【#122《ユメの能力》】
【夜、シュレイ遺跡、地下2階層・正門入口内部】
ユメの開始の合図と共に、千種が空へ両手を掲げると空気が風のように良夜達を囲むように展開されていく。
「空牢壁!」
空気による壁が、内部と外部を遮断する牢となる。
ただユメだけが、外に残されていた。
「待て!何をするか知らないが、ユメがまだ外に残っているぞ!」
「ん?大丈夫だよ。だって、この空牢壁はユメの魔法から私たちを守る為に張ったものだもの」
「え……?」
きょとんとする良夜。
「いいよー!」
千種がユメに向かって叫んだ。
「はーい!」
返事をするユメ。そして、両膝を地面に起き、両手に黄緑色の光を帯びた状態で地面へと突き立てた。
「木々喝采〝酒仙花〟!」
その瞬間、大地から木が10、20、40とどんどん生えていく。
「な、なんだこの魔法!?街中に木が生えて……しかも黄緑色に発光しているし!」
良夜が驚くのも無理はない。木を生やすだけでは何の意味があるのか判らないが、その木々の数と東京ドーム数個分に広いのではないのかと思える広大な街〝全範囲〟に魔法の影響力が及んでいるのだ。
圧倒的な質量と範囲だけで驚愕に値する光景だった。
「……四方5km内に368本の木を設置完了……咲き誇れ、酒仙花!」
すると木々は発光を更に強めて、枝の最先端からフワァ……!と花を咲かせる。
黄色と水色で彩られた全ての酒仙花は、完全に咲き誇ると胞子のような物を撒き散らした。
「始まった。ここからが木々による喝采が始まるよ」
空気の結界の中で千種が言った。
良夜はごくりと唾を飲む。
\ギャォォォォォォォォォォ!!/
急に奇声が街中あらゆる所から聞こえてくる。
「きゃあ!」
「大丈夫よ、舞ちゃん。直ぐに終わるわ」
「良夜さん、多数の生物の気配が……」
「本当か、リンシェ(今の奇声……噂の魔物か)」
すると、あらゆる所からその声の主達が姿を見せ出す。
建物の中からは人型ではあるが異形の姿をした生物、壁や地面に偽装していた蜘蛛のような巨大生物、迷彩で身を空間に隠蔽する鳥型の生物、他にも小型な狼っぽい生物やゴリラのような中型の生物がうじゃうじゃ出て来た。
「な、なんだ、こいつら……!」
「これが魔物よ。こんなに居たなんて……!」
千種が冷や汗を流していた。そして、外にいるユメに声をかけた。
「ユメ!全部はやれないよね!?」
「難しいですね……この数は想定外です。ざっと木々を伝って感知しただけでも600体はいます。ですが……やれるだけやります!」
「……わかった!残存処理は任せて」
「はい、任せます!」
二人のやり取りを聞いた良夜が口を挟む。
「何をしようとしているんだ!?まさか、あの子一人にやらせる気か!?」
「そうだよ」
その言葉に良夜はカチンと来た。
あんな子供一人に戦わせて、自分だけは安全地帯で見守るその姿勢が気に入らなかった。
「お前!それでも上司かよ……!」
「……? 何を言っているの?私はユメの上司じゃない」
「は……?」
ユメが更に魔力を込め、地面を伝って力を木々へ送り込む。
「上司はユメ、国連軍最高幹部三大隊長が一角、そして元御三家の草薙一族の生き残り、草薙ユメ大隊長よ。私は草薙直属近衛隊の隊長。つまり、私が彼女の部下」
「え……?でもしゃべり方とかどう見ても……」
「ああ、それが勘違いの原因か。草薙大隊のメンバーは全員元屯朶大隊長の近衛隊、その長い付き合いからフランクな組織なのよ」
「それで……」
ユメは各木々に魔力を送り終えた。そして、詠唱が放たれる。
「木々喝采〝弧染花〟!」
その詠唱と共に同じ木々から二種類目の花が咲き誇る。今度のは紫と白の彩りをした花だ。
「咲き誇れ、弧染花」
そして発動キーが紡がれた途端、濃い胞子が放たれ、木々の周囲5m範囲にいる生物の体内へ空気感染で侵入していき、そして体内の酸と化学反応を起こして酸度が急上昇した。
結果、通常では有り得ない酸が臓器をも溶かす現象が起こり、内から致命傷を与えられた魔物達はバタバタと吐血をして倒れていく。
しばらく街から魔物達の断末魔の叫びが止まなかった。
「終わりました。これで残りは30程です。わたしは生やした木々を大地に還しますから、お任せします」
「600近くいた魔物が残り30……?(これが国連三大隊長の力……見た目とギャップもあって恐ろしさすら感じるな……)」
\ギャォォォォォォォォォォ!!/
「!? 皆さん!魔物に気付かれました!魔力を逆感知されたようです!」
「ユメの魔力を逆感知するなんて……強力な奴も交ざってるみたいね!」
ユメと千種が警戒をし出したと同時に、空から高速で鳥型の魔物が飛翔してきた。
『!?』
次回へ続く!!