144 捕らわれの姫編
久しぶりのフィナ編です。
ユナお姉ちゃんが行ってしまいました。
クマさんの後ろ姿を見送ります。
なんで、こんなことになってしまったのでしょうか。
ユナお姉ちゃんが黒虎の解体にミスリルナイフが必要なため、わたしにミスリルナイフを買ってくれると言いました。
ミスリル製のナイフが物凄く値段が高いのは知ってます。
解体は冒険者ギルドで頼むことを言ったのですが、今後も必要になるかもしれないからと言って購入することになりました。今後って、ユナお姉ちゃん、いったいわたしになにを解体させるつもりですか?
クリモニアの鍛冶屋さんにはミスリルナイフが売っていなかったため、王都に行くことになりました。
王都にはユナお姉ちゃんのクマさんの家にある、クマさんの門を通って王都に来ました。一瞬で王都に着いてしまいました。こんな、凄い魔道具を持っているユナお姉ちゃんは凄いです。
ミスリルのナイフを求めて王都に来たら、エレローラ様に捕まってしまいました。
なんでも、ユナお姉ちゃんが仕事をするそうです。その間、わたしはエレローラ様のお屋敷にお世話になることになりました。
クマさんの門のことはユナお姉ちゃんとの内緒なので、クリモニアに帰れるとは言えませんでした。
まして、魔物を倒しに行くユナお姉ちゃんに付いていくわけにもいきません。
だから、わたしが王都に残るのは仕方ありません。
でも、平民のわたしが貴族様のお屋敷に1人で泊まるなんて、考えるだけでお腹が痛くなります。
1人でユナお姉ちゃんのクマさんのお家に泊まることを提案したのですが、ユナお姉ちゃんとエレローラ様に駄目と言われてしまいました。
う~ん、1人でも大丈夫なのに。
結局、わたしの意見は却下されて、エレローラ様のお屋敷でお世話になることになりました。
昨日の夜はユナお姉ちゃんと一緒だったけど、ユナお姉ちゃんは鉱山に行ってしまったので、1人になってしまいました。
みんなに迷惑が掛からないように、わたしは部屋で大人しくすることにしました。
でも、今、部屋の中にはわたしだけではありません。
エレローラ様とメイドのスリリナさんがいます。
そして、2人の前にはハンガーに掛かっている沢山の綺麗なお洋服があります。
その洋服の前でニコニコと洋服を選んでいるエレローラ様とスリリナさんの姿があります。
あのお洋服は誰が着るのでしょうか?
考えただけで、お腹が痛いです。きっと、シア様の服に違いありません。そう、思いたいです。でも、違うことは分かってます。
「どれが似合うかな?」
現在、分かっていることは、わたしが危険な状況に陥っていることです。
エレローラ様が一着の服を持って、こちらを見ます。
「フィナちゃん、お着替えしましょうね」
エレローラ様が近寄ってきます。
近寄ってくるエレローラ様の笑顔が怖いです。
助けてくれるユナお姉ちゃんはいません。自分で断らないといけません。
もし、あの洋服を汚したり、なにかあったらと考えただけで、震えてきます。
「洋服なら着てますから、大丈夫です」
がんばって断ってみる。
「あら、ダメよ。ちゃんとお着替えしないと。その服は昨日着たでしょう」
「そんなに汚れていないから」
一歩下がります。でも、エレローラ様とスリリナさんは二歩進みます。
「ダメよ。女の子は綺麗にしないと」
ユナお姉ちゃん、助けて……
エレローラ様とスリリナさんがさらに近寄ってきます。
シア様に助けを求めたくても、シア様は学園に行きましたので、お屋敷にはいません。
このお屋敷には誰も助けてくれる人はいません。
わたしは、もう一歩下がります。でも、エレローラ様たちは二歩進みます。
後ろはベッドです。これ以上は下がれません。それに、どこにも逃げる場所はありません。
「そんな綺麗な服を着ても、わたし似合わないから」
「あら、そんなことはないわよ。きっと可愛いわよ」
「はい、わたしもそう思います。フィナさんは可愛らしいですから」
ダメです。左右から迫ってきます。
「でも、そんな高いお洋服を汚したら」
逃げ道を探します。
「汚しても大丈夫よ。怒ったりしないから」
「汚れても、わたしが責任を持って洗濯を行います」
「でも……」
逃げるための言葉が出てきません。
ユナお姉ちゃん、タスケテ……。
その声はユナお姉ちゃんには届きません。
結局、着替えさせられました。
可愛いフリルが付いてます。
肌触りがいいです。
高級な素材で作られてます。
汚れても、スリリナさんがどうにかしてくれると約束をしましたが、破けたりした場合はどうなるんでしょうか?
