【#025《良夜に起きた異変》】
突如良夜から漏れ出す魔力のような力。感じた事のない、その力にユウとケイは警戒するが、カイだけは違った。
「……能力使えるじゃねぇか……」
いつもの通り無表情ではあったが、ケイは気付いていた。
(カイが笑っている……?あいつが笑う時って、大体が強い奴と戦える時とか何だが……)
ケイは未だに良夜の事を見くびっていた。確かに今の良夜からは、先程までとは違う強さを感じるが、所詮は小物が本気を出した程度の範囲だと思っていた。
「……良い目だ……」
カイは黒連弾を放った。だが良夜は避けようとも、逃げようともしない。ただ右手を前に突き出して、そこから銀色の光が放たれ目の前に銀色の壁が出現した。
その銀色の壁は、カイが放った黒連弾を何発受けても砕かれることなく、全てを防ぎ切って尚堂々と展開されていた。
「昨日は魅紅に護られたからな。今日は俺が魅紅を護ると決めてんだ!」
「……なら、俺と闘え……集え暗黒物質……“黒刺連空弾”」
虚空に暗黒物質で作られた黒い刺柱が何十本も出現し、全て精密に操作され良夜に目掛けて飛んでいく。
するとケイが慌てて、カイに喋りかけた。
「おい、如月!その技は障壁突破性のある技だろ!相手はただの人間だぞ!殺す気か!?」
「……見てろ……」
「見てろたって、アイツには何の力も━━━!?」
数十の黒い刺柱がまさに良夜を貫こうとした瞬間、ガキキィッ!と軋むような音を立てて、刺柱は銀色の壁によって全て止められていた。
しかも、ただの壁ではない。六角形のガラスのような壁が二重三重となって、刺柱を止めていたのだ。
カイはゾクゾクと愉悦に似た喜びを感じていた。
「……指一本動かず止めたか……」
「うそ……だろ」
ケイもこれには驚きだ。先程の刺柱は障壁突破型の魔法で、最高クラスの魔導士ともなると、自分の周りには常に魔法障壁と言う高密度の魔力により生成されたシールドのようなものが展開されている。
実力差によって、その障壁は5層にも10層にもなる。黒刺連空弾は、そんな障壁を貫通する魔法であった為に、たかが二重に展開された結界を貫けなかったと言う事が驚きなのだ。
更に良夜の行動はカイを興奮させた。結界で止められている刺柱を握ったのだ。
「こんな物を……魅紅には向けさせねぇ!」
なぜ魔法そのものに触れられるのかは分からないが、良夜の拳からは紫色のオーラが立ち上っていた。
カイはそのオーラが実体ない魔法に触れられる理由かと考えるが、それ以上にそのオーラは以前戦った時に見た銀色の光とはまるで質が違うことに思考を回していた。
(……銀色の光はいつも結界を発動させるモノだった……だとしたら、あの紫色の光……もはやオーラか……紫色のオーラは何の効果を生むんだ……?)
