【#039《屯朶の村の異常》】
「屯朶の生き残りか……」
良夜は複雑な気持ちで、さっきハーベルトに聞いた屯朶一族について思い返していた。
医療の町メティア(屯朶の里)は、ほとんどが木などで建築されていて、少し文化が遅れた集落のような所だと聞いた。
人口はおよそ50~60で、その内の2割が屯朶一族の人間だったらしい。なぜ、御三家に連なる程の一族が僅か十数名しか居なかったのか。
それは今より30年前に行われた魔族総討作戦(通称、魔討戦争)による被害のせいだった。
今でこそ魔族は成りを潜めているが、30年前は魔族による人間の犠牲が酷かった。このままでは、安心した生活を送れないと、3つの強大な力を有した一族が決起した。
それが天塚一族・屯朶一族・日之影一族だった。他にも強大な一族は存在したが、彼らは不干渉を示した。しかし、決起した御三家は、アルカティアにおいても特有な能力を持った最強の一角であった為、総合実力的に魔軍を相手にも引けを取らない戦力となった。
当時の魔族が造り上げた大組織、魔界獣志団30万の兵力に対して、こちら側は御三家300名及び各国の兵士が同盟して造り上げた大組織、国際連合軍5万における戦争が始まった。
その戦争は人間側の勝利で幕を下ろしたが、被害は尋常ではなかった。5万もいた国連兵士は4000名しか生き残らず、一人一人がAランク以上の魔導士である御三家の面々も、180名しか生き残れなかった。
その中でも取り分け被害の大きかったのが、屯朶一族だった。御三家の中で、元々数の少なかった一族が魔討戦争によって極限まで減ってしまったのである。
しかし、そんな犠牲の甲斐もあってか、圧倒的な数の差にも関わらず、魔軍を全滅へ追い込む事に成功し、それからの30年間はアルカティアに平和が訪れた。
(最早、英雄だよな。相当なオーラを纏っているに違いない、何せ俺に武を教えてくれた先生も威圧感が半端じゃなかったからな)
良夜はふと頭に乗っている小竜(変身魔法によって変化しているドラゴン)、リューネが気になった。
(何だか変だな……。出発した当初は、テンション高く鳴いていたのに、メティアへ近付くに連れて大人しくなっている。しかも、僅かだが足が振るえている?)
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それから歩くこと15分、良夜達一向はメティアの入り口についた。
側には「医療の町メティアへようこそ!」と書かれた看板がある。
「にしても、この町もまた日本に似ているな……」
良夜はメティアの町並みを見渡すと、改めてアルカティアと地球の微妙な差に驚かされた。
当初の良夜に取っての異世界とは、ゲームに出るような島や岩が浮いていたり、月のような巨大な惑星が何個もあったり、空が虹色鮮やかだったり、もっとファンタチックなイメージを持っていたりしていたのだが、実際こうしてアルカティアを歩き観察していくとそれらのような非現実的な世界ではないと分かった。
朝になれば太陽が見え、夜になれば星空の中にひとしきり輝く月があり、時間の進み具合も地球と全く一緒で、空だけ見ていると異世界とは思えなかった。
「まあ、それも魔法やら魔力といったモノが無ければ……だが」
「? 何か言った、良夜?」
良夜の無意識な一人言に、魅紅が反応した。良夜は(口に出てたか……)と自重して、「いや、何でもない」と魅紅に気を遣わせないようにはぐらかした。
「すまない、ちょっと良いか?」
宰が良夜と魅紅に質問をしてくる。
「どうした?」
「何かあったの?」
「それが、カイの奴がいつの間にかに居なくなっていてだな……」
「……俺、始めてだ……言葉で沈黙するなら分かるけど、まさか存在までも【……】になる奴は」
「て言うか、これだけの魔導士がいて誰にも気付かれずに居なくなるなんて、ある意味凄いわ」
二人の反応は半分諦め・半分呆れの含まれた声色だった。
宰の横で溜め息をしたリュウが、やれやれと言った感じで宰に声をかけた。
