149 クマさん、王都の鍛冶屋に行く
翌朝、朝食を食べたあと、学園に行くシアとお城に仕事に行くエレローラさんを、お屋敷の前で見送る。
「フィナちゃん。また来てね」
「はい、シア様」
「それじゃ、二人とも。いつでも遊びに来ていいからね。フィナちゃんにはまだ案内していないお城の場所があるから、今度は邪魔者が入らないように案内をしてあげるからね」
「……はい」
フィナは困った顔を浮かべながら返事をする。
それだけ、国王に嫌なことをされたんだろう。かわいそうに。
今度、フィナと一緒にお城に行くことがあったら、守ってあげないといけないね。
シアとエレローラさんは去っていく。
エレローラさんと別れたわたしたちも出発する。
向かう先はクリモニアの街でなく、この王都にある鍛冶屋のガザルさんのところ。
「ユナお姉ちゃん、帰らないの?」
クマハウスに向かわないわたしに尋ねる。
「ゴルドさんから紹介状を貰っているからね。一度、ガザルさんのところに寄ってから帰るつもりだよ」
別に黙って帰ってもいいんだけど。1つ聞きたいことがあるし。お土産も渡したい。それにミスリルのナイフのこともある。
フィナがクマさんパペットを握ってくる。
しばらく、離ればなれだったから、寂しかったのかもしれない。だから、させたいようにさせる。そもそも、振りほどく理由はないし。
手を握ったまま、ガザルさんの鍛冶屋に到着する。
「ごめんくださ~い。ガザルさん、いますか~」
店の中に声をかけると、奥から人がやってくる。
「なんじゃ、誰かと思えば、奇妙な格好をしたお前さんか」
「おはようございます」
「こんな朝早くから、なんの用だ」
「鉱山のゴーレムの件が片付いた報告かな? だから、近いうちに鉱山から鉱石が届くと思うよ」
「まさか、お前さんがしたのか?」
「手伝い程度にね」
鉱山のことを簡単に説明をする。
「そうか。情報は感謝するが、奥にミスリルゴーレムだと? 信じられんな」
「まあ、それで、倒したことでミスリルが手に入ったから、ミスリルのナイフをお願いしようと思ってね」
「手に入ったなら、ゴルドの奴に頼めばよかろう」
「一応、頼むつもりでいるよ。でも、聞いた話によるとミスリルの武器を作るには時間がかかるんでしょう?」
「確かにミスリルは加工が難しいから時間がかかるな」
「一応、ナイフは4本作るつもりだから、ゴルドさんとガザルさんで2本ずつお願いしようと思っているんだけど」
「理由はわかった。だが、お前さんはクリモニアに住んでおるのだろう。作ったとしても、すぐには取りにこれんなら、ゴルドの奴に4本作らせた方が手間にならんぞ」
「それは大丈夫。すぐに駆けつける方法があるから」
「別にお前さんが取りに来るなら、わしは何も言わん」
「ありがとう。それじゃ、ミスリルゴーレムを出すね」
わたしはクマボックスから崩れたミスリルゴーレムを店の通路に出す。
通路にギリギリだ。
「これがミスリルゴーレムか?」
ガザルさんは崩れているミスリルゴーレムに近寄って確認する。
ミスリルゴーレムの腕や体を手に持って覗き込むように見ている。
その顔は真剣な顔だ。特に、破壊された断面を見ている。
「なんじゃ、このハリボテは」
「ハリボテ?」
ガザルさんの予想外の言葉に首を傾げる。
「そうじゃ。これはミスリルゴーレムであって、ミスリルゴーレムではない」
「…………?」
意味が分からないんだけど。
ガザルさんは手に持っているミスリルゴーレムをわたしに見せる。
「こことここ、断面の色が違うじゃろ」
ガザルさんは太い指で断面を差す。その場所を見ると確かに色が違う。
「内側が鉄で外側がミスリルじゃ」
「えっ、本当!?」
「嘘はつかん。クリモニアに帰ったらゴルドにも確認をさせればよかろう」
別に嘘を吐いているとは思わなかったけど。まさかミスリルゴーレムの内側の金属が鉄とは思わなかった。
これが事実ならハリボテと言われても仕方がない。
「でも、一応。ミスリルもあるんだよね」
「良くて、3分の1、もしくは4分の1ってとこじゃな」
神様が用意したミスリルゴーレムなら。神様、せこいよ。表はミスリルで中身が鉄って、メッキみたいなもんじゃない。金のメッキをゴールドゴーレムと言っているようなものだ。
