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AGO物語  作者: AGOメンバー
17/26

熱き想い…そして決意! 完

…色々納得いかないですね;

 その船は魔力推進装置が装備されているのか、風もない凪いだ海原を滑る様に進む。

灯火管制されたその様は燃え盛る王城を背景に、まるでこの世にとあの世を行き来する伝説の幽霊船のようも見える。

暫くすると船は海流の激しくなる海域に差し掛かったのだろう、船体が左右に傾げ始め、それはまるで愚図る我が子を安心させる母のように、ゆらゆらと船を揺するのだった。

魔族の急襲され命辛々何とかクレセントを離れる事が出来たからだろう、この海域に達したことで船内に弛緩した空気が流れだした。


 また大きく船が傾ぎ固縛が甘かったのか、立てかけてあった竿が勢い良く床に転がる音でタカキは目を覚ました。


「ん、うんん…ん!オヤジッ!」


 カバッリと起きあがるとタカキは周囲を見渡す。

見慣れない部屋に寝かされていたようで、血が足りないのか堅い寝台が大きく揺らいだような気がするがまずは直ぐ横で看病してくれていたであろう女性に意識を向ける。

城の女官衣を纏った女性は疲労のせいか別人のように酷く老けこんでいるが、タカキがよく知る人物であった。


「タカキ殿、目を覚まされたのですね」

「女官長…ここはいったい…」

「クレセントから脱出した船の中です…魔族の哨戒を避けるため通常とは異なりラグナ諸島を大きく迂回する形でシグロに向かう航路を辿っています…甲板に出ますか?」


 外を見ようとしていた事に気が付いたコーウェンは後ろに控えていた侍女マインに目配せすると甲板へと続くドアへと誘う。

タカキはマインに肩借りる形で甲板へと上がると、夜空を赤く焦がすように燃えている対岸を見つめる。空の闇と地上の赤、その様を逆さに移す海面は何も知らなければ息をのむ程の美しさだ。

しかし幻想的と言っても良いその光景の下では街全体が火災に見舞われている筈なのだ。

無言でその光景を見つめるタカキに女官長は此れまで経緯を語った。


「アイ達がシオン様が外で皆様とお食事をすると言っていましたので、特別にと私達は地下の酒蔵に取って置きのお酒とチーズ取りに…皮肉にもそれでこの難を逃れたのです」

「そうだったのですか…オヤジは?」


 無言で首を横に振る女官長を見て察するとタカキは「そうか…」と一言零し瞑目した。


「サイガ殿はタカキ殿にすべて託されのです。そしてシオン様も…その想いに応えていきましょう。微力ながら私達も全力をもって御助力サポート致します」

「な、なんだあれは!!」


 見張りの兵が声を荒げる。

船内は俄かに臨戦態勢へと移行するが、空に見える無数の影が人のシルエットに蝙蝠の翼を背負った物だと判断出来ると絶望感から膝を突く兵が出始める。


「タカキ殿、これしかないのです」

「えっ?」

「タカキ様…生きて…」


コーウェンとマインは押し出すようにタカキを船から突き落とす。


「み~つけたぁ、クク。さぁ船の破壊だな~お前らいくぜ。クク…求めるは全てを焼き尽くす紅蓮の業火…ファイヤーボール!」


 無数の火球が船に向かって放たれる。

ドォォォンと音共に船がすっぽりと炎に包まれ、熱波が海に落ちたタカキの頬を舐める。

その後も船には無数の火球が放たれ、その爆風がタカキを叩く。


意識が遠のく……ここで朽ちるのか…駄目だ、みんなの想いが無駄になる。生きるんだ!なんとして・で・も・・


 過剰ともいえる攻撃を加えられ、周囲は熱せられた海水が水蒸気となって白く靄が掛かり船は文字通り海の藻屑となった。

上空を旋回していた魔族達も目標を達成したと判断したのか、高度を上げ始める。


「船は破壊したし、帰るぞ!クク、これで、クレセントからは誰一人逃がしてないな、クク」


クレセントに戻るガスパル達魔族に気づかれず、波間を漂うタカキを一つの光が包む。



---- クレセント城 謁見の間 ----


「手こずりはしたが所詮敵ではかったな」


 倒れる騎士団長サイガを足蹴にしながらスレイプニールは込み上がる喜悦に肩を震わせる。


「ふふふ、古の禁断魔法の実験に使われた大陸…クレセント。その魔法は空の上にある星々を呼び寄せ落とす力…メテオ。その威力により大陸の一部が消滅し今の形になったと言われてる…膨大な魔力ゆえに今だに帯びてる大量の魔力と落ちた星に含まれてる鉱石クレセントタイト…これだけの資源があればキメラ(合成獣)を作り出し、奴らが目覚める前に…ふふふ…あっははは!」




