熱き想い…そして決意! 11
嗚呼、ヒロインの人格が…
いったい誰?って感じになってます;
『月神闘技祭』
月降祭の3日後に開催される祭りで月の神にクレセントタイトが無事採掘できた事への感謝と、そのクレセントタイトから作られる武具に見合う戦士が王国に在る事を伝える行事である。
参加資格が18歳から25歳ということもあり一般には王国一の若手騎士を決定する祭典として祭り最終日の恒例イベントと認識されている。
闘技祭と言うだけあり、内容は真剣を用いた1対1のトーナメントで、怪我の対応に高位クレリックによる治療が受けられるとはいえ、命を落とす事もある非常に野蛮なイベントである。
娯楽の少ない王国では老若男女が楽しみにしている祭りであり、この時代の人の強さを窺わせる祭典だ。
18歳から参加できることから当然タカキも去年初出場を果たしたが、結果はラクセルにボロ負け。
今年こそはと…暇を見つけては刀を振るう日々だ。
そんなタカキだが月神闘技祭前日となり、これまで協力してくれたシオン達に特訓の成果を見てもらおうと、余り使われていない騎士団のトレーニングルームに集まってもらっていた。
「タカにぃ投げるよ」
ダットは両手に持た林檎を柄に手を当て抜刀体制のタカキに向けポポイっと、やや時間差を付けて二個投げる。
「はぁっ!」
シュッ、ツッ…ポトポト
綺麗な放物線を描いた林檎達に向け、タカキが刀を一閃。
素人のシオン、ダット、プレシアにはタカキが残心を維持ている姿しか分からない。
ただ、林檎が投げる前の姿のまま床に転がっている事だけは見てとれ、何と言って良いのか微妙な沈黙が流れる。
「「「………………ッ」」」
パカッパカッっと幻聴が聞こえるかのようにタカキが残心を解くと同時に林檎が真っ二つに割れる。
「「「お~~」」」
パチパチ
自然と見守っていた三人のから拍手と感嘆の声が上がる。
「ふぅ~、だいぶ使いこなせてきたかな」
「これならラクセルにぃにも勝って、今年こそ優勝だねタカにぃ」
「どうかな、アイツも特訓してるだろうし以前より強くなってるはずだ。こっちが成長できたからといってラクセルを超えたとは限らないさ」
「そっかぁ、タかにぃよりラクセルにぃの方がイケメンだしな~」
ダットよ、なぜそこで容姿の良し悪しを出すかな;
いや、ラクセルがイケメンである事は認めるけどさ、剣の腕とは関係無いんじゃないかな?俺が気にしすぎ?
「ダット!いくらラクセルお兄ちゃんがイケメンだからって、今年のタカキお兄ちゃんは違うんだよ!」
「…えっと、それは二人ともタカキがイケメンじゃないてことが言いたいの?」
おっ、さすがはシオン。ここは2人に男の価値観は顔では無い事を教えてやってください!
タカキの気持ちとは裏腹に、じぃ~っとタカキを見つめるシオン。
何故か変な汗が出るのを感じずにはいられないタカキ。
「…あ、あの、シオン?」
「はぁ、そうね。お世辞にもイケメンとはいえないし…天然ヘタレときたもんだ!」
「シオン様、おいらそこまで言ってないし…」
「シオン様…口調が…」
シ、シオン…ウルトラ、ウルトラ、ウルトラショック!…もう無理、目の前が白くなってき…ST失敗。
「でもね…今年のタカキは違うんだから!私が保証するわ。ねっタカキ…?あ、あら?…タカキ?」
「きっとショックで現実逃避してるんだよ」
「あははは…イケメンとは違うのだよイケメンとは………悲しいけど、俺ってフツメンなのよね…あははは…ダイス目1とか無いわ~…」
「あら;…意外。もろいのねタカキって…」
ダット、プレシアは引き攣った顔で「シオン様って、怖!」と小声で異口同音したのを最後に、タカキの月神闘技祭前日の練習は幕を閉じた。
― 月神闘技祭当日 闘技場控室 ―
昨日の衝撃も朝には癒えてタカキは心身共に充実した状態で闘技祭に挑む事ができた。運がよいのかこれまでの対戦相手は格下ばかりでタカキは刀を使わずとも順調に勝ち進み、問題らしい問題も無く何時の間にやらといった感じに決勝まで駒を進めていた。
