【#026《舞い降りし伝説の生物》】
魅紅やリュウが、謎の強大な魔力を感知する数分前━━━早くも良夜に異変が起きていた。
「ハァ……!ハァ……!」
「……息が上がっているな……もっと俺を楽しませろ」
カイの口調には、どこか苛立たしさを含むものだった。
だが良夜もそれは同じで、急に息苦しくなり、徐々に身体が重くなっていき頭痛が酷くなっていく。症状的には風邪に似ているが、その苦しみはその何倍にも匹敵する。
それが何の原因から来ているのか。何らかのダメージのせいなのか、又は本当に風邪なのか、その原因を突き止めれないからイライラしてきていた。
「ハァ……くそ!何だってんだ!」
良夜が怒りに足踏みをすると、その足場は砕けた。
それを見たカイは、なお解せないといった表情をとる。
「……お前……それだけの余力を残して置きながら、なぜそんなに弱まる……」
「知るか……!そんなもん俺が聞きたいっての!」
「……(様子がおかしくなったのは、あの紫のオーラを纏い出したからだ……あの技の負荷によるものなのか……だが、あの技は一体……ん?)」
するとカイは何かの接近に気付いた。
同時にカイの目の前に、ケイとユウが瞬脚で現れた。
「如月君達速いよ!瞬脚使ってやっと追い付けるとか!」
「どういう事だ……カイ。見た所、あっちの方が疲労困憊しているが外傷とかがない。お前が追い込んだ訳じゃないよな」
「……ケイはどう見る……あいつが強靭な力を使い出したのは、あの紫のオーラを使ってからだ……」
「確かに、そうだな。それはオレも見ていたから判る」
「……それからだ……奴の動きが鈍くなって来たのは……」
「……そして今に至るって訳か」
ケイは良夜を観察して、少し考えた後推測上の話をしてみた。
「あの紫色のオーラ……もしかしたら、魔力を膨大に消費するんじゃないか」
「……そうか、それであんな状態になったのか……」
「そうとしか考えられないな。あれは間違いなく魔法だ。だがあの男は魔力を持たないノーマジー(地球)の人間。どういう敬意で、あの危険な魔法を得たのかは分からないが……」
「……魔力を持たない人間が、魔法を使うには術者の生命力を使用する……か」
「禁忌の方法だがな」
「……ならば奴の生命力が尽きる前に決着を付ける……」
「殺さず捕獲だからな!」
そういうと二人は、良夜に向かって走り出す。
そして、すっかり(いろんな意味で)残されたユウは、ただ突っ立ったままカイとケイが向かうのを唖然として見ていた。
「……僕の存在意義って……」
もはや如月並に無口になっていた。
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良夜は苦戦していた。紫のオーラを無意識に使い出してからは、カイ相手にも善戦していたが、今では徐々に体力も尽きかけ、その上様々な苦しみが襲って来ている。
そこにカイとケイが二人がかりで攻撃して来ているともなれば、形成は不利になっていくのも当然だった。
「くっ……!(厄介だ!伊座波が高速で攻撃してくるせいで、防ぐのに手一杯で隙を突いて攻撃してくる如月の魔法を捌ききれねぇ!)」
「ハァッ!」
考えているもつかの間、ケイの掌打が顔に目掛けて襲って来ていた。
「っ!」
良夜はそれを交わすが、直ぐに辺りを警戒する。
(どこだ!どこから来る!?)
今まではケイの攻撃を交わした所に、後ろからや前から希に上から等から如月の遠距離魔法が飛んできたのだが、今はその気配はない。
それどころか、如月の姿すら見えないと言うのは不気味だった。
良夜は気付いていなかった。如月が居ないのは攻撃動作を見せない為で、その攻撃を既に放たれている事に。
ズズズ……と良夜の足元から黒い水溜まりのようなモノが沸き出てくる。
「……“黒刺槍”……」
「!?」
その黒い水溜まりから、急に黒い槍が生えていき、良夜を背中から貫こうとした。
「下からか……!」
如月の攻撃にかろうじて気付いたはものの、不意を突かれてしまったせいか、相手の魔法の発動の方が早かった。
ドスッ
「ぐぁっ!」
そのせいで黒刺槍は、良夜の腹を貫いた。今までの痛みなんて比じゃ無いぐらいの苦痛が襲う。
(刺さ……れた……痛ぇ……!くそ!血が……病院モノだろ……コレ!)
