【#029《良夜vsドラゴン》】
爆発が再び起こる。龍激砲を放ったドラゴンは、これで目の前の敵を倒したと判断し、その場から飛び去ろうとした。
また龍激砲の直撃を食らった魅紅や宰達は命を諦めていた。
魔力も満足にない状態では、魔法障壁を展開することま出来ない。助かるわけがない。万が一死ななくても、虫の息だろう。
そんなことが頭を巡っていた。
(え……?)
そこで二人は違和感に気付いた。
━━━なんで思考していられる?
確かに龍激砲は放たれ、そして着弾し爆発した。
━━━ではなぜ痛みすらもない?ひょっとして死んだのか?死後の世界にでもいるのか?
二人は最悪を想定して、恐る恐る目を開けていく。だが開けた先に見えたのは、死後の世界でも、死にかけた状態の自分達が居る訳でもない。
そこにあったのは魅紅に取って見知った人間だった。前にも似たような事があったなぁと考える。
それを思い出すと、不思議と安心感が出てきた。
だから魅紅は笑って、優しく彼に告げる。
「遅いよ……良夜」
「悪い!遅れた!」
頼りない発言なのに、良夜の背中は大きく見えた。しかも、良夜の身体からは輝かしい銀色の光が纏われている。
「良夜、能力使えるようになったのね!」
そう、龍激砲の直撃を受けた無事だったのは、良夜が霊源結界“羅生”を使って完全に防いだからだった。
(ノーマジーの能力者か……まさかドラゴン・ブレスを完全に防御し切るとは……)
良夜が防いだ地面だけは無傷だが、周りはクレーターが作られているほどの爆発だった。しかも、その大きさは一発目の比じゃない。
「ちょっと待っててくれ、魅紅。今ドラゴンと決着を付けてくる!」
「え?一人で!?」
無理だと止めようとしたが、良夜はすでにドラゴンへ向かって跳躍していた。
ドラゴンも黒煙の中から何かが向かって来るのに気付いていて、既に臨戦体制を取っていた。
そして黒煙を退けて出てきた良夜は、拳に力を入れた。
「霊源結界“霊装”!らぁっっ!」
ドラゴンは爪や翼で良夜を狙うが、それらを羅生で防ぎながら間合いに入り、腹部に拳を打ち込んだ。
ドォッ!とドラゴンの腹から背中にかけて衝撃が走る。良夜の拳は、龍の鱗を砕き、肉体部分へダメージを入れたのだ。
「ゴ……ァ……!」
ドラゴンは悶絶しそうになる。だが、苦しみながらも千羽刃を放ち抵抗してきた。
「さっきのより威力の弱いのが、俺の羅生を破れるとでも?」
良夜はドラゴンの攻撃を防ぎながら地面に着地した。
「結界の防御以外の使い方を見せてやる」
羅生の結界が良夜の目の前に六角形状に展開される。
「霊源結界“参ノ型・破錐”!」
その瞬間、結界を構成しているエネルギーのみが鞭のようになってドラゴンに向かって放たれる。
それは銀色の雷のようにも見えた。
そして、破錐はドラゴンの身体に当たり、その瞬間破鎚はドラゴンの体を貫いた。
身体に穴を開けたわけではない。どういう原理かは分からないが、破錐の力のみが身体を通過するように貫いたのだ。
ドラゴンを一瞬苦痛の叫びを上げると、身体から力が抜けたかのように滞空を止めて、地面へ落ちた。
「……良夜が、ドラゴンを倒した……?」
魅紅は一部始終の戦いを見ていたが、本当に倒すとは思ってなかっただけに驚愕だった。
「待て!様子がおかしい」
宰がそう言うと、良夜はふらふらと揺れながら、地面に倒れた。
「良夜!?」
魅紅は慌てて良夜の元へ駆け寄る。そして、膝で支えながら、両腕で良夜を抱えて除き込むと、凄い汗を掻いて苦しそうに息を荒げていた。
「はぁ……!はぁ……!すまん……ちょっと休むは……」
そう言うと良夜は、魅紅の膝の上で寝てしまった。
「寝ちゃった……」
スゥスゥ気持ち良さそうに寝ている良夜を見てみると、魅紅は安心して優しく頭を撫でた。
「ありがとう。助けに来てくれて」
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良夜は思い出していた。その昔、まだ良夜が幼少の頃、愛する父と母と一緒に過ごした日々。
優しく、強くてかっこいい父に対しては、憧れの感情を抱いていた。
誰よりも自分の事を大切にしてくれて、時には厳しく怒ってもくれるけど、いつもその後に優しく抱き締めてくれる。
大好きな両親。だが今は居ない。死んだのか、消えたのかは分からないが、6つ目の誕生日の時に両親は失踪した。
思い出せない。いつも両親の失踪した日の事を考えると頭の中が真っ白になる。まるで思考力を奪われたかのように。
だけど、何かが引っ掛かる……。両親は去る前に何か言ってなかったか?
思い出せそうな気がする。「……あ……て……あ……」、まだ正確には思い出せない。「……あ……てぃ……あ……」、やはり引っ掛かる……、なんだ?どこかで聞いたような……昔ではなく、つい最近に……そこで父が最後に言った言葉が繊細に蘇るような感覚にがした。
ピピピッ!ピピピッ!
「は!?」
良夜は目覚めた。どこか懐かしい匂いがする。
「畳の匂い……」
良夜は起き上がる。辺りを見回す。そこは宿屋のラ・フェイスだった。
「俺……いつ帰って来たんだ?」
ラ・フェイスは地球の日本の造りによく似ていて、良夜に取っては懐かしく親しみ深い宿屋だった。
朝日が襖から射し込む。辺りには誰もいない。
「頭がボーとするな……誰か居ないのか……?」
良夜は部屋を出て、誰か居ないか宿内を探しに行く。
『to be continued』