【#074《夜魅の鋼使い“金剛地”》】
「ここは私がやるわ!良夜は舞を守って!」
「大丈夫か!?俺がやった方が」
「駄目よ!まだエレクシアを飲んでから1日、効果が出てくるのは3日以上飲み続けてから。でしょ?」
魅紅は舞に聞く。エレクシアを調合したのは舞だ。その効果も効き目の具合も理解している。
「うん。少なくてもあと2日は飲み続けないと、体内の霊力と外から取り込む魔力が調和されない……」
「うぐ……」
「と、言うことで私に任せて!」
「グォォォォオ!」
鋼人形がパンチを放ってくるが、魅紅は難なく交わした。
「そんな大雑把な攻撃当たらないわよ。はぁ!」
避けたついでに鎌であるデュゴスを奮っている辺りに、抜け目の無さを感じる良夜だった。
だが、ガキィと火花を散らしただけで、鋼人形の体に傷をつけることは出来なかった。
「硬い……!」
「マジか……!魅紅の一撃に耐えるなんて!化物か!?」
「言葉にトゲがあるわね……。でも!」
魅紅はダッシュして、鋼人形との距離を詰めて、足元に斬撃を繰り出す。
同じ攻撃ではさっきと同じように、傷を付ける事も出来ずに終わるところなのだが、今度のは違った。
3cm程だが、鋼人形の足に切り傷が入った。
「今度は攻撃が通ったよ!?」
「魅紅のデュゴス……よく見てみ」
舞は言われた通りに魅紅の振るう鎌“デュゴス”を見ると、小さくだが刃の周りの空間が歪んでいた。
「うそ……あれって空間魔法……!?」
「違う。あれは刃に薄皮一枚までに紅炎を纏っているからだ。空間が歪んで見えるのは、熱による蜃気楼だ」
何度も魅紅の紅炎に焼かれてきたから分かるモノだった。
「……あ。(そうだよね……空間魔法って言えば、世界に10個しかない封印魔法だもんね……普通の人が使えるわけがない。国連の総隊長さんぐらいの魔導士じゃないと)」
魅紅は更に速度を上げて、鋼人形に近付く。
(炎圧は充分に事足りている……さっき斬れなかったのは、踏み込みと角度が甘かったから!今度は━━━!)
魅紅は幼い頃より、あらゆる方面の武術師範やハーベルト等に指南を受けてきた。
元来の飲み込みの良さと、天性の才能をハーベルトにより見出だされた魅紅は、それらの特訓を順調にこなしていき、最後には免許皆伝の域までに達している。
戦闘センスや見切りの眼、その学習能力の高さから魅紅は既に鋼人形を斬る算段を解析していた。
「ここ!」
斬!その一撃にて、鋼人形の足は切断された。
バランスを崩された鋼人形は、地面に倒れて大地を揺らした。
「斬って分かったわ!この人形の構成物質は鋼!どおりでデュゴスでも直ぐに斬れない訳よ!」
だからこそ魅紅は詠唱を始めた。
「水よ、天塚の命に従い、突破口を作る為の砲撃となって!“水天突破砲”!」
魅紅の右手から鉄砲水のような高水圧が放たれた。それは鋼人形の胸を射ち、傷こそ付けれてないが、少しずつ水が染み込んでいき、色が変色していく。
「そこ!デュゴス、形態変化槍!」
瞬間、鎌だったデュゴスが形を槍の姿へと変える。
「「か、形が変わるの━━━!!?」」
良夜と舞が共に同じ反応とツッコミを入れていたが、魅紅は華麗に無視して、槍となったデュゴスの切っ先に紅炎を集中させて投擲した。
そして、さっきまでと違って、槍は簡単に鋼人形の胸を貫き、崩壊は小さなヒビから体全体へと広がり砕け散った。
「やった!」
「勝ったな、魅紅!」
舞と良夜が共に喜ぶ。
「いかなる物体でも、一部を除いて、急激な温度の変化は分子運動を起こさせ、脆くする。例え、それが鋼でもね」
魅紅は馬に再び乗馬する。
「さ、集落はすぐそこよ。行きましょ」
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魅紅・良夜・舞は、馬車に乗って移動していくのを見ている者が木陰にいた。
「へぇ、あの人らが支土さんご執心の人間かぁ。焔の姫さんと異世界の不確定能力者、それにもう一人は……知らない女だ。だけど、面白い。少し付き合ってもらおっかな」
夜魅が一人、金剛地が楽しそうに笑っていた。
次回へ続く!!