熱き想い…そして決意! 13
少し表現がきついので、血の出る話とか苦手な人はご遠慮ください。
此れまでの内容からはちょっと、いや大分変るのでご注意願います。
クレセント王国は魔法使い(マジックユーザー)は居らず、魔法自体目にする事が殆ど無いが例外として神官魔術 (神官は奇跡と呼ぶ)は広く伝わっている。
月神闘技祭は名が示す通り闘技を競う祭典であるため当然負傷者が出るが、その負傷者は騎士団等のこれからを支えていく若きエリート達であるため教会からは腕に覚えのある高位神官が選ばれ治療当たっている。
当然タカキの怪我も直ぐに治療処置が施され、後遺症や高熱に悩まされる事も無く今では試合前と変わらない状態となって皆が待っている控室へと足を運んでいた。
― 闘技場 控え室 ―
「ラクセルにぃ、タかにぃお疲れ~」
「ラクセルお兄ちゃん優勝おめでとう。タカキお兄ちゃんは残念だったね」
二人の入室に気が付いたダットとプレシアが飛び上がらんばかりに元気よく労いの言葉を掛けると続けて皆からも「おめでとう」と「お疲れ様」の大合唱を受ける二人。
「お、おめでとうございます!(きゃぁ~ラクセル様が近くにぃ)」
耳まで真っ赤にしながら小声で身悶える侍女達をニッコリとイケメンスマイルで流すラクセル…流石である。
「ありがとう。 しかしタカキはどんな特訓してたんだ?開始早々の一撃は凄かったが、その後の太刀筋は得物の性能を引き出せて居ない感じだったな…御蔭で勝ちを拾えたんだけどさ。どうせまた一人で片寄った特訓してたんだろ」
「おぉ~、流石ラクセル。良くわかってるな」
ラクセルは深いため息を吐くと共にやや怒り口調で続けた。
「お前には身内にサイガ隊長がいるだろうに!」
「あ、忘れて………いや秘密の方が格好良くね?」
ラクセルは隣にいるダットに目配せすると諦めてくれとばかりに首を振っている。
「こいつマジで忘れてたな…(勿体ない)」
周りには「才能の塊」のように扱われているラクセルだが、この幼馴染の方がよっぽど「才能の塊」であり自分が苦労して登ってきた所までサッと近づいてくる様は嫉妬を覚える程だ。
しかし、そんな自分が馬鹿らしくなるほどタカキには間の抜けた所があるので憎めず、此れからも良き友人として付き合っていけそうだな~等と、ため息混じりに思うのだった。
「タカキィ~!気合い注入のキスまでしたのにぃ!…あ・と・で、反省会ね♪」
先ほどからニコニコとしているシオンだが表情と雰囲気が全く合っていない…何故か喉の渇きを覚えるタカキは「は、はひぃ;」と絞り出すように返事をする。
「あれは尻に敷かれるかな…」
「もぉ、敷かれてるよ;」
「…だな」
珍しくラクセルとダットの意見が合い、タカキとシオンの様子を観ながら互いの首を「うんうん」と縦に揺らす。
そんな微妙な空気を変えるようにダットのおふくろさんがパンパンと手を叩くと、矢継ぎ早にこの後の事を纏める。
「ラクセル坊やとタカ坊が今年も優勝、準優勝を取ったんだ。こりゃ~腕によりをかけて祝わないといけないねぇ」
その言葉におふくろさんの料理の味を知っている二人は「おぉ!」と相好を崩す。
「さてと、じゃぁ先に戻って準備してくるよ」
「あ、あのぉ、私も混ぜていただけますか?」
「シオン!?」
「タカキのそばにいれば…少しは大丈夫だと思うの!だからお願い!」
タカキ達と触れ合い、少しは慣れたとはいえ街中には沢山の男性がいるため怖いはずだ。
しかし真剣に頼み込むシオンに皆”否”とは言えそうにない。
「…シオン様」
「……なら、ロックバーズネストでバーベキューなんてどう?野営訓練跡もあるし準備に時間も掛からないだろ? シオンも俺のそばにいる時は大丈夫にはなってきているけど、人が多い街ではまだかなって思うし」
「それは良いですね!」
「外で祝勝パーティーか、いいね!」
「私も賛成~」
マイ、ダット、プレシアが直ぐにその提案に笑顔で賛成すると合意を得たと判断したダットのおふくろさんは腰に手を当てながら「よいしょっ」と腰を上げる。
「タか坊にしては気がきくねぇ~、じゃぁ食材や道具を持って行くとするよ…忙しくなるねぇこりゃ~」
「おいらも一緒に手伝ってくる」
「私も~」
「やりぃ!早く行こうぜプレシア!」
