【#037《出発!ミイシャとの別れ》】
朝10時00分、良夜達はラ・フェイスの正面入口の前へ集まっていた。
そこにはラ・フェイスより高いドラゴンや、ラ・フェイスの使用人兼看板娘のミイシャもいる。女将は仕事で早朝から出ている為、見送りには来てないが、変わりにおにぎりが1人二個ずつ用意されていて、皆は有り難く朝食として頂いた。
「準備は整ったわね」
「うむ、我々は元より持ち物等ないからな」
「俺も何もないな」
魅紅の質問に、宰と良夜が答えた。宰達は賞金稼ぎなので特に持ち物等はなく、良夜も強制転移で来た為持ち物等あるはずがなかった。
唯一持っている者と言うと、ポケットに入っているものだけで、良夜は手に取って確認する。
「それは何なの?」
良夜がポケットから取り出したのを見て、魅紅が疑問の声を上げる。
「ん?iPhoneだが」
「あいほん……?」
魅紅は初めて見る道具に「? ?」と顔を傾げる。
「え……iPhoneしらないの?携帯だぞ?」
良夜に取って誰もが当たり前のように持っている携帯やiPhoneを、まるで知らないように言う魅紅に驚愕した。
聞き間違いかと、再度聞き直そうとした所、魅紅から「けえたいって何?」と付け足されるものだから、本当に知らないと言う事が確定された。
ちなみに携帯の存在を知らないのは魅紅だけではない。二人の話を聞いて携帯を確認した闇裂く光のメンバーやミイシャ、ハーベルトまでが初めて見たような反応を取る。
「マジか……、この世界って科学遅れてるのか」
良夜の中で推測出来たのは、このアルカティアと言う世界が地球に比べて科学力が遅れていると思ったのだ。そう推測させたのは、普段良夜が読んでいたライトノベルの影響なのだろうが、現実に起きている事はもっと深いものだった。
「科学は知っているわ。魔法を用いないで五大性質を発生させる旧世代の一部の人間が使っていたと言う技術よね?」
その言葉を聞いて更に驚く。旧世代と言うのが何十年前なのだろう?と思ったが、この世界━━━少なくても現代のアルカティアでは科学がないと言う事実の方が衝撃的だった。
魔法があるアルカティアにおいて科学の力は必要ないとされて、今では一切使われなくなり旧世代の古法と言われるようになっていたのだ。
だから魅紅達は携帯やiPhone等の事を知らないし、逆に見知らぬ道具等に興味を惹かれるのだった。
それから良夜は携帯の実用性を分かる範囲で説明したり、フォルダーに入ってる音楽等を聞かしたりすると皆(主に魅紅と闇裂く光の男性陣)は異常に食い付き、気付けば30分近く経っていた。ひときり騒いだ皆はラ・フェイスを出ようとしていた時、良夜が皆に質問した。
「最後に聞きたいんだが、ドラゴンはどう説明していく?この先……」
『……』
その質問に皆は懸念な表情を浮かべる。だが、そこでミイシャが「良夜様!」と良夜の元へ駆け寄ってくる。
「あ、あの、その件なら大丈夫です……!」
「大丈夫?」
「昨日良夜様を温泉へ案内してから、ドラゴンさんとお話しして、ある解決策を出すことが出来ましたので……!」
「ある解決策?そんな策があるのか!?」
「はいっ!良夜様、おでこをお貸し頂けませんか?」
「え?あ、ああ……構わないけど……?」
さっきからミイシャの言っている事が分からなかった。とりあえず、しゃがんでミイシャに額を近付ける。
「これで良いのか……?」
「はいっ!それでは、失礼します」
そう言うとミイシャは自分の額と良夜の額を重ねる。
「え?ちょっ……!」
端から見ればキスしているように見える。なぜか魅紅はその様子を見て焦りに似た感情を覚えた。
そしてミイシャと良夜の額に一瞬、淡い光が放たれた。
「終わりました。これで良夜様はドラゴンさんと話せるようになりましたよ」
「ドラゴンと!?会話出来るのか?」
普通の表情でさらっと言ってきたミイシャは、笑顔で「ドラゴンさんに喋りかけてみて下さい」と促した。
「じゃ、じゃあ、聞きたかった事があるんだ。お前はオスなのか?」
良夜がドラゴンに近付いて質問すると、魅紅に「そんなことが聞きたかったの?」とツッコまれた。
「グルル」
「!?」
ドラゴンがいつものように唸ると、良夜は心底驚く。
「メス……みたいだな……」
『!?』
今度は皆が驚く。そして、もっとも驚いていた良夜が興奮気味にミイシャに詰め寄った。
「マジか!ドラゴンの言ってる事が解ったぞ!言葉が頭の中に響くような感じに理解できた!何をしたんだ、ミイシャ!?」
「私の種族の固有能力です。共感認識と言うのですが、言語が違っても相手が伝えようとしている想いを言葉化し、相手の頭の中へ響かせるものです。どんな生き物にも想いはありますからっ」
その言葉を聞いていたハーベルトが「そう言えば……」と会話に入ってきた。
「今は絶滅した狐族は人の心を理解し、それを相手に伝える能力を持っていたと書物で読んだ事があります」
「ミイシャは凄いな!」
良夜はミイシャを褒めながら、優しく頭を撫でてあげた。
「きゅぅぅ……」
ミイシャは可愛らしい声を上げて、頭を良夜に預けた。本人は無意識なのだろうが、良夜はもっと撫でて欲しいのかと勘違いし、更になで回してあげた。
「きゅう……気持ちいいです~」
「むぅ……」
魅紅は何やら羨ましそうに見ていたが、良夜は気付かず反応がいちいち小動物のように可愛いミイシャを撫でるのにハマっていた。そして、ある事を決意する。
(地球に帰ったら━━━小動物を飼おう!)
