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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、いろいろ作る
122/904

118 クマさん、ゴブリンを見つける

 日が暮れてきたので、夜営の準備を始める生徒たち。

 準備といってもやることは少ない。馬の世話、火の準備ぐらいなものだ。

 食事は各自で食べているし、あとは寝るぐらいだ。

 

「それじゃ、見張りの順番は俺、ティモル、カトレア、シアの順番でいいんだな」

「よろしくてよ」

 

 全員頷く。

 わたしの名前が無いってことは寝てていいんだよね。

 見張りをする者が火の番をする。

 他のメンバーは狭いけど馬車の中で寝る。


「ティモル、いいのですか」


 カトレアが馬車の外に出て行くティモルに声をかける。


「女子3人と一緒に寝る勇気は、僕は持っていないよ。マリクスと一緒に外で寝るよ」

「それは感謝ですわ。わたくしも男子と一緒では眠れませんから」


 カトレアがティモルに感謝の言葉をかける。

 狭い馬車の中、3人で寝る場所を確保する。3人でギリギリの状態だ。それが分かったからティモルは出ていったんだろう。

 わたしたちは狭い隙間で毛布にくるまると横になる。


「それじゃ、みなさん、お休みなさい」

「カトレアさん、ユナさん、お休みなさい」

「うん、お休み」


 女子トークでもあると思ったけど。旅慣れていない二人は疲労のため、すぐに寝てしまった。

 わたしも白クマに着替えることはしていない。着替えれば笑われるのが目に見えている。それに魔力も消耗していないし、疲れることもしていない。疲れているとしたら、精神的な方だ。

 同年代の男子といるのがこんなに疲れるものだとは思わなかった。

 これも、学校にも行かずに引きこもりをしていたせいだろう。


 わたしは毛布を深くかぶり、こぐま化したくまきゅうを毛布の中に召喚する。

 おなかの上にくまきゅうが乗り掛かる。重さを感じるがクマの服のおかげで重くはない。


「魔物や盗賊が来たら教えてね。………あと、無いと思うけど男子が襲ってきたら教えてね」


 くまきゅうは寝ている2人を起こさないように、小さな声で鳴く。

 わたしはくまきゅうをぬいぐるみ代わりにして眠りにつく。

 くまきゅうは程よい温かさがあり、安心感を与えてくれる。わたしが眠りに落ちるのも早かった。


 カトレアが動き出すことで、目が覚める。

 どうやら、見張りの交代の時間らしい。


「今、行きますわ」


 小さい声で相手に言う。その相手は順番からいってティモルだろう。

 カトレアが馬車を降りていく。わたしはくまきゅうを抱きしめて、すぐに眠りに落ちる。

 しばらくすると、カトレアが戻ってきてシアを起こしている。

 シアが最後だから、しばらくしたら朝になるのかな。

 シアが馬車から降りて、カトレアは毛布にくるまって寝てしまう。

 眠りについたカトレアを起こさないように体を起こし、毛布にくるまったまま馬車から降りる。

 もちろん、くまきゅうを抱いたままだ。


「ユナさん、どうしたんですか?」


 馬車から降りてきたわたしに気づいたシアが小さな声で尋ねてくる。


「1人で見張りもせずに寝ているのもあれだからね。付き合うよ」


 シアの隣に座る。


「ありがとうございます」


 シアがお礼を言って体を少し震わせて焚き火に手を当てる。


「寒い?」

「少しだけ」


 まだ、日も昇っていないから肌寒いのかな。

 その辺はクマの服のせいで分からないんだよね。

 それに毛布の中には温かい物が抱きついている。


「シア、温かいもの貸してあげようか?」

「温かいものですか?」


 わたしは毛布の中からくまきゅうを見せる。


「く、くまさん!」

「温かいよ」


 くまきゅうを差し出す。くまきゅうは『なに?』って感じで小さく首を傾げる。


「くまきゅう、シアを温めてあげて」

「いいのですか?」


 そう言いながらも手を伸ばしてくるシア。くまきゅうは小さく鳴き、シアに抱きつく。

 シアはくまきゅうを毛布の中に入れる。


「温かいです。ユナさん、ありがとうございます」


 くまきゅうを抱きしめながら嬉しそうにする。


「でも、なんで小さいんですか?」

「召喚獣だから、小さくできるのよ。まあ、詳しいことを聞かれても答えられないけどね」

「でも、温かくて気持ちいいです。眠くなりそうです」


 目を閉じて気持ち良さそうにしている。


「寝ちゃダメよ」

「はい。でも、これでノアに自慢ができます」

「自慢って…………」

「だって、ノア。クマさんと一緒に寝たことを自慢してくるんですよ。それは嬉しそうに話してくるんですよ。悔しいじゃないですか」


 姉妹揃ってなにを争っているんだか。

 それから、しばらくすると日が昇ってきたので、皆を起こすことにする。

 それはくまきゅうとの別れを意味する。


「くまきゅう、ありがとうね」


 シアは名残惜しそうにくまきゅうを返してくれる。

 全員が起きると、簡単な朝食を食べ、村に向けて出発をする。

 男子が運転をして、女子は荷台に乗っている。

 くまゆるたちのおかげで移動しているときは感じなかったけど、暇だね。なにもすることもなく、ただ馬車に揺られるだけの移動。遊び道具でもあれば暇つぶしになったかな。旅行なら、トランプやオセロが定番だけど。それぐらいなら、馬車の中でもできるかな?

