【#080《八卦無天流と霊装》】
【深夜、イグナシル開拓地・ヤドリ村】
良夜はリミット1分と言う短い時間を、更に30秒と言う目標でゴーレム三体を倒すといって10秒が経過していた。
「舞!風を頼む!」
「うん!ちょっと待って」
舞は風をイメージし、それをエレメントとして掴む。
緑色のエレメントが放たれ、風が吹き荒れる。
良夜はその風に乗った。勢いを借りて、ゴーレムの間合いへと入り込むと同時に両手から衝撃波のみを放つ。舞の風も加わり、その威力は更に上がる。
「八卦無天流・飛牙蒼天撃!」
その衝撃波はゴーレムの腹を抉った。
そのまま腹を抉られたゴーレムは、機能を完全に停止した。
今度は足に力を込めて、向かい来るゴーレムへ手をつき出す。
「よ、避けないんですか良夜さん!?」
「あの巨体を迎え討つ気みたいだね……(すごい……1分は大丈夫と言っても軽い目眩や吐き気はする筈なのに、霊力が魔力を抑えて安定させている)」
舞は子供の頃からエレメントや魔力と言った目に見えない力を見ることが出来る眼を持っていた。
その眼に映る良夜の霊力は、異質な魔力を完全に抑え込み、地球にいた時並みの霊源結界“霊装”を展開していた。
良夜は霊力を地面と足に集中させていた。
(半分の霊力を足と大地への固定に集中……そして、残り半分を右手へと集中……)
そしてゴーレムが良夜の掌に触れた。それも、その手ごと叩き潰そうとするかのように、ゴーレムの拳が。
「触れたな」
良夜はボソッと呟いた。
「八卦無天流奥義・無天抜き」
瞬間、ゴーレムの拳が砕けた。それどころか、崩壊は止まらず勢いのまま顔と胴体縦半分まで砕けてしまった。
「動きもせずゴーレムを打ち壊した……」
キリヤが驚く。それは舞もだが、それ以上に今のゴーレムに違和感を感じていた。
(いま一瞬だけど、良夜くんに攻撃する直前、魔力の流れが変わったような気がしたんだけど……気のせいだったのかな……)
「体半分か……やっぱり無天抜きシリーズは八剄が難しいな……(そもそも相手の勢いも利用する技だから、ゴーレム程度の速度じゃ威力も万全に発揮されないか)」
宣言した30秒まで残り5秒となり、若干高く出すぎたかと後悔した。
更に最後の一体がなぜか逃げようとしていて、良夜は早々に決着を付けようと追い掛けた。
「マズッ!逃げられたら、全力戦闘可能時間が過ぎちまう……!」
その焦りが隙を生んだ。いや、最初からこの箇所には隙があったのかもしれない。
誰もが想像出来ず、注意を向けていなかった。
トスッと背後から突き刺さる鋼の刃。良夜のわき腹を貫いていた。
「ぐぁっ!」
「良夜くん!?」
考えてみればおかしかったんだ。
この村に入った時に気付くべきだったんだ。
なぜ迎え出たのがキリヤ一人なのか?
他の村人は何をしているのか?
なぜキリヤは一人暮らしで村と少し離れた位置に住んでいるのか?
火事の際、家を訪ねたのが村人一人だけで、そのあと湖に通じる道の筈なのに、誰も通らなかったのか?
火事なのに村人の悲鳴等がしなかったのか?
なぜキリヤは最初ゴーレムに飛び掛かっていったのに、俺達が来たらいきなりおとなしくなったのか?
それにあの修羅の眼……あの眼には殺気がなかったか?
「油断大敵……ですよ?良夜さん」
「まんまと……ハメられた訳かよ……キリヤ……!」
良夜は背後から鋼の刃を突き立てているキリヤを睨み、痛みで膝を付いてしまう。
「舞さーん腹部裂傷、致命傷は与えてないけどほっとけば出血で死んじゃうよ?彼」
「そんな……!」
舞は急いで良夜の元へ駆け寄った。
「……っ……!」
(出血がひどい……確かに重要器官に損傷はないけど、斬り口が鋭利すぎる!これじゃ、自己再生が始まらず出血が止まらない……!)
「ちょっと待っててね!直ぐに手当てするから!」
舞は自分の右袖を切って、包帯代わりとして手当てを始める。
「ゴーレム、奴等を踏み潰しちゃえ」
その指示と共に、さっき逃げ出したゴーレムが舞と良夜の元へ近付いてくる。
「う……」
「舞……にげろ……」
「そんな……!良夜くんを置いて逃げるわけないよ!」
「この……ままじゃ……お前もやられる……」
「そんなことないよ……!その内、魅紅ちゃんも来てくれるし、大丈夫だよ!」
「ああ、焔の姫さんなら来れないと思うな~」
「え……?」
「キリヤぁ……! 何でこんなことを……!」
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魅紅は血の気が引くと言う事を、実感で思い知らされていた。
「ちょっと、こんなの聞いてないわよ……」
魅紅を取り囲む10体のゴーレム。それもさっき倒したやつより大きかった。
「逃げてきた村人がゴーレムに化けるなんてー!」
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キリヤは醜悪な笑みを浮かべていた。
「きひっ!さあ戦おう! 僕を飽きさせないでね?」
次回へ続く!!