143 クマさん、鉱山に潜る その4
鉄の塊となったアイアンゴーレムをセニアさんがアイテム袋に仕舞う。
ジェイドさんたちの戦うのを見て、思ったことは。うん、ミスリルの武器が欲しいね。
扱えるかどうか分からないけど、魔法やクマの力業ができない時には欲しい。
ただ、破壊されたアイアンゴーレムを見させてもらったとき、魔石が胸のところにあった。あれを破壊すれば止まる。ただ、破壊すると使い物にならないので買取りはしてくれない。魔石のことを気にしなければ破壊するのも手かもしれない。
ミスリルがあれば、突き刺すのもいいし。もしくは振動系の技が使えれば魔石だけを破壊できるかもしれない。漫画によくある、体の外は傷付けないで、体内を破壊する技とか。もしくは、風魔法の応用を使って振動を作って破壊するとか。どれも、ファンタジーの世界の話だ。現実的ではない。
自分で言っておいて、ツッコミたくなる。
できるとしたら、後者の魔法で振動の方法かな。風を細かく揺らして振動を体内に打ち込む。
まあ、現段階ではできそうもないから、保留にする。でも、いつか、やってみたいから練習してみようかな。
アイアンゴーレムの処理を終えたわたしたちは小休憩を取る。
この先はアイアンゴーレムが続くため、体を休めるらしい。あと、メンバーの体調確認でもあるらしい。
「それで、ジェイド。今日はどこまで進むんだ」
飲み物を飲みながら尋ねるトウヤさん。
「いつも通り、無理が無いように行けるところまで行くつもりだ。もしかすると、あの5体がいない可能性もあるからな」
残念ながら、ちゃんと5体います。
探知魔法にちゃんといる。
そして、気になる表示を見つけた。
人の反応が5つ。間違いなくバカレンジャーの反応だろう。
わたしたちが通ってきた坑道の、少し反対側に位置している。このまま進むと合流するのかな?
まだ、先の地図は真っ黒だから、どの辺りでバカレンジャーと合流するのか、いまいちわからない。
でも、バカレンジャーの方が5体のアイアンゴーレムに対して近い位置にいる。
これは、わたしたちが到着するよりも、先にバカレンジャーが5体と遭遇するね。
上手くすれば、棚からぼた餅が落ちてきそうだ。
わたしが他の人には見えない地図を見て考え事をしていると、ジェイドさんが話しかけてくる。
「それで、ユナ。俺たちの戦いを見て、アイアンゴーレムは倒せそうか?」
「う~ん、微妙かな」
「微妙?」
「坑道の中じゃ、メルさんの言う通り、魔法が使えないからキツイ。戦う場所が外なら、いろいろ方法があるけど。基本、わたしの攻撃方法は力押しが多いから、下手すると崩落の恐れもあるし」
「そうか」
ジェイドさんは少し残念そうにする。
まあ、5体の奥に行きたければ、アイアンゴーレムを穴に落として先に行く方法もある。
この方法だと素材は手に入らないけど先に進むことはできる。
「俺にミスリルの剣があれば」
トウヤさんは笑わすためにそんなことを言い出す。
「もう、そのネタはいい。誰も笑わない」
「トウヤ、つまらない」
「誰も笑わすために言ってねえよ!」
「トウヤはもう少し、技量を磨いてからだな」
「ちぇ」
結局、笑いが起こる。
わたしたちは休憩を終えると、奥に進む。
途中でバカレンジャーが通ってきた坑道と繋がる。
ここで繋がるのか。帰りはこっちから、帰ってもいいかな。そうすれば地図も埋まるし。
アイアンゴーレムが出てくると、わたしとトウヤさんが足止めして、後方でメルさんが魔法の援護をする。
その隙をついてセニアさんとジェイドさんが斬りつける。
この方法で3体のアイアンゴーレムを倒す。
「この先だな」
5体のアイアンゴーレムがいるところまでもう少しみたいだ。でも、わたしたちの前にバカレンジャーが遭遇しているはず。
わたしは探知魔法で確認をする。
あれ?
5体のアイアンゴーレムの反応が無くなっている。
前に確認をしたときは5体いた。それが居なくなっている。
もしかして、バカレンジャーが倒した?
そのバカレンジャーの反応もない。
もしかして、階層が違う?
5体のアイアンゴーレムの坑道の先は下っているのかもしれない。そう考えれば、バカレンジャーの反応も、坑夫が一番初めに発見したゴーレムの反応が無いのも理解できる。
ジェイドさんたちはゆっくりと進み、5体のゴーレムがいる空洞の様子を窺う。
「いないわね」
「ああ」
「戦った跡がある」
確かに、あっちこっちに魔法やなにかが暴れた感じの跡がある。
アイアンゴーレムがいないのを確認すると、広がる空洞に出る。
「もしかして、バーボルドか?」
バーボルド?
