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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、誕生日会に参加する
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157 クマさん、ミスリルナイフを取りに行く

前回はお騒がせしました。

 ケーキ屋のお客様も増えているが、ルリーナさんとギルのおかげで大きなトラブルは起きていない。

 ただ、問題があるとしたら、人気があるケーキが早く無くなってしまうことぐらいだろう。

 食べに来たお客様が、食べたいと思ったケーキが無く、仕方なく他のケーキを買う光景を何度もみた。それは遅く来たお客様が悪いと言えばそれまでだけど。やっぱり、来店してくれたなら、食べたい物を食べてほしいと思う。


「エレナさん、今後は売れ筋を見て、作るケーキの種類の割合を決めてもらっていい?」

「わたしが決めていいの?」

「いいよ。宿屋でも、そうだったと思うけど、注文が多い料理と少ない料理があったでしょう」

「うん。だから、注文が多い料理の食材は多く仕入れるよ。仕入れる食材を失敗すると断らないといけなくなるから。それで、他の料理を注文してくれればいいけど、他のお店に行かれたら、売上が悪くなるからね」

「ケーキもそれと同じことだから、人気があるケーキは多く。人気が少ないケーキは少な目に作って。分からないことがあればモリンさんとティルミナさんに相談すればいいし。それに作りすぎて余ったら孤児院の子供たちにあげればいいから。だから、間違って多く作っても気にしないでいいよ」


 作る割合は時間が経てばおのずとわかってくるはず。売れ筋は早く売れ、人気が無いのは遅い。

 理想なのは同時に売り切れることだけど。まあ、それを望むのは贅沢なことだ。でも、それには近付けてほしいものだ。

 そうすれば、わたしがいつお店に来ても、食べたいケーキが食べられるようになる。



 お店のことはモリンさんとエレナさんに任せ。わたしは、放置していたミスリルナイフを受け取りに王都まで行くことにする。そのついでにフローラ姫にケーキを持っていってあげようと考えている。

 だから、前回同様フィナを誘ったら。


「その、今回は遠慮します」


 と断られた。

 もしかして、フィナに拒絶されたのは初めてかもしれない。

 なんだろう。この心に突き刺さる痛みは。飼い犬に近寄ったら、逃げられたような悲壮感は。

 涙がでそうだ。


「ユナお姉ちゃん?」

「どうして? わたし、フィナに嫌われるようなことした?」

「ち、違うよ。わたし、ユナお姉ちゃんを嫌っていないよ」

「それじゃ、どうして、わたしと行きたくないの? やっぱり、わたしのこの格好のせいなの?」


 ついに、クマの格好をしたわたしと歩くのが恥ずかしい年頃になってしまったのかな。


「ユナお姉ちゃん。違うから、落ち着いて」


 慰めてくれるフィナ。

 そして、フィナは恥ずかしそうに理由を話してくれる。 


「こないだ、国王様に会ったときのことを覚えていないの。だから、失礼なことをしていたら」


 そういえば、そんなことを言っていたね。


「でも、一緒にいたエレローラさんはなにも言ってなかったから、大丈夫じゃない?」

「でも、覚えていないし……」

「別にあの国王なら気にしないんじゃない。文句言ってきたら、わたしが張り倒してあげるよ」


 シャドウボクシングの真似をしてみる。


「そんなことをしたら、ユナお姉ちゃん捕まっちゃうよ」

「それじゃ、気付かれないように殴るよ」

「ユナお姉ちゃん!」

「冗談だよ」


 フィナに実際になにかしたら、冗談じゃないけど。

 フィナに断った理由を詳しく聞けば、国王だけが理由でなく、エレローラさんの着せ替え人形になったことも少しトラウマになっているそうだ。

 高級な洋服を着させられて、汚してはいけない。破いたらいけない。それが精神の疲労をもたらしたようだ。

 だから、王都に行くと、そのことを思い出すから、しばらくは王都には行きたくないそうだ。あの綺麗な洋服姿はフィナに似合っていたと思うんだけど。でも、フィナの気持ちも分からないわけでもない。

