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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、いろいろ作る
115/904

111 クマさん、従業員ゲットする

 トンネルを抜けると、木が伐採され、遠くに蒼い海が見えた。こちら側のトンネル付近の伐採は終わり、平地が広がっている。その中に、建物が一軒建っている。


「あれが海?」

「うみ?」


 二人は遠くに見える蒼い海を見ている。

 天気も良く、晴れ渡っている。

 晴れていて良かった。初めて見る海が、空がどんより黒く、雨が降り、風が強く、波は荒れ狂った海だったら、トラウマになるかもしれない。

 三人で綺麗な海を見ていると、声をかけられた。


「クマの嬢ちゃんか?」


 声がする方を見ると、建物がある方から男性が歩いてくる。


「えーと」


 見覚えはありません。


「ミリーラの町のもんだ。いきなり、トンネルから出てくるから驚いたぞ」

「お久しぶりです?」


 首を傾げる。


「俺が一方的に知っているだけだ。だから、気にしないでいいぞ。それで、どうしたんだ」

「この子たちに海を見せにね」

「海を見せにか? 海なんか、見て楽しいか? クリモニアの領主様も言っていたが、わざわざ、遠くから海なんか見に来るのか? 俺には分からんな」

「それは毎日海を見ているからですよ。海を見たことがない人には、感動する景色ですよ」

「そんなものか」


 男性は納得してない感じだ。

 綺麗な景色でも、毎日見れば飽きるのかな。


「二人とも、海はどう」

「はい、凄いです!」

「きれいです」

「そうか。そう、言ってもらえると、俺が褒められているようで、嬉しいな。ありがとうな」


 男性と別れ、ゆっくりと町に向けて出発する。

 フィナとシュリの二人はずっとクマの上から海を眺めている。


「少し、寄っていこうか」


 くまゆるたちを砂浜がある方へ進ませる。

 砂浜に来ると二人はくまゆるから降りて、海に向かう。


「大きい」

「これ、全部水ですか?」

「塩水だね」

「塩ですか!」


 二人はゆっくりと海に近づく。


「濡れないように気をつけてね」


 小さな波が二人を襲う。

 ギリギリのところまで来ると、波を手で触れる。


「冷たい」

 

 二人は手に触れた海水を舐める。


「本当にしょっぱいです」

「お姉ちゃん、しょっぱい」


 二人が舌を出しながら戻ってくるので、クマボックスから口直しに水を出してあげる。二人は水を飲むと、また海に向かう。

 このまま遊んでいると、日が沈んでしまうので、二人を呼び寄せる。


「それじゃ、遅くなる前に町に行くよ」


 二人は返事をして戻ってくる。

 わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗り、町を目指す。

 クリモニアの街があるトンネル側同様、ミリーラの町の方も開拓は進んでいる。町までの森林は伐採され、整地もされている。所々に木材が山積みされている。あの材木を使って、建物でも作るのかな?

 さらに進むと見覚えがある壁が見えてくる。

 壁が見えてくるってことは、必然的に中にある物も見えるようになる。

 

「ユナお姉ちゃん……」

「なに?」

「もしかして、ユナお姉ちゃんのおうちですか?」


 壁の中に建つ、クマの建物を見てフィナが問いかける。


「大きなクマさんです」


 シュリがクマハウスを見て喜んでいる。


「よく分かったね」


 当たったから褒めてあげたら、ジト目で見られた。


「ユナ姉ちゃん、クマさんの家で泊まるの?」

「それでもいいけど、美味しい食事を出してくれる宿屋があるから、今日はそっちに泊まるつもりだよ」


 ミリーラの町に到着する。

 くまゆるたちは手袋の中に戻し、門番のところに行く。

 門番は一瞬、驚いた顔をするが中に入れてくれる。

 町の中を歩いていると、あっちこっちから挨拶が飛んでくる。


「ユナお姉ちゃん、大人気です」

「ユナ姉ちゃん、すごい」


 恥ずかしいので、早くデーガさんの宿屋に向かう。

 宿屋に入ると、相変わらずのガラガラの宿屋。

 海も街道も通れるんだから、人がいてもいいはずなんだけど。


「いらっしゃいませ。お泊まりですか……ユナさん!」

「お久しぶり」


 宿屋の一階にいたアンズがわたしを見て驚く。


「ユナさん、どうしたんですか?」

「この子たちに海を見せにと、欲しい食材を手に入れにかな?」


 わたしは後ろにいる二人を紹介する。


「フィナです」

「シュリです」


 二人は小さく頭を下げる。


「可愛い子たちね」

「それで、わたしたち泊まりに来たんだけど、大丈夫?」

「うーん、ユナさんも知っていると思うけど、トンネル付近の開発のために、クリモニアから多くの人がお手伝いに来てくれているの。それで、部屋は満室の状態なの。ユナさんにはお世話になったから、どうにかしてあげたいんだけど」

「そうなの?」


 ガラガラだと思ったけど、みんな仕事に行っているだけだったんだね。


「でも、ユナさん、うちに泊まらなくても、あのクマの家があるんじゃ」

「この子たちにデーガさんの美味しい料理を食べてもらおうと思ったの」

「なら、食事だけでも食べていってください。お父さんに言ってきますから」


 夕飯には少し早い時間帯だけど、食べるには問題はない。


「二人とも、少し早いけど、食べれる?」

「大丈夫です」

「食べれるよ」

「それじゃ、お願い」


 その言葉を聞くと、アンズはデーガさんがいるキッチンに向かう。すると、キッチンから大きな声が聞こえた。


「本当か!」


 デーガさんの声がキッチンからしたと思ったら、大きな足音をたてながらやってくる。


「デーガさん、お久しぶり」

「おお、よく来たな」

「デーガさんの料理を食べに来たよ」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それで、そっちの子たちは?」

