熱き想い…そして決意! 1
一人称もどきで進めることになりました;
序章とかなりギャップありますが素人なんで許してください。
【熱き想い…そして決意! 1】
クレセント王国 王城
-騎士団トレーニングルーム-
城の北西に位置する尖塔の一階層をすべて使った広いだけが取り柄の大広間だ。
元は王族の子息に武術を指南する為に用意された空間だが、居館との位置的な問題から騎士団の訓練用に下賜された場所である。
だが騎士団にしても元々他にトレーニングする施設があり、宿舎から遠いこの場所は余り使われる事はない。
しかし、そんな不人気な場所を好んで使う『変わり者』は何処にでも居るらしい…そう黒目黒髪で思い込みの激しい彼もその『変わり者』のようだ。
「ふん!ハッ!てりゃぁ!」
俺の名前は、タカキ・シノサト。
これでもクレセント王国騎士団、クレセントナイツの一員だ。
今日も俺はこの人気が全くないトレーニングルームで秘密裏に『俺が考える最強の必殺技』の習得のため猛特訓中なのだ。
何故秘密にするかって? その方が何か格好が良いだろ?
今時の騎士たるもの『必殺技』(対女子用)の一つや二つ持っていなければいけないからな!世のイケメン共め何時までもモテ時代が続くと思うなよ、俺の『必殺技』の時代が必ずやってくる!
「っせりゃぁ~!」
袈裟がけに振り下ろしたその力を回転へと繋げ、横薙ぎの一閃!…決まった…
「ぐふふ…」
「その気持ち悪い笑いが無ければ良いのにね~、精進してるねぇ。タカキ!」
声のする方に視線をやれば少女が想い描く王子様そのものと言える金髪碧眼のイケメンが出入り口横の壁に背を預けながら手を叩く姿があった。
このイケイケメンは俺の幼馴染で、名前をラクセル・ライト。
正義感が強く、ルックス、家柄、剣術も、すぅ~~ベぇ~~てぇ~~俺よりも上で、巷では主人公キラーの称号が付いている。
気付いてると思いたいが俺がこの物語の主人公なので…はい。
「おやじさ…っと、隊長がお呼びだぞ。」
そう言うと残心を解いた俺にタオルを投げて寄越すラクセル、一々イケメンである…もげてしまえ!
「おや‥‥っとおやじが呼んでるって?」
「って、言い直してないし‥‥」
カクッと崩れるラクセルに溜飲を下げると、汗を拭ったタオルを礼と一緒に投げ返す。
「何の用だろ? ラクセルは知ってるのか?」
「さぁ?なんだろうね~♪」
くっ、肩を竦ませながらニヤニヤしているのにイケメンとは!幼馴染でなかったら殴ってやるところだ。
聞いても教えてくれそうもない薄情な幼馴染は放っておいて、さっさと用事を済ますかね。
「まぁ、行ってくるわ。」
後ろ手にヒラヒラと手を振りながら足早にクレセントナイツ隊長室へと急ぐ。
隊長室はトレーニングルームとは真逆に位置する。態々知らせに来てくれたラクセルには後で礼を言わないといけないかもな。
殿中を走るわけにもいかず、間取りに文句を言いながら何とか隊長室前まで辿り着くと扉の前で服の乱れを正し、一拍置いて扉を叩いた。
ゴンゴン(ノックしてもしも~し)
「隊長、タカキです」
「おぉ来たなタカキ!入れ」
「失礼します」
「うむ」
大きく頑丈な扉を開ければ、奥の執務机から低いが良く通る声が応える。
鍛えられた体躯と強い意志を持った黒い瞳を持った壮年の男が鷹揚に頷きながら先程まで確認していた書類を執務机の端に追いやる。
この方がクレセントナイツの隊長であり俺のおやじでもあるサイガ・シノサト。
隊長としての人望も強く俺とラクセル対しては非常に厳しいとこがある。
まぁ、身近にいるから余計なんだろうな。
「たいち‥」
「おやじと呼ぶな!たい‥ちょ‥っと‥あっゴホン‥ンっ ンっ。」
「‥‥(やっぱ血筋なんだろか;)お呼びと聞きましたが」
「あぁ、っと、これだ」
気を取り直し端に追いやった書類の束から目当ての物を取り出すとサイガは書類に目を向けたままタカキを手招きする。10秒程度だろうかやや長い沈黙の後タカキに書類を差し出しながら口を開いた。
「配置転換だ。急な話だが…明日からシオン姫の付き人をたのむわ」
受け取った書類には異動の旨を簡素に伝えられており、詳細は異動後に説明があるようだ。
「…姫の付き人ですか?」
「うむ」
「あれはラクセルの担当では?」
「辞退したからな」
「ラクセルが?!…まさかぁ」
「そのまさかだよ、自分よりお前さんの方が適任だと生意気にも意見してきた」
「俺がですか?他にも適任者いるのでは?」
「んにゃ。これまで腕に覚えのある連中を推薦したが全滅だ」
「…えっ…今なんと?」
「お前は身内なんでな、贔屓と取られると面倒なんで今まで候補に挙げなかったんだが、何処で聞き付けたのか侍従長のシュノーゲル卿がお前を推してきたんだよ。まぁこれまで推薦した連中がみんな頑張ったがダメだったんだ、駄目で元元と思って逝って来い」
「なんか微妙に文字が違うような…」
小さく文句を言うタカキを面白そうに見ながらサイガは意味ありげにニヤリと笑う。
「そ・れ・に・だ、タカキ」
ドキッ!
