【#056《My Memory DaysⅣ》】
魔狼を倒し、三姉妹達が帰宅して来ている頃、家では紗耶香と雅が重い雰囲気で話し合っていた。
「あなた……何か嫌な気配がします」
「縁感知に何か引っ掛かったのか?」
「それが曖昧なんです……確かに存在の縁を感じるのですが、実体を感じられないと言いますか、凄く不思議な感じがします」
「母さんの縁感知は確か、縁をした者・縁を求める者等の存在を認識する先天性能力だったよな?」
「はい。普通なら縁感知した存在なら、姿を直視出来るのですが……」
「直視が出来ないと言うことか?」
「……はい。いくら集中しても、その実体が掴めません」
「怪しいな……。紗耶香の縁感知は本物だ。それでも実体を掴めないとなると……」
「考えられるのは、姿形を持たない存在。そんな存在が有るのは、東大陸国と西陸国郡にも居ないです。必然的に魔大陸に住む魔族と言うことになりますね」
「ああ、それも大物と見て間違いないだろうな」
「行きましょう」
「だな。危険な因子は早めに摘んでおこう」
二人が準備をし出し、娘に置き手紙を書こうとしていると、ちょうど三人は帰ってきた。
「ただいま。あれ?出掛けるの~?」
「真美か。麻夜と舞と留守番していてくれ。ちょいと仕事が入っちまった」
「母さんも行っちゃうの?」
「ええ、今回の相手は、私の縁感知でも完全には認識が出来ませんでした。少し厄介な相手かも知れませんので、屯朶一族長の妻として行きます」
「それじゃ、私も行くよ」
「いいえ、貴女は残って下さい。そして麻夜と舞をしっかり護ってあげて下さい」
「……。わかった。母さんも父さんも気を付けてね」
「おう!」
「はい」
二人は優しく微笑み、それぞれ三姉妹を抱き締めてから家を出た。
「行くか!」
「最速で向かいましょう!」
「だな!」
『跳脚!』
雅と紗耶香は、足元に黄色とピンクのエレメントを集め、そこへ足を置くと、まるでバネのように二人を空へ打ち上げる。
そして、今度は空中にエレメントを集めて、それを踏み台にして空中を移動していった。
その頃、家では両親を見送った姉妹達は、夕食の準備を始めた。
麻夜が料理を作り、真美が盛り付けをし、舞が食事を机まで運ぶと言った感じに、見事に連携が取れていた。
「お母さんとお父さんがいないのはさみしいね」
「舞……」
麻夜はどこか哀しそうな表情の舞が心配になっていた。
「でも母さんの縁感知でも認識出来ないなんて……なんか胸騒ぎがするよ」
真美の言葉に舞が疑問を問い掛けてきた。
「真美おねーちゃん、えんかんちってなーに?」
「え?ウ~ン……なんて言ったら良いのかな~(舞もさっき狼の存在を認識したのがそうなんだけど……屯朶でもほんの極一部しか使えない縁感知は、私にも良く分からないんだよね~)」
悩んだ末、真美は大雑把に説明することにした。
「縁感知って言うのはね、目に見えない遠くにいる生物を感じる事なんだよ。“あ、向こうに人がいる”みたいな感じで!」
「それじゃっ!お母さんとお父さんが行った先に誰かが居るんだね!」
「そういう事になるね!」
「試してみる!」
「えぇ!?舞には無理じゃ……(縁感知を自在に使えるようになった訳じゃないし……)」
「姉さん……」
「どうしたの、麻夜?」
麻夜が驚いた様子で、舞の方へ指を向ける。真美も舞の方を向くと、驚愕した。
舞の両目が白い光を放っていたのだ。
「あれはエレメントの光……ですよね」
「そう……だね。しかも、かなりのエレメントを両目のみに異常に集中させている……あそこまでコントロールするのに、三年は掛かったのに……」
「私なんか……未だに出来ません……」
真美は心底驚いた感じだったが、麻夜は何かに焦るような表情を浮かべていた。
真美も麻夜の様子には気付いていたし、その理由も何となくわかってはいたが、下手な励ましは相手を傷付けると思い、見てみぬふりをしていた。
「見えた!」
舞が両親が跳んだ方向に指を向ける。
「うそ!?何が見える!?」
麻夜はズキンと胸が痛かった。
「えと……村の人たちがいる……でもなんか、みんな怖そうな顔をしている……」
「やっぱり何が強力な存在が……他には何が見える?」
「他には……」
舞の瞳に、更なる白い光が満ちる。
「……いた……でも人じゃない……なに……あれ……?」
「な、何が見えたのですか!?」
普段大人しめの麻夜が声をあらげて聞いてきたものだから、舞や真美もびっくりしていた。舞は細かく、その特徴を答える。
「よろいみたいな体で、しっぽみたいなのが三本あって、目が3つ……ひ!?いやぁ!」
突如、舞が頭を抱えて、踞ってしまった。
「見てた……おでこにある目がわたしのことを見てた!いやぁ!怖い!」
「お、落ち着いて下さい……(お母さんの縁感知で捕らえられなかった存在を舞は捕らえたって事ですよね……っう!)」
また胸が痛くなった。
だが、様子がおかしくなったのは麻夜や舞だけではなかった。あの真美ですら様子が変わっていた。
「三本の尻尾に三つ目の人外な姿……それって、もしかして……でも、奴がこの世に存在している筈は……」
「姉さん……?」
次回へ続く!!