正直最初の頃は相手が余りにも緩慢な動きだったので、何かを狙って誘っているのかと警戒し中々攻勢に出られなかったが、小手調べだとばかりに相手の切り返しに十分対応できる軽い一撃を入れてみたところ綺麗に入ってしまい、攻撃をしたタカキの方が返って焦ってしまうほど簡単に勝負がついてしまった。
殆どの対戦が5合と掛からず決着がついてしまうため、決勝戦となる次の試合まで殆ど体力を使っていない状態であり、今年の『クジ運』の良さにタカキは驚くばかりだった。
実際にはタカキ自身がこの1年で稽古をしてきた相手がサイガやラクセルといった超一流の戦士ばかりであったため自分の強さを把握出来ていない事が原因で齟齬が生じている事に気が付いていないだけであったのだが。
稽古ではラクセルに勝った事が無いからな~奇襲となる策が必要だ。ここまでコイツ(刀)を使わないでいたんだ、やれるはずだ!…せ、せこいかな…んぃゃ戦略、戦略ぅ~。
タカキがそんな事を控室で悶々と考えている所に決勝に出場するタカキとラクセルの様子を見ようとサイガが遣ってくる。
立場上2人の上司でもあり、どちらかに肩入れする事は出来ないが決戦前の様子くらいは見に行っても良かろうと控室に足を運んだのだ。
「いよいよだなタカキ。今更何か考える事があるのか?後は死合だけだろぅ」
「あぁ、親父か…そうだな」
「?何だか感じが変わったな」
「そうかな?いや、そうかも知れない。こいつに出会えたからかな?」
シャァァッ
タカキは刀を抜くと刃に目を固定しながら言葉を続ける。
「ようやく自分に合うものが分かった気がするよ」
「ほぅぉ…なるほどな、次はラクセルの所に顔を出してくるが…まぁ死なない程度に頑張れよ」
「おぅ!」
「まさかな刀を使うとはな、目つきにも迷いが無くなったな…シオン様の御蔭かな、これはひょっとしてかもしれんな」などと顎を摩りながら独り言ちラクセルの控室に向かうサイガと入れ替わる形で侍女服を纏った小柄な女性がタカキの控室に訪れていた。
コンコン
「はい?」
タカキが扉のノックに応えると、怖ず怖ずといった感じに開かれた扉の先にシオンの侍女であるマイが立っていた。
「タカキ様」
「マイ?どうしたの?」
「その、私…お礼を言いそびれていて」
「??…何もしてないと思うけど?」
マイはその小さな両の手が白くなるほど堅く結び、震える声で語りだした。
「いえ、一年前の事です。シオン様を危険な目に合わせ、タカキ様も命にかかわる大怪我を…それなに、私は罰らしい罰もなく…シオン様は前と変りなく接してほしいと仰ってくれましたが、軽蔑されているのでは無いかと怖くて…タカキ様!申し訳ございません」
マイの必死の言葉とは裏腹にタカキは手のひらをヒラヒラとした後、頬を人差し指でポリポリと掻きながらばつが悪そうに応える。
「あ~、あれはあれでよかったと思いますよ」
「でも…」
「マイがあそこで引き止めていたらシオンに恨まれてたかもしれないし、あの事件が無ければ今のシオンには出会えなかったと思うし…逆に感謝してるんだよ」
シオンの笑顔を思い出し、自然と笑みが零れるタカキ。
「そ、そんな////…ありがとうございます。こ、これで失礼します」
「あ、はい。あぁ急ぐと、あ…」
「大丈夫で…きゃっ!」
デ~~ン
タカキに気を取られ入室しようとした女性と衝突してしまうマイ。慌てて立ち上がると、ぶつかった相手に駆け寄り助け起こす。
相手は臀部を摩りながら苦情の声と共に立ち上がると驚いた顔でマイを見る。
「いったぁぁいぃ…何処見てるのよ!…って、マイ?どうしてマイが?」
「シ、シオン様!い、いえ。タ、タカキ様にお礼を言いにき、来ただけで…し、失礼し、しまぁすっ!」
テケケケ~…ドテッ
「きゃふん!」
「あっ、またコケた;」
「マイって、あんなドジっ子だったかしら;…まさかタカキ!浮気してたん?!」
「お、俺が浮気なんて…そんなモテる訳ないじゃんか」
「そうね」
はやっシオンさん納得するのはやっ!
