【#113《Brain Control事件Ⅶ》】
ガシャガシャと必死に防護シャッターを開けようとする黒子だが、びくともしない。
「開けてー!卓也君が!卓也君が……!」
シャッターの向こう側は瓦礫等で塞がってしまっているようだった。
黒子は泣いたまま、座り込んでいた。
流れてくる涙を魅紅が拭いてあげた。
「黒子……行くわよ」
「魅紅ちゃん……わたしは……」
「卓也は恋ちゃんの意思をついで生きようとした。
その卓也が!私たちを助けるために、自分を犠牲にしてまで……っ。私だって泣きたいよ……でも泣いているだけじゃ駄目なの!だから逃げるのよ!」
「あ……ぅ……っ」
「更も辛そうな顔しないで? 私も黒子も、大丈夫だから」
魅紅は強かった。
この混乱や哀しみの中でも恐怖に負けず、黒子を叱咤激励出来るほどに。友人二人が喧嘩をして仲違いしてしまうんじゃないかと気遣う更を、笑顔支えてあげるほどに。
「ミク……アナタは強いわ……」
「うん……卓也くん、恋ちゃんの気持ちを分かってあげるだけじゃなく、私たちのことまで……」
「……私は強くないわよ……ただ、あんな悲しい想いをしたくないだけ……」
恋と卓也の顔を思い出す。
二人の方が強かった。私なんかより、ずっと……。だから、次危険が私達の身に迫れば、私が命をかけて守り抜く。
魅紅はそう決意した。
そして黒子の涙を拭いてから、魅紅と更と共に外に向かって走り出した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ハァ!ハァ……!中々…出口に着かないわね……ハァ」
「クロコ、本当にこっちであってる?」
三人はエレベーターに着くも、地下の崩壊で配線が途切れて電力供給が無くなり動かなくなったエレベーター利用を諦めて、側にあった地下マップをメモって非常階段へ向かって足を進めていた。
先ほどからブザーが鳴り出していて、どこかで爆発が起きたらしく火災が発生していた。まだ煙は広まって来ていないが、それも時間の問題だろう。
やがて黒煙が地下を埋めつくし、まともに息をすることも出来ず、肺が焼けて死んでしまう。
そうなる前に、脱出をしなければならない。だが、マップ通り進んでも、いつまでも非常階段に辿り着けなかった。
「あってるよ……はぁはぁ。マップそのものはちゃんと書き写したから」
でもと付け加えた。
「マップ通りなら、もうとっくに着いてる筈なんだけど……」
「非常階段が見えてすらもいないわ……」
更が落胆の声を漏らす。
魅紅も足を止めて、冷静になって考え出す。
(おかしい……マップなら私も見た。確かに非常階段はとっくに着いていなければおかしい。そしてこれだけの施設ならマップの間違いなんてない……間違い?まさか!あのマップは偽物!?侵入者や脱走者を混乱させる罠だとしたら……)
嫌な予感がする。罠だとしたら、そのマップの指示に従って走ってきた先に何があるのか。罠から罠へ。
それは直ぐに的中することになった。
ドカァッ!
突如、側の扉が強く開かれ、中から人が出てくる。
「煩わしい鼠が三匹。わざわざ監査に来てみれば、施設が半壊しているから何かと思えば、鼠に配線でも咬みきられて火災発生か。リトアニアは何をやっているんだ」
大きい身体の男性が、魅紅達三人を見下ろす。
「て、敵!?」
「うそ……ここまで来て……」
(この男は監査に来たと言ってた……つまり、出入口は今出てきた扉の先にあるってこと)
「なあ知ってるか? 配線を咬み千切った鼠は、感電死するんだぜ!」
瞬間、パリパリと男の両手に雷が発せられていく。
「雷系魔法!?」
魅紅が驚いたのは雷系魔法を使った事ではない。アルカティアに存在する五大性質であるから、驚かないのは当然と言える。
問題は詠唱も無しに、魔法を発動したこと。
(無詠唱を可能にするほどの魔導士……!)
「鼠が良くここまで逃げて来れたものだ。 だが、施設もお前らも終わりだ。死ね〝雷撃波〟!」
ボボボ!と魅紅の両手に紅炎を灯した。
「ミク……炎出せるようになったの?」
「恋ちゃんと卓也が命を掛けて作ってくれた道だもの……私が弱音を吐くわけにはいかないじゃない!」
次回へ続く!!