 もし、わたしが綺麗なドレスなどを着たら、精神にダメージを喰らうだろう。だから、フィナの気持ちを察して無理やり連れていかないことにする。

 でも、今度は一緒に来てくれることを約束してくれた。



 そんなわけで今回は一人で寂しく王都に転移する。

 王都のクマハウスからガザルさんの鍛冶屋に行くには人通りのある場所を通らないといけない。フィナがいれば気が紛れるんだけど。でも、今回はいない。いない者のことを考えても仕方ないので、わたしはクマさんフードを深く被って鍛冶屋に向かった。


「ごめんくださーい」


 鍛冶屋の中に向かって叫ぶと、奥からガザルさんがやってくる。


「やっときたか」

「ごめん、ちょっといろいろとあって、来れなくて」

「かまわん。クリモニアから来たんだろう」


 ガザルさんは遠いところから来たんだから、仕方ない的な顔をする。

 うん、ごめんね。実際はクマ門ですぐに取りに来れたんだよ。

 お店に行かないときは、昼寝したり、くまゆるたちと遊んだりしていた。取りに来ようと思えばいつでも取りにこれた。本音を言えば、面倒だから、後回しにしていたんだよね。でも、そんなことを言えるわけもない。


「それで、できているの?」

「当たり前だろう。あれから何日過ぎたと思っているんだ」


 ガザルさんは布に包んだ包みを2つ渡してくれる。

 その1つの布をほどくと綺麗な鞘に入ったナイフがあらわれる。握る柄の部分は黒く綺麗だ。柄の部分をよく見ると。


「クマ?」


 まるで、紋章のようにクマの顔が彫られていた。


「良い、出来だろう」

「これ、ガザルさんが彫ったの?」

「彫るつもりは無かったんだが、お前さんが全然取りに来ないし、暇だったから彫っただけだ」

「その、ごめん」


 面倒だからって取りに来なくてゴメンなさい。

 心の中で謝罪する。


「お前さんが謝ることじゃない。わしが勝手にやったことだ。それよりも抜いてみろ」


 ガザルさんに言われるままナイフを抜く。

 フィナじゃないけど、綺麗な刃だ。刃を翳すと窓から入ってくる陽の光で反射をする。


「握りの方はどうだ。一応、今持っている黒い方が右手、黒いクマの方に持たせてくれ」

「黒い方?」

「もう片方は白い柄になっている。そっちは左手用だ。色が違えば分かりやすいじゃろう」


 わたしはもう1つの布に巻かれたナイフを取り出す。布の中から出てきたのは白い柄の綺麗なナイフだった。こっちの柄にも、ちゃんとクマの顔が彫られている。


「ありがとう。その、代金は」

「いらないと言っただろう」

「でも、こんな綺麗な彫り物までしてもらって」

「時間があっただけだ。それに代金は十分に貰っている」


 ガザルさんは入り口に立っているアイアンゴーレムを見る。


「まだ、残っているんだ」


 もしかすると、材料としていろんな物になっているかと思ったけど。


「来店するお客には好評だから、残した」

「そうなの?」

「あれだけ、状態の良いアイアンゴーレムはみんな見たことがないからな。物珍しさに見ていくよ。まあ、それで、売上が上がったりはしないけどな」


 壊していいと言ったけど、残っている姿を見ると嬉しいね。


「それじゃ、ちょっとミスリルナイフを確かめてもいい?」

「ああ、どこか変だったら言ってくれ。すぐに直せる箇所ならすぐに直す」


 わたしはお店の外にでると、クマボックスから、アイアンゴーレムを取り出す。

 それじゃ、切れ味を確かめさせてもらおうかな。


「ナイフに魔力を流せばいいんだよね」

「ああ、それで、切れ味が変わる。あとは使うお前さんの魔力しだいじゃな」


 まあ、ゲームでもそうだったけど、とりあえずやってみよう。できなければ、そのときに考えればいい。

 わたしは両手のクマさんパペットの口にナイフを咥えさせる。ゲーム時代を思い出す。短刀も少なからず使ったことがある。ナイフは軽いため、素早い動きはできるが、攻撃力が無かったのが難点だった。まあ、比べる対象が大剣だから、仕方ない。

 わたしはミスリルナイフを握りしめると、魔法を使う要領と同じようにクマさんパペットに魔力を集める。そして、アイアンゴーレムの右腕に向かって右、左とナイフを振り落とす。すると、抵抗も無く、アイアンゴーレムの右腕が2つに分かれて地面に落ちる。


