【#032《人狐・ミイシャ》】
ラ・フェイスの前で良夜と魅紅を話していた。ドラゴンの前で。
「だってしょうがないじゃない。貴方が三日前に気を失った後、ドラゴンが直ぐに起き上がって良夜の後を追い掛けてくるんだもの!大変だったのよ!?貴方を背負いながら、ドラゴンに追われるのは!」
「ちょっと待て!三日前?え!三日前って何だ!?」
「あれ?言ってなかった?貴方は三日間も寝込んでたのよ?」
「聞いてねーよ!?どうりでお前やハーベルトが闇裂く光と仲良くやってるわけだ!三日もありゃ、誤解の一つも解けるわなぁ!」
「ちょっと!何よ、その言い方!私たちだって大変だったんだから!私が一族を殺していないって宰を納得させるのにどれだけの説明を要したか!ハーベルトだって色々証拠を拾って来てくれたのよ!?」
「もっと早く起こしてくれよ!その間に何かあったらどうするんだ!」
「貴方の身体の事を気遣ったんじゃない!」
二人の言い合いが白熱していくと、ドラゴンが良夜と魅紅に顔を寄せて━━━
ベロォッ
「また……!ぶわぁ」
ベロォッ
「私も!?ひゃう!?」
交互に大きな舌で舐められた。
『……』
ベトベトになった二人は暫くドラゴンを見ていた。そして、今度は互いの顔を見る。
『ぶっ!あはははは!』
「なにやってるのよ、ベトベトじゃない、あはは!」
「はははっ、お前が言うなよ!」
二人とも楽しそうに笑っていた。それを見ていたドラゴンも、「グルっ」と頷いていた。
改めて二人は、そのドラゴンを見ていると、なぜここまで好感的な態度を取っているのだろうと疑問が浮かんでくる。
この間は命を賭けた戦いをしたのに、意味がわからずにいた。
「結局こいつは何でなついているんだ?まさか、お前━━━」
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「おーほっほっほ!よくも私に牙を向いてくれたわね!良いわ。あなたを飼い犬、いえ飼い龍にしてあげるわ!膝まず来なさい、図体ばかりの蜥蜴風情が!」
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「って、調教しちゃったんじゃないの━━━」
良夜の首元にスゥ……と鎌の刃が突き付けられた。
「か……! あの……魅紅……さん?」
「貴方は私がそんな(女王様的な)風に見えるのかしら……?」
「言え……見えません。 どちらかと言うと魔王様です(ボソッ)」
その瞬間、首元に突き付けられた鎌に紅炎が纏わられた。
魅紅は笑顔で良夜を見つめる。良夜となぜかドラゴンまで、言い知れぬ危機感を覚える。
「選びなさい。ミディアムかウェルダンか……どちらが良いかしら?」
「このセリフもデジャブ感が……!」
「焼滅しなさい!」
激しい紅炎が空へ打ち上がった。
庭で布団を干していたミイシャが、その火柱に気付く。
「あれは!文献で見たことが……確か暖を取る“きゃんぷふぁいあ~”! 天塚ご一行様に、より速く暖かなお布団をていきょー出来そうですっ」
ミイシャは純粋な心の持ち主だった。
「ぎゃあああ~!」
「この声は、早乙女様……?」
突如、良夜の悲鳴が聞こえて来て、ミイシャはビクッと驚く。
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良夜は黒焦げだった。手加減されているとは言え熱かった。それにも関わらず、良夜は何事もなかったかのようにドラゴンに語りかけていた。
「結局お前は、どうして付いてきたんだ? 俺に復讐しようって訳じゃないよな……」
心配なのはそこだった。あの時は、霊源結界を使って勝てた訳だが、今は霊源結界をあまり使いたくなかった。
(こっち(アルカティア)で能力(霊源結界)を使うと、すげぇ体力・霊力を消耗するからな……だが、能力無しでドラゴンに勝てるわけがないし……無理矢理にでも引き離すか)
良夜の中で答えが出た所で、この事を魅紅に伝えようとする。
「早乙女様~!」
すると庭の方からタッタッタと小走りで、ミイシャがやって来た。
「ミイシャ?」
「だ、大丈夫ですか!?さっき悲鳴が聞こえたのですが……」
「あ、ああ、それは大丈夫だ……は!?(ヤバい!この子がドラゴンに舐められたりしたら……!)」
ドラゴンとミイシャが側にいるのが心配になり、良夜は直ぐにミイシャを連れて行こうとすると、ミイシャはドラゴンと目を合わし手をぶんぶん降りだした。
「竜さん、早乙女様が目覚めて良かったね~」
「グル(コクッ) グルル」
「あはは、舐めたぐらいじゃ傷は治らないよー。でも、それだけ心配だったんだねっ」
「……え?」
良夜はキョトンとしてしまう。
「グルル」
「え? 早乙女様に疑われてる?」
「グルル グルル」
「ああ、なるほどっ!そういう事だね!分かったよ、ミイシャが伝えるから安心安心して良いよっ。 早乙女様」
「え?な、なに……?」
「竜さんの言葉を伝えますね。『ドラゴンは闘う時は命とプライドを賭けます。本来、敗れた私は殺されても仕方無い筈━━━しかし、貴方は私を殺さないでくれた。ならば恩返しをしたいのです。一生涯、側にお付きし、守護し奉りましょう』だそうです」
「一生涯ってそんなこと━━━って!ミイシャ、何でドラゴンと会話できてるんだ!?」
「え……? ……あ!すいません!まだ説明してなかったですね!」
ミイシャは「むむぅ~」と唸ると、身体が淡く光だし、頭に耳・お尻に尻尾が出現し、良夜は又しても言葉を失う。
「私、人狐の末裔なんです」
「人狐は狐族と人間のハーフよ。今はほとんど居なくなって、絶滅したとも言われているけど、この子は生き残りみたいね……そして可愛いわ!あの尻尾をモフモフしたいわ!」
目を輝かせている魅紅に、良夜は我慢の限界が来たかのように騒ぐ。
「だから!なんで!さっきから!事が起きてから説明し出すんだ、お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
びくっと魅紅が驚く。それでも、ミイシャの頭や尻尾から手を放さないのは流石だが。
「だって……ハーベルトが、そうしてやれば小僧も元気になるだろうって……」
「そうか……全ての元凶はあいつだったか……!」
「グルル」
「早乙女様、『殺気だってると身体に悪いです』とドラゴンさんが心配してますよ」
「いや、殺気なんて出してないよ。ってか、人狐って龍の言葉分かるのか?」
「えと……分かる訳じゃないのですが、伝わって来ます」
「伝わる?」
「何と言えばいいのでしょうか……念話みたいな感じです!」
「ごめん……念話とか魔法の感覚分からないんだ……」
「あぅぅ……困りました……他に何て説明したら良いかわかりません……」
なんか、どんどん落ち込んでいってしまっている。今にも泣きそうだったので、良夜は慌てて宥めた。
「わ、分かった!つまり電波のような目に見えないエネルギーの事だよな!」
結構苦し紛れな漕ぎ着けだったが、念話と電波ってエネルギーと言う意味では同じな筈(?)だし、究極的には間違ってないよな、と言い聞かせた説明だったのだが、既にミイシャの表情には明るみが射していた。
「よかったです。わかって貰えました~」
「うぐっ……罪悪感が……」
「? 何か言いましたか?」
「何でもないよ、あはは」
「ふふ、早乙女様って面白いですね」
二人のやり取りを見ていた魅紅は、「はぁ」と失笑して呟く。
「何やってるんだか」
でも、どこか暖かい笑顔だった。
『to be continued』




