【#098《白折更の異常能力(シリアルスキル)》】
【昼、都市クレイシス・中央広場】
魅紅side
私はデュゴスを出しているのに、更は未だ武器を出さない。
単純な戦闘力なら昔から私の方が上だった……けど、今の更からは強い気配を感じる。
「ミク、貴女に取って朗報よ。リョウヤ・マイ……あとリューネを襲撃しに言った夜魅とヒュースが破れた」
「……本当に? 良かったぁ~……」
皆が無事、それだけで気持ちが軽くなった。ただで際、旧友と戦うのに気が重かったけど……でもヒュース程の魔導士を倒すなんて、良夜本当に強くなったわね。
「……? ミク、嬉しそう」
「え? 私そんな顔してた?」
「うん、してた」
私が嬉しそう……でも、良夜が強くなることは普通に嬉しいことだもの。
それ以外の意味はないわよね。……多分。
「ミク、出来れば戦いたくない。考え直して。ワタシは貴女と戦いたくない」
更は嘘や誤魔化しをする時、スカートを掴む癖がある。今の更が嘘を言っていない事は分かった。
「私もよ。 私も更とは戦いたくない。せっかく再会したのに……死んだと思ってた親友といっぱい喋りたいのに……まさか夜魅になってたなんて」
親友が敵だなんて悲し過ぎるわよ。でも、更は冷静な分析が出来る。それだけに、自分の言動を曲げる事なんてめったにない……ううん、少なくても“私は一度も見たことがない”。
「更……貴女なら分かるわよね? 夜魅がやっている事を」
「エエ」
「その貴女が何で夜魅に協力しているのかが分からない。 支土に助けられたからと言うなら、なおのこと支土を犯罪者にしない為にも止める筈」
「エエ、そうね」
「……だから理由が解らない」
「エエ、だから一緒に来て? 全て本拠地で話すから」
更は何一つ変わっていなかった。どんな状況でも表情を変えず、全てを見透かすような瞳をしている。
そして、人の話を余り聞かないところも。そんな一つ一つが懐かしくて、少し笑ってしまう。
「フフ、変わってなくて安心したわ」
「うん、ミクもね」
「そうね。だから解るでしょ? 私の考え!」
デュゴス(鎌モード)を構え、紅炎を纏わせた。
「解る。 連れていくには、ミクを倒すしかないって事が」
更から戦闘の気配が漂ってくる。
昔はそんな気配を纏うような子じゃなかったし、そもそも戦闘能力も0に等しかった。
口論や策戦になると、中々勝たせて貰えなかったけど……純粋な物理戦闘なら私に分がある!
怪我をさせないように捕らえる。
「あ、一つだけ変わった所があるわ」
「?」
……。
…………!?
「うそ……それって……」
目の前で有り得ない事が起こり、言葉が上手く出ない。
だって……更が炎を使えるなんて……!
「ワタシもね、焔を使えるようになったの。白くてキレイでしょ?」
焔……火や炎とは違う天塚一族の異常能力。
一族の天塚以外にも直系分家から焔を発現させる者はいた。
それが居城を許された更と黒子の家系、“白折家”と“日影家”……更が発現した白炎はまさしく、白折の焔。
「……凄いわね……専用の鍛練も無しに焔を発現するなんて、そんなことお婆様でしか出来ないことよ」
「頑張ったわ」
少しドヤ顔になっていた。何て言うか……気のせいなのかもしれないけど、更が表情豊かになった気がする。
「頑張ったせいか見せてあげるわ。来て、白狼」
その呼びかけと共に、更の身体からにじみ出る白炎が、狼の形へと変化した。それも3匹もいる。
確かに細かい形を作るのは凄く高度な技術ではあるけど……
「え……それだけ? 攻撃しないの?」
「するわ。 というか、もうしてるわ」
瞬間、白炎の狼が動き出した。
「遅延攻撃!? でも、そんな大きい的、避けるのは簡単━━━!?」
私が狼を交わした瞬間、信じられない事態が起きた。
交わした筈の狼が再度襲いかかって来た。
「そんな……一度放たれた魔法が、向きを変えるなんて!」
それも一度や二度じゃない。明らかに私を追って来ている。これじゃあ、まるで生きているみたいじゃない!
「どうかしら? ミクの紅炎が、圧倒的な熱量を誇るように、ワタシの白炎にも他より秀でたモノがあるの」
ミクは白炎を更に出現させた。さらに二匹の狼が生成された。
「ワタシが生み出す白炎の生き物達には意志が宿る」
次回へ続く!!