135 クマさん、ミスリル求めて王都に
そんなわけで、ミスリルのナイフを求めて王都にやってきた。と言っても、先ほどから数分しか経っていない。クマの転移門に感謝だね。
数日振りの王都。
たしか、前回来たのは、お米が手に入ったときにフローラ姫に会いに行った。
子供が好きそうな、いろんなおにぎりを一口サイズにして持っていってあげた。
エレローラさんや国王も、いつも通りに嗅ぎ付けて、食べ尽くしていったのはいつものこと。
まあ小さいおにぎりとは言え、小さなフローラ姫が何個も食べられないから、いいんだけど。
王都に来たのはそれ以来だから、それほど時間は経っていない。
でも、フィナは違う。
「王都だ」
クマハウスから出たフィナは、少し嬉しそうにしている。
「なんか、変な感じだね。さっきまでクリモニアにいたのが信じられないよ」
「久しぶりの王都だし、どこか見たいところある? あるなら、寄っていこうか」
別に急ぐことでも無いので、提案をしてみる。
でも、フィナはその提案を断る。
「歩いているだけで、楽しいから」
たしかに、ただ適当に歩くのも、1つの楽しみ方かもしれない。
観光地気分で歩くにもいいかも。
なので、目的地の鍛冶屋さんに向けて散歩をしながら楽しむことにする。でも、重要なことに気付く。鍛冶屋の場所が分からない。
ネルトさんにお店の場所を聞いたけど、知らないと一言で片付けられた。
そんなわけで鍛冶屋の場所が分からない。
クマの地図を出してみる。
王都の地図が出る。地図には周辺のことがこと細かく記載されている。
うん、わからん。
まるで、東京都内の地図を見ているようだ。
この中から一つの店を探し出すのは無理だ。
サーチ機能があれば可能だけど、そんなものはついていない。目視で探すのは無理がある。
諦めてクマの地図を閉じる。
まあ、鍛冶屋なんだから、商業ギルドで聞けば分かるはず。
そんな訳で目的地を商業ギルドに変更する。
王都のメイン通り。馬車が行き交う大きな道。商業ギルドに行くにはこの大きな道を通らないと行けない。他にもあるけど、遠回りになる。このメイン通りの大きな道に商業ギルドがあるため、最終的にはこの道を通ることになる。
だから、諦めてメイン通りを歩くことにする。
メイン通りということもあって、人通りが多い。人が多いってことは、わたしのことを見る者が多いってことになる。
そして、相変わらず聞こえてくる声はお馴染みのものだ。
そこのお母さん、お子様に人様に指をさしては駄目と教えてください。
そこの人、人を見て驚くのはやめてください。
そこのあなた、人を見て笑っちゃ駄目と教わらなかったの?
そこの人、これ、どこにも売っていないから、服屋に行っても売っていないから。服屋に行かないでください。
隣の人も自分の分を頼まないでください。
はい、クマですよ~。
はい、恥ずかしいですよ。でも、慣れましたよ。
可愛いですか? ありがとうございます。
抱きしめたい? やめてください。
他の人に教えに行く? 行かないでください。
見張っておくから行けって、動物じゃないよ。捕獲するつもりですか?
はい、噂のクマですよ。
触りたい? おさわり厳禁です。
聞こえてくる言葉に、心の中で返答する。
そんな馬鹿なことをしながら歩いていると、商業ギルドの大きな建物が見えてくる。
さすがに王都の商業ギルド。大きい建物に比例するように集まる人も多い。
クリモニアの商業ギルドも人が多かったけど、王都の商業ギルドはそれに輪をかけるように人が多い。
多いってことはさらに視線はわたしに集まることになる。
でも、ここまで来て、入らないわけにはいかない。フィナを連れて商業ギルドに入ろうとした瞬間。
「ユナさん!」
後ろから声をかけられた。
誰かと思って振り返ると、少し息を切らしたシアがいた。
「シア? どうして、ここに?」
「それはこっちのセリフですよ」
確かにそうだ。わたしの方がいるのがおかしい。
シアは息を整えながら答える。走ってきたためか、髪が乱れたのか整えている。
時間的にお昼前、まだ、学校じゃないかな。
「シア、学校は?」
「今日は休みですよ」
「それじゃ、なんで、制服?」
「ああ、これから、冒険者ギルドに行くところだったんですよ」
「…………?」
話が噛み合わない。
冒険者ギルドと制服の関係性が分からない。
そのことについて聞くと。
「この制服とマントは特別な素材でできているので、防御耐性も高いんですよ」
たしか、護衛任務のときに、そんな話を聞いたような聞いていないような。どっちにしろ、そんな効果があるから、その格好で冒険者ギルドに行くんだね。
でも、なんで冒険者ギルドに?