「グルル」
「何だ、お前も撫でて欲しいのか?」
「みたいですね、撫でてあげて下さい」
「とは言っても、でかすぎて、どう撫でればいいんだか……」
「グルルルル」
「そんなことが出来るのか!?」
「グルル」
「あ、なるほど。それが龍族の固有能力なんだな」
「えと……ドラゴンは何て言ってるの?」
ドラゴンと良夜だけが会話出来ているのを羨ましく思っている魅紅が、良夜に訪ねてきた。
「どうやら龍族にも固有能力があるみたいで、それが変身魔法みたいだ」
「そうなんだ……変身魔法が使えるのね━━━え!?魔法!?」
「ど、どうしたんだ?大きな声を出して」
「だって魔法よ……?魔力を持った人間が使えるものなのに、ドラゴンが使えるなんて誰だって驚くわよ!」
「グルッ」
「やって見せるって」
そう言うと、急にドラゴンの足元に自身を包み込むぐらいの魔法陣が出現し、ドラゴンは体が虹色に光出す。
そして魔法陣が縮小すると同時に、光に包まれたドラゴンの体がみるみる小さくなっていく。
最終的には20分の一サイズまで小さくなってしまった。
「うそ……本当に小さく……」
そして魔法陣も消え、ドラゴンを包む光も消えていく。そこから現れたのは、先ほどまでとは違って、小さく可愛らしい、女性ならきゅんっと来てしまうような小型竜がいた。
小型竜は二枚の羽をパタパタと羽ばたかせ、良夜の頭の上に乗った。
「クルゥ♪」
「知能が高いとは聞いたけど、まさか魔法まで使えるなんてね……でも、今はそれよりその子を抱かせて下さい!」
両手を良夜に差し出す魅紅。
「いや、俺に言われても困るんだが……」
「だって、主じゃない」
「グルッ」
「それはこいつが勝手に言ってるだけ!そしてお前も頷くんじゃない!」
「つうか、そろそろ出発しないか? ミイシャちゃんだって仕事あるんだろうし」
『あ』
良夜と魅紅は、シンの忠告にハッと気付いた。
「悪い!付き合わせちゃったな!」
「そうだよね、仕事あるんだよね……忘れてたわ」
「ふふ、気にしないで下さい。それに同じような反応をするお二人を見ているのも楽しいですし」
『同じ反応……?』
良夜と魅紅は互いの顔を見合う。なぜか恥ずかしくなってきて、二人は同時に目を反らした。
「確かに……」
「同じだね」
「同じだ」
ケイ・ユウ・シンの同意見に、二人は更に顔が紅くなった。
「と、とりあえず、出ましょう!これ以上、ミイシャちゃんに迷惑はかけれないわ!」
《反らした、話を反らした》
皆の心の声が一致した。
「皆さん、また来てくださいね」
ミイシャは必死に逃げようとする魅紅の為に、話題を進めてくれた。鈍い男性陣やテンパってる魅紅は置いといて、宰は心の中で(良い娘だな)と感心していた。
「いろいろありがとな。また来るから、それまで元気でな」
「はいっ!良夜様もお身体には気を付けて下さい。そして、無事を願ってプレゼントです」
ミイシャが渡したのはひんやりしたケースで保存されたエレクシアの葉だった。
「これ……良いのか?高価なものなんだろう?」
「良いんですっ!わたし、良夜達達の事、好きになっちゃいましたから♪」
「……ありがとう。今はこれしか出来ないが」
良夜はミイシャの頭を撫でてあげた。
「きゅう……これ好きです……」
「いつか、必ず礼をしに来る!」
「……はい!楽しみにしてますっ」
ミイシャは少し寂しそうにしたが、直ぐに笑顔になり良夜達を見送ってくれた。
見えなくなるまで手を振ってくれていたミイシャは、その場にいる全員に柔らかな印象を与えた。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
今日は増大話となっています。主に31話から36話まではまったりした流れになっていましたが、次回から平常速度で物語は進んでいきます。ぶっちゃけ、次の話から屯朶一族騒乱編となります。ちなみに屯朶は屯朶と読みます。
それでは、また次回にてw




