熱き想い…そして決意! 3
初の戦闘シーンに挑戦です;
着任から数日が経ち猫のお蔭もあってかシオン様も少しだけだが自分に慣れてきた感じはするのだが…今だ距離は縮まらないわけで…
カスティーラ殿から言われた通り「付き人」としての働きはただ居るだけで良く、四六時中姫に付いて回る訳でもない。姫のストレスにならないよう午前・午後の決められた短い時間のみの宮仕えだ。それ以外は寝てようが雑談していようが問題にもされない…正直時間を持て余してしまう。
これは結構キツイな~なんて姫様付き侍女達のミィにこぼしたら「タカキ様は姫様と糸念話でお話されているだけ良いんですよ?前の方は私達の取り次ぎ以外では全く会話すらありませんでしたから…」と返された。
それは辛いな…ミーヤが出てこなかったらと思うと背筋に冷たいモノが走るよ。
「何故かタカキ様には糸念話とはいえ姫様から会話をする事も多くなってきているのですから、頑張ってくださいね!…そしてラクセル様を紹介してください」ニコッ
「はい!頑張りますよ!…でも後ろのお願いは要らないんじゃないかな?」
「チッ!…」
今チッ!って舌打ちしたよね?絶対したよね?!
「なんですか?タカキ様?」
人の良さそうな笑みを湛えながらミィは可愛らしくコテッと首を傾げる。
…こ、怖ぇ~メイドさん怖ぇ~よ、マジで;
本日は天候も良いことから中庭にてお茶を楽しむシオン様。そこに同席させてもらっている…これで仕事だって言うんだから役得だよな~。
まぁ同席といってもしっかり糸念話の距離分離れた所なんだけどね。
糸念話はメイドーズが豪華な燭台のような器具に取り付けテーブルに設置してくれたので問題無く俺もお茶を楽しめるのだ。
何でもシオン様がこのところ糸念話とは言え俺との会話を楽しんでいるとフォール王の耳に入ったらしく、この妙に立派な糸念話の筒置き台を急遽職人に造らせたのだそうだ。
でも微妙なんだよね。糸念話は設置しているけどこの距離なら殆どそのまま喋っているのと変わらないんじゃないかな?糸念話要らないよね?
「タカキ様、ここ最近クレセントモールに美味しいスィーツのお店出来だの知ってます?」
「えぇ、知ってますよ。タルトの専門店のタルト・ザ・クレセントですね」
「そうそう。アイ達もあそこのタルトは美味しいって噂してるの…その中でも城の侍女達も食べたことない今凄い人気のタルトが有るんですって…」
「あ~、潮風のタルトですね」
潮風のタルトとは、見た目カスタードクリームだけのシンプルなタルトなのだが、そのカスタードクリームにクレセント大陸近海の海水で作った塩を混ぜることで甘さの後にミネラルを多く含んだ塩味が口の中にふんわりと広がり、甘ったるさを感じさせないさっぱりとした後味が人気のタルトだ。
海の香りをふゎと感じさせるような風味から『潮風のタルト』の名前になったのこと。
食べた人に言わせると、甘いのにさっぱりしているので何個でもいける!なのだそうだ。
「うん、一度食べたいなって…でも私(男性恐怖症心で)街に行けないから…早く克服できたらいいのに」
「大丈夫ですよ、自分とこうやって話も出来るんですから。克服出来ますよ、絶対に!」
「お願いしますね。タカキ様」
にこっ
離れてるけど微笑みも可愛いわぁ。
なんとか元気付けてあげたいよな…よしタルトをプレゼントしよ!
今からだと日も落ちるし、夜は危険で馬車も出ないからなぁ。 う~ん、なんとしても明日には持って行きたいな…よしっ、歩いて行くか!
危険だが近道の旧道を行けば2~3時間ほどでセントモールに着くはず。
なせばなる、なさねば仏と言うしな! この後すぐに出発だぁ!