「それで、ユナさんはどうしてここに? それにフィナちゃんも」
フィナは頭を下げて少し緊張ぎみに挨拶をする。
前回、仲良くなったとはいえ、貴族と平民だ。やはり、少し壁がある。
「王都でガザルってドワーフが鍛冶屋をやっているらしいんだけど。その場所が分からないから、商業ギルドに聞きに行くところ」
「鍛冶屋ですか? ガザル……」
シアは手をおでこに当てて考え始める。
そして、ポンっと手を叩く。
「ああ、わたし知ってますから、案内しますよ。でも、なんで鍛冶屋さん?」
「フィナが解体できるのは知っているよね」
頷くシア。
「それで、こないだ手に入れた黒虎の解体をしてもらおうと思ったら、ミスリルのナイフじゃないと解体ができないみたいなの。それで、クリモニアじゃ手に入らなかったから」
「それで、わざわざ、王都まで来たんですか!?」
まあ、クマの転移門のことを知らなければ、そう思うよね。
「まあね。暇だったし」
「暇だからって、王都まで来ますか?」
「それで、鍛冶屋の場所知っているの? 知っているなら教えてほしいんだけど。できるなら、あの中には入りたくないから」
出入りが多い商業ギルドの入り口を見る。
ギルドに入る人は必ずわたしの方を振り返っている。
できれば早く、ここから移動したい。
「それじゃ、わたしが案内しますよ」
「いいの? たしか、冒険者ギルドに行くんでしょう?」
なんで、シアが冒険者ギルドに行くのか知らないけど。
でも、案内してくれるなら助かる。
「まだ、時間があるから大丈夫です」
シアの言葉に甘えてガザルってドワーフの鍛冶屋に向かう。
クリモニアの街も大きいが、王都は比較にならないほど、さらに大きい。
これは案内がないと迷子になる。
「でも、わざわざ、ナイフを買いにフィナちゃんを連れて王都までですか?」
「買うなら、フィナの小さな手に合う物が欲しいからね。大きいの買って、使いにくかったら意味がないからね」
「わたし、サイズが大きくても大丈夫です」
「ダメだよ。使いにくいナイフを使って、フィナが怪我をしたら、わたしが困るよ」
それなら、10歳の子供にナイフを持たせるなって話だけど、ここは日本じゃない。異世界だ。10歳の子供でもナイフが必要な子もいる。
フィナは解体の仕事を頑張って、今の技術を手に入れたのだ。それを奪い取ることはしたくない。もし、フィナが解体はしたくないと言ったら、その時に考える。
そして、鍛冶屋に到着するまでの間に、露店を見かけては買い食いをしたのはいつも通りの行動だ。
「ここです」
シアの案内で鍛冶屋に到着する。
着いたのは工業地区って言うのかな?
そんな感じの場所の一角にある鍛冶屋。
まあ、住宅街の中心で、毎日、鉄を叩く音がしたら迷惑だ。
薄暗い店の中に入ると、背の低いドワーフが椅子に座っていた。
「あのう、すみません」
「なんだ、おまえたちは」
「ガザルさんですか?」
「そうじゃが、お前さんはなんだ。そんな奇妙な格好をして」
奇妙とか初めて言われたよ。
「わたしの格好は気にしないでください。これを見てもらえますか」
ネルトさんから預かった手紙を渡す。
「これはなんだ?」
「クリモニアの街にいるネルトさん? ゴルドさんになるのかな」
あのときネルトさんは奥に行って、ゴルドさんを叩き起こして書かせたんだよね。
わたしの話を聞いたガザルさんは手紙に目を通す。
「話は分かったが無理じゃな。この王都でも、鉱石不足になっている。一番近い鉱脈から鉱石が採れなくなって、違う場所から仕入れているが、それでも数が少なくて、俺のところに回ってくる鉱石は少ない。ゴルドからの頼みだから、優先的に作ってやりたいが、ちょっと無理だな」
やっぱり、王都でも、鉱石不足になっているんだ。
「それで、どうして、鉱石不足になっているの? 鉱山で掘れなくなったって聞いたけど」
「なんでも、ゴーレムが洞窟から出てきたそうだ。それで、掘れなくなったと聞いている」
ゴーレム、無機物生物。土や石、あるいは鉄やミスリルなどの鉱石でできた魔物。
「討伐の方はどうなっているの?」
「そこまでは知らん。冒険者が討伐に行っていることは聞いているが、現状を見ると討伐はできていないようだな」
それはそうか、なにもしていないわけはないか。
鉱山に魔物が現れれば討伐依頼もでる。
「そういえば、お母様も言ってました。このままじゃ、まずいから、兵の準備をしないといけないかしらって」
「冒険者が行って倒せないの?」
「わたしは詳しいことは知りません」
「わしだって知らん。詳しいことが知りたかったら冒険者ギルドにいくんじゃな。ここは情報屋じゃない」
それはごもっともなこと。
それじゃ、今度は冒険者ギルドに行かないといけないのか。
なんか、たらい回しにされている気分だ。
「行く場所が一緒になりましたね」
シアにそんなことを言われる。
確かに、シアは冒険者ギルドに行くって言っていたっけ。
うーん、どうしようかな。わたしが欲しいのはミスリルナイフであって、鉱山の情報じゃない。
「えーと、鍛冶屋でこんなことを聞くのもあれなんですが、王都にある他の鍛冶屋さんも、ミスリルは無いんですか」
「あるかもしれんが、見ず知らずの者に売らないと思うぞ」
クリモニアでも手に入らない、王都でも駄目だ。
こうなったら、鉱山まで行かないと駄目かな。
どっちにしろ、冒険者ギルドに行かないと駄目か。
わたしはガザルさんにお礼を言ってお店を出る。
ここにいても仕方ないから、冒険者ギルドに行くかな。
たまには、サーニャさんにも挨拶に行かないと、怒られる気がするし。
そんなわけでわたしたちは冒険者ギルドに向かうことにした。
次回、外伝の方に投稿する予定です。
一話投稿したら、本編に戻ってきます。