ああ、バカレッドの名前ね。
わたしの心の中ではバカレッドで刻まれているけど。
「それしか、考えられないわね」
「あの5体を倒したのか?」
「性格は悪いけど実力はある」
どうやらバカレンジャーが5体のアイアンゴーレムを倒したみたいだ。
棚からぼた餅作戦が見事に失敗した。
う~ん、残念。
「ジェイド、どうする?」
メルさんが辺りを警戒しながら、これからの行動について尋ねる。
「そうだな。せっかくバーボルドが作ってくれた道だ。先に進もう。情報は少しでも多い方がいいからな」
「バーボルドに見つからないようにすればいい」
セニアさんがジェイドさんの言葉に賛同する。
「面倒ごとは嫌だけど。冒険者としては行かないと駄目よね」
「文句を言われたら戻ればいいだろ」
なんだろう。誰も一緒に戦うって言葉が出てこないんだけど。
まあ、わたしもバカレンジャーとは一緒に戦いたくはないけど。
坑道を進むと予想通りに下り坂になっていた。
地図も変わり、バカレンジャーの反応が現れる。
そして、もう1つの反応がある。そこにはミスリルゴーレムと表示されていた。
アイアンゴーレムで苦労しているのに、ミスリルゴーレムって無理じゃない?
坑道を下っていくと、戦う音が聴こえてくる。
「くそ、なんて固さだ」
「魔法が効かない」
「エンガイ、なんとかしろ」
「無理だ」
開けた空洞ではバカレンジャーが戦っていた。
バカレッドが剣で斬りかかるが、ミスリルゴーレムに弾かれる。
バカブルーがスピアで突くが、ミスリルゴーレムに弾かれる。
バカグリーンが巨大なハンマーで攻撃をするが、ミスリルゴーレムに弾かれる。
バカブラックが土魔法を放つが、ミスリルゴーレムに弾かれる。
バカホワイトが風魔法を放つが、ミスリルゴーレムに弾かれる。
えっと、無理ゲーかな。
少し広めの空洞とは言え、こんなところで戦うのは不利過ぎる。
あんな、絶対防御の体を持つミスリルゴーレムをどうやって倒せと。
バカレンジャーのレベルが低いわけじゃない。ランクDのデボラネと比べても動きは良いし、パーティーの連携もしっかりしているように見える。
ただ、ダメージが通ってないのだ。
それでも、バカレンジャーはミスリルゴーレム相手に戦っている。
そのなか、バカレッドがわたしたちのことに気付く。
「なにしに来やがった」
「見に来ただけだよ。もし、おまえさんがやられていたら、俺が代わりに倒してやろうと思ってな」
「ふざけるな! 俺様がやられるわけがないだろう。貴様に出番なんてない。帰って寝てろ! もし、これ以上戦いを観るなら見物料を貰うぞ!」
持っている剣先をわたしたちに向ける。
「しかも、ペットと一緒か!」
ペットってわたしのことだよね。
くまゆるでも召喚して、背後から襲わせようかな。
本物以上に怖いクマを。
「わかった。俺たちは帰らせてもらうよ。もし、お前さんが死んでも、戦いのことはギルドに報告しておくから、安心してくれ」
「死なねぇよ!」
バカレッドはミスリルゴーレムに向かって走り出す。
個人的には本当はもう少し戦いを観ていたかったけど。バカレッドがうるさそうだったので、ここから離れることになった。
う~ん、ミスリルゴーレムか。
素材は欲しい。一体しかいないのかな。
倒すのは無理だと思うけど、バカレンジャーに倒されたら悔しいな。
あれだけあれば、剣を数十本は作れそうだし。
「あれは倒せないな」
「うん、無理」
「あれはなんだったんだ?」
「アイアンゴーレムより硬いのは確かね」
「アイアンゴーレムより硬いって想像もしたくないな」
「バーボルドのミスリルの剣でも切れなかった」
「技量がないとか?」
「性格は最悪だけど、ミスリルの剣を持つ実力はある」
「そのバーボルドの力を持ってしても斬ることはできなかった」
「なら、手を貸した方が良かったんじゃ?」
「あいつは受け入れないし、助けも求められなかった」
「そういうこと。手伝ってほしいと頼まれれば、手伝うけど。そうじゃなければ助けないよ。それが冒険者同士の暗黙ルールだよ」
「助けたあとに、手に入れた素材、依頼報酬の件でトラブるからな。もちろん、命が掛かっているなら、気にしないで助けることもあるが」
「バーボルドを助けると、逆に文句を言われるだけだよ」
なんとなく、会話が噛み合ってない感じがしたが、理由がわかった。
