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死は芸術  作者: コーキ
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 てくてくてくてく。

 私は父としてあっくんと散歩をする、毎日。

 会社勤め、中間管理職、これでいいのか?と疑問に思うが実際に私の能力から言って正当なのか不当なのかと言われると「うーん・・・。」としょぼたれた表情を浮かべ、次の瞬間には何となく納得してしまう中途半端な給料の金額等々、ストレスが多い私はガキを連れて散歩をしているのだ、女房が晩飯を拵えている時間を使って、肉体的疲労を我慢してね、そぅこんなことでもまたストレスはたまっていく日々、日々。


 小学6年生にもなると男の子の運動能力というのは達者なもので父親がこうしてそう、家からわずか50メートルばかりの距離をひぃふぅ歩いているというのに息子はといえばもう、全然元気でこの急な坂を小走りに走りあがっていく。

 「むじゃきですねぇ、あっくん。かわいいねぇ。」

 私の唇をついて無意識にそんなコトバがこの世に降りる。


 あの乱暴に跳ね上がった寝癖が雑草のように飛び回る涎臭い髪。

 そう、あっくんは口の締まりがなくて睡眠中涎を垂らしっぱなしだからネ。

 そう言えばさっき、小走りに走り始めたキミの尻から「ぷっ」と音がした。

 この道は坂なんだよ。急坂だ。

 キミは私の前を走るのだから私より上にいるわけでキミの尻は私の鼻先にあったあのとき。

 臭かったよ、あっくん。

 全体的に臭い感じなんだよ、あっくん。

 そう、ふつうのおならに比べて粉っぽいニオイがしたのは家を出るときキミが脱糞したからだ。

 尻はよく拭かないと嫌われるよ、あっくん。

 臭いからね。


 疲れやストレスがたまってボッとした脳というのは時に、突飛なのだがしかし、アーティスティックな閃きを生む。


 聖なるオブジェ。

 聖者は茨の冠を被り十字架を背負っている。

 あっくんは頭の皮がずるむけてガードレールで磔になる。


 おお、いかんいかん何と気持ちの悪い気分の悪いことか。我がかわいらしいあっくん小学6年生が頭の皮をずる剥けにしてガードレールにくくりつけられているのを想像するなんて。


 頭の皮がまるでレザー製のうすら汚いキャップのようにも見えたりしてでもそのキャップの縁がぞんざいに切り取られていてしかも、赤くなっている。朱に染まっている。血の色。悪趣味なデザインのキャップであるようだ。しかもそれがちょっとずれていて、あ、ごめんちょっと笑ってしまった。頭の皮が横にずれたガキ。可笑しいね。

 急坂を登り切って国道のそのガードレールに磔になったあっくんを照らしている真っ赤な夕日。ここはゴルゴタの丘。聖者は愚民の罪を背負って磔になる。キミは聖者かい?あっくん。否。キミは疲れ果てた父がせっかく夕方に連れだしてあげた散歩のその真っ最中に、ありがたい父の顔面しかも鼻っ先に向けて粉っぽくて陰気なニオイのする脱糞後の屁をかました罪人である。悔い改めよ。だから磔だ、がっがっが。


 がっがっがじゃなくて。ゴルゴタの丘でそんな下品な笑い声をあげてはいけませんよ。ほら見なさい、あっくんの眉間に縦皺が一本。

 「どした、あっくん?パパはあっくんとのお散歩が楽しくて笑っているだけなのだから心配いらないんだよ、ほらほら横断歩道を渡ろうか?そうして国道の向こうの坂を下りたら海があるよ。」

 あっくんの眉間から皺が消え、満面の笑みに移行する。

 赤ちゃんの頃とは比較にならないほどに大きくなって成長しているというのに笑顔からはミルクの香りが、未だに漂ってきて嬉しいなぁ、父は。

 「ぷぅ。」

 「?」

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