【#011《異世界アルカティア》】
第二章開幕です!!
「……う」
冷たい風が肌に触れる。その鳥肌が立つような寒さに、意識を失って倒れていた良夜が目を覚ます。
「いてぇ……」
頭が痛い。どこか打ったんじゃないかと思うような鈍い痛みがする。頭を押さえながら辺りを見回す。そして素朴な疑問が浮かぶ。
━━━おかしい。自分を始めとする、魅紅・似非執事・敵は、あの球体に呑み込まれた筈。
死んだのか、となると個々は冥界か?そんな風に考える。
だけど、周りを見ているとそうは思えなくなる。余りにリアリティーがあるのだ。
森の中なのか、辺りには全長20mはあるであろう巨木が無数にある。それらの木により、外の光を遮られているせいか薄暗い。
「……やっぱり冥界かもな」
そもそも20mもある巨木なんて日本にあるだろうか?中には30mはありそうなのもある。そんな木、日本どころか世界を探したって無いだろう。空気も何か違う。一呼吸する度に、酸素とは違う何か別のモノを吸っているような気がする。
よくよく考えれば、この木の間から射し込む微かな光だっておかしい。青い。薄青い光が差し込んでいる。こんなの太陽の光でも、月の光でもない。
「意識はハッキリしてるんだよな……辺りに俺しか居ないって事は、死んだのは俺だけってことか?」
敵や似非執事はともかく、魅紅が居なかったのは安堵した。
「とりあえず移動してみるか。意識無くなるまでは」
ここが冥界と疑わない良夜は、今の状況を臨死体験のようなモノだと思っていて、やがて意識も無くなり死が訪れるのだろうと諦めていた。
だから、せめて冥界巡り(廻り)でもしよう。あわよくば、死んだ(かもしれない)両親に会えないかなと考える。
「にしても足下が暗いな。何も見えない」
座った状態から立ち上がる為に、慎重に手で地面を確認して立ち上がろうとする。
ふにゅ……
そんな感触がした。
「何だ? 地面が柔らかい……?」
冥界ってそういう作りなのかと思う。
ふにゅふにゅ……
にしても柔らかい。触り心地が良い。良質のマットよりも弾力があって、何かこう……自分の中に眠る(野生的な)未知なる力が解放されるんじゃないかと思うような心地良さがある。
気づくと、俺はその柔らかさにハマり、もみゅもみゅと押したりほぐしたりしていた。
「……あぅ……っん……」
「……ん?」
何か声がした。それも物凄く近くから。良夜の中に芽生えかけていた未知の衝動が引っ込み、次に何か嫌な予感を本能が告げている。
「……ぅん」
また声がした。それも一回目と違って、声に意識のようなモノを感じる。
「……真下から聞こえると言うか……」
じぃぃと目を凝らして手元辺りを見てみる。暗いとは言え、青い光も多少はある。徐々に暗闇に目が慣れていき、やがて声の正体と地面の正体が明らかになる。
目と目があった。
『…………』
目があった状態の二人、良夜と魅紅をしばらく沈黙する。やがて魅紅の目線が、斜め下の自分の胸に向けられる。
同時に良夜も吊られて目が魅紅の胸へと行ってしまう。自分の手が乗っかっている魅紅の胸に。
今だから分かる。さっきから押したり、ほぐしたりしていた地面は魅紅の胸だった。良夜は焦りの余り、笑って誤魔化そうと言う最低の手段を取った。
すると、意外にも魅紅は微笑み返してくれた。何だ、怒ってないのか~と、ほっと良夜は胸を撫で下ろした━━━所で魅紅から宣告。
「ミディアムかウェルダンか選びなさい。焼滅させてあげるわ!」
ボォッ!
魅紅の右手に紅い炎が灯される。
良夜は汗をだらだら掻き始める。胸中で「人間って、冷えても汗を掻くんだな~」と、自分でもよく分からない事を思いながら必死に答える。
「オーダーキャンセルで!(許して下さい!)」
にこっと魅紅が可愛い笑顔を見せた瞬間、薄暗い森の中が紅い光で満たされた。
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「間違いないわね……ここはアルカティアよ」
「……」
魅紅と良夜(黒焦げ)は、深い巨大樹に囲まれた獣道を歩いていた。
「大気に満ちている魔力、私の魔法が使えるようになったこと……充分過ぎる証拠だわ」
「……」
「……でも、どうやって戻って来たのかしら……。あの球体……魔力と霊力と言う異質な力同士がぶつかって転移門が開いたと考えるのが妥当よね……」
「……(じぃぃぃ)」
「……」
良夜の何か言いたげな目から顔を反らす魅紅。だが、その視線に我慢出来なくなったのか、魅紅が折れた。
「ああ、もう!何よ!貴方がわた、私の胸を触るからいけないんでしょ!?下方不注意よ!」
何だ、下方不注意って!新しい言葉か!?と言うツッコミが喉まで出掛かったが、それは言わないで置いた。
「……オーケー、百歩譲って下方不注意だったのを認めて、胸を触ったのを謝るとしよう。……だ・が!いきなり炎はないだろ!偶然にも身体に纏った結界(霊装)が残ってたから火傷程度で済んだよ!?だけど効果切れてたら、消し炭だったは!」
「だって魔法が発動するなんて思わなかったんだもの!ここがアルカティアで魔力が満ちてるって分かってれば、平手に魔力なんて込めなかったわよ!」
「そもそもお前本当にお嬢様か!?普通手を上げないだろ!?」
「歴とした天塚一族の跡取り娘です!お姫様ですぅ!」
「姫様なら尚更の問題だなぁ!」
「貴方だってちょっとは紳士のたしなみがあっても良いんじゃないの!?」
「あいにく俺は平民だから、紳士なんて必要ないんですは!」
二人は火花を散らせながら言い合いを始めてしまった。
その時だった。
ドォォォォォォォォォォォン!!
突如、凄まじい音ともに地響きが襲う。それは空から舞い降りた生物のものだった。
「……おい、アルカティアってのは、こんなもんも居るのか?」
「い、居るには居るけど……希少種よ」
巨大な翼を広げて、長い尾があり、とかげのような身体に、頭には角がついている全長15m程の巨大生物。
「“竜種”なんて……」
二人は驚愕していた。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
少し設定説明をします。
如月カイですが、技名が二種類あります。漢字表記とカタカナ表記です。
カタカナ表記は、本人が適当に考えた技名で威力の弱い攻撃魔法等で使われます。
しかし、漢字表記の場合、強力な攻撃魔法のみに技名として付けられていて、カイもめったに使わない魔法です。