【#099《狙われた魅紅》】
「良夜くん!」
「舞!? 良かった!無事だったんだな。リューネも」
「クルゥ!」
意識を失ったヒュースを抱えて、病院(治療出来る施設)に運んでいる最中に、舞とリューネと合流することが出来た。
「クルル!」
「うん━━━って、どうしたの!? その娘も良夜くんの右手もひどいケガしてるよ!?」
「そうだ! 舞、ヒュースを治療出来るか!?」
舞が会得した希少能力、生成回帰は生命に備わる真気を活性化させて再生に近い治癒を施すと魅紅が言っていた。
だとすれば、ヒュースを治すのは病院よりも舞の方が確実だ。
「え? た、多分出来ると思うけど……でも良夜くんの手も!」
「俺はいい! 悪いが急いで魅紅の元に行かなきゃなんないんだ!ヒュースに敵意はなくなった、だから後は任せた!」
「え? ち、ちょっとー!」
俺は走って、魅紅の向かった方角へと走り出す。
くそ!急がないと!奴等の狙いがまさか魅紅にあるなんて……!
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今から十数分前、ヒュースは自害しようとしたのを直ぐに察知した俺は、自ら首を貫こうとした氷の刃を右手で止めたことにより、ヒュースは命を落とさずに済んだ。
その変わり、右手を貫かれたからしばらく使えそうにないが。
「……どうして……私にはこれしか……」
「バカ野郎!死ぬことが当然みたいなことしてんじゃねぇ!」
気付けば俺は怒鳴り散らしていた。
「何でこの世界の人間は、こう命を容易く賭けたり捨てようとするんだ! 死んだらそこで終わりなんだぞ!?」
来世があったとしても、こんな死に方するような奴が幸せになれる訳だってない。
「言葉では上手く言えねーが、他人に殺されるのも最悪だ!だがな!自分を殺すなんて、もっと最悪なんだよ! 周りを頼れ!言葉も交わさずに相手を計るな!過去に何があったか知らないが、俺達はお前を見捨てない!だから……!」
その先の言葉が見付からない。何を言ったらいい。ヒュースに届く言葉はなんだ。
個人的な感情論ならいくらでも話せる。だが、相手を納得させるための材料がない。
自分の不甲斐なさが悔やまれる。
「……」
ヒュースは黙ってしまっている……。
やはり、駄目なのか……気持ちは伝えられなかったのか……。一騎討ちも失敗、説得も失敗だなんて俺にはもう……。
「……ありがとう」
「え?」
え? その突然な言葉に心と声が同時に出てしまっていた。
「……わたし、怒られたの初めて……思ってたより暖かいね」
「ヒュース……?」
「ごめんなさい……右手にケガをさせちゃって……もう死のうだなんてしないから……」
氷の刃が砕けた。それはヒュースの心も……。
嬉しかった。言葉でこそ伝わらなかったが、その想いが伝わった。
目頭が熱くなる。ヒュースから張り摘めた空気がなくなっていくのが分かる。
「……姫が危ない……きっと夜魅は天塚の姫を狙ってくる……それも強大な力を持った刺客が……行ってあげて……白折更、同じ眼をしていた、あの人も世界に絶望している……何をするか……分からない……」
「お、おい!」
ヒュースは気を失った。出血のし過ぎだ。早く治療しないと!
それに魅紅が狙われているだと?だとしたら、早く合流しないと!舞とリューネも心配だ!
俺はヒュースを背負って、街の方へと走り出した。
【昼、都市クレイシス・中央広場】
魅紅と更は戦っていた。
更が出した白狼3匹は、魅紅の攻撃を交わしつつも連携を取りながら、円を描くように攻撃してくる。
しかも、徐々に円を狭め、逃げ道を無くしていく姿はまさに獲物を追い詰める獣だ。
「白狼、殺してはダメ。彼女を捕らえて」
その合図と共に白狼は一匹から二匹の割合で交互に飛び掛かる。
それを紙一重で魅紅は交わしているがじり貧だった。
(くっ!本当に意思があるみたいね!ここまで巧妙に来られると厄介だわ!白炎を極めてるわね、更!)
(ミク……あそこまで逃げ道を狭められ、高速で休む間も無く攻撃してくる白狼達を交わすなんて……相変わらずの強さね。嬉しいわ、変わってなくて)
「追加よ」
更は白狼をさらに生み出し、合計二匹が上から魅紅へと襲い掛かった。
距離を狭められ、その上左右から波状攻撃を仕掛けられている最中に、上空からの追撃なんて交わせるものではなかった。
だが、魅紅は笑う。
「間合いに入ったわね。全てを焼き払うわよ、デュゴス!灼嵐炎天!」
魅紅が紅炎を纏ったデュゴスを360度振り切ると、地面から紅炎の竜巻が上空へ向けて発生した。
白狼を全て巻き込んでも止まらない圧倒的な火力に、更も驚く他はなかった。
「これが紅炎……激しく、綺麗。白狼が一瞬で燃やされるなんて……でも、ここからが本番よ。舞って双白の剣“ビャクヤ”」
更が造り出したのは同じ形・長さ・刃を持つ二つの剣だ。
白炎の熱を土台に跳躍、そのままビャクヤを降り下ろした。
「白桜」
白炎を纏ったビャクヤは、紅炎の竜巻を切り裂き、花びらのように散らした。
「……!」
「白炎には二つの特性があるわ。一には意思を与え、二には炎を斬る力を生むの」
「そんな……!」
意思ある攻撃はそれだけで厄介、防ぐにも火力で圧倒して燃やし尽くすしかないのに……さらに炎を斬る炎なんて……。
内心に不安を覚えた事を、更は分かってか告げてくる。
「ミク、貴女はワタシには勝てないわ」
次回へ続く!!
後一話で百話です♪
それだけ言いたかったのです。うん。