now loading(準備中)
部屋に戻ると大きめの肩掛け鞄にナイフや松明、火口箱等を詰め込み最後に愛剣を抜剣ししばし刃を眺めるとパチリッと勢い良く鞘に戻した。
「準備OK、さて行くか!」
自身に気を入れると足早に街の外門へと向かった。
-街の外門-
クレセント城下町の外門は一日の終わりが来ても門を閉じたりはしない。出来てより此の方訓練以外でその能力を示した事がない門は、それを誇りとしているかのように悠然とした佇まいをみせている。
とは言え全くの無警戒という訳ではなく、数人の門番が交代で歩哨を務めており今日もそれは実行されている。
今日も何事も無く終りそろそろ交代の時間かな等と歩哨を務める門番がこの後の夕飯に思いを寄せようとした時、足早に門を通ろうとする知人を見つけた。まさかこの時間から外には出ないだろうと思いながらも一応声を掛ける事にした門番は、きっと今日の運勢が悪かったに違いない。
「ん?、タカキ殿どうしました?」
「これからクレセントモールにちょっとね~」
「ちょっとって、えっ?…き、危険ですよ、もう日も落ちますし明日になされた方が良いのでは?…どちらにしてもお一人では危険すぎます」
「大丈夫、男が決めたことだからな」
「え?、いゃ、男が決めると何が大丈夫なんですか?!人の話を聞いて下さいよタカキ殿~とにかく今から出るのは止めてくださいよ、ね、我儘言わないで帰りましょう」 (門番さん涙目である)
「だ・か・ら、男が決めたことだから!」
「ダ・カ・ラはこっちの台詞でしょ!もぉ、この人は‥‥ おっ!」
偶々通りかかった救いの神に気が付いた涙目の門番さんは救援を求めた。
「ラ、ラクセル殿!
「おっ、ラクセル、いいところに」
「ん?こんな所でどうしたんだ?」
「タカキ殿が、この時間にお一人でクレセントモールに行くと言い張るもので…」
「クレセントモールに今からか…一人じゃ危険だな」
「ですよねぇ~」
我が意を得たと気力を取り戻した門番さんは「さぁラクセル殿!止めをお願いします!」とでも言いそうな様子である。
「しゃあない、男が決めたことなんだろ、一緒に付き合ってやるよ」
「恩にきるは、さすがラクセル!」
「はぁ??」
「「そうゆうことで行ってくる!」」
「あ、あ‥あのぉ、先程の話の流れから全く違う流れになってませんか?ラクセル殿、タカキ殿…」
二人の背中に手の平を向けしばし固まる門番さん。
下ろした手と一緒に長い溜息を零す。
「いっちゃったよ二人で…サイガ隊長になんて報告すれば良いんだよぉ。 はぁ、田舎に帰ろうかなぁ」
涙目の門番の溜息など気にも留めずに、二人は少しでも日のあるうちにと道を急ぐ。
「で、なんで、こんな時間にクレセントモールに?」
「ああ、シオン様が潮風のタルトを食べたいなって言ってたからさ、なんとしても食べさせてあげたいなと思った訳さ」
「なるほどね…って今から行っても開いてないぞ?…相変わらず、抜けてるというか後先考えずに行動する奴だなぁ、まぁ確認せず付き合う俺も俺なんだけどねぇ」
「何か言ったか?」
「いや、先を急ごう!」
「あいよ~」
ガサガサ
旧道に入りだいぶ日も傾いてきた時、不意にラクセルが足を止めると姿勢を低くする。
不審に思うもタカキも習うように身を屈め周囲を警戒する。
危険な生物が居たとしてもこの辺じゃ逸れのフォレストウルフくらいだ。しかもこの季節森には獲物となる小動物が多く、態々人間を襲うことは滅多にないはずだけどなぁ…。
「ん?あれは…」
「どうしたラクセル?」
ラクセルの目線を追うと木々に隠れて見づらいが背の低い人型のモンスターが居るようだ。
「ゴブリンだな…2、いゃ3体か…旧道とはいえ此処まで来るって事は結構繁殖したのかもしれないな」
「あれがゴブリンか…で、どうする?」
「気が付かれて仲間を呼びに行かれると面倒だ。今なら奇襲出来そうだし倒していこう」
「了解。ラクセルと違って実戦経験少ないからな、ドキドキするわ」
気が付かれないよう身を屈め、風下を意識しながらゴブリンにゆっくりと近づいてくと、彼らの話声?が聞こえてくる。
「ゴブゴブ」
ゎぉ本当にゴブゴブ言ってるよ!
亜人種は独自の言語あるのは知ってたけど、まさか言語を覚えてないと本当に種族名の一部に聞こえるのか。
って事は、コボルトだとコボコボか…まてよエルフやドワーフ、ホビット達は普段は共通語で話しているが種族語だと、エルエル、ドワドワでホビットなんかホビホビに聞こえるのかホビホビ………ホビッ!
なんか笑えるW。
バキッ
わぉ!妄想のおかげで足が疎かになってたよ!枯れ木を思い切り踏み砕いてしまった;
あちゃ~ゴブリン達こっちに来ちゃうよ。まいったね。
「タカキ!何ニタニタしてるんだ来るぞ!」
「おほ! すまん、ちょっと妄想笑いを;」
「妄想笑いってなんだよ!てか何妄想してたんだよ! もう行くぞ!タカキ」
「あいよ!」
シャコ(剣を抜く音)
「「てぇりゃぁぁ!」」
「ゴブ~!」
「ちっ!不味い。タカキ奥に行こうとする奴を頼む!仲間を呼ばれたら面倒だ、残りは俺が引受ける!」
「任せろ!」
茨のような植物の合間を縫うように逃げるゴブリンを必死に追う。
中々追いつけず正面に戦闘してもいないのに棘の付いた枝のせいで体中傷だらけだよ!くそっ!