「俺が探してくる」
「リュウ、頼んで良いか?」
「仕方無い。消去法で俺しか居ないから」
『ちょっと待った!』
と、ユウ・シン・ケイが口を挟んできた。特にシンがむきになって反論してくる。
「おいおい、消去法ってなんだよ!?まるで俺らが使えないみたいじゃねぇか」
そんな反論に、リュウはシン・ユウ・ケイと順番に指差していく。
「S級の嫌われ者と」
「のっけから罵倒か!?」
「S級の方向音痴と」
「そ、そんなことないヨ?」
「S級のサボり魔に任せられないよな、うん」
「サボってないよ」
(一人だけ真顔で否定してきた……でも、伊座波はそういうタイプじゃないよな)
良夜も流石にケイが、何かをサボるなんてしないだろうと思った。
何せ、彼は真面目で優しいからだ。それは何度かの会話などをして判断したから思える事だった。
そう、あの発言を聞くまでは信じて疑わなかった。
「サボりではなく休息だ!戦士にとって体力温存は貴重!故にオレは休息を取るわけである!フッ、ただ普通の奴よりは休息が三倍増しで多いだけのこと……そんな些細な事は気にするな!」
「なぜドヤ顔!?三倍増しは些細な域を越えてねぇ!?」
「おぉ? まさか、良夜ッチにツッコまれるとは思わなかったな」
「うるせぇ!俺の信用返せぇ!」
なぜかケイ達のノリに乗せられている良夜だった。
魅紅・ハーベルト・宰は呆れて、さっさとメティア━━━屯朶の村へ入って行った。
「おかしいわね……」
「確かに。てっきり結界でも張られているのかと思ったのですが」
「隠密の魔法を使っているのか」
魅紅・ハーベルト・宰は、共感な疑問を抱く。その三人の様子に気付いた良夜は、屯朶の村へと入る。
「どうした……?つうか、いくら人口が少ないからって、ここまで誰も出歩かないものなのか?人っ子一人居ないじゃねぇか」
「出歩いていないどころか、気配すらないのよ……」
「気配すら!?」
「我々の魔力感知でも感じ取れないと言うことは、本当に誰も居ないのか、または強力な隠密魔法を使って隠れているのか……どちらかですね」
ハーベルトが告げる。
居ないにせよ、隠れているにせよ、厄介な事態になったと良夜も分かり始めていた。
『to be continued』
オマケ
良夜が屯朶の村へ入って行った後、ケイ達はそんな事態にも気付かず未だ言い合いを続けていた。
「よぉし!分かった!誰が一番サボ━━━カイを迎えに行くか勝負で決めようじゃないか!」
「いやサボカイってなんだし」
「ならジャンケンだね!伊座波君!」
「いや子供じゃあるまいし」
「それじゃあ、あっちむいてバキッで!」
この時、たまたま声を聞き取った良夜が「バキッ!?こっち(アルカティア)では“ほいっ”じゃなくて“バキッ”なのか!?」と、心の中でツッコんだ。
「それもっと幼くなってるし」
「それより俺、S級の嫌われ者なのか?マジなのか?」
「もういい。やはり予定通り僕が行く」
「待つんだ、倉崎君!ここはボクが方向音痴でも迷わないと実証する為に任せてくれないかな?」
「言葉に矛盾があるの気付いているか!?」
「渕垣君にツッコまれた……!S級の嫌われ者の癖に!」
「そろそろ泣くよ!?俺!」
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「ねぇ、宰……彼らミディアムかウェルダン、どちらが良いかしら?」
「焦がしやすいように細切れにしてやろう」
宰は刀を抜き、魅紅は右手から紅炎を出した。
【いろいろと完】
どもども、焔伽 蒼です!
遅くなってしまいました。インフルエンザ……陰湿で人を振り回す怨み甚だしいTHEウイルスと僕は呼んでいます!今日から!
皆さんもお気を付けください!奴らを見かけたら即座に殺りましょう!一度体内に入られたら、奴らは人の体で優雅快適な無断宿泊しやがるので遠慮はいりません!
そして20日以上遅れたのは、インフルはあまり関係ありません!すいません。




