【#131《唸る灼嵐炎天》】
【夜魅本拠地】
良夜は上へ上へと上がり、先程魅紅と戦った場所から支土達が入った扉を越え、奥へ向かうとそこには巨大な魔法陣が展開された部屋に行き着いた。
「何だ、このばかでかい魔法陣!?」
「召喚魔法陣だよ」
「!?」
突如、奥から声が聞こえてくる。
そこには支土と白髪の少女、さらには魅紅までもがいた。
魅紅は辛そうな表情を浮かべている。
「召喚だと……?」
「そうだよ。僕は〝理〟を召喚する!」
「理? 変わった名前を持つ奴なんだな。その召喚獣は!」
「フッ。召喚獣ではないよ。いや、生物ですらない」
「何を言って……」
支土の言っている意味が解らない。そんな感じだった。
だがこれは、異世界人たる良夜だからではない。アルカティアに住まう人々にとっても意味が解らない発言なのである。
「〝理〟とは物質ではなく事象。正式名称は〝理の魔法〟。法則を歪め、新たな法則へと上書きする未知なる魔法。君の不確定能力と価値的には近いかもしれないね」
「俺の霊源結界と同じ……?そもそも魔法を召喚するだと?そんなことが出来るわけ……」
「出来るよ。出来るさ、その為の特殊魔法陣だ。これはね、ある古代遺跡から回収してきた世界中にある魔力の50%を収束して、開く転移門でもあるんだ。僕らはウラダ・ゲートと呼んでいる」
「ウラダ・ゲート?次から次へと知らない単語ばかり出てくるな」
「更、教えてやって」
「はい。ウラダとは古文書等で伝えられる異界、無の世界と伝承されていて、その扉を開いた時、異界と現世が交わり、その時の莫大なエネルギーが法則をも歪ませるらしいわ」
「そう。そして、その歪みこそ理の魔法と言われているんだよ」
「なるほど。良く分からん!」
「まあ分からなくても良いさ。僕らの作戦に君程度は驚異にならない。魅紅、僕らの目的はすぐそこだ。邪魔者は始末してくれ」
魅紅は歯噛みをする。本当に辛そうに。だが、その表情は直ぐに決意ある戦士の目へ変わった。
「退きなさいとはもう言わないわ。全てが終わるまで眠っててちょうだい!」
ゴォッ!と空気中の水分が熱で蒸発し、水蒸気が霧のように辺りに充満していく。
「寝るなら扇風機かクーラーが欲しいな。今まで言ってこなかったが、俺は暑がりなんだ!だからさっさと終わらせたい!本気の一撃を撃ち込んで来いよ!!」
良夜は出来る限りの殺気を込めて放つ。ただ言葉で言うだけでは、魅紅が本気を出さないことは分かり切っている。だからこそ、殺気を当ててやれば否が応でも答えるしかないと判断した。
(殺気!?本気なの、良夜……!私は良夜には無事でいて欲しいだけなのに……!でも、やらなければ私が殺られる!!)
そして、その目論見は当たっていた。
「良夜のバカ……!はぁぁぁあ!」
デュゴスに魔力を込め、紅炎を最大出力まで引き出す。熱で空間が歪んで見える。
「そうこなくちゃな!蜃気楼すら見えるぜ!霊源結界〝陸ノ型〟を披露してやらぁぁぁあ!!」
「灼嵐炎天!!」
「反境!!」
魅紅の持つ最大火力の一撃が迫り来る中、良夜が結界エネルギーで作り出したのは高密度な円状の網だった。
網も一本一本が高密度なエネルギーで作られていて、それが幾重にも編まれている。
その網に灼嵐炎天がど真ん中に撃ち込まれる。
一瞬、網はぐにょんとゴムのように奥まで押されるが、それはあくまで網だけだ。
それを固定する円状のエネルギーはびくともしない。
「俺の勝ちだ!」
瞬間、ゴムのように伸びきった網が跳ね返る。灼嵐炎天ごと。
「え……うそ……?」
予想だにしていなかった展開に思考が遅れる。
それでも直ぐに防御へと思考を切り替えることが出来たが、魔法を発動するための魔力が足らない。
それだけ灼嵐炎天に魔力を注ぎ込んだのだ。
(ここまでを予測していたの……?私の敗け……)
灼嵐炎天が魅紅のいた場所に直撃する。そのフロアを焼き付くし、壁を貫通し、外まで大きな穴を開けた。
「たく、相変わらず凄い威力だよな」
良夜は語りかける。両手にお姫様抱っこで抱えた魅紅に。
「りょ、良夜……どうして?」
あの瞬間、反境によって灼嵐炎天を跳ね返したのを確認したと同時に、弐ノ型霊装を発動した上での瞬脚で、魅紅を直撃から守り脱出していた。
「どうしても何も仲間を守るのは当然だろ?それに魅紅だって、俺を殺す気はなかったじゃん」
その通りだった。
魅紅がほとんどの魔力を注ぎ込んでの灼嵐炎天は、やや上へ向けて放たれていた。
直撃をしてしまえば、羅生すらも焼き尽くす殺してしまう。だからこそ、少しずらす事で余波の方をぶつけ、ギリギリまで羅生を削った所でその隙に懐まで侵入し、体術で意識を刈り取るつもりでいたのだ。
それを看破されたのか、魅紅は恥ずかしそうに顔をそっぽ向ける。
「……っ。 いじわるよ、あなた……」
「お互い様だろ……。まあ、そんなことだから俺はお前を守るよ。だから帰ってこい」
「……」
魅紅は黙る。良夜の気持ちは嬉しかった。二度も敵対したのに未だ仲間と、守ると言ってくれている。その覚悟が感じられる。
強いと思った。初めて会った時から逞しく、大きくなったと思った。そして、愛しいとも。
そんな彼に甘えたいと、子供の頃から抱き続けても、その相手が居なく、自身もそうであっては駄目だと強い精神で耐えてきた感情が溢れ出す。
良夜を頼りたい。甘えたい。助けて欲しい。だから━━━━━━
「良夜……お願いがあるの……。聞いてくれる?」
「ああ、もちろん。それを待っていた」
魅紅は話した。時間があまりないので、自分の過去(BC事件)をかいつまんで。
そして、夜魅に協力した理由を。
良夜は支土から距離を取る為、魅紅を抱えながら移動をしつつ、黙って聞く。
次回へ続く!!