に、クマボックスから、水の入った小ダルとコップを出してフィナに渡す。コップを受け取ったフィナは一気に水を飲み干すと息を整える。


「ユナお姉ちゃん、ありがとう」

「それで、どうしたの?」


 改めて尋ねる。


「ユナお姉ちゃんのところに手紙は来てませんか?」

「手紙?」


 フィナの手には手紙らしきものが握られている。

 そういえばポストなんて、あまり見たことがない。

 この世界にわたしに手紙を送る者なんていない。言い換えよう、元の世界でも異世界でもわたしに手紙を出す者はいない。

 追記、メールも来ない。ゲーム会社からは来るよ。


「確認してください」

「うん、わかった」


 フィナの強気の声に押されてクマの形をしたポストを確認する。

 おや、封筒が入っていた。

 ポストから取り出すと、それは質の良い封筒だった。


「やっぱり、ユナお姉ちゃんにも来てましたか」


 フィナは安堵したように息を吐く。

 わたしに手紙を寄越すような知人はいないと思うんだけど。

 うん、誰なのかな。差出人を見てみる。

 ミサーナ・ファーレングラムってだれだっけ? 聞き覚えが微かにあるんだけど。


「フィナの知り合い?」

「なに言ってるんですか。ミサーナ様ですよ。国王様の誕生祭のときに王都へ行く途中で出会った、貴族のミサ様です」


 思い出した。

 ミサは愛称でミサーナが名前なんだよね。

 でも、なんでミサから手紙が?

 とりあえず、詳しい話を聞くため、家の中にフィナを通す。


「フィナは手紙は読んだの?」

「はい……読みました。ミサ様の誕生会の招待状でした……」

「誕生会の招待状?」


 わたしは封筒の封を切り、手紙を読む。確かにフィナの言う通り、ミサの誕生会の招待状だった。


「う~、ユナお姉ちゃんはともかく。どうして、ミサ様が平民のわたしのところに招待状を送って来るんですか!? 貴族様の誕生会ですよ」


 フィナは困ったように自分に届いた手紙を見ている。

 でも、どっちかと言うと王都に行くときに仲良くしていたフィナの方が呼ばれる可能性の方が、わたしよりも高いと思うんだけど。王都でも何回か会っていたみたいだし。


「ユナお姉ちゃん。断ったらどうなるのかな?」


 そんなことをわたしに聞かれても知るわけがない。

 一般常識なら、断ったら失礼に当たるのかな?

 断るにしてもそれなりの理由がないと駄目だと思うけど。そもそも、異世界の貴族のルールなんて分からない。それに、わたしだって面倒だ。元の世界でも誕生会なんて参加したことがないのに。まして、貴族の誕生会だ。ミサは別にいいけど。他にも貴族が来るようなら参加はしたくない。

 それに誕生会にクマの着ぐるみで参加しろとおっしゃると。

 みんな、綺麗なドレスを着ている中。1人だけ、クマの着ぐるみ。お笑い芸人みたいだ。

 フィナじゃないけど、断りたいね。断ってもいいのかな?

 貴族のことに詳しくないわたしたち二人がいくら考えても答えはでない。

 なら、答えを知っている人物に聞くしかない。


「クリフとノアに聞くしかないね」

「クリフ様とノア様ですか?」

「わたしたちに招待状が来たってことは、ノアのところにも来ていると思うし」

「そうですね」


 今日は遅いので、明日の朝、クリフのところに行くことになった。

 翌日、フィナがクマハウスに来るとクリフの屋敷に向かう。

 門番の人に挨拶をすると中に案内され、いつもの部屋に通される。ソファーに座って待つが、隣に座っているフィナが緊張している。


「フィナ、大丈夫?」

「はい。ダイジョウブです」


 とっても、大丈夫そうには見えないんだけど。


「ちょっと、クリフ様に会うと考えたら緊張して」


 王都にあるエレローラさんの屋敷に泊まっているし、国王に会っているんだから、今さらクリフに会うぐらいで緊張することはないのに。


「国王に会ったことがあるフィナなら、クリフぐらい平気でしょう」

「無理です! わたしからしたらクリフ様も、本来会える方ではないし。お屋敷に入らせてもらえる立場じゃないんです。そんな、わたしなんかがソファーに座っていいのかな? 怒られたらどうしよう。ユナお姉ちゃん。立っていた方が良いかな?」

