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AGO物語  作者: AGOメンバー
8/26

熱き想い…そして決意! 7

クレセント城…大丈夫か?って心配になるお話です;

― クレの森 ―


 鬱蒼とした森は既に闇夜のように暗いが、転々と落ちる木漏れ日が未だ夜が訪れていない事を語る。

落ちる木漏れ日の角度からも移動してから然程時間は経過していないはずだが、温室育ちの彼女では森の中の移動は歩くだけでもその体力を奪っていく。貴人にしては短く切りそろえた青み掛かった灰色の髪と焦燥を頬に貼りつかせながら彼女は先を急ぐ。

思う様に動かない自分の震える手足を不甲斐く感じ、じわりと涙が出そうになるのを堪える。時折後ろを振り向き張り出した根に足を取られ幾度も手を付き、木々に袖を取られ転がりながらも森の中を彷徨い続ける。


 このままでは城に帰るどころか明日の日の光を見る事が出来ないであろう事を彼女シオンは背後から近付く「ハッハッ」という獣の息遣いに感じていた。


 体力の限界が近い事もあり足が縺れがちとなるが、前方の明りが広がる場所に向かって走り続ける。明るい場所は森の終わりに違いない。

そこまで逃げ切ればあの獣たちも諦めるかもしれないし、助けを呼べるかもしれない。

淡い期待を胸に今更ながら自分の軽率な行動を思い返すと先ほどから我慢していた涙がじわりと出てくる。


脳裏には何処か頼りないが何時も優しい笑顔の騎士、自分だけの騎士の姿があった。



― 城内 ―


 自室から中庭へと通じる扉の影でシオンはキョロキョロと辺りを窺うと大きいな包みをしっかりと脇に抱え、まるで後ろ暗い物取りのように足を忍ばせ外に出ようと足を進ませた。


「よし!…コソコソ」

「あ、あの、シオン様?…コソコソって、聞こえてますよ;」

「えっ?、お、おほほほほ…私としたことが;」


すぐ後ろに控えていたマイが半眼でシオンの行動を訝しむ。

(シオン様てば…タカキ様と居るせいか少し似てきてる? …あの天然って感染するの?!)


かなり失礼な事を思いつつ、当然声にも顔にも出さずにマイは気を取り直し何時ものメイドスマイルで主に問いかける。


「何をなさろうとしておいでですかシオン様?」

「そ、それは…え~っと、そうだ他の皆はどうしたの?」


自分の行動は棚上げし虚空へと瞳を動かすこと数回、何故か他の侍女メイドの動向を確認するシオンにマイは自分たちに何か落ち度があったのかとやや不安になり眉を寄せる。


「今朝、シオン様の言いつけで街に買い出しに出てますが…何か不足分が御座いましたか?」

「…そう」


少し考える素振りをすると、シオンはマイの手を取り潤んだ瞳でお強請りをしはじめる。


「えっと、タカキ様が茸が好きだと聞いてね…これまでのお礼にプレゼントしたくなったの。でね、今日その好物の茸をダットちゃん達と採りに行きたいの。…お、お願いタカキ様が来るまでには帰ってきますから、皆には内緒で…ね?」


 驚きはしたが、子供達と行ける場所等限られるし、門番が居るため城壁の外には出られる訳はないはず。

タカキが訪れる時間まで然程無い事だし、少しは人に慣れ城壁内を冒険したいと思うシオンの気持ちを汲んであげても良いかとマイは思い、シオンの願いを聞き入れる事にした。


「…わかりました。でも、タカキ様が来られる前に必ずお戻り下さいね」

「ありがとうマイ…その、もう一つお願いがあるのだけど…」


 そう言うとシオンは抱えていた大きな袋をマイの前で開けて見せる。

中からは真新しいハンティング用の上下と上等なハーフブーツが顔を覗かせる。最近ロックバーズネストを頻繁に出歩くようになったシオンが自分の趣味である『狐狩り』に連れて行ってほしいと何時せがまれても良いようにと、父であるフォール王が仕立てさせた物だ。


