熱き想い…そして決意! 4
やっと投稿できました。
毎日投稿している方、本当に尊敬します。
―シオンの部屋前―
コンコン
ガチャ
「はぁい」
やや気の抜けたような応答で扉から顔を覗かせた侍女のアイは扉向こうの人物を見て一瞬固まるが、直ぐに気を取り戻すと何時もの笑顔で対応する。
「あっ…タカキ様(…なんかボロボロね; 落伍兵みたいなのに笑顔とか、やっぱ変な人だな~) 」
アイの失礼な感想などタカキが気が付くはずもなく、満面の笑み(ややドヤ顔)と共に白い箱を手渡す。
「これをシオン様と君達に、差し入れね。自分は庭にいますのでこれで」
差し出される箱を恭しく受け取るアイの 瞳が丸くなってフリーズしてる。
フフッ驚いてる、頑張った甲斐があるね。シオン様も喜んでくれると良いな。
「早く届けてくれると嬉しいかな」
「はい!ありがとうございます♪ シオン様にお届けしますね」
アイがドアの向こうに消えるのを見届けるとタカキは凝り固まった体を伸ばすと庭へと足を進める。
「さてと時間に余裕があるし、天気も最高…一休みしておくかな」
―シオン姫控えの間―
ニマニマとした笑みを隠しもせず、アイはお茶の準備をしているマイとマインに「どうだ!」とばかりに白い箱を突き出しながら高らかに宣言する。
「今タカキ様がね、シオン様と私達にだって!」
「なんですか?その箱?」
「…きゃぁ~、マイン良く見てください、その箱のロゴ!潮風のタルトですか?!」
「たしかシオン様、すごく食べてみたいって言ってたわね…タカキ様にしてはやるわね」
「すごいでしょ。これはシオン様に完全に惚れているわね!」
「すごぉいです。惚れていますね絶対!」
「マジね!」
「「「あははは」」」
「さっ、早くシオン様の所に行きましょう。ミィもきっと驚くわよ」
三人は予定していたお茶受けを片付けるとタカキからの差し入れと入れ替え、足取り軽くシオンの待つ部屋へと運び入れる。
何故かニコニコ顔で入室する3人を不審がるシオンとミィ。
「何方か見えられたの?」
「はいシオン様、タカキ様から登城の挨拶が御座いました」
「タカキ様がお見えに? 早いですね」
「はい、そのタカキ様からシオン様に差し入れがございまして、私達と一緒にと」
そう言うとアイは茶器とお茶受けの乗ったワゴンがシオンの目に入るよう身体をずらす。
「わかりました。 では一緒に食べましょうか」
「はい♪」
侍女達の流れるようなお茶のセッティングを何時ものようにリラックスして眺め待つシオンの前に今日のお茶受けが並ぶ。
「っ、このタルトは、まさか」
「はい♪、潮風のタルトでございます」
目を丸くしたシオンに自分たちのお茶も準備したアイがニッコリと悪戯が成功した事を誇るかのように答える。
「私が食べてみたいと言っから…気をつかわせてしまったのね」
「ふふっ、タカキ様のご好意に預かりましょう、シオン様」
「そうですね。では、頂きましょう」
「「「いただきまぁす」」」
「はむ」
「ん~~おぃしぃ~~」
頬を抑えて悶える侍女達。
城勤めの者達の中では自分たちが一番初めに噂の超人気のタルトを食する事が出来た高揚感から、何時もに増して舌が滑らかとなり実に姦しい。
「うぅ~~ん、やっぱり人気のタルトは格別ね!」
「本当に幾つでもいけそぉ!」
「あぁ~もぅ自慢したい~…けど女官長の耳に入ったら怒られそうで言えないぃ~くやしぃ~」
「あはは、それにしてもタカキ様に感謝ですね」
「そうですね」
「シオン様は何時食べたいとおっしゃったのですか?」
「え?…昨日ね」
「昨日ですか…昨日ね‥‥‥‥‥‥‥えぇ~~~?!」
「昨日って、シオン様との後だから馬車も出ない時間でしょ?」
「歩いて行ったのね…夜は危険なのに」
「それでボロボロになってたんだ…」
「えっ?アイ、ボロボロって、そんなに酷かったの?」