「うぉっ?!」
焦りのせいか、騎士服の肩章が強く枝に引掛り大きく体勢が崩れ、左手を地に付けると今まで逃げてばかりいたゴブリンが好機とばかりにショートソードを閃かせる。
「こなくそっ!」
無理やり右手の剣で払うも、足場が柔らかいせいで踏ん張りが効かずそのまま払った剣の方向へと倒れ込んでしまう。
ゴブリンが攻撃してくる気配から逃れるように、そのまま横転すると剣を前と突き出す。
狙いなど当然付けていない。本能のままの突きだ。
一瞬の静寂と何かを貫く感触。後から耳朶を震わす絞り出すような声。突きはカウンターとなってゴブリンの胸に剣を生やした。
「はぁ、はぁ」
剣を引き抜くとドサリと転がるゴブリン。その顔は目が見開かれ驚愕の表情を残したままだ。
「俺も驚いてるよ…随分と奥に来ち待ったな。さて、ラクセルと合流するか」
旧道に出るとラクセルが片手を上げて小走りで迎えに来た。随分心配を掛けたようだ。
「なんとか倒したようだね」
「ああ、一匹でも結構きつかったわ。ほんとラクセルが一緒でよかったわ」
「タカキは実戦経験少ないからな。結構森っていうのは戦い辛い地形だしね」
「そうだな、もっと精進しなければ」
「そうそう、精進して愛しいシオン様を守らないとな、タカキ」
ニヤニヤ
「そうだよな強くなってシオン様を守らないと…」
あれぇ? 素直すぎ…定番だと照れて怒るはずなのになぁ。
お約束しないタカキって…どうなのさ…などと結構酷い事をイケメンスマイルの下で展開しているラクセルは「まぁいいか…先を急ごう」と自己完結すると先を急ぐことにした。
「もう日が落ちる。松明いいか?」
「あぁ、そうだな」
手際良く火口箱で火種を作り松明を灯す。
薄暗いとはいえまだ日が落ちていなかったという事は、先の戦闘では然程時間は掛かっていなかったようだ。
明りを確保すると二人は再びクレセントモールに向け旧道を進む。
暫し歩を進めると光を放つ尖塔が目に入る。
クレセントモールの灯台だ。
「そろそろクレセントモールに着くなタカキ」
「ここまで来れば大丈夫やね」
自然と笑みを交わすと二人はさらに足を速めた。
―クレセントモール―
「ふぅ、なんとか着いたな」
「ん?気が付かなかったが結構ボロボロだな大丈夫かタカキ?」
「ああ、大丈夫だ!さぁ並びに行くか」
『タルト・ザ・クレセント』は店全体が白を基調とした何処か可愛らしい雰囲気の店だ。
あおの可愛らしい店の目の前に、夜中騎士服姿の男二人が佇むのは些か異様である。
しかしそんな事を気にしないタカキは幾分満足げな顔つきである。
「ふぅ、一番乗りじゃん!開店までどれくらいかな?」
「…約10時間だね。てか、今は夜中だね」
「おほ!、10時間ですか…気長に待ちますか」
「待つんだ、此処で…」
「ん?」
「いや、やっぱタカキだよな。はぁ」
「ん??」
チュンチュン
クレセントモールの街も活動を開始する頃『タルト・ザ・クレセント』本日一番乗りのお二人には辛い時間となりました。現場実況中のタカキです。
通りを過ぎる街の住人から奇異の目で見られ、ちょっとした晒し者です。危ない性癖に目覚めそうです。
今も年頃のお嬢様がたから熱い視線と胸熱くするお言葉を絶賛貰いまくりですよハイ。
「えぇ~今から並んでるぅ」
「やだぁ」
「あははは」
「「う~;」」
その後なんだかんだで無事に『潮風のタルト』を購入し、急ぎ帰りの馬車に乗り込むと御者を急かして最短でクレセントに戻ってこれた。
ラクセルにこの後の予定を聞くと非番のようで、帰って寝るそうだ。
羨ましくなんて無いぞ! 俺は此れからシオン様のところへ行くんだから。
手に持った『潮風のタルト』の重みが誇らしく、足早に王城へと向かうのだった。
前二話含め誤字修正したけど…まだ有るみたい;
気が付いたら教えてください。