 同じ狩りでもキツネではなくキノコ狩りに着ていくのですか…ちょっとだけ王様が可哀そうな気がしますぅ…どちらにせよシオン様には大冒険ですね。

マイはそう思うと二コリッと微笑み、シオンから袋を受け取ると着替えを手伝うべく隣の部屋に促すのだった。


― now loading(準備中) ―


「では行って参ります」


これまでに無いくらいの笑顔で扉の向こうに消えていくシオンを見送りながら、マイは城の敷地内に茸が生えるような場所があるのかな?と疑問に思いつつ、午後には何も取れず意気消沈して帰ってくるであろう主をどうやって慰めてあげようかと考えながら部屋の掃除に取りかかるのだった。



― 城の北側 城壁付近 ―


 これまでロックバーズ・ネスト等でシオンとの交流が報告された事から、ダットとプレシアはシオンから騎士団への事前連絡があれば城の敷地内に入る事が許される事となっている。

本日は珍しくタカキやラクセルを伴わず入城してきた事から何度となく門番や兵に呼び止められ、ややグッタリとした2人であったがシオンを見つけると元気を取り戻し両手をブンブンと振りながら声を掛けはじめた。


「来た来た。シオン様~こっち~!」

「待たせちゃったかな?」


何時も見る柔らかい装いとは異なり動き易く丈夫そうなシャツとパンツ、踝まで覆う上等なブーツという出で立ちのシオンに飛び付いて答えるプレシア。


「大丈夫、大丈夫。シオン様、何時もと違う格好も可愛い!ね、ダット?」

「あ、うん。じゃぁ行こうか?」

「もぅ!そんな返事じゃ『れでぃ』を喜ばせられないよ。しょうがないな~…シオン様、行こう!」

「ええ」


 3人が北側の城壁に沿って歩いて行くと最近では使われていない古びた建物がポツンと見えてくる。城に住んでいるとはいえシオンの行動範囲は狭く初めて見る建物だった。

見れば屋根はあるものの扉さえ既になく、室内は壁際に今にも朽ちてしまいそうなガラクタが幾つも積み上げられてガランとしている。

「忘れられた小屋」と題名が付きそうなその建物の中にダットとプレシアは躊躇無く入っていく。

城の所有者に一番近いはずのシオンが恐る恐る中に入る様はやや滑稽である。


「ここは…何か色々とありますわね」


 高く積まれたガラクタを前にシオンは誰に聞かせるでもなく呟いたが、その呟きをダットの耳は拾ったようで、いらない情報を披露しはじめる。


「うん、人もめったに来ないしね、タカにぃが必殺技をあみだす為に、ここを使ってるんだ」

「必殺技?」

「うん、タカにぃが男たるもの必殺技一つや二つないと今時女子にモテないからなって…ラクセルにぃは必殺技が無くてもモテてるのにさ~ガセネタじゃないかって何時も思うんだよね」

「「………」」


 自分の言動でやや微妙な空気になった事にも気が付かず、ダットは角にある暖炉のような場所の前で積み上げられたガラクタをどかし始める。


「よっと!…ここの荷物をどけると…ほらっ!」

「えっと…穴?入口?」

「中を通って行くと狭い通路になっていてね、外に出れるんだよ。タカにぃが必殺技の試し打ちで壁が壊れてわかったんだ」

「「………」」

「さぁ、クレの森に行こうぜ」

「はい」

「うん」


 シオンはダット、プレシアに続いて暫く中腰のまま狭い通路を移動する。

通路は所々に小さな縦穴がありその穴から外の光が入る事から真っ暗という訳ではなく、中途半端な姿勢が辛い事を除けば足場も確りとしているため問題なく出口まで歩く事ができた。

出口は直径1.5メートル程の縦穴となっており穴下は水で満たされたいる。

この出口はクレの森にある炭小屋の井戸なのだとダットは自慢げにシオンとプレシアに言うと、外に出るにはこの手すり階段を上っていく必要があるから落ちないように注意して欲しいと、これまた自慢げに手すり階段をポンポンと叩いて見せる。