「わたしの命の恩人のフィナとその妹のシュリ」

「ユナお姉ちゃん! その紹介は止めてって、前に言ったよね」

「ごめん、ごめん。でも、本当のことでしょう」

「わたしが、命を救われたのに」

「とりあえず、自己紹介をして」

「フィナです。ユナお姉ちゃんに命を救われました」

「妹のシュリです」


 二人は頭を下げる。


「俺はデーガ。この宿屋の主人だ」

「それで、お父さん。ユナさんに食事の準備をしてくれないかな。泊まりに来たんだけど、部屋がないから、せめてお父さんの料理だけでもと思って」

「そうか、満室か。それはすまないな」


 デーガさんは悪くもないのに謝罪する。


「泊まるところならあるから、気にしないで大丈夫だよ」

「その代わり、美味しい料理を作ってやるから、座って待っててくれ」

「お父さん、わたしも手伝うよ」

「おまえは嬢ちゃんに話すことがあるだろう。自分でしっかり、話すんだぞ」


 デーガさんはアンズをおいてキッチンに向かってしまう。

 アンズがわたしに話がある件は一つしかない。


「あのね。ユナさん」

「なに?」

「こないだのお店の件だけど。本当なんだよね」

「うん、冗談でも、嘘でもないよ」

「わたし、引き受けようと思う。だから、ユナさん、迷惑をかけるかもしれないけど、よろしくお願いします」


 頭を下げるアンズ。


「こちらこそ、よろしくね」

「はい!」


 嬉しそうに返事をする。


「それで、ユナさん。クリモニアに行くのに一つお願いがあるんですが」


 言い難そうに目線を下げる。


「なに? できることなら聞くけど」

「ユナさん。盗賊に捕まっていた女性たちのことを覚えていますか?」


 覚えている。救いだしたあと、言葉一つかけることができなかった。親族を殺され、愛する者を失い。さらに自分たちも酷い目に遭った女性たち。


「その女性たちもお店で一緒に働いてもらうことはできませんか。わたし一人じゃ大変だし。みんな、この町で育っていますから、魚も捌けるから、お店のお手伝いもできます。それにわたしも一人で行くよりも、知り合いがいた方が嬉しいし……」


 だんだんと声が小さくなってくる。

 自分が無理なことを言っていると思っているのだろう。

 従業員を一人と、プラスαでは賃金の件や、いろいろと問題が出てくる。親が宿屋経営をしているから分かるんだろう。

 でも、そんな小さいことを気にするわたしではない。


「でも、どうして?」

「ユナさんも知っていると思いますが、みんな、家族を失っています。この町に暮らしていても悲しいことを思い出してしまいます。だから、この町を出ていきたいと思っても、他の街に行く知り合いも、お金も、仕事もありません。それで、わたしがクリモニアの街に行くことが知られて、頼まれたんです」


 そんな理由があるなら、断る理由はない。


「いいよ。何人いるの?」

「いいんですか!?」

「いいよ。わたしも、アンズ一人だけじゃ大変だと思っていたし。もちろん、手伝いは付けるつもりだったけど。魚介類についてなにも知らないから、一から教えることになる。そうすると、アンズに負担がかかると思っていたから、魚を捌ける人が来てもらえるなら、わたしも助かるよ」

「ありがとうございます。人数は6人です」

「6人ね」


 意外と多い。

 それなら、料理教室もできるかな。


「多いですか?」

「大丈夫よ。ただ、もしかすると違う仕事をしてもらうかもしれないけど」

「違う仕事ですか?」

「アンズに料理の責任者になってもらうつもりだけど。だから、別の人にお金の管理、食材の管理をしてもらうつもり。一人じゃ大変でしょう」

「そうですね。お金の管理や仕入れの仕事があるんですよね。お金はお父さんが、食材はお兄ちゃんが捕ってきた魚を、調理してましたけど、これからは自分でやらないといけないんですね」

「もちろん、始めは手伝うけど、最終的にはアンズたちでやってほしいから。まあ、クリモニアには仕入れのプロがいるから、その人に聞けば大丈夫だから」

「はい」

「あと、子供好きがいれば、孤児院の面倒も見て欲しいし。もちろん、ローテーションでやってもらってもいいし。だから、そのことを了承してくれれば大丈夫よ」

「ありがとうございます。伝えておきます」


 アンズは嬉しそうにお礼を言う。

 それから、アンズから町の状況を聞いたりしていると、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。デーガさんが、料理を運んでくる。


「またせたな。アンズも話したみたいだな」

「娘さん、貰っていくね」


 わたしが冗談で言うと、


「おお、持っていけ! ついでに調理ができる婿でも見つけてくれ」

「お、お父さん!」


 アンズが真っ赤な顔をしてデーガさんを叩く。

 この町に恋人はいないのかな。いたら可哀想だったけど、今の話からするといないみたいだね。

 





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― 新着の感想 ―
[一言] 一般人が他の町等の知らない土地へ行く事は時代背景的に無いのが普通ですね。  商売をしている者か貴族が領地を得て移住する以外にも兵士等の軍人が戦争等で移動する以外保々生まれ育った土地から離れる…
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