【#007《魅紅の居た世界》】
ハーベルト強襲から二時間後の22時現在、良夜と魅紅はお隣の美月家(夢奈の家)へお邪魔している。
と言うのも、ハーベルトが尻尾ふって逃げてから(良夜談)、近所の人達が駆け付けたり、消防隊が20人がかりでやって来たり、警察もやって来たりとてんやわんやで、事実(空飛ぶ執事や騎士のような人間に襲われた事)を話しても笑われそうな空気になり、良夜はどうしたらいいか判らなくなってしまっていた。
当然、魅紅は「え? 戦闘があったくらいで、何でこんなに人が集まるのよ」と勝手に見知らぬ箇所に驚いていた為、便りにならず警察が事情聴取に来た時には「あはは、終わった……終わったよ!」と開き直りながらやけくそ気味に呟いた程だった。
そんな時に、様子を見に来てくれた幼馴染みの夢奈が間を取り持ってくれたのだ。
どうやら夢奈は、良夜が誰かと言い合ってる声を聞いて、何かと窓越しに外を見た時、突如早乙女家の屋根が爆発するものだから直ぐに消防隊や警察に迅速に連絡してくれたらしく、その後に様子を見に駆け付けてくれたのである。
そして、夢奈が証人として良夜を交えて説明してくれた為、エアコンの室外気が爆発したと言うことで割りと早めに話がまとまり、直ぐに解放された。
「にしても、おばさんとおじさんが居ないのに、勝手に上がっちゃっても良かったのか?」
良夜が不意に問う。いくら幼馴染みとは言え、年頃の男が、家族不在の女の子の家に、しかも別の女の子付きと言う状況でのご訪問は以下ほどのものだろう。
少なくても、事情の知らない他人視点から見ればアレな誤解を生むだろう。主に修羅場的な意味で。
少なくても世間体は悪くなる筈だ。最初は良夜もそれらを考慮して、満喫とかインターネットカフェで泊まると言ったのだが、夢奈は「それこそ世間体悪過ぎです!」と珍しくも一括されてしまい、夢奈の言われるがまま美月家にお世話になることになった。
「美味しい!美味しいわ!ねぇ、夢奈!これ何て料理なの!?」
今までの苦労や、これからどうするか、夢奈にはどこまで説明すれば良いのか、むしろ説明不足だと言う諸々の事で頭を悩ませている良夜を裏腹に、事の原因である魅紅お嬢様は先程から卓上に展開される夢奈の手料理に絶賛中だった。
良夜はハァ……と深い溜め息をつく。
「あ、これはですね。野菜炒めと言います」
「野菜炒め……? だってお肉が入ってるわよ!?」
「名前の由来は分かりませんが、少ないお肉に対し多くの野菜を加えることで食欲を安価で満たすかつ、栄養バランスを考えての料理ですから、結構お手頃なんですよ?」
「気配りの行き届いた料理ね! それじゃ、これは!?」
ずいと両手でお椀を差し出す目がキラッキラの魅紅。その中には味噌汁が注がれていた。細切れにされたネギに豆腐・キャベツ・大根が入っている夢奈特性の山菜味噌汁だ。
「それはお味噌汁です。具材の入れる物によって味が様変わりする奥の深い料理です」
「何かスープみたいね!」
「ちなみに天塚さんが先程から少しずつ食べてるのが、シーザーサラダと言われまして━━━」
どこか夢奈も自信満々に答えている節がある。それはそうだろう。良夜にも手料理を振る舞う事は多々ある、その多々あるのが問題だ。味にも慣れられてしまうため自然と感想が減る。ここまで素直に感想をくれる人物等珍しいのである。
実に微笑ましい光景だが、良夜から見れば「その前に話す事なくね?」と言った心境なのであった。事情説明の意味でだ。
「お嬢様育ちなのに味とか分かるのか?確かに夢奈の料理は美味いが、高級料理とは種類が違うだろ?」
「そんなことないわ!夢奈が作る手料理は、一族のどの料理職人よりも美味しいわ!具材一つとっても、どれだけ大切に相手を思って作られたか分かるし、素晴らしい食文化よ!」
「えーと、そのお前の居た世界……アルカリア?」
「アルカティアよ」
「そのアルカティアの野菜とか肉はそんなにヤバイのか?」
「そ、それは私も気になります」
食事の前に予め聞いておいた魅紅の素性。
まず魅紅を始めとした、ハーベルトや魔導騎士の四名は、この世界とは別にある世界“アルカティア”の住人であること。