しっかりと井戸の内壁に設置された金属製の手すり階段は赤い錆が全体に浮いているものの、機能には全く影響がないようで慣れた手つきでダットは登っていく。

そのあとをシオン、プレシアが続き、外へ出ると濃い緑の香りが3人を出迎えた。


「ここがクレの森?」

「うん。ここの少し奥にクレ茸があるんだぜ」

「いっぱい採ろうねシオン様」

「ええ」


 シオンとの遠出が嬉しいのかプレシアは終始ニコニコとしており、つられる形でシオンも自然と笑顔になる。

そんな2人に此処まで連れてきたのは自分だと主張するかのようにダットは足を進めるため2人を急かす。


「早く行こうぜ、日が暮れたら母ちゃんに大目玉喰らっちまうよ」


 そんなダットの言葉にシオンとプレシアはクスクスと笑い合う。

プレシアは「はい!ダットたいちょう!」と騎士団の敬礼のような真似を行ったので、シオンも見よう見まねで敬礼をしてみるが、どちらも様になっていない所が微笑ましい。

ダットの「うむ」とサイガ隊長のモノマネが変に似ていたせいで、2人がまた笑いだし歩みが遅くなるのでダットはややゲンナリとしながら足を進めるのだった。


― クレの森 ―


「ねぇダット~どこにあるのよ~、迷ったんじゃない?」

「そんな事ないんだけどな…」


 森に入ってから随分と進んだはずだが、未だ目当てのクレ茸が見つからない事にプレシアが苦情を言いだしたので、焦るダットはキョロキョロと忙しなく辺りを見渡す。

ダットとプレシアの背丈では起伏の影に隠れ見えていないのだろう場所を指しシオンがダットを促す。


「ん~~、あれ、そうじゃないかしら?」

「ん?!あれだ!、あれだよ!」

「やったねシオン様、ダット」

「お~…すぜぇ、こりゃ~大漁だぁ」


 クレ茸の群生地を前に興奮して舌が回らないダットを余所に、手に持った籠を「はい」と2人に渡す冷静なプレシア。


「…いっぱいありますね♪」

「なんかシオン様嬉しそう」

「べ、べつにお礼がしたいだけで、他意はありません…よ?」

「ふ~ん、なんでシオン様は赤くなってるのでしょう?ね、ダットなんでだろうね?」


 先ほどまでブーブー言っていたプレシアも沢山のクレ茸とシオンの様子を見て機嫌が良くなった事からダットは内心「ほっ」としつつ、「目的の茸狩り忘れんなよっ」と憎まれ口を叩く。


「もぅ~」

「えへへ」

「…タカにぃに見せてやりたいぜ…とにかくいっぱい取って早く帰ろうぜ」

「「は~い」」


…グルルル…ヴゥ~~


「えっ?…なにか言った?」




― クレセント城 ―


「いっちち、急に朝から稽古するって、オヤジは~しかも手加減なしときたよ…」


 今日は午後からシオン様の部屋に行く予定だから午前中は暇だな等と思っていた所、久しぶりにオヤジが稽古を付けてやると、午前中一杯を使って実戦形式の訓練を行ったのだ…結果は惨敗。

