【#107《Brain Control事件Ⅰ》】
【昼、グラナ大森林、夜魅本拠地】
更に連れられてやって来た場所は、本拠地の地下にある研究所だった。
「ここは……?」
「夜魅の目的……正確には支土と私のかしら。ここは魔素消失研究施設」
「魔素消失……。 え、魔素……!?」
魔素と言う言葉に魅紅が過剰に反応する。
「魔素ってどういうことなの!?」
魅紅は更の両肩を掴み、普段では有り得ないほど取り乱していた。
「だってあの事件はもう終わったんじゃ……!」
「落ち着いて、ミク……痛いわ」
「……あ、ご、ごめんなさい」
魅紅は手を離して、一歩下がる。
「事件は━━━終わってないの」
「━━━終わってない? どういう事なの?」
(忘れられる訳がない……私から更を━━━そして、黒子を奪ったあの誘拐事件を)
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━━━物語は8年前、雪が降り肌寒い日々が続いている時期に遡る。
天塚魅紅、当時8才。
自慢の紅い髪もまだ短く、現在よりも明るく笑顔の多い子だった。
そして、かつて世界を救った大魔導師“天塚紅”の血を引く、紅き炎を自在に操る天塚家、次期当主でもあった。
「どうしたのー、ミクちゃーん!ほらクロコも行こっ」
白蕗更、当時8才。
この頃から髪が長く純白色でサラッとしていて、まだ表情豊かな子だった。
魅紅と黒子とは仲良しで、思いやり合いがある、優しい子達だった。
さらには天塚一族(本家)、白折家(分家)・影山家(分家)の跡取りである彼女達には、強大な魔力素質があり将来は各家の長として、頂点に立つ事を確定されていた程の存在だ。
「あ……、待ってよ~」��
影山黒子、8才。
黒いショートヘアーで、基本はオドオドしていて人見知りの激しい引っ込み思案気質な女の子。
魅紅と更と同じように、三人で幼なじみだ。
知らない人に会うとダメではあるが、魅紅と更の前では心を開いていて、素の自分を出して毎日仲良く遊んでいた。
「見てみて!サラマントラ蛇の脱け殻っ」
「わぁ、すごいねー」
魅紅が手に持っていた、サラマントラ蛇と言う火耐性を持つ蛇の脱け殻を更は手に取り、黒子に見せた。
「ひっ!」
更は黒子にセミの脱け殻を近付けたが、黒子は後ろに足を下がらせ振るえていた。
その時、魅紅と更は目が合い、同じ事を考えていた。
((ははーん、なるほどー))
目をキラーンと光らせ、そのイタズラ心に満ちた二人の様子を見た黒子は、不安を感じとったのか冷や汗を流しながら、どんどん後ろに下がっていく。
「あ…あの……魅紅ちゃん、更ちゃん…?」
「黒子、蛇の脱け殻…気持ち悪いとか思ってるでしょ~」
「うぅ」
「ダメよクロコ~、好き嫌いしてちゃ~、フフフ」
「き、気持ち悪いとかじゃないもん……」
「じゃあ何ー?」
「こわぃ……だけだもん……」
黒子はショボーンと目線を下に向け、手をもじもじさせていた。
魅紅と更は、そんな黒子の様子を見て笑ってしまった。
「うぅ~! やっぱ可愛いよ黒子ー!」
「ホントホントっ」
黒子に抱きついた二人は、アワアワしている様子を楽しんだ。
当然、蛇の脱け殻は地面に返した。
「ちょ……やめて~暑いよ~」
「良いじゃん良いじゃーん」
「そーそー。クロコは気にしないの」
「気にするよ~……」
そんな風に三人が楽しく遊んでる時、広場の外に黒マントに頭から身を包んだ怪しい男達が歩いてきた。
そんな男達の後ろからは、白衣を着た20才ぐらいの丸メガネをつけた奇妙な男が不適な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ウフフ、さあ始めるわよ!彼女達を捕まえて来なさい、我が僕達ぃ!ポチっと」
白衣の男が手に持つボタンを押すと、突如周囲の重力が何倍にも増した。
『きゃああ!』
魅紅達三人は、いきなりの重力に身体を強く地面に打ち付け気絶してしまった。
「お嬢様!更様!黒子様!」
「敵襲だ!」
「三人を救い出せ!」
草むらや建物の陰から、武装した魔導騎士が10名ほど飛び出てくる。
だが、重力下のせいで満足に武器を振るえず、それに反して敵は重力を無視するかの如く素早く動き、魔導騎士達を蹴散らしていく。
そして2分余りで護衛を皆殺しにされ、魅紅達は連れ去られてしまった。
「ウフッ、疑似重力増大装置と疑似斥力増大装置は効果を発揮出来たみたいね」
白衣の男は笑う。
「ゼクスちゃんを使った解剖実験は半ば成功。次はこの娘達の解剖ね。腕がなるわ~!」
次回へ続く!!
どもども、焔伽 蒼です!
今回から天塚魅紅過去篇に入ります。この話をやらないと、夜魅との決戦に移れませんから(汗)
屯朶舞過去篇ほど長くなるかは分かりませんが、本編の進行は今少しお待ちください。