第二章 港湾都市 シグロ
第二章開始です。『ほのぼの』復活?タイトルの入れ方変えてます。
なんちゃって三人称挑戦してます。
第一話では主人公は出ません。
その仲間達のお話です。
- 港湾都市『シグロ』 ―
シグロはヴァイゼヴェーク街道の南端、クレセントタイトの産出地として有名なクレセント王国とヴァレンティア王国とを結ぶ玄関口として栄えた港湾都市だ。
港湾都市だけあり各地から物資が集まるためヴァレンティア王国南西方面を旅する者なら必ず立ち寄るランドマーク的な都市だ。また、クレセントタイトが比較的安価で手に入ることから多くの鍛冶場が集まっており、武具等の鍛冶の町としても有名な都市でもある。
よって荒事を生業とする傭兵や冒険者と呼ばれる者達もこの街を多く訪れるため、活気が在る分治安が良いとはお世辞にも言えない場所である。
そんな港湾都市シグロに向かう小さな一団が此処にもあった。
この地方には珍しくエルフ族3人とドワーフ族1人という亜人間で構成されたパティーだ。
先頭を歩くエルフ族は2人の内1人どうやら、少女のようだ。子供らしい高い声で隣の男に文句混じりの質問を続けている。
その後ろを歩く端正な顔の右頬に十字キズを持つ背の高いエルフと、背は低いが隆々とした体躯のドワーフ族の男は前を歩く二人の様子にやや辟易気味の表情を出しながらも黙々と歩を進めていた。
「ね~ねぇー、ディオーネまだシグロ見えないの~?」
「うるさいなぁ。あのなミール、何百回同じ事言えば気が済むんだよお前は!」
「だってぇー」
ディオーネと呼ばれた先頭を歩くエルフは無駄な体力を使わせるなとばかりに腰に手をやり、先程からぶ~ぶ~と健康的な褐色の頬を膨らませながら文句を言う少女に身体の向きを変え本格的に説教する事にした。
もう何週間も山道や深い森を歩き続けているのだ、皆疲れていない筈がない。
ここで確りと言っておかねばと、ディオーネが開いた口よりも先に後方からミールの援護射撃行われる。
「ディオーネ、ミールじゃないが俺もそろそろ野宿じゃなくてベッドが恋しいぞ」
「うむ」
「でしょーー。ルージュにアランも良い事言うね!食事だってさ乾燥肉も飽きたし~」
はぁ~と、深い溜息と一緒に怒気を吐き出すとディオーネは現状の発端を愚痴りながらまた歩き始めた。
「だいたい、街道沿いの村々を寄って遠回りするより直接シグロに行きたいと言ったのはミールお前だぞ」
「む~」
頬を膨らませながらそっぽを向く少女にルージュは苦笑しながら先を促す。
「ま~そんな事よりも、方向はこっちで合っているのか?」
「うん。たぶんあっちの方」
「にぱっ」と音が出そうな笑みを浮かべながらミールは覚えたての魔法を唱える、その光の矢は薄暗くなった空に長い尾を引き方向を示した。
「魔法を矢印代わりに使うんじゃないよ…ったく」
「マジックミサイルの平和利用だな。まあ、良いじゃないか。もうすぐ日も変わる頃だし、なアラン」
「うむ。ここいらで休むとするか」
言うが早いか、アランはいつの間に抱えていた枯木を積み上げ火口箱で火を起こし始めた。
保存食の乾燥肉もそろそろ尽きかけているので、今晩の食事は一口だけかな~そんな事を思いながらディオーネも野宿の準備に取り掛かるのだった。
「みんな!起きろ~!!」
奇声にも似たミールの雄叫びに飛び起きる一行。
「なんだ!?奇襲か?」
少々慌てながらも装備を整えるディオーネ。
アランとルージュは落ち着いた様子で装備を整え、辺りを見回したが特に変わった様子はない。
変わった事といえば、陽が昇り辺りが明るくなってきた事くらいだ。