弁償の文字が頭に浮かびます。お腹が痛くなります。
こうなったら、服が破けたりしないように、ユナお姉ちゃんが帰ってくるまで人形のように部屋でじっとしていることにします。そうすれば、服が破けることも、汚れることもありません。
うん、いい考えだ。
「それじゃ、フィナちゃん。お出かけしようか」
「…………えっ」
数秒でわたしの考えが崩壊しました。
でも、まだです。
「わたし、ここでお留守番してます」
「フィナさんはお客様です。お留守番の必要はありません」
「でも、いつユナお姉ちゃんが帰ってくるか分からないし」
「なに、言っているの? さっき、出発したばかりでしょう。さすがのユナちゃんでも、しばらくは帰ってこないわよ」
そうです。ユナお姉ちゃんは先ほど出発したばかりです。
結局、断る言葉も思い浮かばず、エレローラ様とお出かけすることになりました。
向かった先はお城です。
お母さん、わたしが死刑になったらゴメンね。
いえ、そうならないように頑張らないといけません。
お城で貴族様に会ったら、失礼がないように行動をしないといけません。
生き残るために頑張ります。
お城に入ると会う人はみんなエレローラ様に挨拶をします。やっぱり、エレローラ様は凄い人だったみたいです。そんな、エレローラ様がお城の中を案内してくれます。いいのでしょうか?
そして、綺麗なお花が咲いている庭園に連れてきてくれました。
「きれい……」
まるで、絵本に出てくるお城の花壇みたいです。
いえ、ここはお城でした。
ベンチもあり、座りながら、お花をゆっくり見ることができます。
きっと、神様が用意してくれた最後の風景かもしれません。
ありがとうございます。神様。
いえいえ、頑張って生きて家に帰らないといけません。
お母さんもお父さんもシュリも待っています。こんなところで死ぬわけにはいきません。
とりあえず、綺麗なお花を見て、心を落ち着かせます。
お花が綺麗です。赤や青、ピンク、黄色、いろんな綺麗な花が咲いてます。
はぁ、落ち着きます。
「エレローラ、休憩中か?」
花を見ていると、誰かがエレローラ様に話し掛けてきました。
声がした方を振り向くと、貴族様よりも、もっと偉い人がいました。
国王様です。こないだ、ユナお姉ちゃんの家に来た人です。
ど、どうしましょう。
やっぱり、わたしはここで死ぬのでしょうか?
もし、国王様に失礼なことをしたら、死ぬのはわたしだけじゃないかもしれません。家族が全員殺されてしまうかもしれません。
「今日はお休みよ」
「それじゃ、なんで城にいるんだ」
「今日はこの子と散歩よ」
エレローラ様がわたしを見ます。
わたしは硬直したまま、声を出すことができません。
「うん? どこかで、見たことがある娘だな」
「ああ。たぶん、ユナちゃんと一緒にいるところを見たんじゃないのかしら」
「ああ、ユナの家にいた娘か」
「はい、フィナと申します」
硬直を解いて、頑張って、丁寧に名乗ります。
緊張で死にそうです。
「ユナと違って礼儀正しいな」
国王様はわたしの頭を撫でてくれます。
国王様がこんなに近くに、しかも、わたしの頭を撫でてくれてます。
これが、最後の幸運なんですね。
お母さん、さよなら。
「あら、そんなことを言ったらユナちゃんが可哀想よ」
「あいつな、一度も自分から俺のところに挨拶に来ないんだぞ。普通、ありえんだろう」
「まあ、ユナちゃんの目的はフローラ様ですからね」
「しかも、俺がフローラの部屋に行くと、『また、来たの?』って感じで見るんだぞ」
「まあ、実際そうですからね」
「あいつ、絶対に俺のこと、国王と思っていないだろ」
ユナお姉ちゃん、国王様になにをしているんですか!
ユナお姉ちゃんが殺されてしまいます。ユナお姉ちゃんに会ったら教えないといけません。
だから、生きてお城から出ないといけません。
「まあ、ユナちゃんは誰にでもそうですよ。クリフもこないだ会ったときも同じことを言っていたし、手紙でも、書かれてますよ。でも、嫌っていないんでしょう」
「まあな、娘にも優しくしてくれるし、いろいろと助けてもらっている。なによりも、美味しい物を持ってきてくれるからな」
国王様が餌付けされています!
わたしもそうですが。ユナお姉ちゃんが作る食べ物はみんな美味しいです。
どうやら、国王様はわたしの存在は忘れ、ユナお姉ちゃんの話になっているみたいです。
無事に国王様に失礼がないようにここから離れられそうです。
そう、思っていたときが、わたしにもありました。
「フィナと言ったな」
国王様がいきなり、わたしに話しかけてきました。
「ひゃい」
まずいです。驚いて変な声が出てしまいました。
まさか、わたしに話しかけてくるとは思いませんでした。
「あんまり、フィナちゃんを驚かせちゃダメよ。それでなくても、怖い顔で、さらに威厳があって、肩書きも国王で、怖いんだから」
「おまえ、何気に酷いこと言っていないか? まあ、驚かせるつもりは無かった。ただ、ユナとの関係が知りたくてな」
ユナお姉ちゃんとの関係ですか?