「そう、試合頑張ってねタカキ!」
「おぅ、この刀の御披露目だな。これもジオンのおかげだよ…ありがと」
「////もぉ、でもタカキの役に立てて嬉しい!あっそうそう、ちょっと後ろ向いて」
「うん」
「タカキって髪長いじゃない。だから結んだ方が邪魔にならないでしょ…前から気になってたの…はい、出来上がり!」
飾り紐で確りとタカキの髪を一纏めに結ぶと、出来栄えを確認して頷くシオン。
「ありがとな」
「こっち向いて」
「んっ?!」
「んっ」
「…シオン」
「気合い注入のキスだぞ…これで負けたら承知しないんだから!先に行ってるね」
返事も聞かずに耳まで赤くしたシオンはサッと身を翻すと控室を足早に出ていく。
ありがと…本当に負けられないな!
「よし!決勝戦へ!」
気合いも十分入り颯爽と闘技場へと足を進めるタカキ。
恐れるものは何も無い…得物も無い。
いっけね刀、刀;
締まらない所がタカキクオリティー;
― 闘技場 ―
決勝戦という事もあり会場は超が付くほどの満員で、立ち見の観客が多い。
図らずも去年と同じカードとなり、因縁じみた対決に観客の注目度も自然と上がったのだろう。
闘技場中央には体躯が細い割によく声の通る司会者が関係者と目配せし頷く所が見え、愈々決勝の始まりが近くなった事を窺わせる。
司会者が徐に両手を上げると、会場のざわめきが低くなる。絶妙な間を取って司会が始まった。
「闘技祭も、いよいよ決勝戦です!まずは選手の入場です…皆さまもご存知、前回優勝者…ラクセル ライトォ~!華麗な剣技で今年も優勝して連覇なるか!」
紹介と共に軽い足取りで闘技場に颯爽と現れるラクセル。 観客席をクルリと回る様に笑顔で挨拶をすると、観客席からは黄色い声の嵐が巻き起こる。
「きゃ~ラクセルさまぁ~」
「こっち向いてぇ~」
「きゃ~ステキ~」
判ってはいたものの相変わらずのラクセルの人気に、城内ではかなり元気なメイドーズの面々も気後れしてしまう。
「…相変わらずの人気ね、流石はラクセル様」
「スゴイ人気!…私達もいくわよ!」
アイの気合いの入った号令に頷き合うメイドーズ。
「ラクセル様のラ~」
「ラブリ~のラッ!」
「ラクセル様のク~」
「クールのクッ!」
「ラクセル様のセ~」
「セクシィ~のセッ!」
「ラクセル様のル~」
「ルール無用の格好良さ!」
「ラクセルさまぁ~~~きゃぁ~~~」
しかし何時もなら同じテンションで声を張り上げているマイが幾分調子が悪そうに「ぼぅ~」っとしているのに気が付いたアイが気遣わしげに声を掛けると、マイは今気が付いたとばかりに慌てて苦笑しながら大丈夫だと応える。
「マイ本当に大丈夫?」
「へ?あ、えっと、ラクセル様に見とれちゃってただけだから」
「そっかぁ」
何となく釈然としないアイだが、そんな時もあるかと納得してラクセルへと声援を送ることにした。
そんな中、収まらない観客の黄色い声援の合間を貫くように、これまた絶妙なタイミングで対戦者の紹介をする司会者。流石プロである。
「前回準優勝者であり、今大会の注目株!果たしてリベンジなるか!タカキ・シノサトォ!」
ダットとプレシアも立ち上がり声を上げる。
「タカにぃ!いてこませ~!」
「タカキお兄ちゃん!ファイト~」
ラクセルの声援とは違い大部分が野太い声の声援で、中には「イケメン潰せ~」とか私怨混じりの物が沢山あるのはご愛敬といった所だ。
そんな声援を受ける前まで散々後ろからラクセルの為の黄色い声援を聞かされたシオンは特別席でやや憤慨しながらタカキが出て来るのを今か今かとまっていた。