準備が整ったのを確認すると、迷走の元凶である(本人は気にしていない)ミールが無い胸を張りながら人差し指を北に向けながらリーダー口調でこう言い放った。
「え~コホン。今日はあっちの方へ食料を探しに行きます」
「「はい!?」」
「うむ」
一同は唖然とした …いやアランは同意した;
なんで…と言いかけたルージュの言葉に被せる様に続けてミールは今後のスケジュールを自信満々に話し出す。
「あっちの方からいい匂い(気)がします。それを調達するのだ、です。それからシグロへ向かいます。シグロに着いたら最初に食事の出来る所を探しましょう。準備は出来た?それじゃ、しゅっぱ~つ!」
足取りも軽く、なんとなく北の方角へさっさと歩き出すミール。
残された三人は顔を見合わせる。
「どうしたんだ?」
「さぁ!?」
「ハラヘリで本能発揮か?」
困惑するも何時もの事かと諦める三人。
兎も角ミールを追わないと見失ってしまいそうな勢いだ、三人は早々に後を追う事にした。
こういう時のミールの直感は大したもので、少量ながらも口にできそうな物を見つけ出す。
「ん~!すっぱい。ハズレ」
そう呟きからツタに成っている実を集め、ディオーネに手渡した
「見事に赤いが…毒とかは無いんだろうな?」
「大丈夫。食べられたから」
「…」
ルージュは困っているディオーネの手からひょいっと実を一つ取ると口へと運ぶ。
「大丈夫だ。たぶん」
暫し咀嚼するとその表情を顰めるルージュを横目に、ディオーネはアランにその実を投げ渡す。
アランもその実を勢い良く口にし、ガリゴリと噛み砕いた。
「ガリゴリ!?」
「ふむぅ…ニガイ…」
「だめだよアラン。種ごと食べちゃ」
「種の方が毒性有りそうだかな~」
「これだからドワーフって奴は…」
「あはは、アランらしいや」
呆れるディオーネをよそに、微笑むミールとルージュ。謎の赤い実と少しの笑いで空腹も紛れた気がした。
そんなこんなを繰り返しながら、途中で見つけた茸や木の実などを拾い食…もとい朝食としながら、日持ちのしそうな食料を集めていく。
しばらく採取を続け歩いていると、微かに料理と呼べる良い香りが漂ってきた。
鼻を頼りに向かってみると、そこには野営していたであろう跡と、何者かがこの場所で争った痕跡があった。
しばしの沈黙の後、ルージュが重い口を開いた。
「モンスターの類じゃなさそうだな?」
「ああ、おそらく…人間だ」
「うむ」
「きっと食事の支度中に襲われたんだね」
良くみると、炉には鍋が掛けてあり食欲をそそる良い香りがする。
丁寧に仕込みをした、山菜と木の実、少量の兎の肉が入ったスープのようだ。
「とりあえず、頂いちゃおうか?」
「…だな。このまま置いて行ってももったいないしな」
ミールとディオーネは鍋を囲み始めた
「んま~い♪」
「まさか本当に食事にありつけるとはな。たまにはミールの感も当たるんだな」
「あ!ひどーい。そういう事言うとスープあげないよっ」
「へいへい。失礼しやした、ミール様。…って言うか、お前のスープじゃないだろうに」
アランとルージュは顔を見合わせると、荷を下ろしながら鍋へと急いだ。
「わしにも分けてくれ」
「オレも」
4人とも空腹のせいか、結構量が在った筈の鍋をあっという間に平らげてしまった。
「美味しかった~」
「ふぅ、人心地ついたな」
しっかり食した後に、ルージュがぼそりと呟いた。
「しかし今更なんだが、罠じゃないだろうな?」
… 一同に緊張が走る …
暫くの沈黙の後、一斉に辺りを見回すと、草叢からガサガサという音と共に一匹の狼がルージュに襲い掛かってきた!
「うわ!何だコイツ!」
狼がルージュの左腕に食らいつく!
