4年後 02
副団長の名前はデュイです。
今日はベルクが同僚を連れてきてくれるらしい。
初めてだ。
今私とベルクの間には3歳の娘と、2歳の双子の息子と娘、そしておなかの中には新しい命が育っている。
正直年子を産むこと、立派に育てられるか不安もあったのだが、母や時々帰ってくるお婆、そしてベルクの支えもあって、なんとかやっていけている。
ベルクは家事や育児に積極的で、本当に助かっている。結婚してからは必ず定時に帰ってきていろいろ手伝ってくれるのだ。最初は仕事の方は大丈夫か心配で、聞いてみたら「優秀な部下がいるから問題ない」と言っていた。
今日はその優秀な部下の一人が来るらしい。
いつもベルクを支えてくれていることに対して感謝の気持ちを込めて、はりきって仕込みをしよう!
そろそろ生まれてもおかしくないほどに成長したわが子のいるお腹を一撫でしてから、エプロンを手に取った。
*
「いつまで怒っているんだよ、観念しろって」
「……」
今日一日、いや、約束を取り付けたあの日からベルクはずっと機嫌が悪いようだ。
もう既にベルクの家の目の前に来ているのだが、未だに渋るように俺の顔をチラッと見る。
俺はそれに気付かないふりをして、それに対しベルクは一つ溜息をつくと、ゆっくりとドアを開けた。
「ただいま」
「―おかえり、ベルク」
まるで俺の存在を無視するように、ベルクはすたすたと家の中に入っていく。
奥さんらしき声の聞こえた方を見るが、丁度ベルクと重なっているためか見えない。少し小柄の人なのかもしれない。
奥さんに挨拶するために、二人のもとへ足を進める。
ベルクは奥さんの目の前で立ち止まり、抱擁をした。想像はしていたが、お熱いことで……ってあれ?抱擁ではなくて、抱っこ?もしかして奥さんではなくて子どもだったのか?
「ユリ、」
「ちょ、ベルク、お客さんの前では、んむ」
えええええええ。頬ならまだしも口にキス?え、もしかして子どもじゃなくて、奥さん?
キスをして満足そうなベルクと顔を真っ赤にしている奥さん(仮)。奥さん(仮)は抗議するようにベルクの肩を叩き、しかしベルクは懲りずに頬にキスをしてから、奥さん(仮)を下に降ろした。
「デュイ、俺の妻のユリだ」
奥さんだった。
あの子どもと同じ黒髪で、瞳の色は焦げ茶だ。ここらでは滅多に見ることのない、というか初めて見るような顔立ちをしている。
ベルクに抱っこされているときは見えなかったが、お腹も大きい。
奥さんは少し恥ずかしそうに俺に向き合う。すると、奥さんは首を大きく後ろにそらし、口を半開きにして、呆然と俺を見上げた。
「巨神兵……」
「え?」
「あっいや、何でもないです」
奥さんは何か呟いたが、よく聞こえなかった。まあ何でもないと言っているので良いのだろう。
俺は結構身長が高い方ではあるし、奥さんは170センチないくらいだ。このままでは首を痛めてしまいそうだ。俺は子どもと接する時と同様に、地に膝を着いた。
「今日はお招きいただきありがとうございます。デュイと申します。ベルク団長にはいつもお世話になっております」
強引に来たくせに何を、と言うベルクの声が聞こえたが、それは無視して笑顔で奥さんに挨拶をした。
「いえ、こちらこそいつも主人がお世話になっています!ベルクの妻の、ユリです!すぐにお食事の準備をするので、少々お待ちください!」
少し緊張したように、目をぱちぱちさせながらそう言った奥さんは、キッチンがあるらしい部屋へ駆けて行った。
「……」
「……」
二人の間には無言が流れている。俺はベルクを見ているが、ベルクは視線を合わせない。
「ベルク、お前ロリコ「ユリは27歳だ」」
俺の方を睨みつけるように見据えてベルクは俺の言葉を遮るように言った。
しかし、ベルク。ロリコンと言うのは本物の幼女だけではなく、幼い容姿をした女性も対象になるのだぞ。
しばし睨みあっていたが、どこからか子どもの声がすると、ベルクはすぐに目を逸らし、声の聞こえた方へと向かって言った。つまり逃げた。
初めて出会った時よりもがっしりしたその背中を見て、俺は一つ溜息をついて、逃げるように去るベルクの後を追った。
知られざる友人の性癖を知り、何とも複雑な気持ちで幕を開けた食事会。
まさかこの後、奥さんが産気づいて、子ども誕生の瞬間に立ち会うことができるなんて思いもよらなかった。
書きたいことも書くことができたので、これにて完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
もしかしたら気まぐれに更新するかもしれませんし、しないかもしれません。
ベルク視点とか、子供たち視点とか……書けるのならば書きたいです