「…あの子達はもぉ!私も全力でいくんだから!」等とシオンが小声ながら対抗している様を横にいるレイナはニヤニヤしながら窺っていると丁度タカキが入場してきたようだ。
「タッカキィ優勝よ愛してる~」
精一杯声を出しているシオンだが、殆ど野太い声援に掻き消されている。その様がまた面白いのかレイナは込み上がる笑いを抑えるのに忙しい。
「…タカキ様。頑張って下さい…」
瞬間的に声援が低くなった所で聞こえた声に驚き、その声のした方へと視線を向けるシオンとメイドーズ。
視線の先にはマイが胸元に両手を重ね闘技場を真剣な眼差しで観ていたが、マイは皆の視線が自分に集中している事に気が付くと自分が発した言葉を思い出し何故か慌てだす。
「「「えっ………」」」
「あっ、こ、これは別に…きゃふん…」
そんな小さな事件?が起きていた直ぐ傍で、もう一つの小さな事件(当人にとっては大きな事件)が発生していた。
「なんだ?タカキの剣…見た事無い型だな…」それは観客の一人が発したこんな言葉と重なるように、特別席の中央部で起きていた。
「あーーー!あれ、ワシのお気に入りの!なぜあやつが持ってるのだ?何故!なぜだ!」
「うっさいわよ!シオンがタカキに必要だからって…私が許可したわ」
ぶわぁぁぁ(泣き出すフォール)
「酷いぞ酷いぞ!あれはワシのお気に入りなんだぞ!お気に入りなんだぞ!!(大事なことなので二回言ってみた)」
「諦めなさい!!あなたが持ってても宝の持ち腐れよ!」
STデスレイ失敗。
「…そんぬあぁ、うぅ」
観客席で起きた事件を置き去りに、愈々試合が始まろうとしていた。
司会者が2人の間に立ち、お互いの試合開始の了解をとる。
「…そろそろ試合開始です。飛び道具、魔法武具の使用は禁止です、宜しいですね」
どちらともなく了承する。
「タカキ!取って置きって感じだな」
「ああ、驚くなよ?」
「そっちこそ…僕もさらに磨きをかけたんだぜ!」
シャァーーン(剣を抜く)
陽光に輝く剣。
ただ抜剣しただけだというのに、その隙の無い様は観る者を酔わせる魔力でもあるかのようだ。
「ああ感じるよ、腕をあげたのは…」
タカキはそう答えると抜刀せずに、身体を捻り窮屈とも見える格好で構える。
「初め!」
司会者が両手をクロスさせ試合開始を告げるが、両者とも直ぐには動かず数秒間は何の変化も無く過ぎていった。
武器を抜かない?そしてあの構え…警戒したほうが良いか…ラクセルはタカキの構えを警戒しつつジリジリと間合いを詰める。
後あと一歩で自身の射程圏内に入ろうとしたその瞬間、タカキの全身から発せられる何かに気が付き咄嗟に右手の剣を上げた。
ビシュッ!キュキィィィィィン
その一閃はまさに迅雷!
深く踏み込んだ居合いの一撃。
「くっ!はやい!」
とっさに剣で受け止める事が出来たが、ラクセルは背中に冷たいものが流れるのを感じずには居られなかった。
「自信あったのにな。流石はラクセル!」
「反応が少しでも遅れてたら危なかったよ、やるねタカキ」
初撃の速さに観客席からざわめきが起こる、さっきまで煩いくらいの黄色い歓声も場に呑まれたのか小さくになっていた。
「今の早かったよな」
「あっという間だった!」
「見ろよラクセルの頬から血が」
「お~!」
業に対する感嘆の声と、ラクセルの負傷に対する黄色い悲鳴が客席から発せられる。
違和感に気付き頬に触れるラクセル。
浅く頬が切れている事に気が付き親友の腕が去年とは別物である事を改めて認識する。
「受け止めたはずだけど…剣圧か、やっかいだね…」
「まだまだいくぜ! ラクセルッ!!」
次でタカキVSラクセルは決着~
戦闘シーンってどう書いたら良いんだろうね;




