熱き想い…そして決意! 15
短いです。
上手く1話で纏められませんでした。
「う、うう…ッ!!」
予期せぬ方向からの衝撃にあっけなく転倒してしまったタカキの全身を刺すような冷気が叩く。
起き上がり振り返ると、そこには自分を庇い自ら犠牲となって凍り始めるシオンの姿があった。
操り人形の様なぎこちない動きでシオンの許へと手を伸ばすタカキ。
「そ、そんな、嘘だろシオン…」
「…ねぇタカキ、やっとタカキの役に立てたかな?…もっと一緒いたかったな…タカキ…生きて…」
少女の頬を伝う滴が堅い床に落ちるのを合図としたかのように、全てを氷に覆い尽くされるシオン。
「シオォォォン!」
「あの男をかばったか…美しき娘よ…本当に美しい。最愛の人を守る心の美しさ、それに劣らず容姿も美しい…ふむぅ、このまま私のオブジェとして飾るとしようか…ふふ、それにしても…ふふ…ん…あははははははははっははは…滑稽よな…守り通すと断言した男が守らねばならぬ女に救われるのだからな」
「…じゃねぇ」
「ん?」
「それ以上笑うんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
タカキが俯いたまま刀の柄に手を添え力の限りに吠えると背後に黒い影のようなもの現れ苦悶するかのように蠢きだす。
「なんだこの威圧感は…まさか、あの男からか?何なのだ…あれは?」
その影はしだいに確りとした輪郭を作りだし『人』のような形になっていく。
初めて見る現象に訝るスレイプニールは自身が無意識のうちに半歩後退っている事に気が付き「この俺が気圧された、だと?」と苦虫を噛んだような顔を一瞬浮かべる。
「絶対にゆるさねぇ…スレイプニール!…うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ボロボロの身体とは思えない鋭い動きで横凪ぎの一閃を放つ。
全身全霊の一撃!その攻撃は鋭い剣圧となってスレイプニールに迫る。
「ニール様!」
用心に越したことは無いと警戒していたゲッツがスレイプニールの前にでると両手で構えた三日月刀で迫り来る剣圧を受け止める。
ギンッ!!
「グッ!…な、なにぃ!!…ぐぎゃぁぁぁ!」
防いだはずのゲッツから断末魔の叫びが上がると、「キンッ」と高く美しい音色を残し三日月刀が砕ける。
剣圧はそのままゲッツを置き去りにスレイプニールへと迫るが、盾となったゲッツのお蔭か剣筋を見切る事ができたスレイプニールは若干肝を冷やすも難なく避ける事ができた。
剣圧は、そのまま進行方向にある大人2人掛かりで抱えられる程の太さのある柱を破壊し壁に抉るような傷跡を残すとその勢いを失った。
後には粉塵とコロコロと崩れた壁の石材が転がるだけだ。
力を使い果たしタカキが膝をつくと同時に背後に聳えていた影は音も無く消える。
全身から血と汗を流しうつ伏せに倒れながらも「ぜぇぜぇ」と荒い息をしながらスレイプニールを睨みつけるタカキ。
視線で相手が殺せるならと殺気を放ち続ける。
「ふむ、どうという事はないな、残りの命を絞り出しだしたにすぎん。火事場の糞力みたなものか…全く驚かせてくれる…もう動くこともままならんだろ?」
「く、くそ…お前は、俺が絶対に倒す!」
「まだ、吠える力があるのか?呆れるほどタフだな」
止めを刺そうと一歩前に出たスレイプニールにゴウッとばかりに槍が飛んでくる。
それを羽虫をあしらうが如く煙たそうに叩き落とすとスレイプニールは槍が飛んできた方向へと誰何した。
「誰だ!」
「あんたがボスて感じだが…メイス持った筋肉達磨は倒させてもらったよ」
「ほぉ、スカラを?やるではないか」
数名のクレセントナイツを引き連れたサイガは腰の長剣を引き抜きつつ、確りとした足取りでタカキの前に歩を進める。
顎に手をやりニヤニヤと笑みを浮かべながらスレイプニールは相手にこの場に倒れた者たちが見易いよう半身を反らす。
クレセントナイツの幾人かが王と王妃、そしてシオン姫を見て愕然と膝を突く。
「王も王妃も助けられなかったか…タカキ、かなりやられたな」
サイガはスレイプニールの動きに注意しながらも周囲を観察する。
相手の部下らしき残骸が2体あるがタカキがやったのか?
あのスカラという奴の同等の強さだとしたら2人同時はタカキには無理なはず、やれとしても1体。ありえるとしたら、あの強烈ともいえる殺気に満ちた威圧感の元がタカキであれば…だが。
……婆さんいってたなタカキが生まれた時、この子には戦鬼が宿っている、この先には修羅の道が待っておると。
そして戦鬼は真の怒りで目覚めると……
サイガは氷づけになったシオンを見る
シオン様の犠牲の上でか、タカキにしてみれば最も大切な人を目の前で失ったからな…それだけじゃない、身近な人達失ったのだし…
サイガは深呼吸すると後ろに控える騎士達に号令を掛ける。
「ふぅ、だよな…お前達」
「はっ!」
「この負傷者を連れ脱出しろ。他の国に此処で起きたことを伝えてくれ」
「な、親父!あいつは俺が倒す!」
「今のお前では無理だ。ここは耐えろ…今後お前の力が必要となる時が来る。それまでに強くなれタカキ!」
「それでも俺は…」
「こういう時は親の言う事を聞くもんだ…すまんな」
そう言ってタカキ胸元に護符の様な物を押しつけ気絶させる。
「まっ、最後くらいは父親らしいことをさせろや…お前達、コイツを頼む!」
「はっ!この命に代えても!」
騎士達が負傷者を抱え地下の隠し通路へと向かうのを見送ると、サイガは背筋を伸ばしスレイプニールと向き合う。
「さて、ボスさん待たせたね、俺はサイガ・シノサトって者だ。で、あんた何て呼ばれてるんだい?」
「スレイプニール」
「スレイプニールか……らしい名だな。悪いが時間稼ぎさせてもらうぞ」
長剣を隙無く構えるサイガを見ながらスレイプニールはこの男が一筋縄ではいかないと悟るとテレパシーの呪文を発動する。
----闘技場----
「クク、結構手こずったな。まぁ、そのぶん楽しめたが…ん?」
たった今戦闘を終えたガスパルの頭にスレイプニールの声が届く。
「ニール様?」
『ガスパル、状況を知らせろ』
「はっ!闘技場から城下まで散発的な抵抗はあるものの組織立った抵抗は皆無です」
『では脱出者の殲滅のため配下を集めておけ』
「?港湾部はアリョーシュカとシュリが固めていますが…遣られましたか?」
『いや、この城の地下から船で逃げだす奴らがいるはずだ。その船の破壊だ…頼んだぞ』
「了解!」
目の前で力尽き倒れている金髪の若者に一瞥をくれると上空へど羽ばたくガスパル。
「生も死も自分で選べるんだ感謝してほしいもんだぜ…さて、新たな命だ、配下を集め急ぐとするか」
ガスパルが更に高度を上げると破壊された町の彼方此方から多数の魔族が飛び上がり同高度を保つと沿岸部へと向け次々に飛翔していく。
日も落ち火災の続く城下町はまるで魔女の大釜、そこから漂う芳香は飽くまで鉄のそれであった。
第一章も残すところあと一話となりました。
書き方が無茶苦茶ですが、素人なので勘弁して下さい。