 ガスパルは配下の者に残敵を掃討するよう指示を出すと、急ぎスレイプニールの場所へと向かった。

念話テレパシーでも良かったのだが、何となく留守番を仰せつかった同僚のゲッツやブッダをからかいたくなったのだ。


「ニール様、船は破壊しました」

「ご苦労だったな」


ガスパルは目の前の光景に目を見張る。

俄かには信じられないが、ゲッツやブッダがその躯を無様に曝しているだ。

しかも此れまで傷一つ付けた事がないスレイプニールの頬にも浅くキズが付いており、かなりの手練が相手だったのだろうと予測された。


「こ、これは…ニール様。ゲッツやブッダがやられる程の手練が?」

「ふんっ、スカラもな」

「…手強かったのですね。ニール様の頬にも傷が」

「何っ?!」


 頬に触るスレイプニール、触った手を見ると血が確りと付いていた。


「あの男は手こずりはしたが傷を負うなど……もしやあの小僧が…だとしたら…ガスパル!」

「何ですか?ニール様」

「タカキとか言う小僧が、お前が破壊した船に乗って居たばずだ」

「タカキ?あ~、女連れだったガキですね」

「知っているなら話が早い。奴の遺体を持って来くるのだ…もし、生きているなら殺して持って来い。良いな!」


 スレイプニール形相が変わり、周囲の空気に罅が入るような感覚を覚えガスパルは苦悶の表情を作る。

見ればスレイプニールを中心に城の床にクモの巣状の罅が走りはじめている。


「畏まりました…ニ、ニール様気を静めてください。でないと城が半壊します」

「ならば、早く行け!」

「は、はい!」


バサッりとその場から逃げだすように飛び去って行くガスパル。


「あの傷だ生きてはおるまい。生きていて、さらに強さ身に付けたとしたら…我の驚異になる……」




---- シグロ港より南に位置する海岸線 ----


「今日はなんだ魚一匹も釣れないとは、つまみ無しの酒か…」


 男は散々な釣果に肩を落とし家路へと向かおうとその重い腰を上げ歩きはじめる。

男の名は不知火シラヌイ。この辺りでは『のんべぇ先生』と呼ばれる門下生が全くいない道場主だ。

一昔前までは名の通った剣豪であり、若い頃は其れなりに仕官の奨めがあったのだが何故かその全てを断り今では酒浸りの毎日を送っている。

先生と呼ばれるより変わり者、偏屈といった方がぴったりとくる人物だ。


 海岸沿いの家路を急ぐ不知火の目に何やら光る物が一瞬映る。

確かに何かが光っていたようだが今は暗く、波打ち際には波が白い線を見せるだけだ。


「ん?…何か居るのか?」


 是と言った用もない不知火である、好奇心の赴くまま先程光のあったであろう場所へと歩を進めると闇夜に慣れた目が倒れた人影を捉える。不知火は急ぎその場所へ向かった。


「おい、しっかりしろ…かなりの傷だな漂流してきたのか」

「うっうう」

「まだ息があるか、このまま放っておくのも目覚めが悪い…家に運んで手当てだな」

「ここは……うっ……酒くさ」

「ああ?失礼だなお前…命の恩人に成るかもしれん男に最初の言葉が『酒くさ』はないだろ」

「すいません…ありがとうございます」

「しかし、まずは家で身体を治してからだな。さ・け・く・さ・いがな」

「…すいませんです」


ヴァサ

一瞬月明かりを遮り何かが飛翔してくる。


「ん?なんだ?」

「あいつは!この武器お借りします!」


 タカキは不知火の刀を取りヨロヨロと上空から降りて来る影に向かって歩きはじめる。


「おいおい、その身体では」


 不知火が止める前に影はタカキへと近づくと、嬉しそう蝙蝠の様なに羽をはためかせた。


「お~まだ生きてたか、これでやっと帰れる、クク」

「貴様は…ラクセルはどうしたんだ!」

「あ~、あのイケメン君かい?思ったより手応えなかったな、クク女ばかりと遊んでたんじゃねぇのか、クク」

「違う!ラクセルも試合で疲れてなければ…お前ごときに」


