【#024《早乙女良夜の戦い》】
ハーベルトと宰の衝突により生まれた爆発は、良夜の方まで届いていた。
大地が揺れ、木々がざわついた。周辺の鳥たちが一斉に逃げ出す程の衝撃だった。
「何かが爆発した……(まさか似非執事、失敗したのか……?)」
嫌な想像をしてしまう。するとざわつく木々の隙間から、キラッと黒い光が見えたと思ったら、その光は良夜に目掛けて飛んでくる。
「おお?おおおおお!?」
良夜は横へ飛んで、黒い光線を交わした。
黒い光線はそのまま木々をなぎ倒し、地面を抉りまくった所で爆発を巻き起こした。
「危なかった……今の黒い光線、見覚えがあるな……」
良夜のいる所から後方へ50m放れた位置にいるカイと、そのカイに引っ張られるままに連れて来られたユウは酔っていた。
「うぷっ……如月君、タンマ……」
「……チッ……塵とは言え、持っていると攻撃の照準が定まらねぇ……」
「ちょっとは僕の心配しようか!?ってか塵って、やっぱ僕の事だよね!?無理矢理引っ張って来てその言いぐさは━━━」
「……飛んでけ……」
カイはユウを投擲した。
「なぃういいいいいいいいいいいい!!?」
ユウは奇声を発しながら、良夜の方へ飛んでいく。
一方、良夜の方からも、何かが飛んでくるのが見えた。
「また攻撃が……!(だが魔法とかではない?何かを投げたのか!)」
良夜はならばと、何かが飛んでくる方へ向いて、足踏みをし出す。
「質量ある物体なら交わすまでもねぇ……」
そして飛んでくる何かに、良夜は回し蹴りを打ち込んだ。岩を砕くぐらいのつもりで。
「よっ!」
「ぃげぁっ!」
「ん?」
何かを蹴り飛ばした良夜は、変な声が聞こえた気がしたが気のせいだろうと結論付けることにした。
「やはりこのビリビリするような魔力……暗黒使いか!」
ギリッと歯噛みをした。良夜の見立てでは、暗黒使いは闇裂く光の中でかなりの強者だろう。
もう一人の強者、園臣宰はハーベルトが相手をしている為、こちらへ来る事はないが今の良夜ではカイとまともにやり合う事は出来ない。
それは良夜自身も自覚をしていた。
「……さあ楽しもう……“ダーク・ツイン・ストリーム”」
カイの両手から暗黒エネルギーが光線となって放たれた。
「くっ!二発同時かよ……!」
これでは避けても、片方の光線が来る。そこで良夜はあえて前進した。
「……」
(横へ跳ぶのは危険だ、後ろへ下がっても回避は出来ない。だからこその前進!)
そしてその考えは正しかった。2つの黒い光線は、前進した良夜の頭上スレスレを通って、当たる事もなく、むしろカイに近付くという一石二鳥の結果を得た。
(よし!これならカイとの接近戦に持ち込める!)
魔法を使われては、能力の使えない今の良夜では余りにも不利だが、接近戦になれば戦える。
だが、まだカイとの距離はある。そこで良夜は先程会得した瞬脚を使用することにした。
(攻撃をギリギリ交わしての、瞬脚による間合い詰め!冷静に対処される前に近付いて倒す!)
そして足に気を込めて、瞬脚を使おうと━━━した時だった。
目の前が真っ白に成る程、何かが光った。瞬間的に、良夜は眩しくて目を瞑った。
そして目を開けると、そこにはケイとユウがいた。
「送ってくれてありがとう、伊座波君!」
「ぶちかませ!風代ぉ!」
「うん!虚無封解10%解放!“崩壊拳”!」
「なっ━━━!?」
ユウの拳が良夜の腹に命中した。その瞬間、ユウの拳が爆発を起こし、良夜はその爆発に巻き込まれ、かなり後方まで吹き飛ばされてしまった。
3本の木を倒した所で、良夜は止まったが身体が思うように動かず、口からも血を足らず程のダメージを負っていた。
「カハッ……!ぜぇ……はぁ……(油断……した……何だ、あのケイの速さ……まるで光……)」
更に遠くから黒い塊が何個も飛んできた。
「……“黒連弾”……」
ドドドドォォォォン!!
「がああああああ!」
良夜周辺に撃ち込まれた黒弾によって、良夜は更にダメージを負いながら吹き飛ばされる。
「……はぁ……はぁ……やべぇ……死ぬ……」
珍しく良夜が弱気になっていた。今まで無敵の強さを誇っていても、いざアルカティアに来て、その能力を失ってみると、味わった事のない痛みを知ることになった。
身体中が強打撲し、腹部には焼けるような痛みが残り、頭は頭痛と目眩がしていて焦点も定まらなくなって来ていた。
初めて感じる死ぬと言う恐怖、今の良夜にはそれが満ちていた。
倒れ、悶え苦しんでいる良夜の所に、カイ・ケイ・ユウの三人が近寄ってくる。
「なあカイ、お前本当にこの男にてこずったのか?」
「それは僕も疑問かな。何て言うか、この人……ただの人間っぽいし」
「……能力が使えないのか……」
ケイとユウの言葉を無視して、カイは良夜が能力を使わないのではなく、使えない事に気付いた。
良夜もその事を看破されると、悔しそうに拳を握る。
するとカイは、心底つまらなそうに良夜から目を放した。それはまるで、興味を無くしたような、路傍の小石のような扱いだった。
強者との戦いを楽しみたいカイにとって、能力を使えない良夜等取るに足らない相手と判断したのだ。
「……つまらねぇ……これならあの炎女の方が楽しそうだ……俺は炎女と闘りに行く……後は任せた……」
「━━━!」
ドックンと胸の鼓動が高鳴った。それは、自分を小物扱いした事の怒りなのか、それとも魅紅が狙われた事に対する焦りや不安感からなのか、真意は分からないが良夜の心臓を高鳴り、そして自分の中で何かが湧き出て来るのを感じた。
「……!?……」
「なっ!ななな!」
「これは……!」
カイ・ユウ・ケイは、一斉に驚いた。
良夜は急に身体から銀色の光を放ち出したのだ。
「魅紅の所には……行かせねぇ!!」
『to be continued』




