【#009《初めての繋がり》】
良夜は頬をさすりながら布団へ寝転がる。魅紅のビンタと言う名の掌打を食らったせいで、あざになってしまい、あれから二時間経った今でもヒリヒリしていた。
「いってぇ……魔力らしきモノ込めて叩きやがって……魔法使えないんじゃなかったのかよ」
魅紅が右手に込めたのは、体内に残っていた魔力だ。本人は魔力を込めた自覚がなく、感情の高ぶりが無意識に魔力を表へ出したと思われる。
良夜もぶつくさ言っているが、何だかんだで良いものを見れたと心の中では思っていたので、まあ良しとしていた。
「にしても魔力……か」
アルカティアでは当たり前のような存在する魔法を使う為に必要な要素。
「大気に魔力が満ちてるっていう事は、こっち側でいう酸素みたいなもんだよな……」
良夜は少し魔力や魔法が当たり前とされるアルカティアに興味を示していた。
「あっち(アルカティア)では俺のような力を持っていても不自由しないんだろうな」
そう思うには確実な理由があった。それは魔力の気配だった。
魔導騎士を相手にした時に感じた魔力の波動は、自分が使う結界の能力を使う時の波動に似ていたからだ。
もしかしたら根本では良夜の能力も、アルカティアの魔法も同じなのかも知れない、そう思いながら眠りに落ちていった。
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その日の深夜━━━三度目のゲートが開かれた。
出てきたのはハーベルトだ。
「またこの場所ですか……多少の誤差は出ると思いましたが、寸分違わず同じ場所とは。何か特別な場所何ですかね」
高層ビルの屋上でハーベルトは一人呟いた。そして、魔法陣の方に手をかざす。
「流石に帰る為の魔力はないのでゲートを固定させて……」
その瞬間だった。
ゲートの魔法陣から手が出てきた。
「!」
そして、その右手から黒いエネルギーが放射された。
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『!?』
美月家では、その事態に良夜と魅紅が気付いた。
「魔力反応!?」
「今の気配って!」
魅紅と良夜は布団から出て、それぞれ近場にある窓から外に顔を出す。
二人は二階と一階の窓から空を見上げると、夜でも分かるレベルの黒く深い放射線が見えていた。
「何……あの禍々しい魔力砲撃……」
「あれも魔法なのか……?」
魅紅はふと下から声が聞こえて来たので、下を見ると良夜が唖然とした顔で黒い放射線を見ていた。
「良夜……貴方も気付いたの?」
「ああ、嫌な気配を感じてな」
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夜の街を二人の人間が駆ける。
一人はボロボロな執事服を着て、ビルとビルをジャンプで移動するハーベルト。
もう一人は防護性0の黒づくめの衣装を着た、只成らぬ雰囲気を出している男だ。男は静かに笑う。
「……この世界にも暗黒物質は満ちているようだ……」
「暗黒物質? まさか、貴様は……暗黒魔法の使い手!」
ハーベルトが苦々しく言い放つ。
「“暗黒のカイ”! 特A級賞金稼ぎ集団“闇裂く光”の一員……っ!」
「……一員……? ……違うな、只の同盟者だ……」
カイは右手に暗黒物質を集束させていく。
本来魔力のないノーマジー(地球)において、魔法を使用することは出来ない。
しかし、カイの使う暗黒魔法は違う。少し特殊なのだ。アルカティアの中において、10種しかない最強の魔法、最強が故に封印魔法とまで言われた魔法は、魔力が無くても世界にその源が満ちていれば、十全とは言わなくても相応の魔法を発動出来るのである。
「なぜ、賞金稼ぎが我々を狙う━━━」
「……ダーク・ストリーム……」
ドォォン!と黒い光線が放たれた。魔法も使えず、体力も尽きかけたハーベルトには防ぐ術はなかった。どうやら質問に答える気はないようだ。
(御嬢様、すみません。せめて危険が迫っているだけでも御伝えしたかった━━━)
【ハーベルトぉ━━━!】
諦めかけた時、聞き慣れた声と直後に「うわあああ!」と言う、聞き覚えのある悲鳴がしてきた。
良夜だ。残り少ない魔力で身体強化をした魅紅に投げ飛ばされた良夜が、ハーベルトと黒い光線の間に割り込まれて来たのだ。
「貴様は!」
「投げるなら投げるって先に言ってくれよ!魅紅! ったく、どこまで俺の力が通用するかわかんねえけど!こうなったら破れかぶれだ!霊源結界“壱ノ型・羅生”!」
良夜の両手から放たれる銀色の光は、やがて目の前に銀色に輝くクリスタルのような壁が生成され、迫り来る黒い光線を受け止めた。
その黒い光線は、銀色の結界に傷一つ付ける事なく、消滅した。
「…………」
カイも無口ではあったが、その結界の異常性には直ぐに気付いた。
いくら本気の半分未満も力を出せていないとは言え、世界に10個しかない封印魔法の一つ、暗黒魔法の攻撃を正面から受け止めて、無傷だなんて信じられない光景だったのだろう。
