【#013《嫌な記憶と悪い夢》】
「ねぇねぇ、おとーさまー、おかーさまー!」
「どうしましたか?魅紅」
「何かあったのかい?」
そこには暖かい光景があった。まだ魅紅が十にもならない幼い頃、魅紅はまだ一人ではなかった。
友人や知人等は居なかったが、魅紅には心を許せる優しい父と優しい母がいた。
だが、それは一時の夢。この温もりは今では感じられないものだった。
「魅紅、これからお前には更なる厳しい教育をさせる」
父が厳しく言う。
「え?で、でも、いまだって私、頑張ってるよ? ね?おかーさま!?」
「……」
しかし、母も辛辣な表情を浮かべて、魅紅の求めたものとは違う答えを言う。
「魅紅。貴女の為なのです。今は、我慢して下さい。外に行くのも、友人を作るのも許されないのです」
「そんな……どうして!」
「お前の為だ」
「貴女の為なのです」
「いや……だよ……。せめて、お友達欲しいよ……一人は嫌だよ!」
「駄目だ」
「認められません」
「……っ! おとーさまの、おかーさまの……!」
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「分からず屋ぁー!」
ゴチンッ!
「いった!」
「あぅ!」
夜の森に鈍い音と、二人の痛声が鳴り響く。
魅紅は「あれ?」と痛みのする額を押さえながら、辺りを見回す。そこで徐々に思い出してきた。
数時間前にドラゴンに襲われ、どうするか考えた時に殺気が襲って来て、その際に生まれたドラゴンの隙をついて逃げ出した。
それからは辺りの周囲を探って、安全と判断した場所で休んでいた。最初こそは再び襲って来るんじゃ無いのか分からなく警戒していたが、ドラゴンや先程の殺気の持ち主の気配がないと思うと、魅紅と良夜は地面に座り込み気付いたら寝てしまっていた。
その間に魅紅が嫌な夢を見てしまい、目が覚めた時に勢いよく起き上がってしまい、心配して顔を覗き込んでいた良夜の額にベッドバットを咬ます結果となってしまっていた。
良夜は額を擦りながら、魅紅の心配をする。
「大丈夫か? うなされてたみたいだけど」
「……うん、少し昔の事を思い出していたみたい」
「辛いことだったのか?」
「うん……だけど、もう大丈夫」
魅紅が起きてからは、少し落ち込んだ表情をしていたが、いま何かを決意した表情に変わり、やがて目を良夜から反らしてちょっと照れ臭そうに訪ねてくる。
「ずっと見てくれてたの?」
「ん? ああ、魅紅が寝てからの一時間の間はな」
更に顔が紅くなる。人に心配されることは何度もあったが、それはどこか機械的で時には重くも感じた。
だけど良夜は違う。不器用な物言いだけど、そこには優しさがあり、何より暖かった。胸が熱くなり、顔がほころぶ。
「良夜……」
だからちゃんとお礼を言おう、今までに何度も助けてありがとうと。
「おい、魅紅!」
「え!? な、なに?」
突如の良夜の叫びに、魅紅はお礼をする機会を逃してしまう。
「明かりだ!森の奥……光の強さと、その方向から来る風があることは!」
「開けた場所……森から出れる!しかも、側に街があるかも!」
「ああ!行ってみよう!」
「うんっ」
良夜と魅紅は走って、明かりが差す方へと向かう。
そして、二人の予想は当たった。森を抜け出した先にあったのは、遥か下からでも照らす程の街の活気ある明かりと、森の……大地の終わりだった。
「は?」
「へ?」
良夜と魅紅はきょとんとする。まず冷静になって考える。なぜ街があんな下の方に見えるのか?なぜ足に地面を踏んでいる感触がないのか?この間を0.5秒で考え、やがて結論に辿り着く。
あ、森の出口は崖だったのか。と。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」
良夜と魅紅は、高さ100mはありそうな崖を真っ逆さまに落ちる。
「おちっ!おちおちおち!落ちて━━━!」
良夜が落下しながらパニックになる。頼みの結界が使えないんじゃ仕方ないのかもしれない。
魅紅もいくら魔法が使えるとは言え、この状況で“二人が潰れたトマト的な事になるのを”回避するのは難しいと思っていた。
「魅紅御嬢様!!」
だがそんな時だった。崖下の方から声が聞こえてくる。そちらを向くと、信じられないことに、ほぼ垂直の崖をハーベルトが駆け上がって来ている。
そのままハーベルトは落下する魅紅を抱え、再び崖をUターンして今度は下へ駆けていく。尚、良夜はもれなく落下中だ。
「似非執事てめぇ━━━……」
声が遠ざかっていく。魅紅もハーベルトとこ再開を喜ぶ間も無く、直ぐに良夜の心配をする。
「ハーベルト!私は一人なら大丈夫だから、彼を助けて!」
「それは流石にどうかと思われますが……」
「私の恩人なのよ!お願い……」
魅紅が頼み込む。ハーベルトは渋々そうな顔をしながらも、魅紅を放し「わかりました」と言い、良夜の方へ崖を駆けていく。
「紅炎の熱量を調整して━━━!はぁ!」
魅紅は右手から紅炎(通常の火性質の10倍以上の熱さを誇る炎)を崖底の地面に向かって放つ。
すると紅炎は圧倒的な熱量で、上昇気流を生み出し魅紅はその気流に乗ることで、落下の勢いを殺しほとんど無傷で地面に着地した。
「良夜!」
後はハーベルトに任せた良夜だった。無事に助けられたのか心配になり、上を見上げようとすると、ハーベルトが良夜を抱えて地面に降り立った。
「た、助かった……」
良夜と魅紅はそれぞれ一安心する。
「感謝しろよ、小僧。御嬢様の御計らいがあったからこそ、私はお前を助けたのだ」
「わかってるよ。一応ありがとな」
「ふん……」
「で、でも、ハーベルトも無事で良かったわ。私達もだけど」
「最初は驚きましたよ。気付いたらアルカティアに帰っていて、ふらふらと周囲を探索していたら、崖の上から御嬢様が落ちてくるのですから」
「私もびっくりしたわ。まさか、あの森が崖の上に出来ていたなんて……」
「まあ積もる話しもあると思いますので、街の宿屋を借りてゆっくり話し合いましょうか」
「それは助かるわ……私達も疲れてるから、休みたかったのよ」
「そうだな……取り敢えず落ち着きたい」
「決まりですね」
三人は街へと向かう。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
早めの更新んん~~~♪頑張りましたよ、昨日と今日は!
ちなみに次回は平凡な話になります。サービスシーンはあるかもしれませんが、ないかもしれません。でも、思うのですよ。サービスシーンって小説でとか難しくないですか!? 難しいです……