 馬車が小さな石に乗り上げて揺れる。オセロはマグネット付きじゃないと無理かも。

 トランプなら、手に持つから平気かな。

 無い物ねだりをしても仕方ないので、護衛の仕事をするために、探知魔法を使って周辺を調べる。

 うん? 馬車が進む方向にゴブリンが二匹いることに気づく。

 このまま進めば、間違いなく遭遇する。

 この場合ってどうしたらいいのかな?

 教えるべきか、教えないべきか。

 ゴブリン二匹程度なら、危険はないと思うし。

 ムムムムム!


「ユナさん、どうかしましたか?」


 悩んでいるとシアが声をかけてくる。

 話しても良いものか?

 悩んでも答えが出ないので話すことにする。


「この先にゴブリンが2匹いるみたいだけど。みんなに話していいものなのかなと思って」

「ゴブリンですか?」

「それは本当ですの?」

「実習訓練だから、教えていいのか分からなくて」


 素直に答える。

 わたしは教師でもなんでもないから、微妙な魔物が出てこられても分からない。

 これがオークとか倒せない魔物なら教えるけど。


「どうして、そんなことが分かるのでして?」


 カトレアが当たり前のことを聞いてくる。

 そうだよね。フィナみたいに信じてくれるお年頃じゃないよね。

 フィナなら100%信じてくれるけど。

 二人に上手く説明ができないので、困ったときは、くまゆるたちの出番だ。

 こぐま化したくまゆるとくまきゅうを召喚する。


「な、なんですの!」

「わたしの召喚獣。この子たちが魔物を教えてくれたの」

「召喚獣…………」


 カトレアは目の前にいきなり現れたくまゆるたちに驚いている。


「ユナさん、本当なんですか?」

「このまま進めばゴブリンが2匹いるよ」

「マリクス、馬車を止めて!」


 シアはわたしとくまゆるたちを信じてくれたのか、運転しているマリクスに向かって叫ぶ。

 シアの声に驚いてマリクスが馬車を止める。


「なんだ! なにかあったのか!?」

「この先にゴブリンがいるみたいなの」

「はぁ? なにを言っているんだ。ゴブリンなんて見えないぞ」


 マリクスは前方を見て、シアの言葉に呆れたような顔をする。

 いきなり、そんなことを言われれば、そんな顔をするよね。


「でも、ユナさんが、この先にゴブリンが2匹いるって」

「なんで、馬車の中にいるクマが、ここから見えないゴブリンのことが分かるんだよ」


 それはごもっともな意見です。


「それはユナさんのクマが」

「クマ? なんのことだ」


 いきなり、そんなことを話されてもマリクスも意味が分からないだろう。

 シア自身もどうやって説明をしていいか分からないため、口を閉じてしまう。

 だから、わたしがシアをフォローをする。


「分かる理由はこの子たちのおかげよ」


 小さなくまゆるとくまきゅうを見せる。


「なんだそれは!」

「わたしの召喚獣。この子たちがこの先に魔物がいるって教えてくれたの」


 嘘は言っていない。

 魔物のことは探知魔法で知ったけど、この子たちも魔物の位置は分かる。


「だから、馬車の中にいても魔物がいることが分かるわけ」

「そんなことが…………」

「分かる。信じられないなら行けば分かるよ。それよりも、このまま進んでゴブリンがいたときどうする? 倒せないようならわたしが倒すけど」

「ふ、ふざけるな。ゴブリンの2匹ぐらい。俺たちで倒せる。ティモル! 馬車を進ませるぞ」


 俺1人、とは言わないんだね。

 マリクスは馬車を進ませる。


「ユナさん、クマさんにそんな力があったんですね」

「まあね。それで、2人はゴブリンは倒せるの?」

「はい、大丈夫です」

「ゴブリンぐらい、倒せますわ」


 2人は心強いことを言ってくれる。

 今回は見ているだけでいいかな。

 実習訓練だし。


「それよりもユナさん、そのクマが召喚獣って本当ですの?」


 カトレアがくまゆるたちを見る。


「目の前で召喚したでしょう」

「触らせてもらっても、よろしいですか?」


 わたしが許可を出すと、恐る恐る、手を差し出し、くまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。


「大人しいですね」

「まあ、危害を与えなければね」

「熊は怖いものと思っていましたが、かわいいですね」

 

 くまゆるたちは目を細めて気持ち良さそうにしている。

 カトレアがくまゆるの頭を撫でていると、運転席から声があがる。


「マリクス、あれ」


 ティモルの声で全員が前方を見る。その先には2つの影が見えた。馬車を進ませると、それがゴブリンだということが分かった。

 マリクスが馬車を止めて、信じられないようにゴブリンを見つめている。

 もちろん、ゴブリンも馬車の存在に気付く。ゴブリンがこちらを見る。2匹とも手には武器を持っている。


「マリクス! どうするの!」


 シアの言葉でマリクスが我に返る。


「俺とティモルが右、シアとカトレアは左を頼む。クマは馬車を頼む」


 マリクスが指示を出してティモルと運転席から飛び出す。


「ユナさん、行ってきます」

 

 カトレアとシアもゴブリンに向かう。

 わたしは馬車を運転できないのに運転席で手綱を持っている。

 これって一番不安がある場所ってわたしのところじゃない?

 なにかの弾みで馬車が動き出したら止められないんだけど。まして、馬が暴走したらと考えるとゴブリンと戦うよりも恐いんだけど。

 なんだろう。ゴブリンの群れの中にいるよりも1人で馬車の運転席にいる方が不安になる。

 馬が勝手に動き出さないように願いながら、4人の戦いを見守る。




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