それはハーベルトも同じだ。だから、つい疑問の言葉が出てしまった。
「貴方は一体何者何ですか……?」
「おたくのお嬢様の決意に押されて、協力することになった……ちょっと人並み外れた力を使う人間だよ!」
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それは今より10分前に戻る。
魅紅と良夜は言い合いを始めていた。
「分からない!何で行こうとする!あの似非執事は、お前を連れ戻そうとしているんだろう!?それに、簡単にやられるようなタマじゃないだろ!」
「そうだけど……それでも行かないと!」
魅紅はハーベルトの魔力を感知したと同時に、もう一つ別の魔力を感知していた。
それは明らかな殺気が込められていて、それが片方の魔力、ハーベルトに向けられていることだ。しかも信じがたい事に、あのハーベルトが圧されている。
「ハーベルトが、大切な家族が誰かに追われてるのよ!助けないと!」
「わかってる!俺にだって、多少は魔力って言うのを感知出来る!だから止めてるんだ! 今のお前が行った所で何が出来る!?足手まといになるだけだぞ……!」
「う……」
良夜が言ってる事は正しい。だからこそ言葉に詰まってしまう。でも助けたい。その気持ちもある。どうしたら良いか分からなくなっていた。
「……そんなに大切なのか? お前の生活を良しとした人間の一人なんだろ?」
「……うん。ハーベルトは私が小さい頃から、ずっと世話して来てくれた。私にとっては家族みたいなものなの……だから……だから助けたい!例え助けた後に一族に連れ戻されたとしても、家族を失うよりはマシよ!」
「そうか。家族……は、大切にしないとな」
その時、良夜は自分や夢奈の環境と、魅紅の環境を見比べた。
家族が居ない。独りになる気持ち。それは辛く、苦しく、何よりも怖い。そんな寂しい苦しみを魅紅が味わったらどうなる?
魅紅と出会って、まだ数時間しか経っていないが、料理に喜んだり、風呂に戸惑ったり、向こうで味わえなかった経験をしていた時は常に笑顔だった。
あの楽しそうで、幸せそうな笑顔が無くなる。家族が一人欠けると言うのは、それほどの衝撃を与えるだろう。
(……やだな。こいつから笑顔がなくなるのは)
「な、なに急にニヤけてるのよ?」
どうやら風呂の一件を思い出した時に、つい面白くて表情が緩んでしまったようだ。
「助けてやる」
「へ?」
きょとんとした魅紅に苦笑しつつ、頭を軽く撫でてあげる良夜。
「ふぇ?な、なにするの……よ」
魅紅は照れながらも、撫でられるのを止めようとしない。こう見てると、仔猫みたいだなと内心思ったが、それを言うとまた魔力付与ビンタが飛んで来そうなので心に留めた。
「俺が言ったのは“似非執事”をじゃないぞ?向こうも不本意だろうしな」
「じゃ、じゃあ、何を助けてくれるのよ……?」
良夜は優しく魅紅に笑いかける。
「お前を助ける。その為に俺が力を貸してやる!」
「……っ!?」
その瞬間、魅紅の心が異様な暖かさに包まれる。鼓動がいつもより早く打つ。頬が熱くなる。涙がぽろぽろと零れる。
会って間もないのに、どうしてそこまでしてくれるのか。なぜそんなにも優しいのか。魅紅は気付くと、さっきまでの不安感が嘘のように安心感へ変わっていた。
それがなぜかは分からないが、今は良夜に頼って良いのだ。それが何よりも嬉しかった。
「そこで一つ頼みがある」
「……」
「? 天塚?」
「はい!?」
「なぜ敬語? 俺を敵のいる所まで運んでくれ。俺の力は防御にしか使えない。普通に走っていたら、手遅れになる可能性もある。だから、お前がさっき下から二階へジャンプした時の脚力で、俺を連れていってほしい。やれそうか?」
「うん……やれる」
「そうか。じゃあ頼むよ、天塚!」
魅紅は思った。ぼーとしている場合じゃない。本来無関係である良夜が、自分の家族のために動こうとしてくれている。そんな時に魅紅自信が心個々に在らずでは申し訳ない。だから自分もやれることをやらなければと決意を新たにする。しかし、一つだけ訂正しとく箇所があった。
「……魅紅よ」
「ん?」
魅紅は涙を拭き、凛々しい表情にして告げた。
「私の名前は魅紅。今度からそう呼びなさい!」
「! ああ、じゃあ行こうぜ!魅紅!」
「ええ!振り落とされないでね、良夜!」
魅紅は良夜の手を握って、空高くへジャンプした。それは二人が初めて繋がった瞬間だった。
しかし、その光景を見ていた者が一人いた事に、二人は気付けなかった。
「良夜君と魅紅さんが……飛んだ?」
『to be continued』
すいません!一言目からすいませんですいません!
更新が遅れてしまいました!言い訳します。残業続きで帰宅してからくたばっていました!こんな残業年に1回あるかないかの瀬戸際でしたwwナウ!ナウ言えば皆さんは流してくれると信じて……ナウ!
ちなみに次の次の話から、話は大きく変わっていきます。はい。




