05
ふと、何かが頭を撫ぜている感覚に気付いた。ゆっくりと、優しい。居心地が良くて、深い眠りに落ちていきそう。しかし、それは急に動きを止めてしまった。何故だろう。
「ユリ?」
優しい、あの人の声。そう、ベルクだ。目を開けると、やはりそこにはベルクがいた。いつものきちんとした服装ではなく、少し乱れた服装はベルクを艶めいて見せる。
もっと撫でて。何だか声を出すのが億劫だったので、訴えるように頭をベルクに押し付けた。
するとベルクは何故か私の身体を抱きしめ、それまでうつ伏せだった私をひっくり返してしまった。何故だ。でも頭撫でてくれるのも好きだけど、こうやって抱きしめられるのも居心地が良いし、まあ良いか。
よし、もう一眠りしよう。しかしベルクはそうは思っていなかったらしい。
「ユリ」
耳元で名前を呼ぶ。だから、それはくすぐったいんだって。身を捩ってそれから逃れようとするも、がっちりホールドされていて、それは不可能だった。ベルクはそんな私をお構いなしだ。
「ユリ、ずっといよう」
……え?
「ずっと一緒にいよう」
……何かプロポーズみたいな台詞が聞こえたような気がするのだが気のせいかなー。うーん。
ベルクはそれまで私の顔の横に寄せていた自身のそれを、正面から向き合うように移動した。私の顔とベルクの顔の距離、数センチ。今にもくっ付いてしまいそう。
「ユリ」
低く、掠れたベルクの声。良く分からないけれど、甘ったるい雰囲気。胸がドキドキする。
ベルクが動いた。ついに、その距離がゼロに……
「弱みに付け込み自分のベッドに入れて、さらに朝が弱いのを知って寝起きを襲うなんて。いつからそんなにあざとくなったのかしら、ベルクさんったら」
「っお婆!」
うん?お婆?
ベルクが珍しく慌てている。私をホールドしていた腕を解くと、身体を起こし、ドアを見つめている。
私も漸く動かせるようになった身体を起こす。ベルクの視線の先を見ると、お婆が笑顔でドアの前に立っていた。
「……いつからそこにいたんですか」
「いつって、ベルクさんが起きてからですよ。ユリの身体を抱きよせて自分の体の上に寝かせて、愛おしそうに頭を撫でて、思わず身体の方に手を伸ばそうとして寸でのところで止めたところもバッチリ見ましたよ。」
「な、」
「あ、それと昨日のこともちゃーんと知ってますからね。泣き疲れてしまったユリをお姫さま抱っこでユリの部屋まで連れていって。けれど何故かドアの前で数秒固まっていたかと思うと、自分の部屋まで連れて行って、そのままベッドに入れましたよね。私、手を出すのかと思ってハラハラしちゃったのだけれど。良かったわ、流石に同意なしに致しちゃったらユリが可哀想だもの」
「……」
「?」
「本当に良かったわね、ベルクさん。ユリったらまだ頭が正常に働いてないみたいで、私が言ったこと理解できていないみたいよ」
良く分からないけれど、ベルクは顔を俯かせている。熊さんみたいな大きな身体で、しょんぼりしている姿は何だか可愛い。
「さあ、ユリ。話したいことがあるから、顔洗って着替えてきなさい」
「ふぁい」
*
「うおぉぉぉぉぉ」
顔を洗って思考もスッキリした私は、羞恥心でどうにかなりそうだった。
泣き疲れて意識を失うって子どもじゃないか。というかベルクは一体何をしていたんだ。何かもう、完全にキスする感じじゃなかった?ちゅー?接吻?いや、凄く嬉しいけれど。って、何を考えているんだあああ
「ユリ、気持ちはわかるけれど早くこっちに来なさい」
「……はい、お婆」
本当は最後にしようとしたのですが、思った以上に長くなったので一旦区切しました。
ベルクはむっつり設定です。