 タカキの背後からはスレイプニールと対峙した時と同じように影がゆっくりと姿を現しだす。

闇夜で在るにも拘らず影は確りと知覚でき、不知火は止めようと手を突き出すもその光景に動きを止めてしまう。


「お、おい、あれは戦鬼!あの男は選ばれてるのか戦鬼に」

「な、何だあの影は…」


一閃

月明かりが反射したのか一瞬の輝きの後、ガスパルの左肩から先が「ボトリッ」と砂浜に落ちる。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」


 ぜぇぜぇと荒い息を立てながらタカキは崩れ落ちそうになる身体を気力で立たせようとするも、背後の影が消えていくのに合わせるかのように膝を付き倒れてしまう。


「む!怒りのまま全力で放ったか」

「この糞ガキがぁぁぁ!こいつはニール様が必死になるのがわかるぜ…この力が使いこなせたら、やべえ…腕一本が代金だ、これでお前の悪運も尽きたな。向こうでイケメン君が待てるぜ」


 残った右腕で息の根を止めようとタカキへと近づくガスパルの前に不知火が立ちふさがる。


「…おっさん邪魔だよ」

「ぜぇぜぇ…逃げ・てください」

「折角拾った命なんだ、大事にしろや。何もしないっていうのも目覚めが悪そうだしな、得物は返して貰うぜ」


 タカキが手放した刀を取ると、不敵な笑みを湛えながら構える不知火。

ガスパルは苦笑しながらゆっくりと手突を放つべく身を低く構える。


「どちらにせよ二人共殺す予定だ、順番がおっさんからになっただけだな、クク」


月が雲に隠れ辺りが闇に隠れた一瞬に襲いかかるガスパル。


「不知火流、居合いの型…斬月!」

「何、今の…は…」


…チン

 雲が晴れると其処にはガスパルが縦に割れ波に洗われている。

タカキはまともに動かない身体を無理やり起こしその呆気ない結末をただ眺めていた。


「お前さん大丈夫かい?」

「…え、はい」


この方…強い。


「いきなりで失礼になりますが…俺にその剣術を教えてください」

「ああ、そのつもりだ…覚悟しとくのだな。まず身体の傷を癒し、最初の修業として『泣く』のだな。色々とあったろう…今は我慢しないで開放しろや」

「は…い……シオン……オヤジ、ラクセル…みん……ぐっぐふぅぅ、絶対に強くなって戻ってくるからぅぅぅう…うぉぉぉぉ」

「今は思いっきり泣くがいいさ…」


 涙は枯れるって話しは嘘なのかよ、涙が止まらないよ…シオン…シオン、俺は何でこんなに弱いんだよ…強く、強くなりたい。大切なものをもう二度と無くさないために…強く…。









不知火の許、2年の月日が流れた…


「放ってみろ!」

「はぁぁぁ…てりゃぁぁ!」


ズッバァァン

刀が届かない距離に刺してあるはずの太い木の杭がタカキが放った衝撃で真っ二つに別れる。

タカキは残心を解くと不知火の方へ身体を向け一礼した。


「見事だ。もう俺が教えることはない」

「ありがとうございます」

「この後シグロに向かうのだったな…ほれ選別だ。最近冒険者増えて申請に時間かかるからな、何処まで効くかは判らんが俺からの推薦状と、この刀『月光』を持っていけ。」


不知火は言うと同時に推薦状と刀を放る。

慌てて受け止めるタカキを見やりニヤリとしながら話を続ける。


「但し、あの奥義が放てるのはこの刀でも一度切りだ。刀がもたねぇ…耐えられる刀見つかるまでは、いざという時まで使うなよ」

「はい、今までお世話になりました師匠!行って参ります」

「ふん、達者でな」


 全てを失った青年は強さを求め旅立つ…だがその旅路に更なる苦難が待ち構えて居るなど、彼は未だ知る由もない。


第一章 熱き想い…そして決意! 完

納得いかないでしょうが、一章完です。

第二章からは、なんちゃって三人称になります。

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