突然の攻撃に、剣の柄で狼を払いのけるのが精一杯だ。
「グルル…」
ルージュの一撃が運よく目に当たったらしく、狼は軽く頭を振ると間合いを整えながら威嚇してくる。
続けて草叢がガサガサと音を立ており、後から何者かが現れそうな気配が続く。
「どうする?逃げるか?」
噛まれた左腕を押さえながら周囲をぐるりと見渡しながらルージュが問う。
「その傷じゃ、それが得策だな」
ディオーネは冷静に状況を判断し、警戒しながら逃げるように合図を送る。
アランとミールは荷物を抱え、逃げる準備を整える。
「私が狼を怯ませるから、その隙に逃げよう」
「おう!お得意のミサイルだな。今回はオレも便乗させてもらうぜ」
ミールの言葉にディオーネがニヤリと笑う
「準備はいいか?」
アイコンタクトを取ると、ミールとディオーネはマジックミサイルの呪文を唱える。
二本の光の矢は、真っ直ぐ狼に向かって飛んで行く…と同時に武装したゴブリン二匹が草叢から現飛び出してきた。
「ガァグゥゥ…」
光の矢が突き刺さり、怯んだ狼にゴブリン達が巻き込まれるのを後ろ目に、一行は一気に距離を空けるべく全力で走り出した。
この相手なら簡単に振り切れると思っていた4人だったが、ゴブリン達の追従はとても鎧を纏っているとは思えない程速く、最初から逃げると言う選択をしていなければ傷を追ったルージュには厳しい状況だった。
「はぁ…はぁ、これだけ離せばもう追って来られないだろう」
「うむ」
「はぁ…はぁ、まったくヤバいゴブリンだったな。逃げて正解だぜ」
ミールは息が上がってしまって、三人にコクコクと頷くのが精一杯のようだ。
一息ついてから辺りを見渡すと辺りが赤く染まっている…もう夕刻なんだろう遠くには綺麗な夕焼けと共に大きな街壁が目に入る。
「ねえ…ちょっとみて。あの街壁って……シグロじゃないの?」
「…だといいな」
「とりあえず、街に寄ってこの傷をどうにかしないとな」
一行は重い身体を引きずる様に夕日に染まる街に向って歩き始めた。
-港町シグロ-
無事シグロの街頭門前に辿り着いた一行は、門番に軽く会釈をし、この街に治療院があるかを聞いてみる事にした。
「こんばんは。この街に怪我を治療出来る場所はありますか?」
ミールが優しく尋ねると、怪訝そうな顔をしながら兵は「有るよ」と短く答え、直ぐに仲間の門番に何やらコソコソと耳打ちをすると何事もなかったかのように見張りを続ける。
なんだか愛想の悪い門番だなと思いながらも軽くお礼を言い街に入って行った。
街の人々は何やらこちらを見ては目を背けたりコソコソと逃げ出す者もいて、とても話が出来る雰囲気ではない。今までの街とは何かが違うな。と皆が感じている中、ミールはとてもイヤな悪寒を背中に感じていた。
「なんか、この街ヤダ」
「ヤダってお前…しょうがないだろう。とりあえず手当て出来そうな所を探すぞ」
街の中をうろうろしていると、一人の青年が声をかけてきた。
「その傷は狼にやられたのか?家に来いよ。消毒くらいはしてやる」
と言うとルージュの手を引き、連れて行こうとする
「待て、お前は何者だ。何故我々と関わろうとする?」
「俺の名前はアウロラ、ハンターになって母の手助けをしようと思ってる。…何とも俺は思っていないが、街の中では亜人間は魔族の手先なんて言って敬遠してから治療は難しいぞ。それに、あんたもその左腕じゃ仲間に迷惑掛かるだろ?」
言葉は悪いが誠意の感じる返答にルージュの警戒心も解ける。
「分かった。すまんが厄介になるとしよう」
一行は青年の案内に従って裏道からアウロラの家に向かった。
まだ続きます…書き方が変わったのは原作がねこさんだからです;
またタカさんの番も回ってきますが、シンクロウの番も来ますのでその時はご容赦を…ではまた。