そのカイの疑問は直ぐに答えは出た。良夜が握っていた黒い刺柱がいつの間に、紫色のオーラで包まれ、元の色を無くしていた。
良夜は紫色になった刺柱を握ったままカイに近付く。
「言っただろ……。お前らは絶対に魅紅の元へ行かせねぇって!」
『!?』
ガキュンッと良夜は刺柱を砕いたのだ。そして、砕かれた破片が紫色の花びらのように舞い、良夜の身体に纏われていく。まるで衣のように。
「砕いた上に纏った……!」
「銀色の光が紫のオーラで上書きされちゃってない……?」
「……」
ケイとユウが驚き気味に反応する中、カイだけが珍しく静かに良夜を観察していた。
「瞬脚!」
良夜がオーラを足に纏って瞬脚を行い、カイの目の前へと高速移動した。
「……!」
「ああああああああ!」
良夜の紫色のオーラを纏った拳がカイの顔面へと向けられる。
カイはとっさに拳と自分の間に暗黒物質を生成させて防御に徹するが……ぞくっとカイは違和感を覚える。まるで自分の黒刺連空弾が目の前に迫っているかのような。
そして良夜の拳は、カイの防御をも貫き顔面を殴る。
「……っ!」
カイはよろめくが、直ぐに右手に生成した黒い槍を良夜の喉元を突こうとした。
「!」
しかし槍は当たらなかった。良夜は首を下げて、紙一重で交わしていた。
「……カハッ!」
しかも、カウンターの膝がカイの溝へ入っていた。
「……マジかよ。如月の防御を抜いたも驚いたが、フェイントの黒槍を交わし、反撃までするなんて只の人間じゃなかったのか?」
「伊座波君!驚いてないで加勢に行こう!」
「カザヤン……」
「何だか嫌な感じがするんだよ……あの紫のオーラは」
「怖いのか……?手、震えてるぞ?」
「む、武者震いだよ!急ごう!」
「ああ……」
ケイとユウもどこか不安な感情を抱きながらカイの援護に向かう。
「何だか分からないがテンションが上がるなぁ!」
「……意外にも俺と同種の人間だったのか……」
良夜とカイは互いに楽しそうに拳や魔法をぶつけ合っていた。
普段の良夜とは違う雰囲気で楽しそうに戦う姿勢が、カイは自分と同じ人種と言って同じように戦っていた。
「……ダーク・ストリーム……」
「ハッ!効くかよ!」
良夜は向かい来る黒い光線を、手刀で正面から打ち破った。
「……やはりな……お前、俺の技(黒刺連空弾)の力を使っているな……」
先程から感じる違和感はそれだ。拳の一つ一つが、黒刺連空弾に匹敵する力を持っていた。だからこそ、暗黒物質で生成した強固な防御壁をいとも簡単に突破出来たのだ。
「そんな事知るかよ!今は良い感じに力が溢れて来てるんだ!戦いを楽しもうぜ!」
「……クク、それもそうだな……!」
二人は戦いを再開させる。
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その頃、木屋付近で戦っていたハーベルトと宰はまだ大した怪我はなく、にらみあっていた。
爆発による爆煙も晴れて来て、視界がクリアになっていく。
「……貴様との戦いで気付かなかったが、追撃にいった方は苦戦しているようだな……(姫様を預けたリュウからも連絡がない……何かあったのか……)」
「……この魔力……いや、気ですか……?(何か嫌な気配を感じますね……しかし、どこかでこの気配を知っているような……ともかく、早く加勢に行った方が良さそうですね)」
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更に木屋から数km離れた所では、魅紅による説教がリュウを困憊させていた。
「言いたい事は終わったわ。最後に質問よ」
「はい……何でしょう」
「何で貴方達は私を狙ったのかしら?あの園臣宰が行った事の意味は?」
「……自分のした事に自覚はないのか?それとも、本気で罪の意識がないと?」
するとさっきまで敬語だったリュウから、怒気のこもる発言が出た。尚更気になった。彼らの中では、魅紅と言う存在がそこまでの事をやらかしたと誤解している。
その誤解を知りたかった。
「なら再確認をしたいわ。教えて」
「……家族を、仲間を城もろとも消し去った張本人が何を確認するんだ!」
「!? え、ちょっと待って!私が家族や仲間を消した!?城ごと?おかしいわよ!だって私は━━━」
突如知らされる真実。これが闇裂く光が動いた理由。だがそれは偽りの情報だ。早急に誤解を解こうと、弁解をしようとした所で、魅紅は何かの気配に気付いた。
「!? 何かが来る……?南西10km先……速い!」
「は?何を言って……!?何だ……この強大な魔力は!近付いて来ている!?」
魔力感知に長けている二人だからこそ気付いたが、他のメンバーも時期に気付く程の強大な魔力を持った何かが、空を飛んで近付いて来ていた。
『to be continued』