そして、良夜や夢奈のいるこの世界は、アルカティアでは“ノーマジー”と呼ばれていること。
魅紅は一族の中でも異例の存在として自由のない監視生活を送って来た。それに嫌気が指して家を出ることに決めた。ただし、城の警備やセキュリティはアルカティアでも最高クラスのもの。更にハーベルトや魔導騎士と言った腕利きの見張り役も居た為、実質的に城から逃亡するのは魅紅でも不可能だった。
そこで使用したのが転移門と言われる装置。魔法が込められた文字と円状の陣の上に立つと、アルカティア全土が範囲となる最高クラスの転移魔法である。しかし、魅紅は世界の垣根を越えて、地球へと来てしまった。その原因は不明である。
ここまでが良夜と夢奈が把握している全てだ。最初は夢奈は信じられないだろうと心配した良夜だったが、意外にも直ぐに信じた。怖がっている様子もないし、「夢奈って、天然……?」と言うと、「?」と首を傾げてしまったので話を終わらせた。
それからは夕食になり、魅紅と夢奈はもう友達のような関係になり、まだ説明不足中の良夜は嘆息する他なかったと言った感じで今に至るわけだ。
「私のいたアルカティアでは、これ程の野菜は採れなかったわね。色よく甘みがあり、しかも歯応えもあるなんて、専用農業者として雇いたいぐらいよ」
「そこまでですか……?」
「それに調理器具もあっち(アルカティア)では無かったわね。気温を操作する箱とか、炎を生み出す装置とか、どれを取っても驚きの一品だわ」
「冷蔵庫とかガスコンロのことか。確かに向こうじゃ、魔法でどうとでもなりそうだもんな」
「どれも科学の結晶ですもんね」
「科学?」
「あ~、その説明すると天塚が魔法の説明するのと同じぐらい時間掛かるから今度な」
「今度……か。うん、また今度ねっ」
嬉しそうに笑顔を見せる姿に、良夜はつい顔を反らしてしまう。
(……っ、意外と可愛い顔するんだな……)
「良夜君、顔が赤いですよ? は!?風邪ですか!いまお薬を用意します!」
「まてまて!違うからっ」
何を勘違いしたのか、急いで薬を取りに行こうとする夢奈を、良夜は慌てて止める。
「それより食器は俺が洗っとくから、夢奈は魅紅に浴室入れさせてくれないか?」
何とか話題を反らそうと考える。実際、さっきの騒ぎで汚れてるのも確かだ。
お邪魔させてもらって、「風呂入らせてください」だなんて言い出しにくい事だが、汚い格好で彷徨くのはもっと有り得ない。この選択に間違いはないと核心していた。
「あ、そうですね。魅紅さん、お風呂案内しますので入って貰えますか?」
「え、良いの?」
「はい♪」
「ありがとう。助かるわ」
二人はそのまま浴室へと向かい、残された良夜は一安心して食器を片付け始めた。
「ああやって見ると、普通の女の子だよな。 ……俺と違って、支えてくれた者が居ないのに……強いよな」
去り際の魅紅を眺めて呟く。二人は似たような運命を持って生まれてきた。それは宿命として生きるしかなかった。
だが良夜には、夢奈や親戚と言った支えてくれる者がいた。
だが魅紅には居ない。それなのに、今もこうして明るく振る舞えて、方法はどうあれ自らの意思で新たな道を切り開こうとした。
良夜は純粋に感服していた。そう考えながら、スポンジに洗剤を浸けた。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
今回は本編でもたまに出る単語「運命」と「宿命」の違いについて説明します!
言葉的にも意味合い的にも、似てるのですが実は結構違うのです。
まず「運命」ですが、これは自分の周りの環境が自信に降り懸かる事による結果によって生じた現象を言います。外的要因です。運に任せた生命(人生)って事ですね。
しかし、「宿命」とは、生まれた頃より持ってくる内的要因で、環境ではなく自信の行動から生じる結果の事を言います。だから、宿された生命何ですね。
魅紅と良夜は異能の力を持って生まれた宿命があります。そのせいで環境が変異して言ったのが運命と言うわけです。
今後としましては、二人がどう運命を変えて、どう宿命と向き合っていくかが成長の糧となると思います。
本編と共に見守ってあげて下さい^^ では。