今にも走りだしそうなダットを見てアイ、マイ、ミィも席を立つと一礼して退出の準備をする。
「では私達も城に戻り食材や道具を持って準備して参ります。タカキ様、ラクセル様、後ほど迎えの馬車をよこします。それまでの間シオン様のお相手をお願いしまいたします」
「俺も手伝いにっ…」
「タカにぃとラクセルにぃは疲れてんだし主役はゆっくりしてなよ。じゃぁ行ってくる!」
「おぅ、ありがとな」
どうにも傅かれる事に慣れていないタカキは自身も手伝おうかと腰を上げるが、ダットに止められ、それもそうかと上げかけた腰を下ろすとダットと軽く拳を当て合う。
皆が退出して暫くするとシオンはモジモジと顔を赤らめながら徐にタカキへと近づくと、耳元に小声で呟くとゆっくりとその細い腕をタカキの首に絡める。
「タッカキィ!私のこと気遣ってくれて嬉しい~」
「当然だろう?シオン…」
「反省会は無しだよぉ」
イチャイチャと砂糖を吐きそうな甘い空気に当てられ目の遣り場に困るラクセル…今日の優勝者は誰なのか自分でも忘れてしまいそうだと苦笑を洩らす。
この空気では自分は異物であるし、シオン様の邪魔にならないよう騎士団の奴らに祝勝会だと誘われた時に、そっちに行っておいた方が良かったかな?等と思わずにはいられない。
早く準備が終わらないかと、甘い空間のなか唯時間が過ぎるのを待つのは剣を振るより大変な行為だと初めて知ったラクセルであった。
「…すごく居づらいんですが;」
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「遅くないか?」
甘い空間に声を掛けるのを躊躇っていたラクセルであるが、余りにも長い待機に疑問を覚え口を開く。
タカキ、シオンもそう言えばといった感じに結構な時間が経っている事に気が付いた様子だ。
ただしシオンはやや不満げに頬を膨らませてはいたが、ラクセルは気が付かない振りをしてスルーする事にした。
「だな2時間近くは経つかな」
「もぅ…準備が大掛かりなのかしら…手伝に行った方が良いかな?」
「(…ぐぁぁぁ)」
シオンが漏らした言葉尻に微かに人の断末魔の様な声が聞こえたような気がして、タカキは扉の方へ駆けだす。
「?どうした!?」
「へ?な、なに?」
外に向かったタカキを追い、ラクセルとシオンも駆けだす。
出入り口に茫然と立ち尽くすタカキに追いついたラクセルが、「どうしたんだ?」と問いながら肩を叩き外の光景を見る。
「こ、これは…いったい」
「…街が燃えてる!」
「急いで街に……ん!?…何か来る!」
タカキが街へと急行しようとした時、頭上からバサバサと羽音を響かせながら長身の男が降りて来る。
スタッとタカキ達の前に着地すると、男は値踏みするように顎に手を当てながら舌舐めずりをする。
浅黒い肌をした男の口からは人としてはやや大きすぎる歯が見え隠れし、先ほどまで使用していたであろう蝙蝠の様な羽は背中へと器用に畳まれて今は見えない。頭部には捻れた角が二本天へと伸びており大凡普通の人間とは思えない風貌である。
「ほぉ、ここにも居たか人間が。ククッここは闘技場みたいだが街の奴らと違って骨がありそうだな」
「魔族か!…お前らが街を!?」
「ありきたりな質問だな…答えは出ているだろうに。まぁこのガスパル様を倒せたら聞きたい事を教えてやるよ、精々楽しませてくれよぉククッ」
「言われるまでもな…」
今にも刀を抜こうとするタカキの前にスッとラクセルは身体を滑り込ますと、刀の柄尻に手のひらをあてながら男を睨みつける。
「ここは俺がやる。タカキはシオン様と城へ」
「ラクセル!」
「大丈夫だ、ここはまかせろ。付き人だろ姫の安全が第一だ」
「わ、わかった。死ぬなよ」
「誰に言ってるんだ」
「ああ、くそイケメンだが腕は俺より上だからな!行こうシオン!」
「え!?ラクセルさんは?」
「ラクセルは大丈夫だ信じよう」
タカキはシオンの手を取ると急ぎ城へと続く街道に向け走りだす。
タカキ達が十分に離れた事を確認したラクセルはガスパルに向けて軽い感じに言葉を発する。
「さてと待たせて悪かったね、本当は綺麗な女性とがいいんだけどな。さぁ、デートといきますか」
「ククッ、強引なのは嫌いじゃ無いが、ちゃんとエスコートしてくれよ?」
グバァ!
