第二章 初仕事
何と言いますか、アウロラさんって、変な人だよな~なんて思ってしまう今日この頃…私にはキャラ愛が足りないのでしょうか?
タカキがギルドを出ると、陽も高く上がっていた。時間的にはお昼と言った所だろうか。
ミール達と合流するために先ほどの酒場に戻り、ギルド登録が終わった事、アウロラについての事などを話した。
「それじゃ、アウロラさんは街の近くで探し物をしてるんだね。さすがリーダー、情報が早い!」
「おいおい、街の近くって言ったって、この街結構広いぜ?」
「街を一回り…と言っても、行き違う事もある。ここは二手に分かれて行くのが得策だと思うのだが」
「うむ。腹減った」
アランの一言で全て決まってしまったような雰囲気になり、ここはこの流れに乗って食事にした方が無難だなと思ったタカキは「先に何か入れておこう」と言うと店員を呼んだ。
「それでは、昼食を取ってから二手に分かれてアウロラを探しに街の外を回る事にしよう」
それぞれが注文を終えると、ウェイターは「代金はどちら様がお支払いになるのですか?」と、聞いてきた。
料金は先払い、というより注文時に支払うのが普通だ。
タカキは当然個別の支払いのつもりで財布に手を掛け自分の支払いを済ませようとしていたが、周りの雰囲気が何か違うなと見回すと、店員の笑顔と皆の指がこちらを向いている。
「えぇ?オレ?」
「そう。だってリーダーでしょ?」
と、笑顔のミール。
「とりあえず建て替えててくれ」
ルージュが済まなそうに手を合わせている。
タカキは、今後の報酬の中から出せば良いかと考え、しぶしぶ代金を支払った。
久しぶりにまともな昼食を終えた一行は、街の入り口から二手に分かれて街を一周しながらアウロラを探す事にした。
「左回りはルージュとアランとディオーネで宜しくね。右回りは私とリーダーで行くから」
いつの間にかミールが組み分けを仕切っている。
負けじとタカキもクレセントナイツ時を思い出し、この場を仕切る。
「それでは、これからアウロラ捜索を開始する。ルージュ・アラン・ディオーネのA班は西側、私とミールのB班は東側に周回しながら要人を捜索する。無事保護した場合はそのまま周回し、各班と合流する事。なお、今回は捜索が目的である。むやみな戦闘は控える事。以上!」
突然のタカキの変貌ぶりに4人は唖然としている。
勝ち誇ったように続けるタカキ。
「何か質問の有るもの。無ければ各班、捜索始め!」
「タカキ、すご~い!どこかの隊長みたーい」
ミールは感激している。
「"各班"っつったって、俺達ともう一組だけじゃんか」(ディオーネのつぶやき)
「何だか懐かしいな。久しぶりに統率力のありそうな指揮を聞いたな…(ちょっと前線に来たばかりの新米少尉みたいだけどな)」
「…うむ(それは言わぬが花よ)」
A班の3人は大きな返事もしないまま西の方へだらだらと進んで行った。
端から見ると、何だか取り残されたようなタカキとミールだが、今の二人にそれは伝わらない。
「それじゃ、リーダー。私達も東側周回しましょ!」
「そうだな。のんびりしていては日が暮れる。いくぞ、ミール」
「はい!」
久しぶりの指揮感覚に酔うタカキとその仕切りぶりに感動するミールは東に向かって歩き出した。
大丈夫か?この二人。(汗)
遠目に歩き出した二人を見ながら心配しても詮なきことかと周囲を捜索しながら、だらだらと西側を周回捜索しているA班3人。
「そう言えば、怪我の方は大丈夫なのか?」
ディオーネはルージュの怪我の事を思い出したかのように聞いて来た。
「ああ。だいぶ痛みも引いてきたようだ。アウロラのくれた薬草に感謝だな」
「おいおい。それを言うなら、"薬草をくれたアウロラに感謝"だろ?」
「そうとも言うな」
そんな話をしながら2時間程歩いていると、視界の先にキラキラとした海が少し見えてきた。
”平和だね~”と呟くディオーネに咳払いで注意を促すルージュ。苦笑している所を見ると、どうやら同じ事を考えていたようだ。
3人がさらに暫く歩いていると森の奥の方に何かの気配を感じ、ルージュが止まるよう2人に注意を促す。
3人は手に手に武器を携えると気配のする方へと緊張しながら忍び足で歩を進めた。
目を凝らしガサガサと茂みの奥に居るモノを確認すると猪…と言ってもまだ小さいのでウリ坊だ。
「…なんだ。ウリ坊か」
他に危険なモノは居ないかと警戒しながら更に近づき様子を窺っていると、ウリ坊は近くの木の元を一心不乱に掘り始めた。
出てきたのは、沢山の芋と石版のような物…どうやらウリ坊の狙いは芋のようだ。
「ん?あれは?あの石版、もしかしてタカキが言っていたギルドがアウロラの試験用に埋めたって言うアレか?」
「多分な。ご大層に掘られ易いように芋まで一緒に埋めてるとはね…」
苦笑交じりの小声で話すディオーネとルージュの一瞬の隙をを突くかのように獣の断末魔の吠え声が聞こえる。
ブギィィィィ!