まぁ、さすが隊長だわな、俺とラクセルの二人同時の組手なのに一撃も与える事が出来なんだ…はぁ、もっと鍛えないとな…。


 シオンの部屋へと続く扉の前で軽く身嗜みを整えると、稽古で散々やられた情けない自分を見せないよう「よし!」と小さく気合いを入れタカキは扉をノックした。


コンコン

「タカキですシオン様への取次お願いします」


扉奥からは何やら騒がしい感じで侍女達メイドーズの声が微かに聞こえる。


「え~タカキ様、もう来ちゃったじゃない」

「えぇ~でもまだシオン様は戻ってきていないし」

「まさか何かあったのでは?!」

「ここはちゃんと話さなきゃ」


ガチャ

扉の奥から今日担当の侍女達メイドーズの3人マイ、ミィ、マインが出迎える。


「…はい、タカキ様…」

「あれ?あの…シオン様は?」


マイが皆から一歩前に出ると言い辛そうにが口を開く。


「あ、あの…実は…」

「ん?」

「シオン様から内緒だと言われたのですが…タカキ様来るまでには戻ると約束してて…」


言葉尻を取る形でマインがマイを少し睨みながら、やや不機嫌そうに答える。


「まだ戻って来ないのです」

「戻ってないって?」


泣きそうになるのを抑えながら、鼻声気味ではあるがマイは事情を正確に伝えようと再び口を開く。


「タカキ様が茸が好きだから子供達と三人で採りに行くと…あの子達も一緒だし城からは出られないので直ぐに戻ってくると思ったのでつい了承してしまい…まさか…」

「…いや、そのまさかですよ!」

「その、タカキ様の好きな茸は?」

「クレ茸です…という事は3人はクレの森に行ってるはず…今から森に行くのでマイ達は事情を話して隊長とラクセルに連絡をして下さい」

「は、はい」

「お願いします!では!」


タカキはくるりと踵を返すと北側の城壁を目指し走る。


 ダットのことだから、あの隠し通路から外へ出たはず…この時期のクレ森はクレ茸の収穫がしやすく人以外に他の草食動物達もクレ茸を食べるため群がってくる…そしてその動物を狙う狼達も群れをなしてくるため危険な場所だ。今年は特にゴブリンの異常繁殖のため餌となる草食動物の割り当てが減っているので気性が荒くなっているとも聞いた。

だからクレ森はオヤジやラクセルが付き添わないと危険だっていうのに…ダットは三人で行ってるから、こっちも三人で行けば大丈夫くらいに思っていたんだろうな…俺がちゃんと話していればよかった。


 小屋の中を確認すると、暖炉のような場所には積み直したガラクタが綺麗に取り除かれており、ポッカリと入口が顔を覗かせている。


 やっぱりここからか…多分攻められ時に裏から逃げれるように昔に作られたんだろうけど、使えないように確り埋めておくべきだったな。

兎に角三人の無事を確かめるのが先決だな…正門側からはラクセル達がクレ森を捜索してくれるだろうし…よし!俺もこの通路を使ってクレ森に行こう。


狭い通路を急ぎ通り抜け、タカキが炭小屋の井戸から身を出すのと同時に切迫した悲鳴が聞こえてきた。


「きゃぁぁ」

「わぁぁ」


悲鳴の方へと急ぎ駆けつけると、転がりそうになりながらも2匹の狼から必死に逃げようと走るダットとプレシアの姿があった。


ガルルゥ!


「ちぃ!」


タカキは少しでも距離を縮めようと駆け寄るが間に合わないと悟ると、駆けながら無造作に脇の投射用ナイフを三本引き抜きダットにその顎門あぎとを働かせようとした狼に向け全て投射する。


ギャウン!

ダットを追いかけてる狼の左目と胸にナイフが刺さり、狼の顎門あぎとは使命を苦痛の呻きへと変える事となったが、倒れた振動とあまりに近くから聞こえたその声でプレシアが足を取られる。


「あぅ」


後ろを追う様に走ってきたもう一匹の狼が覆い被さる様にプレシアに襲いかかる。


グァウゥ!

「きゃぁ~」


あと一歩!

タカキは何時もより深く間合いを詰めると、鞘走りの勢いをそのまま剣先に伝えるべく抜剣と同時に一閃する。

無我夢中で放った剣先は吸い込まれるかのように飛びがかる狼の首に当たると、その胴と頭を一撃で切り離した。


思いも寄らぬ剣の威力にタカキ自身が驚き、残心を忘れて剣と切られた狼を交互に見てしまう。


この感覚は…いや、今やるべき事は…


「二人共大丈夫か?!」

「「うん」」

「シオン様はどうした?」


プレシアを立たせながら2人にシオンの安否を確認するタカキにダットが俯きながら答える。


「ごめんよタカにぃ…おいら…」

「シオン様とはぐれちゃったの!急いで助けに行ってタカキお兄ちゃん!」


タカキはゴツンとダットの頭を少し強く小突く。


「そんな顔をするな、ダット!お前はプレシアを最後まで守って城まで連れて行くんだ!…安心しろ俺が絶対にシオン様を連れて帰ってくる!」

「…うんおいら頑張るよ、頼むよタカにぃ」

「頑張ってタカキお兄ちゃん!」

「おう!」


タカキは拳を突き上げて2人に応えると、シオン救出のためクレ森の奥へと走りだした。

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