両者とも一瞬で間合いを詰めると、激しく打ち合う。死の舞踏会が始まった。
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街にタカキとシオンが着くと、そこには家々が炎に包まれ破壊されてた光景が映し出される。
遠目には判らなかったが道のそこらじゅうに人であったであろう肉片が飛び散り、鉄と、肉が焼かれる匂いが充満している。
シオンは唾液と胃液が一緒に出てきそうになる自分に嫌悪感を覚え、身体が勝手に震えだす事を止められずタカキにしがみ付くことで何とか立っていた。
「いったい何がおきてるの!?」
「分からない。だが、クレセント王国が危ないって事だけは確かだ!」
そう言うとタカキはシオンの肩を強く抱きしめると、次に言い聞かせるよう正面から顔を覗きこみながら口を開く。
「襲われてる人を助けに行って来る。シオンは城に!…城なら隊長がいるし、ラクセルも奴を倒して城に向かうはずだ」
「私、タカキについて行く」
「何が起こるかわからないぞ!覚悟できてるのか?」
「こんな時に言うことじゃないけどタカキと一緒にいたいの!わからないの、でもタカキと居なきゃいけない気がするの!」
シオンの瞳に力が出てきた事に気が付きタカキは意を決した。
「分かったシオン…ダットやプレシア達が心配だ。行ってみよう」
「はい」
ダットの家はこの辺りのはずだ…ここも随分破壊されているな、かつての街並みを想像しながらダット達を探さないと……。
「…ダット!プレシア!」
「タ、タカキ……あそこに…」
「シオン?」
シオンの見てる方向には髪の長い小さな子が倒れてる……
「まさか、プレシア~!」
直ぐに駆け寄ると小さな子を抱きかかえるタカキ。
その腕の中に抱えられたのは確かにプレシアであったが、その愛くるしい青い瞳はくり抜かれたのだろう瞼が異様に窪んで血の黒い塊が出来ており、可愛いぷっくりとした唇も無残に切り取られていた。
息をしてない…かつてプレシアであった肉塊がそこにはあった。
「プレシア!プレシア!くっなんなんだよ……この傷痕…何か鋭いもので何回も刺されたような…くっそぅこんな酷いことを何故…」
少し離れた瓦礫の所から微かにだが、子供うめき声のような音が聞こえる。
「あの声は?」
プレシアをそっと置くと音の方へ歩み寄るタカキ、そこの瓦礫の中に人の気配が……急いで瓦礫を退かすとそこには半分近く焼けただれ、瞳は高熱を浴びたせいか白濁しるダットの姿が……
「ダット!、おいダット!しっかりしろダット!」
「こ・の声・は・・タカ・・にぃ…ダ・メ・だ見え・・ない・や」
「もう喋るなダット!今助けてやる」
「タカ・にぃ・言ったとおり・プレシアを・・守ったん・だぜ……大きい・火・の・玉みた・・いの・飛・んできて・さ・とっさに・プレシアを・安全・・なとこに・・つき押・した・んだ。プ・・プレシアは・大丈夫・だった・ろ・」
「ああ、あぁ、大丈夫だ。気絶してるがな。さすがだな…ダット」
「まぁ・・な・こ、これ・でプレシアも・・・お・・・れ・・の・・・・」
微笑んだのであろうダットは半分爛れた顔を歪ませ息絶えた。
「ひ、酷い」
「ダットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ダット、プレシアの亡骸を一緒横たわせ2人の手をつなぎ合わせるタカキ。
「これでプレシアと一緒だなダット…ダット…プレシア……何なんだよぉぉぉぉ!!」
「ダットちゃん、プレシアちゃん…うぅ」
ドォーン(爆発音)
音ともに城に火の手があがる。
「タカキ…城が」
「なっ、まさか城まで攻め込まれてるのか!?城に向かおうシオン!」
「はい。お父様、お母様どうか…」
城へと向かうタカキとシオン。
数時間前まで笑い合っていた事が夢なのか、今が夢なのか混乱したタカキはさっきまで居た街並みを振り返る。
そこは変わらず鉄と肉の焼ける匂いと小さな子供が手を取り合って寝ている地獄が存在していた。
いよいよ第一章のクライマックスです。
冒険してないって?はい仕様ですから^^;