関係と言われても分かりません。
友達? 仕事をくれる人?
とりあえず分かっていることを伝えます。
「ユナお姉ちゃんは命の恩人です」
これだけは事実です。
それから、国王様にわたしとユナお姉ちゃんとの出会い話をすることになりましたが、どうにか、ちゃんと話すことができたようです。
国王様はちゃんとわたしの話を聞いてくれました。
「それで、ユナはいないのか?」
「今日はいないわ。冒険者ギルドの仕事で鉱山に向かったの。その間、預かることになったの」
「鉱山? ああ、報告に上がっていたな。鉱山にゴーレムが現れて、冒険者ギルドで対処できなかった場合、兵士を動かす許可申請があったな」
「ちゃんと、目を通してくださいよ。兵士を動かすんだから」
「でも、ユナが向かったんだろ。なら、兵士の準備はいらんだろ」
凄いです。ユナお姉ちゃんは国王様にも信頼されているみたいです。
「まあ、ユナちゃんだからね」
「あの姿で強いって、未だに信じられんが」
「可愛いですもんね」
はい、わたしも可愛いと思います。
「それで、エレローラはこれからどうするんだ」
そうです。そろそろ、ここから離れましょう。国王様の側にいるだけで、わたしの精神ダメージが大きいです。ライフは0に近いです。
そろそろお昼だし、お屋敷に帰りましょう。
エレローラ様に目で訴えます。
「フィナちゃん、お腹空いた?」
どうやら、通じたみたいです。
「それじゃ、ユナちゃんから、預かったお土産があるから、フローラ様のお部屋に行こうか」
「食べ物か?」
「お昼にね」
「なら、俺も行こう」
2人とも、なんて言ったの?
わたし、聞き間違えたかな?
これから、お姫様の部屋に行って、国王様と一緒にお昼をするって聞こえたけど?
ユナお姉ちゃん、タスケテ……
数時間後……
お屋敷に戻ってきました。
お城であったことは思い出せません。
フローラ様と国王様と一緒にお昼を食べましたが、味は覚えてません。
さらに王妃様も途中で現れて、わたしの思考は止まりました。
どうして、こんなことになったのでしょうか。
わたしはベッドの上に倒れます。
ユナお姉ちゃん……早く戻ってきて……。
ク~ン、ク~ン、ク~ン、ク~ン
何かが聴こえます。
ユナお姉ちゃんに貰ったアイテム袋から聴こえます。
クマさんの形をした人形が鳴いてました。
これはくまふぉんという、遠くの人とお話ができる魔導具です。
わたしはくまふぉんを手にすると魔力を流します。
『もしもし、フィナ。聞こえる?』
「ユナお姉ちゃん!?」
『そっちは大丈夫?』
「ユナお姉ちゃん。大変だったんだよ。今日、エレローラ様に綺麗な服に着替えさせられるし、お城に連れていかれるし、国王様に会うし、それから、国王様や王妃様と一緒にお昼まで食べたよ」
『いつものことだね』
「ユナお姉ちゃんにとってはいつものことでも、わたしは大変だったよ。お昼に食べたパン、緊張で味がしなかったよ」
『でも、楽しんだんだね』
「楽しんでいないよ~。ユナお姉ちゃん、お仕事の方はどうなの?」
『う~ん。今日到着したばかりだから、なんとも言えないね』
「そうなの?」
『でも、頑張って早く戻るから、王都でも楽しんでいてよ』
ユナお姉ちゃんから、自由に使っていいと言われたお金を預かってます。
かなりの金額です。わたしは必要がないから、返そうとしたら、無理やりに持たされました。
基本、エレローラ様のお屋敷で食事も出るのでお金を使うことがありません。だから、必要がない。
1人で王都の散歩は少し怖いので、買い物もいけない。
「ユナお姉ちゃん、早く帰ってきてね」
『了解。なるべく、早く帰るから』
ユナお姉ちゃんの声が聞こえなくなりました。
でも、本当にこれはどうやって会話をしているのか謎です。
明日はシア様とお出掛けの約束になっています。
今日の疲れを取るために早く寝ることにします。
柔らかいベッドです。
お母さん、お父さん、シュリ、お休みなさい。
クリモニアの街にいる3人に心の中で挨拶をして眠ります。
今日はとっても疲れたので睡魔はすぐにやってきました。