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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、いろいろ作る
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104 クマさん、ホットケーキを食べる

 クリモニアに帰ってきて数日が過ぎた。

 ミレーヌさんとクリフは忙しそうに動き回っている。冒険者ギルドと連携をとって、トンネルの周辺の魔物を討伐したり、トンネルまでの道を整地したり。トンネルの魔石の取り付け作業。その魔石の仕入れ。そして、先日クリフは王都に旅立った。最後に見た顔は疲れ切った顔をしていたが、わたしのせいではないはず。きっと、トンネル名を『ベアートンネル』にしたから罰が当たったんだと思う。

 まあ、クリフのことは気にしない。わたしはお腹が空いたので、くまさんの憩いの店に向かう。


 店に行くとデフォルメされたクマが出迎えてくれる。最近ではこのクマが街で話題になっていると言う。やっぱり、この世界だとデフォルメって存在しないんだね。

 わたしが店を見ている間もお客様が入っていく。相変わらず繁盛しているようだ。モリンさんのパンは美味しいからね。

 最近ではモリンさんとわたしの共同で作ったハチミツがたっぷり掛かったホットケーキが人気がある。まあ、材料的に日本にあるホットケーキには負けるが、十分に美味しいと思うほどの味にはなっている。

 わたしの今日の目的もホットケーキを食べることなのだ。

 店の中に入ると小さなクマたちが動き回っている。わたしに気付いた子供たちが近づいてくるが、気にしないで仕事をするように言う。

 子供たちは頷いて仕事に戻っていく。

 その後ろ姿はクマの尻尾が左右に揺れて可愛い。やっぱり、こんな服はわたしみたいな大人の女性が着ても似合わないよね。着るなら先ほどの小さな女の子の方が似合っている。


 でも、最近困ったことが起きている。

 先日、わたしが街を歩いていると、クマの制服を着た孤児院の子が普通に街の中を歩いているのを見かけたのだ。

 ティルミナさんに確認をとったら、休日の日でも着ている子がいるそうだ。その人数が徐々に増えつつあると言う。わたしは急いでお金を渡して私服を買うように指示を出したら。『店の宣伝になるからいいんじゃない』と言い出す始末。

 流石に着ぐるみをこの世界で流行らせるのは人類には早すぎる。

 ティルミナさんには頭を下げてお願いしたけど、どうなるか分からない。

『みんな、ユナちゃんのことが好きだから、真似をしたいのよ。だから、好きにさせてあげればいいのに』

 と言うがこの一線だけは越えては駄目だと、わたしの直感が言っている。越えたら着ぐるみが世界に広まる光景が目に浮かぶ。

 そんな会話をティルミナさんとしたのを思い出す。



 奥のキッチンに向かおうと歩いていると、見知った人物が食事をしていた。


「ルリーナさん」


 ルリーナさんが一人でホットケーキを食べている姿がある。


「ユナちゃん。久しぶりね」

「ルリーナさん、仕事は?」


 わたしはルリーナさんの空いている正面の席に座る。


「昨日、仕事を終えて帰ってきたばかりよ。だから、しばらくは休みの予定。ユナちゃんはどうしたの?」

「わたしも食べに来たんだけど」


 近くを通りかかったクマの格好をした女の子を捕まえ、ホットケーキとフライドポテトを頼む。本当はカウンターで注文をしないといけないんだけど。経営者特権だ。


「ユナちゃん、一つ聞きたいんだけどいい?」

「なんですか?」

「あの、ベアートンネルってユナちゃんが関係しているの?」

「……なんで」


 動揺する心臓を落ち着かせる。


「だって、名前もそうだけど、トンネルの前にあるクマの石像って、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんでしょう」

「見たの?」

「さっき、仕事をしてたって言ったでしょう。ベアートンネル付近の魔物討伐をしていたのよ」


 ああ、クリフが言っていた魔物討伐か、ルリーナさんも参加していたのか。

 それなら、あのクマの石像も見られても仕方ない。


「黙っておいてね」

「それはいいけど。知っている人が見れば、すぐに気付かれるよ」


 そもそも、くまゆるとくまきゅうを知っている人はどのくらいいるのかな。

 遠くから見た人は多そうだけど、近くで見たわけじゃないから、あの石像がくまゆるとくまきゅうとは思わないよね。

 そう願いたい。

 そんな、話をしていると、先ほど注文したハチミツたっぷりのホットケーキとフライドポテトが運ばれてくる。


「ありがとうね」


 わたしは運んできてくれた女の子にお礼を言う。女の子は嬉しそうに笑い、仕事に戻っていく。

 目の前には出来立てのホットケーキとフライドポテトが並ぶ。


「でも、本当にここの食べ物は美味しいよね」


 ルリーナさんがわたしのフライドポテトに手を伸ばすが、注意はしない。先ほどのお願いもある。無くなれば注文をすればいいだけだ。

 ハチミツが掛かったホットケーキを食べ、至福のひと時を楽しんでいると、ティルミナさんがこちらにやってくるのが見えた。


「ああ、ユナちゃんが本当にいた!」


 いたらいけないの?