「ん?服がね。夜道で転んだのかな?怪我はしていないみたい。ニッコニコしてたし」
「ボロボロに、ですか…そんな危ないことを私はさせてしまったのですね…」
アイの言葉にシオンの表情が少し曇ると慌ててフォローする侍女達。
「それだけシオン様のことを気にかけてるってことですよ!」
「ステキですわ…ラクセル様には及びませんが(小声)」
「それだけシオン様の事を大事に思っているんですよ!」
メイドーズの言葉にフォークを口に銜えたまま頬を桃色に染めて固まるシオン。コーウェン女官長あたりから「姫様!はしたのう御座います!」と目くじら立てられそうなその仕草はシオンを幼く見せて周囲の者をほっこりさせる。
「タカキ様が…私のことを…タカキ様は?」
「庭にいると仰られていましたよ…えっと、シオン様?」
「お、お礼を言わないと…会いに行きます!」
言うが早いか席を立つと庭へと身を翻す。
たったたたた‥
「タカキ様、タカキ様! あっ、タカキ様」
庭を探すと木陰に腰を下し木に背中を預け休んでいるタカキを見つける。
シオンは3~4メートル手前で止まると、その様子を窺う。
遅れてやってきた侍女達の四人も何故か緊張した雰囲気に呑まれ、恐る恐るといった感じでタカキの様子を窺う。
「スピ~スゥピィ~」
「寝ていますぅ;」
一番タカキに近づいたマイが困ったような嬉しいような微妙な声音で報告すると、シオンはマイの後ろから覗いている三人に意を決した将軍の様に大きくはないが凛とした声で号令をかける。
「ね、寝てる…よし!ブランケットをお願い!」
「…っ、はい!」
三人のうち手に何も持っていなかったミィが弾かれた様に踵を返す。
ちなみに残りの二人であるが、アイは右手にフォーク、左手にスプーンを、マインは食べ掛けのタルトが乗ったままのソーサーを大事そうに持っており、互いの格好を見て可笑しくなったのか肩を小刻みに震わせている。
「お持ちしました!」
「ありがとう…」
「えっシオン様?」
まるで野生の猛獣を狩るハンターのように、出来る限り静かにタカキへと近づくシオン。
「タカキ様にお礼を…タカキ様は怖くない、怖くない…」と何やら呪文のようにブツブツと唱えながら何とか目の前までたどり着くと手に持ったブランケットをタカキに向かって放った。
「…本当にボロボロですね…タカキ様、ありがとうございます。えい!」
バサ
「シオン様が近づいてブランケットを掛けたわ!」
「掛けた。と言うよりは、そのまま落とした?いや投げ付けたって感じですね」
「で、でも、頑張りましたね。恐怖症克服へ一歩前進ですぅ!」
「そうね、あっ」
シオンは小さく礼を言うと「すたたたた」とでも聞こえそうな小走りでその場から離れ、侍女達の居る安全地帯?へと戻っていく。
「ふにゅ、にゅぅ~~」
「寝てしまったか‥‥ ん?これは?」
シオンが掛けた?ブランケットがタカキの顔に掛かっていたので直そうかと近づいたマイはタカキの目線をシオンを促すようにしながら嬉しそうに答える。
「シオン様がお掛けになられたんですよぉ」
「シオン様が?」
タカキが促された方を見やれば”こくり”と頷くシオン。
「シオン様が掛けて‥‥‥克服なされたのですね!!」
「「「「え;」」」」
「シオン様~!」
まさしく疾風迅雷が如くシオンの前にやってきたタカキはその両手でシオンの手を包み込むように握ると満面の笑みで話し出す。
「おめでとうぞざいます! シオン様が恐怖症を克服したからにはこのタカキ、付き人として前にもまして職務に邁進し…「き」…き?」
「…き」
「き??」
「きゃぁぁ~~~~~~!!」
腕を振り払うと一目散に自室へと走るシオンの背を手を握った姿勢のままで見送る事になったタカキ。
「あ、あれ?…;」
「…タカキ様って…」
「だめだこりゃぁ…」