2人慌てて視線を戻すと、うり坊の頭にはハンドアックスが生えておりアランが芋と一緒に回収しているところだ。
「あいつ…いつの間に…。おーい、アラン。そこの石版も一緒に回収しといてくれよ」
「血抜きが先だな」
「…さよか」
「うむ」
A班はあっさりと石版を手に入れ(必要かはさておき)、さらに捜索を続ける。
一方、辺りを入念に警戒しながら周回捜索をしているB班のタカキ…と、その後を引っ付くように付いて来るミール。
「ね~タカキ~。ギルドの人が隠した石版て、隠した所のヒントとかってないの?」
「無いな。そもそもヒントなぞ出したら探索の試験にもならんからな」
「ふ~ん。めんどくさいんだね。試験って」
「…」
言葉を失うタカキ。
実際にはヒントを探す事が試験になるのでノーヒントではない。
ハンター試験であるため動物の習性や、森についている足跡、街中での聞き込み等々、ヒントは無数にあるのだ。
試験の性格上石板を埋めに行くのはギルド職員なのだから、石板を持っていそうな職員がどちらの方面の門を利用したのか等門番に聞き込みする事で大まかな方角は絞れるはずだ。何も人を頼ってはいけないとは言われていないのだから。
暫く2人は無言のまま歩いて行くと、街道の脇に数多く無造作に地面が掘り返された跡が出てきた。
「動物の掘り跡ではないようだから、アウロラがこの辺を掘り返したのかな?」
「もしかして、石版見つけられたのかな?」
「…どうかな。見る限り、手当たり次第に掘り起こしたって言う感じだけどな」
「じゃ、この跡を追って行ったらアウロラさんに会えるかも」
「確率は低いが、少しだけ追ってみるか…」
タカキ達B班は、街から離れ森の深くへ続く掘り跡を追う事にした。
点々と続く掘り跡は、森の深くへとさらに続いているようだ。
「アウロラさん、必死なんだね」
「んむ。これだけ掘り続けられるのは、相当な体力の持ち主なんだな」
更に奥へと進み、陽の光も薄れる深さに最後の掘り跡と共にスコップが落ちていた。
「…ここまでか」
「ねぇ、このスコップ、血が付いてるよ。相当頑張ったんだね。アウロラさん」
良く見ると、握り手付近に血糊が付いている。
剣の修行で幾度となく血豆を潰してきたタカキには、その血が血豆を潰して出来たものではない事に気付く。
「…ヤバいな」
そう呟くと、タカキは辺りを見回した。
薄暗い森の深くに小高い岩山と、ひっそりと口を開けている洞窟らしきものが見える。
タカキの視線の先を追う事でミールもその洞窟を見つけた。
「あの中にアウロラさん居るのかな?」
「しっ!」
タカキの手がミールの口を覆い、木陰に身を隠す。
「洞窟の探索は皆と合流してからだ。二人きりでは危険過ぎる。とりあえずスコップを回収後A班と合流する」
タカキが小声で話していると、洞窟の中から片目の狼が出てきた。
どうやら様子を窺っているようだ。
ミールはシグロに来る途中に襲われた狼だという事に気付き、思わず声を上げてしまった。
狼がその声に気付き2人に迫る。
「ちっ」
タカキは剣に手を掛け、戦闘準備に入る。
それを見たミールはタカキの後ろでマジックミサイルの準備をしている。
こちらの殺気に怖気付く事無く狼が突進して来る!
「ぬん!」
空を切り裂くような横一線の剣圧が草を凪払い狼を襲う。
「キャイン」
剣圧は狼の足を切り裂き、見事に転倒させる事が出来た。
「ちっ。まだ修行不足だな。ひとまず退却だ。行くぞ。ミール」
言うとミールの手を取り、街壁の方へ走り去った。
無事、狼から逃げられたタカキ達は、周回ルートに戻りA班の3人と合流が出来た。
「石版、あったぞー」
「イモ、イノ、取った」
ディオーネとアランの抜けた声で、タカキとミールの緊張も一気に解けるが、気を取り直し先の出来事を報告する。
「俺達はアウロラの軌跡らしきものの先に怪しい洞窟見つけたぞ」
「あと、この前襲ってきた片目の狼にも会ったよ。タカキがすごい技で転ばしたけどね」
タカキとミールは、これから洞窟探索をする事を提案する。
「すると、アウロラはその洞窟に浚われたか…まだ息があると良いけどな」
ディオーネの鋭い一言にミールが食らいつく。
「だから急いで助けに行かなきゃいけないの!」
「まぁ、本当に浚われたかは定かではないが、周辺を調べるにも洞窟を先に調べないと安心して探索は出来ないからな」
タカキの言葉で洞窟探索は決定された。
「しかし、あの武装ゴブリン二匹が居るかも知れないのだろう?大丈夫なのか?」
「ああ、あいつ等か…結構手強そうだったな」
「何?武装したゴブリンも居るのか。二匹くらいなら丁度良い肩慣らしになるな」
不安そうなルージュとディオーネにタカキはちょっと驚いた様子で返事をした。
「お!さすがリーダー、頼もしい事を言ってくれるねぇ」
「うむ…任せた」
不安はあるが、ともかく洞窟探索に向かうタカキ一行であった。
次回はやっと冒険らしくなる…はず。