「良かった~。ちょっと、相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど」

「なにかあったの?」

「店のことでね」


 ティルミナさんは回りを見る。


「ここじゃ、話せないこと?」

「うーん、そうじゃないけど」


 どうしようか悩んでいる。


「それじゃ、奥に行くよ」

「ルリーナさん、ポテトあげますから、黙っておいてくださいね」


 ポテトを置いて、食べかけのホットケーキだけを持って奥の部屋に向かう。

 奥の休憩室に入り、話を聞くことにする。


「今、ユナちゃんが食べているホットケーキが店で出せなくなりそうなの」


 わたしは口に運ぼうとしたホットケーキの手を止める。


「今、ハチミツの価格が高騰しているの」

「ハチミツがどうして?」


 ホットケーキにはハチミツが必要だ。

 まあ、ジャムなどでもいいが、ホットケーキに乗せるのはハチミツは譲れない。


「まあ、理由は簡単なんだけど。ハチミツが手に入らなくなったみたいなの。だから、価格が上がっているのよ」

「ハチミツが手に入らなくなった理由は?」

「仕入れ先が言うには魔物が現れたみたいなことを言ってたね」


 蜂の巣の近くに、黄色のクマでも現れたかな?


「だから、このまま高騰すると仕入れることができなくなるから、ホットケーキ、ハチミツを使った他の食べ物も店頭から無くなるわ」

「それで、わたしに魔物を倒してきてほしいってこと?」

「違うわよ。わたしはお店の話をしているのよ。魔物退治なら、冒険者ギルドに依頼は出ているでしょう。ユナちゃんはお店のオーナーなんだから、お店のことを考えないと」


 だから、魔物を倒してハチミツを手に入れてくるものとばかりと。考え方が脳筋に傾いている。少しは考えないと危ない。


「ハチミツ関係の商品を一時的に止めるか。ハチミツの価格に合わせて商品の価格を上げるかよ」

「価格を上げて売れるの?」

「数は減るけど売れると思うわ。でも、ハチミツを使った食べ物は子供たちに人気があるから価格は上げたくないの」

「つまり、どうしろと」

「だから、相談をしているのよ」


 ごもっともで。

 つまりは販売を止める。赤字覚悟で売り続ける。ハチミツに合わせて価格を上げるの三択になる。


「モリンさんはなんて?」

「お金のことは面倒だから、わたしに任せるって」


 モリンさんらしい理由だ。


「ただ、入荷が無いようだったら、メニューを変更するから早めに言ってほしいって」

「うちの在庫は?」

「売れ行きの状態から、あと二、三日かな。だから、悩んでいるの」


 うーん、どうしたものか。

 少しぐらいの赤字だったら、気にしないから買ってもいいんだけど。


「ちなみに人気はあるんだよね」

「うちの店の食べ物は全て人気があるわよ。だから、ハチミツ関係の商品が無くなっても、全体的な売り上げが下がることはないと思うけど、残念がるお客様はいるわね。とくに子供たちが」


 これって、ハチミツの件がどうなっているか次第だよね。


「分かった。これ食べたら商業ギルドに行ってくるよ」


 フォークに刺さっているホットケーキを口に入れる。


「いいの?」

「お店のことは全部ティルミナさんに任せっぱなしだから、たまにはオーナーらしいことしないとね」


 まあ、ミリーラの町から帰ってきてからニート生活が続いている。たまには仕事をしないと、年下の子供たちに、示しがつかなくなる。

 大人としての威厳を保たないといけない。

 そんなわけで、ホットケーキを食べ終えたわたしは、商業ギルドに向かう。




やっぱり、クマにはハチミツネタですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしもユナが黄g     ε=ε=ε=┏(・_・)┛いやぁ~そおじぁなくてよかったねほんとおによかったね(爆
[気になる点] 一線を引くとは、一般的には人との関係において、これ以上立ち入られたくないがために距離をとることやけん制すること。相手との間に線を引いて、自分の領域と他人の領域を明確にするイメージからき…
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