「おお、凄い! ガザルさん、凄いよ。アイアンゴーレムが簡単に斬れたよ」


 ちょっと、感動だ。


「凄いのはお前さんだよ。いくら、ミスリルナイフでも、アイアンゴーレムをそんなに簡単に斬れないぞ」


 と褒めてくれるが、


「でも、魔石で動いているアイアンゴーレムは、魔力によって、通常の鉄よりも固くなるんだよね」

「ああ、でも、ミスリルナイフで鉄をそんなにキレイに斬ったのは初めて見たぞ」

「ガザルさんの作ったナイフが凄いんじゃない?」


 わたしはアイアンゴーレムから少し距離をとる。そして、アイアンゴーレムに向かって駆け出し、すれ違いざまに数度斬る。わたしが通り過ぎるとアイアンゴーレムが数分割されて崩れる。

 なんか、忍者になった気分だ。

 クマ装備を使えば忍びにもなれそうだね。


「凄いな。何度斬ったか見えなかったぞ」


 ガザルさんはアイアンゴーレムの残骸に近寄り、斬った断面を見る。

 そして、わたしの方に近寄ってくる。


「ナイフを見せてみろ」


 わたしは言われるままにナイフを渡す。

 ガザルさんは空に向けてナイフを翳す。


「鉄を斬ったのに、刃こぼれ1つもない。これがおまえさんの実力の証明じゃ。剣筋といい、魔力の流れもいい。ゴルドが優秀な冒険者だって言うわけだ。お前さんは、人は見た目で判断してはダメだという典型的な人物だな」


 書かせたのはネルトさんだけど。内容はどうなのかな?

 わたしはナイフを返してもらい、クマボックスの中に仕舞う。良い買い物ができて満足だ。


「それじゃ、ありがとうね」


 わたしはお礼を言って離れようとする。次はフィナが嫌がったお城に行く予定だ。


「待て、ナイフを作ったときに余ったミスリルの残りを返すから待て。それと、その残骸をそのままにして帰るつもりか?」


 崩れ落ちてるアイアンゴーレムに指を差す。

 そこにはアイアンゴーレムの残骸が散らばり、クマボックスに仕舞うのが面倒だったから、放置して立ち去ろうとしたんだけど、逃げることができなかった。

 わたしはアイアンゴーレムの残骸を片付けようとした瞬間、良いことを思い付いた。


「ガザルさん。仕事お願いしてもいい?」

「なんだ。嫌な予感がするんだが」

「この鉄をあげるから、わたしが持っている残りのミスリルゴーレムのハリボテをミスリルと鉄に分けてもらっていい?」


 イマイチ、鉄とミスリルがくっついているから、ミスリルの残りの量が分からない。

 分かれば今後、活用するときに便利だ。


「そんなことか。分離させるだけだから、そのアイアンゴーレムの一体じゃ、貰いすぎだぞ」

「え~と、片付けるのが面倒なので……あげます」

「こんな、バカなことを言い出すヤツは見たことがないぞ。いくら斬ったからと言っても鉄だぞ。それだけで、武器や道具がどれだけ作れると思っているんだ」

「そんなことを言われても、こんな崩れた鉄を持っていても使わないし」

「売れば良かろう。かなりのお金になるぞ」


 鉄クズを見る。細かくしすぎた。クマボックスに仕舞うのも出すのも面倒だ。


「やっぱり、いいよ。面倒だし」

「ったく、わかった。わしが買い取ってやる。でも、高くは買い取れんぞ」

「だから、別にお金はいらないんだけど。お礼なら、ミスリルゴーレムのハリボテをミスリルと鉄に分けてくれればいいよ」

「そうはいかん。嬢ちゃんからは貰いすぎだ。それに今後も対等にお前さんと付き合いたいからな」


 そこまで、言われたら受け取るしかない。


「まあ、鉱山から鉱石が届くようになったから、どこでも高くは買い取っていないがな」

「鉱山から、届くようになったんだ」


 そういえば、ギルドに行ってないことに気付く。

 うん、ケーキ騒ぎのせいですっかり忘れていたね。

 まあ、ギルドカードに達成の記録と達成料を貰いに行くだけだし、特に急ぐことじゃないので、後回しにする。

 ガザルさんに残りのミスリルゴーレムのハリボテを渡して、わたしはケーキをフローラ姫に持っていくためにお城に向かう。


最近、くまゆるとくまきゅう成分が足らないw

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