【#084《都市・クレイシス》】
【午前、イグナシル開拓地、イシス街道】
「キリヤ君がゴーレムを操る術者だったなんてね……流石に驚いたわ」
イグナシル開拓地からクレイシスへ出る為に、イシス街道を馬車で移動していた。
その道中に俺と舞は、キリヤとの一件を魅紅に報告していた。
「にしても、只者じゃないわね……あれほどの錬金をするなんて、並の魔力じゃ出来ないわよ」
「だよね。それこそ大魔導師クラスの魔力保持者じゃないと、あそこまで錬金術を多様するなんて不可能だよ」
魅紅と舞がそう言うのも頷ける。
キリヤが去ってから間も無く、ヤドリ村は砂のようになって崩壊していった。
家や家具等その全てが錬金術で造られた偽物だったみたいで、最後はただのさら地になっていた。
そして魅紅から聞いた話だと、湖へ逃げてきた村人十数名も錬金術によって造られていて、しかも急にゴーレムへと姿を変えて襲ってきたらしい。
結果、村をまるまる一つ造り出した上に、二十近いゴーレムを同時に操っていたと言うことになる訳だが、まだアルカティアの知識に疎い俺でも分かる。
キリヤの魔力量は桁が違う。
「そう言えば10体以上のゴーレムをどうやって倒して来たんだ?」
ゴーレムは一体一体が一筋縄では行かない強さを持っていた。
見た目通りの破壊力、見た目に反した機動力、苦労してやっと倒せるあのゴーレムを、魅紅はどうやって10数体のゴーレムを一人で倒して来たのだろうか。
「あ~……えーと、言わなきゃ駄目……?」
「……」
何だ……? 今一瞬だったが魅紅の表情が強張ったような。
言いたくない事情があるのか?
だとしたら無理に聞くべきではないよな。
「いや、大丈夫。言っても良いと思ったら教えてくれ」
「え……?」
「“え?”って何?」
「まさか“いい”って言われるとは思わなかったから……」
「だって聞かれたくなかったんだろ? 親しき仲にも礼儀ありだ」
「……そう」
そっぽ向いてしまった。
……あれ? 俺、間違ったこと言ったか?
顔を前へ向けてしまったから、荷台に乗っている俺からは様子が確認出来ない。
怒ってるのか?怒らせてしまったのか?
(……やっぱり良夜って変わってるわね……普通は天塚の人間のことなら、些細なことでも聞き出して来るのだけど、この人は違う……)
「どうした、魅紅」
「え?え? 何が!?」
「いや、いま笑ってたような気がしたから」
「そ、そんなことないわ!気のせいよ!」
「そ、そうか……」
やはり怒っているのだろうか……、顔を一切向けてくれなかった……。
これ以上は、機嫌を損ねるような発言はしないようにしないとな。焼かれる。
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良夜達がヤドリ村があった地を馬車で出発してより三時間後、イグナシル水湖に一人の少女がやってきた。
白衣で身を包み、顔は帽子で見えなくなっていて、何もない開拓地の中心にある地にも関わらず荷物の一切が無く、また連れすらも居ない不可思議な少女だった。
「ふむ、ここが呪力の発信源か」
少女は目の前に広がる風景を見ていた。地面どころか湖までもが消滅し、巨大なクレーターが出来上がっている異様な風景を。
「思った以上に凄いな。半径100M四方に渡って、全てのものが焼滅させられている」
地面や木々だけではなく、湖すらも消し飛ばしてしまう力に、少女は惹かれているようだった。
「噂には聞いていたが、天塚一族の異常能力がこれ程までとは。 ボクの探求心がそそられてしまうじゃないか」
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クレイシスに着いた。ヤドリ村から馬車で五時間掛かったが、やっとたどり着いた。
改めて思うが、アルカティアの建築物って地球に似ているんだよな。
ここクレイシスだって、ちょっと昔のロンドンみたいな感じだし、違うと言えば所々に浮かんでいる家とか、変わった形の時計塔があるくらいだ。
「あの時計塔の円盤って魔法陣か?」
「そうみたいだね……微かにだけど魔力を感じるし」
「どういう効果のある魔法陣かは分からない感じか」
「ごめんね、余り外の世界に触れた事が無かったから……」
「いや、仕方ない。俺にだって地球の全てを知っている訳じゃないからな。個人レベルじゃ俺もお前も大差ない……パソコンも持って無かったし」
(これって、励まして……くれているのかな?)
「あれは魔力増幅装置よ」
後ろから魅紅が答えを出してくれた。
「馬車、預けてこれたのか?」
「ええ。今回は街に滞在するから、馬の世話をしてくれる所に預けて来たわ。朝昼夜食事つきに一日二回のブラッシングまでしてくれるそうよ」
「因みにおいくら……?」
「1泊15000セル」
「馬の癖に……!」
アルカティアへ来てから、通過の事を調べてわかった事がある。
単位は日本の円と同じだ。こちらで15000セルと言えば、日本でも15000円と言うことなる。
だから馬の預け賃が15000セルと言うのは破格なのである。つうか、流石はお姫様!
「そう言えば話を戻すが、魔力増幅装置って何をやるために造ったんだ?」
「うーん、そうねー。説明するのは簡単だけど、この街の名物みたいなものだし、夜になったらまた話すわね!」
人差し指を立てて、軽快に笑顔を向けてくるが……気になる。とりあえず俺と舞は、夜を待つことにした。
「さて、宿を確保して情報管理局へ向かうわよ!」
「ああ」
「何だか元気だね、魅紅ちゃん」
「本当にな」
次回へ続く!!