思考がめちゃくちゃになっていく。疲労や風邪に似た苦痛等ない。今は脇腹に刺さっている槍に気が行ってしまっている。
ズキンズキンと痛みは増し、吐き気もする。
良夜はアルカティアの奴等は、こんな痛みを伴う戦いを、当たり前のようにやっているのかよ……!と、改めて生きる世界が違う事を知らされた気分だった。
「だから殺すなよ!?如月!」
「……心配しなくても、あいつ黒刺槍が身体に触れた直前に、腹を引っ込めて致命傷を防いでいた……」
「……あの状況から回避行動を?(凄い条件反射だ……なんてレベルを越えているぞ。見えてもいない攻撃を触れた瞬間に、軌道を読んで致命傷を避けるように交わすなんて……)」
しかし、この時点でケイとカイから戦意は無くなっていた。
殺さず捕獲をするには、充分な負傷を良夜は負ったと判断したからだ。
何せあのカイですら様子を見るように止まっているのだ。それだけ脅威レベルが下がったと言うことだ。
だがその時だった。突如ケイの横を強い風が吹き抜けた。それはユウが瞬脚で通過した時の余波だった。
「おい風代、待て!あいつはもう無力化した!これ以上攻撃する必要はない!」
だがユウは止まらなかった。この時のユウは自棄になっていたのだ。
再三に渡る仲間の無視や使えない者扱い、それらがユウの心を焦らせた。
「倒さなきゃ、役に立たなきゃ、殺される、これ以上の失態はあいつに殺される、精神的に灰人にされる、肉体的にミンチにされる、倒さなきゃ、倒さなきゃ倒さなきゃ倒さなきゃ」
ユウは呪文のようにブツブツと独り言を呟きながら、右手に魔力を集めて良夜に目掛けて飛んでいく。
「……聞こえてねぇぞ……」
「みたいだな……!あいつの身に何があったんだよ!」
「……わからん……だが、あの能無しを壊すほどだ……」
「相当な精神攻撃を受けたってことか……くっ!」
二人のせいでユウが壊れた事は、この先も気付く事はないだろう。
「“崩壊拳”!」
「……!(身体が動かないっ!交わせない……!)」
ユウの拳が今まさに良夜を打とうとした時━━━ソレはやってきた。
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
激しい地鳴りと風圧が巻き起こる。ソレは空から突如舞い降り、大地をも砕く脚に、一度羽ばたかせれば全長20mまで広がる翼を持ち、口にある狂暴な牙と強靭な顎はあらゆる物を噛み砕く迫力を漂わせる。
その存在を確認したケイからは、冷や汗が流れる。
良夜からも別な汗が流れ、恐らくその場にいた者は皆ソレの存在に戦慄を抱いていたに違いない。
「龍種……!?なぜ伝説級の生物がこんな辺鄙な林にいるんだよ!」
「……あれが、龍種……」
「あのドラゴン!以前に襲って来た奴じゃねぇか!」
そう。良夜にとって、そのドラゴンには見覚えがあった。
初めてアルカティアへ来た時に転送された地、崖の上にある謎の樹海、そこで初っぱなから良夜と魅紅を襲って来たドラゴンだった。
「ゴギャァァァァァァァァァァァァァァァア!!」
その奇声からして、そこらの生物とは違った。
空気が振動しているのか、ピリピリと肌に痛みが走る。
だが、そんなドラゴンの前にユウが立つ。
「僕の……を……な……ブツブツ……僕の活躍の邪魔をするなっっ!」
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
まだ最初の方ではありますから、それほどシリアスな展開にはなってないと思います。今後もこんな感じなの?と思われている方に申します。こんな感じも、あんな感じも、そんな感じもありますのでご心配なく!
今後もぜひ読んでやって下さい。僕が喜びます、えぇ。
では!




