【#070《空回りする想い》】
大地が揺れる。地震の如く。良夜達はバランスを崩し、地面に膝を付く。
一人だけ真っ直ぐ立つ支土は、からかい気味に良夜を小馬鹿にする。
「ふふ、まるでひれ伏してように見えるよ。不確定能力者、君はどうやってこの状況を打破する?」
「はっ!仲間を先に帰らせたのはこの為って訳かよ……自然現象である地震を起こすなんてとんでもねぇな……ゲームならチートキャラだぜ、てめぇは……くっ!」
強がってはみたものの、やはりまともに立つことが出来ない。
そもそも地震と言う自然が巻き起こす災害の前には、人間は手も足も出ないに決まっていた。
まして良夜は、魔法には疎く自身の能力も完全には把握していない。
そもそも大地が揺れている現象を防ぐ術なんてある筈がなかった。
それは宰や魅紅も同じだった。しかし唯一、その中において行動に移せた者がいる。
「大地の元素よ、収まってー!」
舞だ。舞は両手を地面に当てると、白いエレメントが地面へと流れていき、それは瞬く間に辺り一帯に行き渡った。そして、地震は徐々に収まっていき、やがては震動一つ無くなってしまった。
「や、やった……」
嬉しそうにしている舞だが、その反面良夜達はポカーンとしていた。
「え、えと……ご迷惑でしたか……?」
何か間違ったことをしてしまったから、皆に唖然とされてしまったのかと勘違いした舞は、気まずそうに目線を落とすが、その考え事態が勘違いだった事に気付かされる。
「すげぇ!それがお前の能力なのか!?地震を収めるとか、普通出来ないぞ!助かった!ありがとうな!」
「え?え?あ、あの……」
勢いよく舞の両手を握って、振ってくるからだ。今まで良夜の事を少し怖い人だと思っていた。でも、こんな笑顔を見せ、素直に喜ばれたら良い人なんだなと考えを改める。
「ま、まだ……貴方と話したい事がありますから!前を見て歩む、その先にある楽しい未来……私には実感がありません。貴方の意見を聞きたいんです……っ!」
顔をしっかり見つめていってくる舞、良夜は少し考えた後、優しく舞の頭を撫でてあげた。
「えぅ……あ、あの!」
顔を赤くして、良夜に抗議しようとする。
「そんなことか。実感なんて湧く筈ないだろ?良いか、教えといてやる。何もしないは何も生まれない。それが小さかろうが、大きかろうが何かをやることは、そこに大小の差はあれど必ず前進を生むんだ。前を歩むと言うのはそういう事だ。そして、行動を起こす事はいつか自分の成長となる。楽しい未来、幸せな未来はそうして手に入れて行くものだろう!」
そんな良夜の言葉を聞いて、舞からは涙が流れてきていた。それが舞からか、それとも真美や麻夜なのか……それとも。
魅紅や宰も首を振って微笑んでいる。
心が安らいでいくのを舞は感じていた。だが、それでも不安は残っていた。
あの廡魔襲撃事件以降、今日に至るまで自分なりに努力をしてきた。それでも悲しみは消えなかった。
「でも……前を進んだ先に幸せがなかったら……」
それが本心だった。良夜の言葉は本物だ。それは分かっていた。だけど、今までの苦難や不幸から、そんな未来が想像出来なかった。信じられなかった。
「なら俺が幸せな未来へ導いてやる!これから先、不幸だなんて思わせない。辛いなんて言わせない。一人が不安なら俺と来い!」
良夜が立ち上がって、舞へ手を差しのばす。空の彼方より朝日が昇ってくる。
舞に取って良夜が、今は亡き家族に、明るく輝いて見えていた。
ここまで自分の事を想ってくれているのが嬉しくて、いっそう涙が流れる。
「……ぃ……」
零れ落ちる涙を拭いて、舞は両手の手を掴み取った。
「……っはい!宜しく……お願いします……っ!」
「ああ。これが最初の一歩だ!」
良夜に引っ張られるまま立ち上がる。心が暖かった。真美と麻夜が安心してくれているようにも感じた。
━━━ありがとう、真美お姉ちゃん、麻夜お姉ちゃん。
━━━ありがとう、良夜君。
ゴォッ!
「“羅生”!」
飛んできた何かを良夜は結界で防いだ。
「話も終わった所だし、そろそろ再開しないかい?」
「良いのかよ?お前に魔法は二度も“舞”に防がれてるんだぜ。魅紅や宰も空気封じや地震起こし際無ければ最強だ!」
『……』
魅紅と宰は気恥ずかしそうに照れていた。
「あれ!?何で黙るんだよ!?待てよ!何か言ってくれないと、俺が恥ずかしいだろ!?」
「しょ、しょうがないでしょ!良夜が恥ずかしいこというから……普通最強とか言われないし……」
「うっ!」
「うむぅ……最強を目指してはいたが、最強に見合う実力を持ってないだけに……恥ずかしいな」
「ガチな反応!?」
「わ、私は良いと思います!」
「フォローありがとう!でも敬語は使わなくて良いから!気軽に来てくれ!」
「はい……あ、うん!それじゃ、素直に言うの良いと思うけど、言われた側になって考えると恥ずかしいかも!」
「ぐはっ!気軽過ぎる!言い直さないで欲しかった!」
「ぷっ!あははははははは!」
『?』
突如、支土が大声上げて笑いだした。
「笑うんじゃねぇ!」
「あははは……ごめんごめん。君が打ちのめされているのが可笑しくてさ!」
最早、良夜の顔面は真っ赤だった。
「オーケー。今日は退くとするよ」
「ハァ!?何でだよ!」
「いや、今の君を見ていると笑っちゃいそうでさ!」
だからさと言葉を付け加えた。
「次会うときまでには強くなっていてくれよ。早乙女(笑)くん」
「おい!名前のあとにほくそ笑んだろ!?おい━━━」
言うが早いか、支土は眼を光らせその場から一瞬にして消えた。
「あの野郎━━━!」
(今の光……転移?)
魅紅だけが支土が消えた方法を理解していたが、どうやってその魔法を発動させたのかまでは解らなかった。
次回へ続く!!
読み終えたところで一つ。
今回のサブタイトル。
最後の良夜の恥ずかしいセリフの事を意味しています(笑)
勿論
その他の意味もあると思いますが……?




