139 クマさん、鉱山に向かう (勇者、鉱山に向かう)
魔女エレローラに捕らわれの身になった姫。
姫は魔女エレローラに、無理やり、美味しい物を食べさせられたり、綺麗な部屋を与えられたり、綺麗な服を着せられたり、ふかふかのベッドを与えられるだろう。
魔女エレローラは姫の心(胃)を壊すつもりだ。
さらに、勇者ユナが戻ってくるまで、王都を観光したり、魔女エレローラの娘のシアと遊ぶことになるだろう。きっと、姫は物陰で泣いて(笑顔で)いるだろう。
勇者ユナが向かう先は鉱山。ここに魔女エレローラが欲しがるゴーレムの素材がある。それを持ってくるのが勇者ユナの役目だ。それが、姫を返してもらう取引条件だった。
「姫、待っていてください。きっと、ゴーレムを倒して戻ってきます」
早く救い出さなくてはならない。そう、心に誓って、勇者ユナは魔女の屋敷に背を向けて歩きだすのであった。
…………冗談はここまでにして、昨日、エレローラさんにフィナを預けたあと、わたしもエレローラさんのお屋敷で一晩過ごしてから、翌日の朝。鉱山に向けて出発した。
サーニャさんに聞いた話だと、鉱山の場所は王都から向かうのが一番近い。
王都から出ると、くまゆるを召喚して、鉱山に向けて出発する。
それにしても、ゴーレムか。
土や岩でできたゴーレムならいいけど、鉄でできたゴーレムは厄介だ。
坑道の中だと、大きな魔法も使えないし、本当にどうしたもんか。
まあ、鉱山に着くまでには、まだ時間はある。ゆっくり考えればいい。
フィナも楽しんでいるだろうし、無理に急ぐこともない。
のんびりとくまゆるを走らせる。途中で休憩を入れて、くまきゅうに乗り換える。
「くまゆる、ありがとうね。くまきゅう、お願いね」
2匹の頭を交互に撫でる。
休憩も、そこそこにして、くまきゅうを走らせる。
しばらくすると遠くに建物が見えてくる。
目視できるほど近づくと、騒ぎにならないように、くまきゅうから降りて、途中から徒歩で向かう。
鉱山に到着したときには日が沈みかけていた。今日は宿屋に泊まって、明日から調査かな。
鉱山の近くには小さな町がある。
ここに住んでいるほとんどの人が鉱山の関係者になる。鉱石を求める者。鉱山で働く者に商売する者。人も集まれば店も出来上がる。
そして、出来上がったのが、小さな町だ。
サーニャさんの話ではちゃんと宿もあるらしい。冒険者や鉱石の買い取りにくる商人が泊まるためだ。
町の中に入ると注目を浴びるが、いつものこと。
とりあえず、気にしないで宿屋を探すことにする。
町の中を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「もしかしてユナか!?」
声がした方を振り向くと、ジェイドさんのパーティーメンバーがいた。
「やっぱり、ユナちゃんだったよ」
大喜びをするメルさん。
「見れば誰でも分かるよ」
少し無表情の20歳ぐらいの女性。
「おお、懐かしいな。クマのお嬢ちゃん」
剣士の男性が声をかけてくる。
見覚えが無いがジェイドさんのパーティーメンバーだろう。
クリモニアの冒険者ギルドに4人いたのは覚えている。1回しか、会ってなく、数秒しか会話してない相手の顔なんて覚えてはいない。
ジェイドさんがわたしのところにやってくると周囲の視線が増えた気がする。
目立つ冒険者のジェイドさんパーティーメンバー、それと一緒にいるクマの着ぐるみ。これで目立たないのがおかしい。だから、騒ぐのはやめてほしい。これ以上、目立ちたくない。
どこからともなく、お前が言うなって声が聴こえそうだけど、そんな声は無視をする。
「ユナはどうしてここに」
「一応、仕事かな?」
「もしかしてゴーレムか?」
「そうだけど、もしかして、ジェイドさんも?」
まあ、ここにいる時点でその可能性は高かった。
ランクCの冒険者ってジェイドさんたちのことだったんだね。
「ああ、依頼を受けて、先日からゴーレム討伐をしているよ。今日も、坑道に潜って、その帰りだ」
「状況はどうなの? 終わったようなら帰るけど」
なら、楽でいいな。
淡い期待で聞いてみる。
「まだだな」
「そうなの?」
ランクC冒険者でも苦労するのかな?