詐欺みたいだ。
「でも、ナイフは作れるよね?」
それが今回のメインの目的だ。
「ああ、ナイフなら数本は作れる」
良かった。これで、足らないとか言ったら買わないといけなくなるところだった。
「たしか、作るのは解体用のナイフじゃったな」
「そうなんだけど、戦闘用のナイフを2本、お願いできる? 今回の依頼で、武器が欲しくなったからね」
セニアさんの戦い方を見てナイフが欲しくなった。
個人的には大剣でも良いんだけど。使い勝手が悪そうだ。ナイフならちょっとしたことでも使えるし。
「だが、解体用のナイフはいいのか?」
「解体用のナイフはゴルドさんに頼むよ」
メンテナンスもある。それならフィナの解体用のナイフはゴルドさんに作ってもらった方がいい。
「そういうことなら、わかった。でも、2本って、おまえさんとそっちの嬢ちゃん分なのか?」
「違うよ。2本ともわたしが使うよ。右手用と左手用が欲しい」
「両刀か?」
「うん」
「まあいい。頼まれれば作るだけだ。それじゃ、手を出せ」
わたしは言われたまま手を出す。(クマさんパペットを付けたまま)
「お前さん、わしをバカにしているのか。お前さんの手のサイズ、形を知りたいから手を見せろと言ったんじゃ。お前さんの手にあったナイフを作るんじゃからな」
「でも。わたし、この手袋を付けたまま、ナイフを握るんだけど」
クマさんパペットをパクパクさせてみる。
「とりあえずは、その変な手袋を取って、手を見せてみろ」
わたしは言われるままにクマさんパペットを外し、手を見せる。
「小さい手じゃのう」
ガザルさんがわたしの手の平を触る。
なにか、ムズムズするんだけど。
「しかも、柔らかい。お前さん、この手で本当にナイフを握って戦うのか?」
「魔法メインだけど。一応ね」
「なら、いいが。少しは鍛えないと血豆になっても知らんぞ。まあ、手のサイズは分かった。次は手袋をしてくれ」
わたしはクマさんパペットを装着する。
再度、カザルさんがクマさんパペットの口に手を入れて、わたしの手のひらを確認する。
「良い生地を使っているな」
「そんなことも分かるの?」
「まあ、一応な。大体、分かった。それで、急ぎか?」
「別に急いでいないよ。のんびり作ってくれていいよ。それで、どのくらいでできるものなの?」
「そうじゃな、ミスリルは加工に手間がかかるからな。10日ぐらいかのう」
「うん、それでいいよ」
「それで、ミスリルタイプはどのタイプにする? 話を聞く限り魔力型のようじゃが」
「ミスリルのタイプ?」
わたしは初めて聞く言葉に頭を傾げる。
「そんなことも知らずにミスリルの武器を作ろうとしているのか?」
そんなことを言われても知らないものは仕方ない。ゲーム時代、ミスリルに武器タイプなんてなかった。
ガザルさんは無知なわたしに説明をしてくれる。
「純粋にミスリルの石の力を引き出した切れ味に特化した剣。主に前衛の魔法が使えない剣士が使う。次にミスリルに魔法薬を混ぜて、魔力を付加させる魔力型じゃな。こっちは魔法が使える者がミスリルに魔力を付加してミスリルを強化させる。魔力型は他の物質をいれるため強度は低くなるが、魔力を付加させることで強くなる」
「えーと、魔力って大なり小なり、みんな持っているよね」
そうじゃないと、光の魔石に光を灯したり、水の魔石から水を出すことができない。
「ミスリルに付加させる魔力は魔法を使えるほどの者でないと強化はできん」
ようするに魔力が大きくないと魔力型は使えないってことだよね。
「なんとなく、わかったけど、結局のところどっちがいいの?」
「使い手、次第じゃな」
「ミスリル特化型とミスリル魔力型が普通に打ち合えば特化型が勝つ。でも、ミスリル魔力型に魔力を込めれば、魔法の使い手によって上下する」
「もう少し、分かりやすく」
「魔法が使えないなら特化型。魔法が得意なら魔力型じゃ」
最後は面倒くさそうに言う。
まあ、分かりやすくていいけど。
「それじゃ、魔力型のミスリルナイフをお願い」
ガザルさんは説明に疲れたのか、ため息を吐く。
「それじゃ、ナイフ2つ分もらうぞ」
ガザルさんはミスリルゴーレムの一部を取っていく。
一部とはいえ、重いはずなんだけど、軽々と運んでいく。流石はドワーフなのかな?