「大丈夫だよ。もし、クリフがフィナのことを怒ったら、その喧嘩はわたしが買うから」

「怒らないから、買わないでくれ」


 クリフとノアが部屋に入ってきた。


「盗み聞き?」

「たまたま、聞こえただけだ」

「ユナさん、フィナ。いらっしゃい」

「ノア、朝早くからゴメンね」

「お、おはようございます。お、お邪魔しています」


 わたしは座ったまま挨拶をして、フィナは立ち上がって挨拶をする。


「いえ、ユナさんなら朝早くても、夜遅くても、いつでも大歓迎です」


 クリフとノアの二人はテーブルを挟んだ対面のソファーに座る。


「ありがと。それで、さっそくで悪いんだけど。話を聞いてくれるかな?」

「分かっている。ミサーナの件だろう。後でおまえさんたちのところに人を向かわせようと思っていたところだった」

「やっぱり、ノアのところにも誕生会の招待状が来ているの?」

「ああ、俺のところにはグラン爺さんのところからな」

「グランさん?」


 そう言えば、王都の土地を購入するときにグランさんにお世話になったね。


「おまえたちを連れて来てほしいって書いてあったよ」

「これって、断れるの?」

「断るのか?」

「だって、貴族様の誕生会に平民のわたしたちが出席したら、ミサに迷惑がかかるでしょう?」


 隣ではフィナが一生懸命に何度も頷いている。


「それは大丈夫だ。ミサーナの誕生会の参加者はほとんどが身内ばかりだ」

「でも……」


 ミサには会いたいが貴族様の誕生会っていうのが、行きたくなくなる要因だ。


「それに俺もノアも一緒に行くから大丈夫だ。何かあれば対処ぐらいしてやる」

「クリフも来るの?」


 いくら、知り合いの貴族の娘の誕生会だからと言って、領主のクリフが街を離れて参加するの?


「ああ、そっちに参加するのは娘だけだ。俺が参加するのはグラン爺さんの誕生会の方だ」

「グランさんの?」

「孫娘のミサーナの誕生会の前にグラン爺さんの50歳の誕生日があるんだよ。俺はそれに参加するんだよ。それに参加するついでに、おまえたちを連れていくんだよ。本当なら参加はしないんだけど50歳の区切りだからな。面倒だけど参加するつもりだ。だから、ミサーナの誕生会はオマケみたいなもんだ。だから、気にせずに参加すればいい」

「ユナさんもフィナも行こうよ。楽しいよ。それにミサも会いたがっていると思うよ」

「でも、わたしは平民だから」


 うつむくフィナ。


「そんなのクマさんファンクラブの仲間なら関係ないよ」


 なにそれ、いつそんなの結成したの?


「フィナもミサに会いたいでしょう?」

「うん、でも……」

「もし、来なかったらミサ、悲しむよ。もしかしたら泣くかも」

「うっ」

「ミサがわざわざ、わたしに2人の住所を聞いて、自分で招待状を送ったんだよ」


 それで、わたしたちの家に送られてきたんだ。


「行かなかったら、可哀想だよ」


 確かに、来てほしいから招待状を送ったのだろう。

 決して、意地悪をするために送ったわけじゃないのは分かる。


「もし、フィナもユナさんに招待状を送って来てくれなかったら、悲しいでしょう」

「わ、分かりました。行きます」


 そんな言われ方をしたら、断れないよね。


「フィナが参加するなら、ユナさんも参加しますよね?」


 その言葉にフィナがわたしを見る。フィナを1人だけ行かせるわけにはいかないよね。それにここで行かないと言ったらフィナが泣きそうだ。

 それにフィナと同様で断る理由がない。

 ただ、面倒なだけだ。


「わたしも参加するよ」

「やった。これでクマさんとお出掛けができます」


 やっぱり、それが目当てだったんだね。


「それじゃ、フィナ。誕生会に着ていく服を決めよう」

「えっ」


 ノアはフィナの腕を掴み、引っ張りだす。

 フィナは助けを求めるようにわたしを見るが、わたしは巻き込まれたくないので笑顔で見送る。


「ユナお姉ちゃん!?」


 引っ張られていくフィナは強く拒むことはできずに、部屋の外に連れていかれた。

 まあ、服を選ぶだけだ。死ぬわけじゃない。


「それじゃ、出発は5日後とするから、早朝に家に来てくれ」


 クリフは娘の行動になにも言わずに今後の予定の話をする。


「ミサがいる街って遠いの?」

「いや、そんなに遠くはない。馬車で3日ほどだ」


 なら、くまゆるたちなら数時間で着きそうだね。


「お前には悪いが俺たちに付き合ってもらうぞ」


 確かにそうだよね。

 クリフの家に集まるのにくまゆるたちで先に行くわけにはいかない。


「それで、貴族の誕生会なんて、どんなものか全然知らないんだけど。なにか、必要な物ってある?」

「必要な物はこっちで用意をする。おまえさんはミサーナが喜ぶプレゼントでも用意してやってくれ」


 ああ、プレゼントね。


「宝石や服でもプレゼントすればいい?」

「そんな物プレゼントして、ミサーナが喜ぶわけないだろう」

「そんなことを言われても貴族の女の子が喜ぶ物なんて知らないよ」

「おまえさんのお店に飾ってあるクマの人形でもプレゼントすればいいんじゃないか」

「そんな物でいいの?」

「うちの娘なら喜ぶぞ」


 ですね。

 うん? でも、お店にあるクマの置物で喜ぶなら、今作っているぬいぐるみでいいかな。

 女の子にぬいぐるみのプレゼントは定番商品だし。


「ありがと。参考になった。それじゃ、わたしたちはプレゼントだけ用意すればいいのね」

「ああ、大丈夫だ」

「それじゃ、わたしは帰るけど。フィナのことはお願いしてもいい?」

「ああ、ちゃんと面倒を見るから安心しろ」


 わたしはフィナを見捨てて……

 ゴホン、フィナは誕生会に着る服を選んでいるので、1人でお屋敷を出る。

 貴族の誕生会か。面倒なことにならなければいいけど。



誕生会の話はあとでする予定だったけど、考えていたネタが頭の中で纏まらなかった。

なので、ぬいぐるみネタが続きます。

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フィナ・・・生きて(ToT)
グラン爺さん。まさかの年下…
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