立ち止まって会話をし始めたわたしとジェイドさんにメルさんが割り込んでくる。
「ジェイド、こんなところで話さないで、宿に戻って、食事でもしながら話さない?」
確かにそうだ。こんな道の真ん中では目立って仕方ないし、早めに宿屋の部屋は確保はしたい。
空き部屋が無かったら、目立たないところを探して、旅用のクマハウスを設置をしないといけない。
わたしはメルさんの意見に賛同して、宿屋に向かうことになった。
そして、宿屋に向かいながら、ジェイドさんのパーティーと簡単に自己紹介をすませる。
ジェイドさんとメルさんは先日の護衛の件で知っているが、残りの二人はクリモニアの冒険者ギルドで会っているけど、ほとんど記憶に残っていない。覚えているのは性別ぐらいだ。
男性の剣士はトウヤ、身軽な格好をした無表情の女性がセニアというらしい。
宿屋に到着して、無事に部屋を確保する。
宿屋は混み合っていた。商人たちが鉱石の取り合いをするためにいろんなところから集まってきたらしい。場所は王都だけでなく、各方面の町から集まってきている。
部屋はたまたま、今日、商人が出ていったことで空いたそうだ。
もちろん、宿屋に入ったら注目の的だったよ。全部無視したけど。ジェイドさんたちがいるお陰で、誰も絡んでくることなかったから、ジェイドさんたちには感謝だね。
ただ、宿屋を経営している夫婦の奥さんが対応してくれたけど、神妙な顔付きでわたしを見て、最後にジェイドさんの方を見て口を開いた。
「えーと、このクマの格好をした女の子がお泊まりになるのでしょうか?」
なんで、わたし本人じゃなくて、ジェイドさんに聞くかな?
ジェイドさんは笑いながら、
「ああ、そうだよ。部屋を用意してくれないかな」
その言葉で部屋を確保することができた。
ジェイドさんには感謝だけど、わたしは子供じゃないんだから、立派なランクCの冒険者でもあるのに。
「ざんねん、部屋が無ければ、わたしたちの部屋で寝てもらおうと思ったのに」
メルさんがそんなことを言い出す。
「わたしたちの部屋は2人部屋だよ」
セニアさんがメルさんの言葉に否定する。
「え~、いいじゃない。なんなら、わたしがユナちゃんと一緒に寝るよ。ユナちゃん小さいから、そのクマを脱げば、寝れるよ」
いえ、脱ぎませんよ。
自宅ならまだしも、こんな何があるか分からないところで、クマさん装備は外せません。
部屋の確保もできたので、今度は食事になる。空いている席に座って料理を注文する。
「それで、ゴーレムの状況はどんな状況なの?」
「分からない、が本音だな」
「ゴーレムは倒しても、時間が経つと増えるの。一定以上は増えないみたいだけど。翌日にはほとんど、元の数に増えているわ」
やっぱり無限湧きかな。
ゲーマーが聞いたら喜びそうな話だね。
もちろん、わたしもゲーム時代なら、喜んだと思う。
「だから、俺たちは、坑夫が一番初めに発見したゴーレムが発生の原因だと思っている」
それはわたしも怪しいと睨んでいる。
ゲームや小説の王道だ。
なにかを発見すると、なにかが起きる。
「そのゴーレムを倒しに行っていないの?」
その可能性があるなら、倒しに行けばいい。違ったら他の方法を考えればいい。
「それが、そうも簡単にいかないんだ。奥に進むに連れてゴーレムも強くなってくる」
「アイアンゴーレム?」
「知っていたのか」
「それで、依頼内容がランクCになったって聞いたよ」
「倒せないわけじゃないが、面倒だ」
それには同意だ。
アイアンゴーレムを倒すのは面倒そうだ。
「でも、倒せるんでしょう。そのまま進めばいいんじゃない?」
「坑夫が見つけた部屋の前にある、大きな場所があるんだが、そこにアイアンゴーレムが5体いてな。さすがに、無理だ」
「だから、どうするか、検討中なの」
なるほど。
つまり、その5体をどうにかすれば、奥の部屋に行けるのか。
それなら、なんとかなるかな。
ジェイドさんたちと話をしていると、入り口が騒がしくなる。
「あーあ、疲れた、疲れた」
「ほんとだよ。アイアンゴーレムの連戦は止めてほしいよ」
「でも、カネになっただろ」
「アイアンゴーレム様様だね」
「それよりも、早く食べよう。お腹へったよ」
声がする方を見ると冒険者5人が入っていた。
一目見た瞬間、関わりたくない部類の人間と判断した。(人のことは言えないけど)
デボラネの顔を3割り増しに人相を悪くした感じだ。
そして、思うことが1つ。
その格好はなに?
