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デイ・トレーダー

 26歳になる私の息子・和也は大学を卒業したものの、未だ就職先が決まらない。

 当初はアルバイトをしながら職安通いもしていたが、最近はずっと家にいる。


「それでは駄目!」と随分注意もしたのだが、「就職氷河期の最中、あまり追い込んでも良くない」と夫が言うので自主的に動くまで放置してきた。

 以来3年間、様子を観て来たが、この頃は食事の時を除けば部屋すら出ない。

 

 そこで改めてお父さんから話してもらうことにした。


「お前には何か得意な分野がないのか?」

 夫がにこやかに尋ねると、息子は即座に「ゲーム」と答えるではないか。

 思わず「いい年してアホか~!」と怒鳴ろうとするのを夫に止められた。


「ゲーム? それは誇れるレベルなのか?」

「誇れるかどうかは知らないけど、ゲームと名の付くものではまず負けないね」


 そんなものがいったい何になるというのだろう?

 私は落胆したが、夫は違った反応を見せた。


「それじゃあ、ひとつこれをやってみるか?」

 夫がパソコンで立ち上げたのは某証券会社が中高生を相手に投資を学ばせるシミュレーション。「株式取引ゲーム」だった。


「対戦相手は中高生が中心とはいえ、上位にいるのは業界のトレーダーを目指すエリートだ。おまえが本当にゲームが得意ならこいつらに打ち勝ってみろ」

 そう言って和也に激を飛ばしたのだ。


 和也のひきこもりを直す為、お父さんに注意してもらおうと思ったのに、これではますます閉じこもるのでは・・・と、危惧したが息子は意外な才能を見せた。


 デイトレードという手法を駆使して、大型で小刻みに値動きする株に着目。

 同じ株を日に数回動かすという手法でたちまち利益を上げ始めた。


 ある時、「ちょっと、これを見て」と息子が言うのでパソコンの画面を覗きこむと、2chとかいう掲示板に「あのバームファイターの“K∀ZU屋”が株式取引ゲームに参加したらしい」「そりゃあ、他のやつは絶対勝てないぜ」「やつはゲームの天才だからな」という文字が踊っている。

 知らなかったが、この世界で息子は有名人だったのだ。


 そのウワサどおり、プレイヤーに与えられた仮想マネー100万円は瞬く間に膨れ上がり、わずか3ヶ月でなんと1億円超え!


 当然、圧倒的な強さで首位に踊りでた。

「目指せ1000億!」と、息子は上機嫌だがゲームはゲーム。

 勝ってもなんの儲けにもならない。

 

 しかし・・・、これが仮想マネーではなく本当のお金だったら・・・。


 私の脳裏にバラ色の未来が広がった。

 実は私には家族に内緒でコツコツ貯めてきたヘソクリが100万円近くあったのだ。

 これがもし、3ヶ月後に1億円になったとしたら・・・、いやもしかすると10億円も夢じゃない。


 そのことを息子に話すと、大いに乗り気になってくれた。

 私はさっそく町の証券会社に口座を開設。虎の子の100万円を天才・“K∀ZU屋”に託した。


 すると和也はわずか3日で・・・、



 見事にすってしまった!!


「いやあ、やっぱゲームとは感覚が違うわ」と笑う息子を翌朝職安に引きずって行ったことは言うまでもない。




    ( おしまい )


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ゲームが上手な人がデイトレーダーになれば…」という妄想に対する一つの答えとしての本作。小さな成功から恋愛や社会復帰への葛藤等を描いていくかと見せ掛けて速攻の退場。トレーダー小説界のパンク…
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