【#078《ヤドリ村への襲撃》】
【深夜、イグナシル開拓地・ヤドリ村・キリヤ宅】
「良夜!何が起きてるの!?」
「わからない……だが、奴等が来たらしい」
良夜はどこか遠くを見てるような、死んだ魚のような眼で答えた。
それに反して、事情を詳しく知らない魅紅は普通の反応を取る。
「奴等!?奴等って誰!?」
そんな言葉に良夜の中で何かが切れた。
「普通そうだよな!その反応は正しいよ!よく漫画やアニメでは、何かトラブルが起きると“奴等”って表現するけど、実際言われてみると曖昧過ぎて分からねぇよ!ちくしょー!」
「りょ、良夜が何に憤っているのか分からないけど、私達も移動した方が良さそうじゃないのかしら!?」
「ああ、そうだな……奴等が来ちまうもんな……」
「どうしたの? 何だか騒がしくて目が覚めちゃったよ~」
半寝ぼけ状態の舞と、わりと目が覚めている様子のキリヤかま自宅から出てくる。
奴等が何かは分からないが、火事がこちらへ拡大してくる可能性もある。
とりあえずは、全員で逃げようと考える。
「良夜さん……僕は大丈夫です!皆さんを連れて、この通りを抜けた先にある大通りを左へ真っ直ぐ向かって下さい!馬車でしたら半日ほどで都市へ着けると思います!」
「教えてくれるのは有難いが、キリヤはどうすんだ!?」
「僕は……村の皆を助けに行きます!」
「それなら私達もいくわ!」
「うん!一宿一晩のお礼もしたいし!」
「駄目です! 奴等が来たんですよね……。でしたら、僕は行かないといけないんです……!皆さんを巻き込みたくない!」
キリヤには有無も言わせない迫力があった。直ぐにキリヤは火事が起きている村の中心へと向かった。
良夜は直ぐに気付いた。
キリヤの瞳に宿る意思は怒り……そして、悲しみだった。そういう眼をした人間を他にも知っている。復讐者のものだ。今まで信じていた者に裏切られ、その悲しみと怒りで相手を殺そうとする者の眼。
(その先は、修羅の道だぞ……!)
━━━かつて俺が歩みかけた道。一度、修羅に呑まれれば引き返すのは困難だ。
『大丈夫です。私がついています。例え修羅の道を歩もうとも、私が良夜君の道標となり、必ず正しい道へと引き返させてあげます。だから、堕ちないで』
━━━そんな言葉を思い出す。あの時の俺には、道標となってくれる者がいた。だけど、今のキリヤには……。
「魅紅、舞……話がある」
「「うん」」
二人とも良夜の話を素直に聞いてくれた。
キリヤを助ける。だが、奴等と言う存在が気になる。ともなれば、戦闘にもなるだろう。だからこそ、キリヤの今の状態の事。それが過去に自分が陥っていた危険な状態であることを、この二人には知っていて貰いたかった。
その結果━━━俺が忌み嫌われる様なことになっても。
その覚悟の上で良夜は話した。
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村の中心まで駈けてきたキリヤが見たのは、火に包まれる村と住民達の姿だった。
それだけではない。ズシン!と大地を揺らす足音を起てて、住民を踏み潰し、握りしめ、惨殺の限りを尽くす巨大な人間━━━否、鋼人形が村を蹂躙していたのだ。
「そん……な……」
更に足音は続く。
「うそ……今までは一体だったのに……」
村を破壊し、人を惨殺していた鋼人形は一体だけではなかった。その数は三体。住民は抵抗することも出来ず、逃げ回るしか出来なかった。
「三体もいたら村の自警団じゃ敵わない……」
村人はキリヤにわき目も振らずに逃げていく。まるで統一されていなく、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃亡していた。その中に立ち尽くす事しか出来ないキリヤは、当然浮いていた。
ズシン!ズシン!
大地を揺らす足音を起てながら鋼人形は近付いてくる。
「うっ!」
ビクビクしながら、固まって動けない。そこを鋼人形は巨大な拳を打ち込んできた。
「うわああああ!」
「キリヤぁぁぁあ!」
鋼人形の拳を良夜が羅生で完全に防いでいた。
「間に合ったみたいだな……!」
「良夜さん……!? どうして戻って来ちゃったんですか!」
一発で壊し切れないと判断した鋼人形は、残り二体も近付いてくる。
三体同時に攻撃をしようとしていた。
まさか、知能があるのかとも考えたが、もう一つの結論が出た。人形を操っている術者が近くにいる。
良夜はそれが有力だと思った。いくら、絶対の強度を誇る羅生でも、術者である良夜がまだ魔力と霊力の調和が出来ていなく、長い時間結界を保つ事が出来ない。
そこをあの質量で何度も攻撃されたら、5分と持たず破られる。
「キリヤ、お前を助けに来た。まあ、なんつーか……泊めて貰った恩返しだとでも思ってくれ」
「そんな……僕は何も……」
キリヤはふと気付く。村を焼いていた火がみるみる消えていく。
「どうなってるの……雨が降ってる訳でもないのに……」
「いや、これは俺も驚きなんだがな……コレ、魅紅がやってるんだよ」
「火を消すのを!?」
「どうやら、魅紅は火性質の魔法を全て操れるみたいでな。今も村に広がる火を一手に集めてるみたいだ」
「……すごい」
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湖では、逃げてきた村人が何名かいて、彼らは異様な光景を前に驚嘆していた。
(周囲の炎を手元へ引き寄せるイメージ……この感覚ね)
魅紅の両手に村の火が集まりだし、巨大な炎球が作られていた。
ただし、この技術には膨大な集中力を要するため、汗が止まらず魔力も消費していった。
(これで全ての炎を集め終えた!)
「舞!これで村の火は消えたわ!救助に行ってあげて!私はこの炎球を消してから向かうから!」
「うん!」
次回へ続く!!