【#022《ハーベルト接敵!魅紅救出作戦開始!!》】
「!? 何か……来る!」
宰が何かの気配に気付いた頃には、すでにハーベルトが加速に乗った風をも切る飛び蹴りが目前までに迫っていた。
「はあああああああああああ!!」
掛け声と共に人知を越えた蹴りが、シンの結界にぶつかった。
その瞬間、結界はぐにゃあと歪み、威力に耐えきれなくなり、結界は粉々に砕けた。
そしてハーベルトは木屋の手前に落ち、地面を砕いた。もし、真上から結界を突き破っていたら、木屋程度など木端微塵だろう。
そこも計算済みだった。
宰とリュウは木屋から出てくる。シンはさっきの結界が破られた時の反動で、すでに気を失っていた。
「やってくれたな。まさか初手から私の配置した陣形が崩されるとは」
「こう見えても私は、情報通なのです。園臣の御嬢様が闇裂く光の長をやっているのは知りませんでしたが、貴女のことなら知っています」
「ほう、例えば?」
「まず優雅で華麗な事。凛々しさと上品さ、それに見合う強さを持っていること……ですが、その凛々しさと強さがある余りに園臣家は追放された」
「……」
「追放……?」
宰は黙り、変わりに魅紅が反応した。家族柄みの問題。何か感じるものがあったのだろう。
「その凛々しさは、悪即斬の精神で力を示していった。園臣の人間は、悪を斬りすぎたんです。魔法倫理協会(倫理会)五人の最高幹部“元老院”が一人、“リオウ・アルファーザ”の汚職事件」
「……!」
その時、冷静な立ち振舞いをしていた宰から、普段は絶対に見せない怒気のような強い気が放たれた。
「アレは……!私達は悪くない!奴が、あんな事をしでかさなければ、私達が動くことはなかった!」
「そう、園臣家はアルカティアの秩序を護る由緒正しき家系。だからこそ、許せなかったのでしょうね。アルカティアを管理する元老院が人体実験等をしていることが」
「!?」
一番驚いたのは魅紅だった。
(人体実験……?あの人当たりが良く、平和を誰よりも愛するリオウ様が?)
「園臣は最初はリオウ元老院に、悪事から手を引くように促していた。しかし聞く耳を持つどころか、しらばっくれるだけ。余りにリオウが悪事を止めなかったのである日、園臣の精鋭部隊は元老院を断罪することに決め、即座に行動した」
「……どこで、そんな情報を仕入れたのか知らないが、一つだけ言っておくとリオウ断罪は一度目の甲状で改心しない時点で決定していたらしい」
「……らしいと言う事は」
「そうだ。私みたいな下の人間には知らされて無かった。実の娘でも、だ。反対の意見も出たかも知れないからな。……だが、それが間違いだったんだ!私達がリオウの屋敷へ暗殺しに行こうとした時、突如奴等がやって来た……!倫理会直属粛正部隊“奈落”が!」
「奈落……聞いたことのない名ですね」
「そうだろうな。何せ非公開部隊だ。やってることが倫理会に害ある存在を秘密利に消す部隊だから当然と言えば当然だが」
「……その奈落と言う部隊は強いのですか?」
「強いなんてものじゃない。奴等は化物だ!たった十数名で園臣の人間を40人中10人も殺したんだ……!私以外の29人は奈落に拘束されて連れていかれたよ……」
怒りや悲しみなどの気持ちがハーベルトに伝わって来ていた。
「私は捕らわれた仲間を助け出す!その為にも、強さと戦力がいる!」
「なるほど。賞金稼ぎとして賞金首を狩っていけば、自身の修行にもなるし、戦力になりそうな相手だったら、拘束しない変わりに仲間になってもらう事も出来ると言う訳ですね」
「察しが言いな。その通りだ。お前程の強さと知的さを持った者なら、ぜひ仲間になって欲しいところだが」
「申し訳ありません。私はすでに天塚の名に忠誠を誓った身。園臣の名を背負うことは出来ません」
「分かってるさ。だからこそ口惜しいな」
するとハーベルトは変な違和感を感じた。宰から憐れみのような、目を向けられたのだ。
「?」
「あんな家族を裏切るような魔性の姫に忠誠を誓う等……」
違和感は明確なものになる。姫、つまり魅紅が天塚一族を裏切ったと宰は言ったのだ。
それは有り得ない!
長年世話をしてきて、ここ最近の魅紅をしっかり見ていたからこそ思えた確信。
(なぜかは解りませんが、彼女は勘違いをしている。だから、闇裂く光が魅紅御嬢様を狙って来たと言う事ですか!)
闇裂く光は本来良いものの筈だ。そんな組織がなぜ魅紅を狙って来るのか、今までは解らなかった。
だが、それは誤解だった。何者かは知らないが、闇裂く光に「魅紅が家族を襲った」と言うような嘘の情報を伝え、犯罪人として処罰させようと企んだ者がいる。
そうすれば、全て合点がいく。
だが解せない事がまだある。
(だとしたら天塚一族の皆はどこへ消えたのかと言うこと━━━)
その時だった。少し離れた所からドォォォンと言う爆発音が聞こえてきた。
「この方角は……小僧が居る辺りですか!」
「どうやら陽動の方は見付かってしまったみたいだな」
「……やはり、バレてましたか」
「まあ予想はしていた。勿論、ここに攻撃を仕掛けてくる事も。ただ空から降ってくるとは思わなかったがな。」
宰は刀に手を伸ばして、居合いな姿勢に入った。
「さて、私達も始めよう」
「話し合いは無理そうですね……」
そして、ハーベルトも攻撃体勢に入った。
『to be continued』