第二章 食材と思い出と
第二章最終話となります。
第三章あります…まだ続きます;
ミール達が急ぎ戻るとタカキがミノタウロスと向かい合っているのが見えた。
ミノタウロスは、今にもタカキに襲い掛かろうという状況に対し、タカキは腰の刀をいつでも抜刀出来るよう傾け右手を柄に添えて踏み込む構えを取って対峙していた。
メンバーは急いで援護に行かなければならない状況であるのに、その場から発せられる『何か』に、言葉すら発する事も出来ず動けなくなっていた。
ミノタウロスは鉄の塊とも言えるダブルブレイドの戦斧を軽々と振り上げると轟々と吠えながらタカキに襲いかかる!
「Buvoooooooo!!!」
ミノォ~じゃないのかよ! 何で吠えてんのさ!!
あっ、言葉じゃないから『ミノ~』って聞こえないのか、なるほど…ってそんな事考えてる場合じゃないでしょうが!
防御を一切考えていない荒々しい一撃がタカキの頭目掛け振り下ろされる。
その凄まじい一撃をタカキは冷静に(妄想してたけど)かわすと瞬時に踏み込みを掛けようとする…が、ミノタウロスの影から剣呑な穂先が視界の端に引っ掛かると見るや半歩身を反らす。
予定調和のごとき動きで影から繰り出されるコボルトの槍をかわすものの、次の瞬間タカキの右肩口から鮮血がほとばしる。
見れば振り下ろした戦斧を袈裟がけに振り下ろそうと両の手で構え直すミノタウルス。
次は必ず遣るとばかりにその目を真っ赤に血走らせ吠える。
肩口への攻撃は振り下ろした戦斧を、まさに化け物の膂力で一瞬のうちに切り返した一撃だ。
痛って…腕は問題無く動く。
…浅いな、師匠と同じで相手は化け物だったの忘れてたよ。
此れまで幾人もの冒険者を喰らって来た連中だ一筋縄ではいかないだろうに…油断したか、全く情けないなオレは。
「「タカキ!!」」
タカキの負傷で我に帰ったメンバーだが、位置的に援護し辛く下手に手を出してしまうとタカキの足を引っ張りかねないため躊躇してしまう。
「浅い!手出し無用だ。次で決める!」
「なにいっ「BuVooooooooooooooo!!!」」
目を充血させ口の端には涎を垂らし狂ったように叫びながらミノタウルスが戦斧をその膂力を十分に乗せ振り下ろす。
タカキは先程の動きとは異なり『かわす』のではなくコボルトからはミノタウルスが壁になるように懐へともぐり込むと…一閃。
【斬月】
メンバーからは素早く刀を抜いてすれ違った様にしか見えなかったが、タカキは決着が付いたとばかりに刀を勢い良く振り刀身に付いた血を飛ばすと納刀してしまう。
― チン ―
「不知火流 居合いの型 斬月…」
「ミ、ミノ?…」
攻撃を仕掛けたミノタウロスが慌ててタカキの方へ振り向くが同時に上半身と下半身が離れ崩れ落ちると、どしゃりと重く湿った音が洞窟内に響き渡った。
一瞬の出来事に呆気に取られるコボルトとパーティーメンバーに、タカキは気の抜けた笑顔で頼みごとをする。
「ふぅ…ディオーネ、コボルトにスリープたのむわ」
タカキが声を掛けたことで、我に返るディオーネ。
正直なところコボルトの事など頭に残っていなかったので少々慌てて応える。
「お、OK。午睡誘うスプライトの囁き、夢見るは新緑揺らす薫風か…眠れコボルト達! スリープ!」
「コボ?!コボー…」
「寝たな…で、こいつ等どうするんだ?」
ルージュがコボルトにスリープが効いている事を確かめながらタカキへ如何するのかを訊いたが、帰ってきた言葉はコボルトをロープに縛り始めたシースからだった。
「縛って生け捕りにした方が報酬も上がるんだぜ、後はミノタウロスの首を持って行って見せれば、ギルドの手違いって事でさらに報酬アップっと、だろ?…タカキ?」
「そう言う事だね、よっと!」
そう言うと、手慣れた感じでミノタウロスの首を切り落とす。
それを見ていたディオーネは『タカキって何時もは頼りなくって人の3倍以上抜けている感じだけど、戦いに関しては上級者なんだな~』と、かなり可笑しな感じではあるが感心していた。
「後はどうすればいい?」
「ん~、そうだ皆ミノタウロスの肉食べる?」
「「「「「はい?!」」」」
「うむ」
「身がしっかりして脂も丁度いい塩梅でさ、どの高級牛よりも美味しいんだ」
「いやでも見た目がさ、なぁ?」
「美味しい物は見た目じゃないのだよ、わかる?」
「「タカキ…なんかめんどくさい(わね)…」」
上から目線で薀蓄垂れそうな勢いのタカキに、半眼になって異口同音女性陣。
「えっと…まぁ、食べてみればわかるさ。外で待っててよ、ちゃっちゃとさばくから」
「あいよ」
「うむ…タカキこれを貰って良いか?」
そう言ってアランはミノタウロスが持っていたバトルアックスを手にした。
良く見ればそのバトルアックスは薄っすらと綺麗な紋様が施されており、なかなかの一品のようだ。
「良いんじゃない? 斧使うのアランしか居ないし。結構良い物なの?」