「ラクセルから聞いたぞ、シオン様のことが気になってるそうじゃないか!」
あいつぅしゃべりやがったなぁ!
「お前も年頃なんだな、うれしぃぞ!」
耳まで赤くした息子の表情が可笑しかったのかサイガはクツクツと込み上げる笑いを抑えるのに苦労しながら絞り出すように要件は済んだ事を伝える。
「なにはともあれだ、付き人はお前にまかせた。確りお仕えすのだぞ。まぁ…応援してるぞ」
「わ、わかりました! 失礼します」
うぅ・・・小っ恥ずかしいからやめてくれ~。
隊長室を急いで退室すると気を落ち着かせてもう一度書類に目を向ける。
「ふぅ、付き人かぁ…」
へらぁ~(ニヤケモード)
自然とこぼれる笑みと同時に脳裏に姫の姿が映し出される。
あれは2年前の「月降り祭」。
クレセント王国には『クレセントタイト』という加工すると非常に硬度が高くなる鉱石が特産品としてある。この鉱石はある月齢の月光に反応し発光する性質があり、これを月の女神が降りてくる「月降り」として毎年祀っている。
王都ではその年に選ばれた年頃の娘達が「月降りの巫女」となり採掘の安全を祈願し月の女神に舞を奉ずるのだが、巫女として選ばれた娘達の中にシオン姫も居たのだ。
俺は月光を浴びたクレセントタイトが放つ煌きと、その輝きに劣らぬ舞を披露する姫を一目見てキュ~ンときてしまったって訳さ。
「やっふぅ!」
「何が『やっふぅ!』なんだいタカキ? 顔がだらしなくなってるぞ、このぅ」
いつの間に居たのかラクセルが隣から肘鉄を食らわしてきた。
「おほっ!ラクセル!おやじにしゃべりやがって!」
「まぁまぁ落ち着けって、気になる姫様に近づけるんだしな」
「まぁそうなんだけど‥‥だけどさ」
さっきまでの浮かれ具合から一転した俺の表情を察したラクセルも真剣な顔つきになる。
「あぁ…4年前の事件か…」
俺は無言で頷く。
4年前の事件とは、おやじの前の隊長「アスコット・ハイドライン」が起した事件の事だ。
アスコット・ハイドラインは王やおやじも認める人物であり、姫のあこがれの人でもあった…らしい。
実は別国の間者であったハイドライン一族は2代に亘りフォール王に仕える事で得た信用を隠れ蓑に、姫を人質にクレセントタイトなどの資源を得る計画を企てた。
が、姫を攫った際に計画に気づいたおやじが単身姫を救い出し計画を阻止したのだ
親父はその時の功績が認められ今の隊長になった経緯がある。
でもその事件で信頼し憧れてもいた人から裏切られ、以来姫は男性恐怖症になったわけで…。
実際今回の付き人にはその男性恐怖症克服のためのリハビリを兼ねているのだとか、嘘か誠か判らないが結構な噂にもなっている。
付き人になれた事で浮かれている場合じゃないんだよね、何とかしてあげたいんだよな~俺的にも;
「お前次第だよタカキ!明日から頑張れよ!」
拳を前に出すラクセルに俺も拳を作り軽く当て応える。
「あぁ!」
グダグダと考えていても益は無い。気持ちを切り替えよう!明日からか~…何だかドキドキして‥‥きたぁ~~(点眼薬風)。