「余ったら、返すが、それでいいか」
「うん、いいよ。それで、代金はどのくらい?」
「そうじゃのう。ミスリルは持ち込みだから、このぐらいじゃのう」
相場は分からないけど、ガザルさんが騙すような真似をするとは思わないので了承する。
「代金はナイフと交換でいい」
「そうだ。代金の代わりじゃないけど、これいる?」
わたしは残ったミスリルゴーレムをクマボックスに仕舞い。クマボックスからアイアンゴーレムを取り出す。
狭い部屋にアイアンゴーレムが立つ。
「なんじゃ!?」
アイアンゴーレムを見たガザルさんが驚く。
まあ、無傷のアイアンゴーレムが出てくれば驚くか。
「アイアンゴーレムだけど。鍛冶屋のインテリアにどう? 入口に立っていると、いかにも鍛冶屋って感じにならない?」
「客が来なくなるわい!」
「良いアイディアだと思ったんだけど。ゴーレムに剣や盾を持たせたりすれば、目立って良い宣伝になると思うんだけど」
「どこの門番じゃ!」
ガザルさんは怒鳴る。
鍛冶屋にアイアンゴーレムは合うと思うんだけどな。
「それに、そんな高い物を無料でもらうわけにはいかん」
「別にいいよ。沢山あるから」
使い道がほとんど無いアイアンゴーレムだ。
1体ぐらいあげてもなにも問題はない。
「沢山あるって、お前さん、本当に何者なんじゃ。ゴルドの手紙によれば、見た目はあれだが、優秀な冒険者だから手を貸してやってほしいって書かれていたんだが」
「一応、ランクCの冒険者だよ」
「ランクC……、それなら、納得か?」
ガザルさんは改めてわたしのクマさんの格好を見て、微妙な顔をしている。
「とりあえず、わかった。そのアイアンゴーレムはミスリルの代金としてもらおう。そして、今後のナイフのメンテナンスは無料でやってやる」
「ちゃんと、払うよ」
「いらん。あと、邪魔になったら処分するからな」
「別にいいけど。それじゃ、店の隅に置いておくね」
わたしはクマさんパペットに力を入れてアイアンゴーレムを店の隅に移動させる。
「ここなら邪魔にならないでしょう」
振り返ると、フィナとガザルさんが目を大きくして、わたしを見ている。
「どうしたの?」
「ユナお姉ちゃん……」
「お前さん、あの柔らかい手なのに凄い力持ちだな」
ああ、アイアンゴーレムを移動させたから驚いているのか。
普通、かよわい乙女がアイアンゴーレムを持ち上げたりしないよね。
「そうだ。ガザルさん。見てほしい物があるんだけど良い?」
わたしは誤魔化すように違う話を振る。
「なんじゃ?」
わたしはクマボックスからクマモナイトを取り出す。
「この石がなんだか分かる?」
クマモナイトをガザルさんに渡す。
受け取ったガザルさんは目を凝らしてクマモナイトを見る。
一応、クマモナイトの名前は伏せておく。
もし、この世界にクマモナイトなんて名前の鉱石が無かったら、自分の名前を付けたと思われかねない。
ガザルさんはクマモナイトをいろんな方向から見るが首を傾げている。
「わからん。見たことがない。なんなんじゃ、この石は?」
ドワーフのガザルさんも分からない鉱石って、クマモナイトって本当になんなのよ。
「ミスリルゴーレムがいた場所に落ちていたんだけど」
「普通の石ではないことは分かるが、それ以外のことは分からん。わしの師匠なら知っているかも知れないが」
「ガザルさんの師匠?」
「そうじゃ、今はドワーフの国にいるから、見せることはできんがな」
「ドワーフの国!? そんなのがあるの!?」
「なにを当たり前のことを言っておるのじゃ。まあ、この王都みたいに大きくはない。小さな国じゃよ」
「どこにあるの?」
おお、ドワーフの国なんて、どこのファンタジーの話よ。
あるなら、是非、行ってみたい。
「とある、山の奥じゃ」
「それって秘密なの?」
「そういうわけじゃない。誰でも行けるが少し遠い」
「場所って教えてもらえる?」
「行きたいのか?」
「いつかは行ってみたいね」
ドワーフの国、エルフの国も行ってみたい。サーニャさんに聞けばエルフの国の場所は教えてもらえるかな?
ゲームではない。現実の世界。楽しみが増えてくるね。
「もし、本当に行くなら師匠に紹介状を書いてやるぞ」
「ほんと! お願い」
「それじゃ、ミスリルのナイフを引き渡すときまでには用意しておく」
「ありがとう」
ドワーフの国の情報をゲットだ。