先頭を歩いている男は地毛なのか、真っ赤に赤く、防具まで赤い。バッファローがいたら間違いなく襲われるだろう。
そして、2人目はなぜか青い防具。3人目は緑の防具。4人目は黒いマントに包まれた魔法使い。最後に紅一点? 30代前後の女性が白いマントを付けている。
見事に五色戦隊だ。
これが、白や黒じゃなくて、イエローとピンクだったら完璧だった。さすがに、異世界にイエローはギリギリ許せても、ピンクのマントはアウトだから仕方ない。
その五色戦隊がわたしたちのところにやってくる。
「よっ、ジェイド。おまえさんところはいつから、クマのペットを飼いだしたんだ」
赤い男はわたしを見て、そう言いやがった。
その言葉に後ろの4人が笑い出す。
よし、敬意を込めてバカレンジャーと呼ぼう。
戦隊物は日本を代表する正義の味方だ。決してバカにしているわけじゃない。
「彼女は冒険者だよ。それも、俺たちと同じランクCの冒険者だ」
「嘘だろ。クマが冒険者だってよ。笑わせるなよ」
笑うとこそこ!?
突っ込む場所も違うでしょう。いや、合っているけど。普通、ランクのところを突っ込まない?
「それにランクCだと? 笑わすならもっとおかしなことを言えよ。まあ、存在自体で笑わせてもらったけどな」
バカレッドは笑い出す。
「まあ、クマのことはいいや。それよりも今日はどうだったんだ。俺たちはアイアンゴーレムを3体倒して、ホックホックだぜ」
「俺たちは2体だよ」
「そうか、でも、5体のゴーレムは俺たちが倒させてもらうからな。そして奥にいる獲物も俺たちの物だ」
「好きにしてくれ。早く倒してくれるなら、おまえさんでも構わないよ。早くしないと国の兵が動くらしいからな」
「本当か! それじゃ、急がないとダメだな。せっかくの獲物を国に持っていかれちゃ、大損しちまう」
バカレッドは笑いながら立ち去っていく。
「彼らは俺たちと同じゴーレム討伐に来た冒険者だよ。ランクはC、性格は悪いけど実力はあるよ」
あれが、ゴーレム討伐に来たもう1つのランクCのパーティーか。
確かに性格は悪そうだけど、アイアンゴーレムを倒しているなら、それなりの実力者だ。
「でも、相変わらずだな」
「それにしても、ユナちゃんをペットって酷いやつらね。ペットじゃなくて、マスコットなのに」
いや、それも違うでしょう。
メルさんの言葉に心の中で突っ込む。
「でも、さっきの話からすると、かなり、良い値で売れたみたいだな」
「売れた?」
「ああ、アイアンゴーレムの素材を売っているんだよ。かなり、高い値段で取引されているらしい」
なるほど、ゴーレムも魔物扱いだから、倒した冒険者の物になるのか。倒せば鉄のゴーレムの死体? が残る。
「されているらしいって、ジェイドさんたちは売っていないの? さっき、2体倒したって」
「俺たちは正規ルートで売っているから、それほど高くは売れていない。でも、それでも、2割ほど高く売れているけどな」
「聞いた話だと、あちらさんは、5割増しみたいね」
鉄の買値がいくらか知らないけど、儲けているみたいだ。
お金はいらないけど、ゲームと違って倒せば、そのままの形で残るんだね。
綺麗に倒せば原型を残したまま、手にはいるかな?
手に入れば、ゴーレムをオブジェとして、どこかに飾ってもいいかも。
それから、食事も運ばれて、食事を食べながらジェイドさんから、詳しく鉱山の情報を教えてもらった。
「こんなに教えてくれていいの? 普通は情報は教えないものじゃない?」
「今回は教えても困らないからな。もし、俺たち冒険者が、ゴーレム発現の謎がわからないようだったら、国が動き出すから。そうなれば、俺たち全員、依頼は失敗扱いになる」
「わたしが討伐に成功したら、ジェイドさんたちも達成扱いになるの?」
あのバカレンジャーたちも。
「今回はな。もちろん、討伐したゴーレムの魔石は必要になる。なにもしていないのに達成扱いにはならないからな」
「あと、成功者に比べると報酬は少し減るけど、騒ぐほどじゃないからね」
「まして、今回はアイアンゴーレムの素材が売れているから儲けも大きい。だから、ユナに教えてもなにも問題はない」
「逆に倒してくれた方が助かるわね」
確かに今回に関してはそうなのかな。
普通なら、獲物の取り合いになって、情報なんて教えないと思うし。
「でも、ありがとうね。助かったよ」
お礼を言って、食事も終えると、今日は部屋に戻って寝ることにする。
明日から鉱山調査だ。