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死は芸術  作者: コーキ
3/5

3

 畜生畜生と舌を打ち、指を鳴らして地団駄を踏みながら私はあっくんの後から横断歩道上を歩行して国道を渡った。

 それから海岸に続急坂を気持ちを落ち着けつつ歩くのだ。それが散歩コースなのだから。畜生。

 それにしてもさわやかな夕暮れは血なまぐさい空想を霧散させんばかりの風たちを纏って美しくある。

 夕焼けの朱。

 海からの風。

 ゴルゴタの丘は後ろにあって私を狂気に追い込もうとしているが、この夕暮れさえあればその甘い誘惑から逃れることはたやすい。

 愛らしい我が子が小走りに坂を下り、待ち遠しい海岸を目指している。

 あ、こけやがった。

 かわいそうに抱き起こしてやらなくてはと、私はあっくんに駆け寄りつつだが心の中に声が響いて。

 「毎日ゲームばっかやってっから足腰が弱くなるんだよ、あっくん。年寄りのようだ。」

 このひ弱な息子の将来を想うとストレスがたまり、潮風は塩辛のようなニオイに変化する。


 おお、スンゲェスンゲェ、これは大迫力だと感心した。

 こけたあっくんは足腰が弱くて踏ん張りが効かないためか、最初はゆっくりとしたスピードだったのだが転がり落ちる勢いにノッて加速していく。

 ライク・ア・ローリング・ストーン。

 そんなフォークロックなDJもどきの思考は徐々に自らの愉快な笑い声と共に霧散して、車輪のように、妖怪「鬼車」のようになんだか炎の如く血飛沫をまき散らしながら坂を転がり落ちて行く我が息子の後を私も全力疾走で追いかけて行く。私はゲームなどしない、今は。そりゃ確かに数年前まではFFなんかを必死でやっていて、あまりにも感動的なエンディングに涙を流したりもしていたが、次第に睡眠不足が蓄積し作業効率が低下、社内での私に向けた評価がガタ落ちになり、危うく人生の破滅をみる寸前で我に返ってROMを叩き割ったからこそ今の私の地位がある。ここまで人生を回復するのに要した長い苦難の年月が思い出されて私は疾駆しながら男泣きに泣いた。

 あっくんの血飛沫、回転につれて脳天からコンクリの路上に激突し削がれて行く肉片骨片、そして私の涙。それらは渾然一体となって夕焼けの朱と混じり合い、空気一面がピンクがかって美しい。削れて痛いか?ゲームにばかりうつつを抜かしていやがるからそんな老人のような肉体になってしまうのだ、悔い改めよ。

 私は幼児のようにキャッキャと声を上げて笑い、血塗られた大車輪を追って坂を下りそして・・・・・・。


 海。


 空気一面は相変わらず朱に染まっていたし、塩辛的な生臭みを残してはいたがあっくんの頭は削れてなくて、さっきこけた拍子に膝小僧をすりむいてはいたものの概ね元気で海岸に向かって、そしてまるで沈み行く大きな太陽に向かっているようで、それがなんだか嬉しくてわたしはジンとする胸に手を当てて立ちつくしていた。

 坂道。

 海。

 大きな紅い太陽。

 息子。

 塩っ辛い味は風であり、また私自身の涙でもあった。

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