冒険者全てではないとおもうが、冒険者は正義の味方ではない。困っている者を無報酬で助けるわけでもない。今回のゴーレムの件も、鉱山で鉱石が採れなくなって困っているから助けるのではなく、仕事で受けている。当たり前のことだが、お金のために仕事をしている。
だから、バカレンジャーと一緒に戦う考えがない。
バカレンジャーの方も助けを求めようとはしない。
共闘すれば倒せる可能性もあるのに潰している。
ゲーム時代でも、そうだったけど。人数が少なければ少ないほど報酬の割り当ては多くなる。
だから、仕方ないと言えば仕方無いのかもしれない。
わたしだってミスリルゴーレムを独り占めしたい気持ちはある。
結局、バカレンジャーが戦っている場所を後にして、今日は宿に帰ることになった。
帰り道は、地図を完成させたいから、バカレンジャーが通ってきた道から帰ることをお願いしてみた。 ジェイドさんたちは快く了承してくれた。
鉱山から戻って来たわたしたちは宿屋の食堂で食事をしている。
「それで、ジェイド、どうする?」
「どうするって?」
「あのゴーレムよ。バーボルドたちに倒せるようには見えなかったけど」
「あれは斬れない」
「俺にミスリルの剣があっても無理だな」
全員トウヤさんの言葉をスルーする。
「バーボルドたちが倒してくれれば、依頼は終了だ。もし、駄目なようなら、ギルドに連絡だな」
「それしかないわよね」
「くやしいけど仕方ない」
ミスリルゴーレムを倒す方法か。
坑道の中でなければ、力ずくで倒すんだけど。ミスリルゴーレムがいる地下まで穴を掘る? 現実的な考えじゃないし、坑道が崩れる危険性もある。
閉鎖的な場所ではクマがチートでも倒すこともできない。
さすがにラスボスを埋める訳にもいかないし、窒息死はしないだろうし、倒さなかったら他のゴーレムの出現も止められなかったら意味がない。
しかも、倒しても他のゴーレムの出現を止められるのかも分からない状態だ。
ミスリルゴーレムを倒しても、出現の謎が解決しなかったら、魔女は姫を返してくれるかな?
食事を終えてお茶を飲みながら休んでいると、宿の入り口が騒がしくなる。
「くそ、あんなの倒せるかよ!」
「魔法が効かないとか、なんなのよ」
「硬すぎる」
「もう、魔力がない」
「腹が減ったから飯にしようぜ」
バカレンジャーが入ってきた。
どうやら、生きて戻ってきたらしい。
「バーボルド、生きて戻ってきたのか」
ジェイドさんと思っていることが被った。
「死ぬかよ!」
「それで、倒したのか?」
先ほどの会話とバカレンジャーの顔を見れば分かるのにジェイドさんは尋ねる。
「貴様たちが来たせいで、集中力が落ちたから、今回は見逃してやったよ」
どっちが見逃してもらったのかな。
「それはすまなかったな。バーボルドぐらいの実力者なら、俺たちが現れたぐらいで集中力が切れるとは思わなかったからな」
「ちぇ」
そう、言われたら黙るしかない。
反論しようものなら、冒険者のレベルが低いと思われる。
「それで、冗談はここまでにして、実際はどうなんだ?」
「ありゃ、無理だな。物理攻撃も魔法も効かない。効いているかもしれないが、あっちの魔石の力がなくなる前に、俺たちの体力、魔力が無くなる」
「やっぱり、無理か」
「あいつとやるなら、覚悟しておけよ」
「おまえさんはもう戦わないのか?」
「割に合わん。あいつを相手にするならアイアンゴーレムを相手にして儲けた方がいい。だから、王都から兵士が来るまで、アイアンゴーレムで稼がせてもらうつもりだ。そう言うおまえはどうなんだ。俺たちの戦いを見ていたんだろう?」
「俺たちもパスだな。倒せる方法がない。本当はお前さんが倒してくれればと思ったんだが」
「そりゃ、期待に沿えずに悪かったな」
バーボルドは近くの席に座る。
「情報、ありがとな。おかみさん! バーボルドたちにビールを一杯、俺の奢りで」
「たったの一杯かよ」
「倒せる情報なら、もっと奢るよ」
「そんな情報があるなら、貴様に話さずに俺様が倒す」
バーボルドとジェイドはお互いに笑う。
仲が良いんだか悪いんだかよくわからん。
その後、ジェイドさんたちとバカレンジャーは遅くまで酒を飲み交わしたそうだ。
わたし? もちろん、部屋に戻って寝たよ。
予想通り、ミスリルゴーレムの登場ですw