「うむ…地金はクレセントタイトだな…バランスも良い。ミノタウロスが何故これほどの物を所持していたのかは疑問だがな」
「ここの冒険者の遺留品かなんかじゃないか?」
「…ふむ、かもな」
「んじゃタカキ、外で準備して待ってるからね。お肉よろしく~」
「ああ」
コボルトをルージュとアランが担ぐと、証拠のミノタウロスの首はブーブーと文句を言いながらミールが自分のバックの中に入れ「よっこいしょっと」年寄りじみた掛け声とともに担いで出口へと向かう。
タカキは皆が出口に向かうのを見ると「さて、さばきますか」と一声かけると腰の物を抜く。
「師匠ごめん。月光をこんなんのに使って;…そういえば良くシオンが特訓中に、こいつの肉で料理した弁当を差し入れてくれたんだよな…シオン…」
あの頃を思い出し目頭が熱くなるのを自覚するタカキ。
悲しみと悔しさ、ぐちゃぐちゃになりそうな感情を堪えつつミノタウロスであった肉塊に刃を通して行く。
タカキが採掘場から出ると日はまだ高い所にあり、探索に掛けた時間が半日程度であった事が判る。
メンバーはタカキを待つ間、採掘場がまだ廃坑となっていない時代に使用していたであろう炊事場を利用し昼食の準備に取り掛かっていた。
「さばいてきたよ、準備は出来てるかい?」
「うん、お肉焼ける準備出来てるよ。あれ?タカキ目が凄く赤いよ?」
「洞窟の臭いにやられたかな?あと肩も結構痛いんだよね…ははっ」
「あぁ、そうよねぇ、ちょっとぉ傷口見せてみなさいよぉ傷薬塗って上げるわよ」
横で聞いていたライザが腰のポーチから薬をだす。
言った手前タカキは大人しく塗ってもらう事にするが、こんな事もシオンを思い出す切っ掛けとなり、収まったばかりの目頭の熱が上がり始める。
「うわぁ~タカキ痛そうだね、でも一人でミノタウルスに突っ込んだ罰だからね。今度はちゃんと皆の意見も効いてよね、リーダー?」
「あ、あぁ…うん、わかったよ」
ミールの言葉に頬をカキカキと掻きながら、ばつが悪そうに応えるタカキ。
「しかし本当に旨いのかよタカキ、ドワーフと違ってエルフは繊細なんだから頼むよ」
「うむ、そうだなエルフは軟だからな」
「そう言う言い方をするからドワーフは女性にモテないんだよ」
「うむ、これでもヒゲフェチには人気だぞ」
気を利かせたルージュとアランの何時ものやりとりに、次第に気分が浮上してくるタカキ。
「まずは焼くから一度食べてみてよ。ミノタウロスの焼き肉パーティー始めるよ!」
慣れた手付きで次々と肉を焼きはじめるタカキ。直ぐ横では匂いにやられたのか、今か今かと涎を垂らしそうな程緩んだ笑顔のミールが待機している。
「よし頃合いだよ!皆準備して…では、全ての○材に感謝して…頂きます(いいのかネタパクって;)」
ミノタウロスの肉を口にする一同。
「ん~ おいひぃ~」
「これは、旨い」
「うむ」
あまりの美味しさに盛り上がるメンバー達。
「美味しい 本当に見た目じゃないんだ、タカキも一緒だね~頼りないけどミノタウロスを1人で倒すんだもんね」
「あ、あはは、頼りないか…」
絶妙なタイミングで全員がうなずく。
「お陰で助かったんだ感謝してるよ、ありがとなタカキ」
ディオーネにお礼言われて少し照れるタカキ。
「あ、ああ」
「あ、タカキ照れてる~」
「あむ」
ミノタウロスの肉を食べ続けるミール。
「でも(モゴ)さ、なんで(モゴ)ミノ(モゴ)タウロ(モゴ)スが(モゴ)あんな(モゴ)所に(モゴ)いた(モゴモゴ)の?」
「お前は食べながら喋るなよ…」
「はぐれミノだからね~」
一同(はぐれって… あんなのが群れなしてんの怖~;)
「はぐれはね、他の亜人種と共存したりするんだよ、今回のが一例だね。他の外敵から守る為に場所や食料の提供したりね」
「なるほどぉ…持ちつ持たれつねぇ」
「そう言うう所は人と何ら変わらないよな、形は違えど俺達だってそうだろ?」
ルージュの言葉に笑顔で頷く一同。
「持ちつ持たれつ…良いんじゃない?出会いからしてアレだったしねぇ、此れからも宜しくね」
「此方こそ、よろしく~(ニパッ)」
ライザとミールの会話を訊いて「そう言う事になったんで、此れからも宜しく」とシースがタカキに握手を求める。
歓迎の気持ちを伝えようと、その手を力強く握り返すタカキだが「俺の手を折る気か!」と、本気でシースに怒られる…これがタカキクオリティ;
皆すっかり腹も満たされ焼き肉パーティーを終えると、シグロのギルドへ報告に向かうタカキ達。
帰りの道中、腹は満たされたが思い出から胸にポッカリと開いた小さな穴を自覚するタカキであった。
第二章 完
たかさんの「業名」由来について解説~(何書いて良いか判らなくなったので本編で割愛した由来について書きます…たかさん割愛してごめんね;)
【斬月】
斬月とは水面に映る月を波紋を出さずに水面を斬り、映った月が真っ二つに見える事から付けられた業らしい。




